美津子の碁   作:としより

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第7局 『美津子、つかれる』

囲碁は年寄りの娯楽だ

 

以前は私もそう思っていた。私の周辺で囲碁を嗜んでいたのがお義父さんだけだったからだ。

小学校などでは囲碁将棋クラブなんてものもあったが、基本的には人員がほとんどおらず、運動が苦手な子たちの中で文化系の争奪戦から外れた子達が渋々参加するクラブという認識だった。

 

息子が囲碁界に行ってからその認識を大きく改めることになった。息子が受験した時は30歳未満がプロ試験の受験対象だったが、徐々に年齢引下げが行われているらしい。

インセイは子供たちばっかりだったし、息子の同期や懇意にしている友人たちもほとんどが未だに未成年だ。

 

(もしかして、囲碁を覚えるのが遅かったのかしら……)

 

きっと囲碁教室のご年配の方々も若い頃から嗜んでいたのだろう、そう思うとどんどん気落ちしていくのがわかる。

気分が落ちると最近の徒労に終わった結果がズンと身体全体にのしかかって、とてつもない疲労感に襲われた。

 

しかし囲碁の勉強を辞めるつもりは今のところは無いので、1度読み終わった本を手に取り、改めて読み進めることにした。

とはいえ手順が描かれても、実際に石の動きが無いのが只々辛い。脳内で全てをイメージしながら読むしかないのだ。

 

「ヒカルも出張で居ないし、勝手に入るのは憚られるけれど碁石と碁盤を使わせてもらおうかしら」

 

誰に言うでもなく言葉を発し、広島に出張に行っている息子の部屋に行くことにした。たまに掃除で入っているのだ、余計なことをしなければ構うまい。そう心の中で自分に言い聞かせ部屋に入る。

相変わらずの歳不相応な殺風景な部屋に囲碁のセットが鎮座する息子の部屋、もう少し遊んでもいいのでは?とも思うが息子にとっては囲碁が全てなのだろう。

位置関係や置き方などで文句を言われては困るので、念の為携帯のカメラで元の置き方を撮影してから借りる事にした。

 

「んー、やっぱりモノがあると違うわね。言葉の意味は相変わらずあんまりわからないけれど、理解が早い気がするわ……あら?」

 

コトコトと人差し指と親指で石を摘み、本の内容に合わせて碁石を置いていると視界に汚れが映る。

先程までは無かったはず、と思い1度碁石を片付け汚れを拭き取るが頑固なのかなかなか落ちない。材質に悪影響があるかもしれないので洗剤が使えないので、ポケットからハンカチを取り出しゴシゴシ擦るが一向に落ちる気配は無い。

 

『……ヒカル?』

 

不意にどこかから若い男性の声が聞こえる。今家にいるのは私だけ、まさか泥棒!?振り返るが特に何も無い。

 

『一体これは……?私は今まで何を……?』

 

キョロキョロと辺りを見回すが、やはり誰もいない。謎の唸り声だけが部屋に響く。訳が分からない、神様はそこまでして私に囲碁をやらせたくないと言うのか。

得も言えない感覚に襲われ、頭がぐるぐるし意識が遠のく。

 

『あれれ?ヒカルのお母さん?』

 

何かに話しかけられたところで完全に意識が無くなった。




つかれました
彼についてのお話は今後します、今しばらくお付き合い下さい。

タイトルが平仮名なのはまぁ、そういうことでしたね。
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