「申し上げます!! 織田の軍勢は凡そ五万也!!」
「五万……」
「少ないですね。事前の情報では約七万はいるはずです」
物見からの報告に三好三人衆の一人である三好長逸はそう告げる。
「五万だろうが蹴散らせば良いじゃない」
「でも約二万の所在を知りませんとね~」
三好政康の言葉に岩成友通はそう牽制する。むやみやたらの突撃は敵の有利になるだけだ。
「どうする姉さん?」
「……敵の出方が分からない。此処は――「申し上げます!!」」
長慶が言葉を発しようとした時、別の物見が現れた。
「苦しゅうない」
「織田の残りは京にいる模様です!!」
「それは本当か!?」
「は、逃げようとしていた織田の雑兵を捕らえ近江の浅井が朝倉と共に佐和山城に攻勢を掛けた模様で京に二万の軍勢を残したとの事です」
「……姉さん」
十河一存は長慶に視線を向ける。
「……一存、お前に任せる」
「分かった。全軍に通達、出陣だ!!」
長慶は軍事面を弟一存に頼っている面があった。そして一存は出陣を決断した。
「……任務完了」
長慶に報告をした物見はそう呟くと何処からともなく消えるのであった。
三好軍六万九千の軍勢は一存隊を先頭に突撃を開始する。対して織田軍は鶴翼の陣で迎え撃つ。
「三好軍が突撃してきます!!」
「鉄砲隊、射撃しろ!!」
本陣で信長はそう叫ぶ。直ぐに鉄砲隊が横隊で戦闘隊形を取り、射撃を開始する。
鉄砲の鉛玉が三好軍の雑兵の命を刈り取るが鉄砲の数は僅か三百、全てを撃退は出来なかった。
「槍隊用意!!」
柴田勝家が叫ぶ。槍隊は鉄砲隊の前に出た。
「掛かれェ!!」
『ウワアァァァァァァァァ!!』
槍隊は一斉に走り出して三好軍と戦闘を開始する。
「申し上げます!! 山崎の麓にて激しい撃ち合いとなりたる模様です!!」
「あい分かった」
伝令からの報告に長慶は頷く。戦闘が開始されてから三十分は両軍とも互角の戦いをしていた。
特に十河隊と柴田隊が激しい撃ち合いをして両者とも負傷する羽目になる。しかし一存は負傷した左腕の傷口に塩を刷り込んで消毒し、藤の蔓を包帯代わりにして傷口に巻いて再び戦場に舞い戻ったのである。
「この鬼十河を舐めるんじゃねェ!!」
一存は槍を織田の雑兵の胸に突き刺す。槍の刃は雑兵が着ている鉄の胴鎧を突き抜けて心臓を一刺ししてその命を刈り取る。
「次はどいつが相手だ!?」
槍を振り回しながら叫ぶ一存だった。一存の奮戦により織田軍は徐々に押され始めた。
「申し上げます!! 味方の被害は甚大也!!」
「ぐぅ……勝家はどうした!?」
「十河一存との戦闘で負傷、後退をしておりまする!!」
「……勝家が負傷だと!?(ちぃ、予想外の出来事だが……上手く策はいけるかもしれんな)」
信長はそう考えながらも馬上から指示を出す事にした。
「全軍に後退を指示しろ!! 紫」
「は」
信長は忍の紫に視線を向ける。
「忍を動員して偽の情報を与えてやれ」
「御意」
紫が頭を下げるとフッと姿を消したのであった。
「申し上げます!! 織田軍は後退しつつある模様です!!」
「後退しているだと?」
「は、織田の家老である柴田勝家が負傷して士気が低下した模様です」
「長慶様、これは好機かと存じます」
三好長逸は長慶にそう具申した。
「うむ、出来るだけ信長には打撃を与えておきたい。一存に伝令を出せ。信長に打撃を与えろ」
「御意」
直ぐに伝令が十河隊に向かい、十河一存は更に前進をして織田軍を蹴散らそうとする。十河一存の突撃に織田軍は完全に戦線は崩壊していた。
「既に戦線は支離滅裂です!! このままでは十河一存の軍勢が此方に押し寄せて参ります!!」
「支離滅裂だと!?」
十河一存の奮戦により織田軍はばらばらで纏まりがない支離滅裂の状態になっていた。
「~~撤退だ。撤退するんだ!!」
「引きのくのですか!?」
「このような状態でどう戦線を建て直すつもりだ!! さっさと引きのくぞ!!」
信長はそう言って馬を走らせて近習や馬廻衆と共に逃げた。文字通り逃げたのである。信長が逃げた事は織田軍の雑兵がそう言いながら逃げるのを三好軍の雑兵が聞いて直ぐに長慶に伝えられた。
「この報告が真であれば我が三好は更に有利な戦になると思います」
「うむ。追撃しよう(しかし……何だこの胸騒ぎは?)」
長慶は追撃命令を出しつつ、心の奥底ではそのように思っていた。そして追撃には十河一存隊が先頭となり織田軍を追撃する。
「雑兵には構うな!! 目指すは信長の首級だ!!」
一存は槍を振り回しつつそう叫ぶ。そして織田軍は逃げ、三好軍が追撃する舞台は整った。
「信長が逃げた? アハハハ、愉快だわ♪」
「もう~政康ったら~」
「………(何だ……何だこの胸騒ぎは?)」
逃げた信長を笑う三好政康を岩成友通が諌める中、長慶はそう思いつつ馬を走らせようとした時、ある人物を思い浮かべた。
『今の世を治めるのは信長しかいない。三好だろうと足利だろうとな』
(織田……信広!?)
信貴山城で出会った信広を思い出して身体が震えた。それは背中に大量の氷を入れられた感触だった。
「一存に伝令を出せ!! 直ちに引くのだ!!」
「長慶様?」
「信長に……いや信広にしてやられた!! 信広め、まさか信長を囮にするとは……」
「……まさか長慶様、信長は……」
「急げ!!」
長慶は何かを言おうとする三好長逸の言葉を遮り、腹から声を出す。慌てて伝令が一存の隊に赴くが時既に遅く長慶の本陣にも聞こえる大量の鉄砲の音が鳴り響いたのであった。
「一存ァ!!」
長慶が奏でる悲痛の叫びに鉄砲の音は嘲笑うかのようであった。その一存であるが突如の奇襲攻撃を受けていた。
「左右から鉄砲での挟み撃ちだと!?」
実際には味方に当たらないよう射撃位置を微妙にずらしているが……それは兎も角、伏兵が装備していた新旧種子島は約千五百丁である。つまり約千五百発のミニエー弾と鉛弾が十河隊に撃ち込まれたのである。
そして十河一存はミニエー弾の餌食になってしまった。
「ガアァ!?」
「一存様!?」
ミニエー弾は一存の左腕を後に切断させる傷を負わして一存は落馬して地面に倒れる。それを見た近習が駆け寄ろうとしたが種子島の流れ弾を食らい、近習も倒れていく。
「……敵は混乱しているな。忠勝」
「は」
草むらから見ていた信広は傍にいた忠勝に視線を移す。
「蹂躙せよ。ただし敵将は捕らえろ」
「難しいでござるがやってみるでござる」
「信広様、私も忠勝隊に加えて頂きたく存じまする」
「直虎をか?」
直虎の出陣要請に信広は忠勝に視線を向けると忠勝は頷いた。
「直虎殿は某が鍛えたでござる。必ずや活躍するでござる」
「……あい分かった。行け直虎」
「御意!!」
「忠勝隊、行くでござる!! ただひたすらに蹂躙でござる!!」
『オオォォォォォォーーッ!!』
忠勝の叫びと共に忠勝隊三千の足軽達が雄叫びをあげで突撃を開始した。
「……高虎、良通、信包、信興」
信広は控えていた四人に声をかける。
「我等も行こうか。長慶のところにな」
そして七千の兵は別のところに向かう。一方の反対側にいる道三達一万も突撃を開始していた。
「先頭は十河一存の部隊ね」
「あれだけ乱れてたら統率は取られへんな。恐らく十河一存が負傷でもしたとちゃうんか?」
「成る程ね。それだと納得するわね」
道三はそう言って混乱している十河隊に視線を向ける。
「それじゃあ突撃よ。三好に決定的な打撃を与えるわよ」
道三隊も満を持して突撃を開始した。長慶の本陣では場が混乱していた。
「一存を救え!! 何としてでもだ!!」
「落ち着いて下さい長慶様!!」
半場錯乱に近い長慶を長逸が諌める。しかし長慶は我を失っていた。
「長慶様、御免!!」
「カハッ!?」
「政康!?」
暴れる長慶に三好政康が長慶の腹を殴って気絶させた。
「長逸、あたしが殿を務めるわ。一存隊の吸収は不可と見るべきよ。織田の軍勢が来るわ」
「……分かりました。友通、行きましょう」
「はい~。政康さん~? 死んだら長慶様がもっと悲しみますからね~?」
「それくらいあたしでも分かっているわよ」
政康はそう言って笑い、自身の部隊に向かう。
「兼仲、悪いけど此処があたしらの死に場所よ」
「カッカッカ。それはそれは良い戦になるでしょうな」
政康は七条兼仲とそう笑うが兼仲は自身の近習を密かに呼び寄せた。
「……時期を見て政康様を救え。儂の事は気にするな、政康様が死なれては困る」
「兼仲様……」
「良いな?」
「……御意」
近習は兼仲の言葉に頷いた。そして退却をする長慶達を追い掛けようとする信広軍の前に政康隊が立ちはだかるのであった。
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