「申し上げます!! 今川勢が国境を越えて尾張に侵攻してまいりました!!」
数日後、清洲城に物見がそう報告してきた。遂に今川義元が尾張へ軍勢を寄越してきたのだ。物見からの報告に柴田ら重臣達に緊張感が走る。
「いよいよ来たか。それで今川勢の数は?」
「凡そ二万五千にございまする!!」
「あい分かったッ」
「御免!!」
報告を終えた物見が去っていく。それを尻目に軍議が行われる。
「今川勢は二万五千か……」
「話に聞いていた四万とは大分違いますな」
「だが我等の兵力は二千だぞ権六」
「それは分かっておる」
「……それで先方は?」
「恐らくは三河の小娘でしょう」
「……竹千代か」
松平元康は史実通りに戦に参加していた。史実だと元康は桶狭間の合戦時は大高城にいた。
そして史実通りに今川勢は西進して沓掛城に入った。そのまま今川義元は松平元康の三河勢を大高城に兵糧を届けさせるのであった。
「どうする? 籠城するか?」
「籠城して今川勢が素通りすると思うか? それなら出撃する方が良い!!」
「僅か二千でどう戦うというのだ!! 最早籠城しかあるまい!!」
清洲で軍議を開いていたが家臣達は紛糾していた。織田が取るのは二つ、籠城するか出撃するかの二択である。
「殿、殿は如何なされますか?」
家老の林秀貞が信長に問う。対する信長は欠伸をすると立ち上がった。
「……もう今日は遅い。皆も早く寝ろ」
信長はそう言って場を後にした。残っている者達は溜め息を吐いた。
「……織田も終わりかのぅ……」
「縁起悪い事を言うな権六。大丈夫だ、我等が勝つ」
「……信広様、殿には勝算があるので?」
「そう言う事だ。殿が落ち着いているのに我等が慌ててどうする。果報は寝て待てと言うしな」
「……分かりました。今日はもう終わりにしましょう」
そう言って軍議は終了した。そして卯の刻、寝ていた信広の部屋に藤吉郎が飛び込んできた。
「の、信広様!!」
「んが、どうした藤吉郎?」
「の、信長様が敦盛を舞って出陣しました!!」
「何!? それで数は?」
「信長様を含めて僅か六騎です!!」
「……あの馬鹿。行動するにしても少なすぎ……いや今はそう言っている場合じゃない。直ぐに追う、藤吉郎も来い!!」
「御意!!」
信広は念のために武具を付けて横になっていたから着替えるのは兜だけだった。着替えを済ませた信広は藤吉郎から握り飯と竹の水筒を受け取り馬に乗る。
「藤吉郎、後ろに乗れ」
「え、え?」
「今は一刻の猶予も無い。早く乗れ!!」
「は、はい!!」
「信長の行き先は?」
「熱田神社に向かいました!!」
「よし、準備が出来た者から熱田神社に向かえ!!」
俺は準備が出来た騎馬三十騎を従えて熱田神社に急いで向かった。
「……(凄く……おっぱいが当たっている……と思ったか? 残念、鎧があるから分からん!!)」
藤吉郎を後ろに乗せてるから背中におっぱいが当たっている……という事はない。
そんな事もあり信広達が熱田神社に到着すると既に三桁程の兵が集結していた。
「遅かったな兄様」
「お前が早すぎんだよ、しかも藤吉郎も放っといてよ」
「なに、サルなら必ず来ると思うからな」
「信長様……」
「褒めてはいないと思うぞ藤吉郎」
何故か感激している藤吉郎に信広はそう言った。そして熱田神宮で戦勝祈願を行った。そのまま織田勢は鳴海城を囲む善照寺砦に入り軍勢を整えた。
「兵の数は?」
「二千八百です」
「申し上げます!! 丸根、鷲津砦が陥落致しました!!」
物見がそう報告してきた。史実なら丸根砦で佐久間盛重が、鷲津砦で織田秀敏が討死している筈であり、物見は更に口を開く。
「丸根砦の佐久間盛重様、鷲津砦の織田秀敏様討死です!!」
(……やっぱりか……)
「……丸根に鷲津……義元は大高城へ向かう気か?」
「丸根と鷲津は大高城を圧迫する役目でもあったしな……なら急ぐか?」
「……駄目だ、確信的な情報が欲しい」
「だが時間を無駄にしてはならん」
「それは分かっている兄様」
「申し上げます!!」
そこへまた物見が報告に来た。
「今川勢本隊は沓掛城を出て大高城方面に向かいつつあり!!」
「……よし、出陣だ。義元が大高城に入城する前に叩く!! だがもう少し近づく、このまま中島砦に向かう!!」
織田勢は善照寺砦を出陣した。
「防備の兵はどうする?」
「……大量の幟と兵五十で守ってもらう」
「……空城にするわけか」
「兎に角急ぐぞ」
織田勢は鷲津砦に近い中島砦に向かった。
「申し上げます!!」
「ん」
中島砦に到着すると物見が報告に来た。だがその報告は悲報であった。
「佐々政次様、千秋四郎様討死!!」
「討死!? どういう事だ!!」
「信長様出陣の報に意気上がり単独で今川勢前衛に攻撃、両名とも討死しました。残存兵は散り散りになり遁走!!」
「先走りしおってからに!!」
「済んだ事は仕方ない林。今は義元を討つのみだ」
「申し上げます!!」
「何じゃ?」
「今川勢本隊、桶狭間山にて休息中也!!」
「これは好機!!」
物見の報告に信長が立ち上がった。
「直ぐに桶狭間山に出陣する!!」
「御意!!」
織田勢は中島砦に入るも直ぐに桶狭間山に向かった。その行軍途中、雨が降ってきた。しかも雹交じりになっておりそれは行軍中の織田軍の足音を消す功名であった。
「フフ……これは正しく義元を討てとの天命だな」
「あら、ヒロちゃんも珍しく天に願ったのかしら?」
「ハハハ、熱田神宮に戦勝祈願しているんだから当たり前だろ慶次」
カラカラと笑う慶次に信広はそう言う。
「全軍に下知だ。分捕りするな、全て切り捨てにせよ!!」
先頭を行く信長がそう叫ぶ。桶狭間山に進軍中、雨(雹)はますます強さを増してきた。
「こりゃあかなりのどしゃ降りだな」
「だがそれが良い」
「だな」
だが桶狭間山に到着すると雨は段々と小降りになってきた。そこへ天幕らしきモノが多数見えてきた。義元の本陣であった。
「信長!? あれが本陣だ!!」
「あぁ。全将兵に告ぐ!! 今川の陣営が見えた!! 全軍突入せよ!! 雑魚には構うな、狙うは義元の首ただ一つだ!! 掛かれェェェェェェェェェ!!!!!!!!」
『ウワアアアァァァァァーーーッ!!』
信長の叫びに兵達は雄叫びをあげて今川の陣営に突入を開始した。
「な、何じゃこの声は!?」
「敵じゃ!! 織田の軍勢が攻めてきたぞ!!」
「俺の槍は何処じゃ!!」
「落ち着くのだ!! 直ちに迎撃せよ!!」
「義元様を御守りするのだァ!!」
突然の奇襲に今川勢は混乱している。よく見れば今川の兵達は酒を飲んでいた。酒を飲んでいるとなると酔いが回り身体はふらついている筈である。だが、将らは酒を飲んでいても千鳥足ではなく確りした足取りで迎撃しようとしていた。
「よし、我等も行くぞ長秀!!」
「御意!!」
信広と長秀は槍を持ち、義元の本陣に突入する。
「おりゃ!!」
「ぎゃ!?」
槍を足軽の胸に突き刺して足軽は絶叫をあげて地面に倒れる。地面には足軽の血が流れ出して瞬く間に血の池を作る。
「今川義元は何処だ!! この織田信広が御相手致すぞ!!」
「織田の重臣だ、討ち取れ!!」
「ぐぁッ!?」
「ぐぇッ!?」
「な、何だ!?」
足軽達が信広に群がろうとするが、何処からか現れた苦無が頭や胸に突き刺さって倒れる。
「信広様には手出しさせぬッ」
「済まぬ飛龍。そのまま奴等を混乱させろ!!」
「御意ッ」
助けてくれた飛龍に信広は頭を下げて飛龍に指示を出す。消えた飛龍に信広は前に視線を移す。
「さぁ出てこい義元!! 俺が御相手致す!!」
「ぐぇッ!?」
信広はそう言いつつ槍を使い足軽の命を刈り取る。本陣の中程に突き進むと輿が右往左往する集団を見つけた。あれが義元とその親衛隊だろう。
「義元は彼処だ!! 者共、突き進めェ!!」
『オオオォォォォォォォ!!』
信長が見出だした馬廻衆は信長の尾張統一を手伝い、その強さは熟練した強者達であった。今川の足軽達を軒並み叩き潰し敗走させる事に成功する。
「なだれ込め!!」
「義元様には近づけさせん!!」
その時、武将らしき人物が騎馬で来た。
「我は井伊直盛也!! 殿には近づけさせんぞ!!」
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