『信長の庶兄として頑張る』   作:零戦

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第九話(改訂)

 

 

 

 

「私の子を産んでください」

「ハン、謹んで御断りします」

「なん……だと……」

 

 今川館での会談後、信広は遠江井伊谷の国人である井伊氏を訪ねた。ぶっちゃけ次郎法師ーー井伊直虎を側室に貰おうとした。次郎法師の婚約者の井伊直親は既に正室に迎えていたし直盛殿の約束を守ろうとしたんだが……。

 

「信広様と父直盛は口上でしかも桶狭間の合戦場での約束のみ。書状があれば私も頷くけどね。第一、父を討った者に嫁ぐのが嫁ぐ者の心情を御知りですか?」

「( ; ゜Д゜)アバババババ」

 

 次郎法師の隣にいる直親が直虎の言葉に慌てている。まぁ嫁くれって言っているのに嫁(予定)が「だが断る」な状態なので慌てるのも仕方ない。

 

「……分かりました。では此度の事は記憶から消しておいて下さい」

「い、いやあの信広様……」

 

 そう言って立ち上がると直親が何か言いたげだった。

 

「ハッハッハ、心配なさるな直親殿。断られたくらいで貴殿方を消すくらいしませんよ。まぁいきなり来たらそうなるでしょうし」

 

 信広は少し意味深な事を言う。恐らく直親殿は切腹させられて御家断絶されると思っていたんだろう。信広はそのような事はしないと改めて言った。

 

「ちょいと待ちな」

「ん?」

 

 そこへ次郎法師が口を挟む。

 

「別に私は嫌ではないさ。あんたの人となりが分からないから断わったんだ」

「フム……それで?」

「飲もうじゃないか」

 

 次郎法師は笑みを浮かべながら酒を出す。その様子に信広も思わず苦笑してしまう。

 

「成る程。腹を割って話すか……良いじゃないか。但し酒は此方が良いだろ?」

 

 信広はそう言って酒を入れた徳利を出すが次郎法師は首を傾げる。

 

「ただの酒じゃないのかい?」

「ところがどっこい……飲んだら分かる」

 

 信広は盃を出して酒を注ぎ、次郎法師は注がれた酒を見て目を見開いた。

 

「これは……澄み酒かッ」

「まぁな。ちなみに織田家はこれを生産して商家にも売買をしている」

「ほぅ……」

 

 信広の言葉に次郎法師は笑みを浮かべ盃を飲み干す。

 

「ングッングッ……しかも味が美味い……成る程な。あんたの嫁になりゃ毎日、こういったモノが飲めると?」

「かもな?」

「………………ハッハッハッハッハッハ!! いや、悪い悪い!! あんたには負けたよ!!」

「痛ッ、痛いって!?」

 

 次郎法師は高々と笑いながらバシバシと信広の背中を叩きながら盃を信広に渡す。

 

「もう一杯!! 今日は寝かさないからな!!」

「ハ、ハハハ……お手柔らかに……(それ、男の台詞だわな……)」

「ちなみに私は正室かい?」

「ッ」

 

 その言葉に信広は一瞬、信長の顔が浮かんだ。

 

「あんた……?」

「ッ、あぁ……済まないが側室で構わないか?」

「……フフ、成る程成る程……アンタも隅にはおけないねぇ」

 

 信広の言葉に次郎法師はニヤリと笑いつつも側室を承諾するのであった。

 

 

 

 

 

 

「それではお騒がせしました」

 

 翌日、二日酔いの信広は同じく二日酔いの直親に頭を下げて井伊氏の館を後にした。ちなみに次郎法師はまだ酔い潰れており部屋で高いびきをしていた。

 

「しかし……次郎法師殿を連れて帰らずに宜しかったのですか?」

「ん? まぁ即連れて帰ると信長達も混乱するからな。一月以内には来てもらうしな」

「成る程」

 

 信広と飛龍はそのように話す。そして尾張に帰る途中、三河に立ち寄り松平元康に織田への同盟を打診した。

 

「如何ですかな松平殿?」

「……暫く考えさせて下さい。それと三河も桶狭間の合戦後、不安定が続いて私に従わない国人が多数います」

「……では同盟の話はそれから……と?」

「はい。ですので信長殿に伝えて下さい。松平は尾張に侵攻する気はないと」

「……分かりました。しかと御伝えします(まぁとりあえずは尾張に侵攻しないと表明しているし問題はないな。それだけでも御の字か)それと駿河・遠江が武田や北条に侵攻された際、道の通行を許可願いたい」

「分かりました。許可致します」

 

 そして信広は大役を終えて尾張に戻った。

 

「……であるか。御苦労だった兄様」

「(……何か機嫌が悪そうだな)ははッ」

 

 ブスッとした表情をしている信長だが、慶次がソッと信広に耳打ちをした。

 

「ごめんねヒロちゃん。ノブちゃん、美濃攻めに失敗してるから機嫌悪いのよ」

「美濃攻め?」

 

 慶次の話によると信広が駿河へ向かった後に信長は美濃攻めを表明して佐久間信盛に墨俣に築城を下命した。しかし築城を察知した斎藤側の猛攻により佐久間は撤退して築城は失敗。次いで柴田勝家が築城したが、これも斎藤側の猛攻で撤退したのだ。

 

「(……という事はそろそろ藤吉郎がやりそうだな。墨俣一夜城と言われてるらしいが創作との事もあるし……)成る程な」

「道三が生きているしそれに加えて義龍から離反した武将も増えてきたのが美濃攻めの原因なのよ」

「……西美濃三人衆の調略は?」

「後一歩のところだったんだけど、墨俣で連敗したから少し警戒しているわ」

「馬鹿か。せめて美濃攻めをするなら野戦で勝たんと……」

「信長様!!」

 

 そこへ藤吉郎が意を決した表情をして信長の前に出た。

 

「……どうしたサル?」

「……あたしにやらせてくれませんか?」

「墨俣の築城をか?」

「はい!!」

「……分かった。やってみろ」

「ありがとうございます!!」

(……ふむ)

 

 

 

「信長」

 

 藤吉郎が去った後、信広は信長の部屋に訪れた。

 

「どうした兄様?」

「柴田と佐久間を貸してくれ。後、鉄砲隊もな」

「……サルの支援ですか?」

「まぁな。藤吉郎も張り切るのは良いが失敗した二人の事後処置も考えないとな」

「……あい分かった。三人を頼む兄様」

「任された」

「出陣するまで時間はあるだろう。饅頭でも食べないか?」

「貰うよ」

 

 そう言って信広は饅頭にかぶりついたのである。

 

 

 

 

 

 

 それから二日後の夜半、藤吉郎は墨俣にいた。

 

「さぁ皆、早く築くよ!!」

『オオォォォォォ!!』

 

 藤吉郎は配下の川並衆を使い、墨俣の木曽川上流で城の部品を予め組んでおき夜半に墨俣まで一気に運んできたのだ。

 藤吉郎と川並衆は寝ずに城を組み立てていくが川並衆の数は約百余りと数が少なく八割方完成の時に夜明けとなったのである。

 

「これじゃあバレるのも時間の問題……早くしないと……」

「藤吉郎!! 稲葉山城から敵兵が来るぞ!!」

 

 見張りをしていた川並衆の一人が叫ぶ。義龍は藤吉郎の築城に気付き三千の兵を出していた。

 

「どうする藤吉郎!?」

「……迎え撃つよ小六!! 全員配置について!!」

 

 それから藤吉郎と川並衆は二刻の時間は稼いだが前日からの築城作業で疲労困憊であり限界であった。

 

「……此処までなの……」

「お、尾張方面から兵が来るぞ!!」

 

 諦めかけ退却の二文字が過っていた藤吉郎だったがまた新しい報告にキョトンとした。尾張方面から土煙が上がっており現れた軍勢は多数いたのである。

 

「柴田勝家推参!! よくぞ持ちこたえたぞサルよ!!」

「同じく佐久間信盛推参!!」

 

 柴田勝家と佐久間信盛が騎馬を率いて義龍軍に突入した。

 

「え……まさか援軍!?」

「ようやったな藤吉郎!!」

「の、信広様!?」

 

 藤吉郎の前に現れたのは騎乗した信広だった。

 

「柴田と佐久間の隊が防戦している。その間にお前と川並衆は急ぎ砦を完成させろ。此方からも支援を出す」

「は、はい!! 後一息だよ皆!!」

『オオォォォォォ!!』

 

 信広の言葉に藤吉郎は慌てて川並衆に指示を出した。

 

「鉄砲隊用意!! 柴田隊と佐久間隊を援護する!!」

 

 新型種子島と旧種子島と新旧種子島を持つ鉄砲隊が義龍軍に照準を合わせる。

 

「狙うは足軽大将や侍大将等の指揮官だ!! 雑魚には構うな!! 撃ェ!!」

 

 新旧種子島が一斉に火を噴いて義龍軍の兵を地に触れ伏せる。

 

「間を空けさせるな!! 続いて撃ェ!!」

 

 後方に待機していた鉄砲足軽隊が構えて引き金を引く。五射目程で義龍軍の負傷者を増える一方だった。

 

「引けェ!! 引くのだ!!」

 

 信広達援軍の猛攻に耐えきれず、義龍軍は退却を始めた。

 

「……勝ったか」

 

 退却していく義龍軍に信広はホッと安堵の息を吐いたのであった。藤吉郎も昼前に城を完成させ信長は美濃攻略に一歩踏み出すのであった。

 

 

 

 

 

「墨俣築城、大儀であったぞサル」

「は、これも柴田様や佐久間様、信広様のおかげであります!!」

「サル顔の女と思っておったが……中々肝っ玉が座っておりますわい。ガハハハハ」

「某も侮っておりました」

 

 藤吉郎の言葉に勝家が豪快に笑っている。墨俣の一件で藤吉郎を認めたみたいだ。勝家の隣にいる信盛も頷いている。

 

「であるか。サル、墨俣築城の褒美として侍武将に取り立ててやろう」

「あ、ありがとうございます信長様!!」

 

 藤吉郎の武将は誰も反対する者はおらず、此処に織田家武将木下藤吉郎が誕生した。

 さて、墨俣に城を築いた織田軍だったが、未だ攻勢に回っていない。

 

「信長様、今孔明と呼ばれた竹中半兵衛を此方に組みましょう。さしもの義龍も降参するかもしれません」

「であるか。ならやってこいサル」

 

 藤吉郎が半兵衛の調略を主張したから稲葉山城への攻撃はしていなかった。

 

「あ、信広様」

「どうした藤吉郎?」

「信広様も来てくれませんか?」

「ん? 何処にだ?」

「竹中半兵衛の家にです」

 

 

 

 

 




井伊直虎のモチーフは星熊勇儀になりました

御意見や御感想等お待ちしていますm(_ _)m
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