『信長の庶兄として頑張る』   作:零戦

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第十八話(改訂)

 

 

 

 

 

 時は六条合戦から数日後にまで戻る。

 

「……義輝を逃がしたですって?」

「弁解の余地もありませぬ!!」

 

 大和国信貴山城の茶室で松永久秀は弟である松永長頼から報告を聞いていた。

 

「……戦況を詳しく教えなさい。貴方が分かる限りで良いわ」

「御意。然らば……」

 

 長頼は久秀に六条合戦を詳しく説明した。

 

「竹を付けた矢が爆発……ねぇ」

「恐らく竹の中に火薬を詰めてあるのかと……」

「……ふぅん」

 

 久秀は何かを思い付いたかのように目を細める。

 

「……長頼」

「は」

「貴方の失敗は目を瞑るわ」

「はは(姉上は何か面白い物でも見つけたのだろう)」

 

 久秀の態度の変わりように長頼はそう思いながら頭を下げるのである。

 

「何時でも出掛ける準備はしておきなさい。下がっていいわ」

「ははッ」

 

 長頼は頭を下げて退出するのであった。

 

「……織田……ね……フフ、面白くなりそうね………」

 

 誰もいない部屋で久秀はそう呟きながら自身が持つ茶釜の平蜘蛛を使い茶を点てるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「謹慎が終わって今は近衛様の屋敷にいます」

「誰に言うておるのじゃ?」

「ちょっと電波を受信したので」

「??」

 

 一月後、謹慎が解かれた信広は信長から再び京の警護を任されて今は近衛前嗣の屋敷で茶会をしていた。

 

「しかし……このわらび餅は美味いものじゃな」

「某が好きな餅の中でも上位にあります」

 

 信広と前嗣は茶を飲みつつわらび餅を食していた。

 

「前嗣様には我が兵を救って頂き真にありがとうございます」

「ホッホッホ、なんのなんの。御主と妾の仲じゃでおじゃ。それにの、畏き所の住まいにも警護してくれたおかげで畏き所も織田には好印象でおじゃる」

(マジかよ!?)

「それはそれは……」

「それでなのじゃが……」

「如何なされた?」

 

 急に申し訳ないという表情をする前嗣に信広は少し嫌な予感が駆け巡った。

 

「……信広殿……公家の娘を……嫁にしないか?」

「……(;゜Д゜)」

 

 前嗣の言葉に信広は唖然とした。

 

「……いきなりの話ではありますが……何故に?」

「警護の件じゃ。畏き所の警護をした時にえらく御主の事を気に入ったのじゃ。その時に是非とも娘を御主に嫁をとな……」

「……(;゜Д゜)」

「無論、妾達は全力で阻止をした。そんな事をすれば織田が危機になるのは間違いない」

「……確かに」

 

 他国から見れば織田家が畏き所を脅しているような展開である。もしそうなれば史実の織田包囲網並かそれ以上の事が起こりそうである。

 

「妾達の説得で畏き所も妥協して公家から……となっておるのじゃが……無理かの?」

「(……事が重大過ぎる)済みませぬ、一先ずは信長と相談をしたいです。それで宜しいですか?」

「それは無論じゃ。よく考えてほしい」

 

 信広は挨拶もそこそこに前嗣の屋敷を後にして信長に元に向かった。この時信長は清水寺に居住していた。

 

「………」

(機嫌悪いなぁ。しかもあのキスの後だから余計に質が悪い)

 

 信広から報告を受けた信長は機嫌が悪かった。しかめ面をしている上、頭部のアホ毛がブンブンと振っていた。

 

「……兄様はどうしたい?」

「……朝廷との結び付きを持ちたいなら婚姻すべきだが……」

「……あい分かった。兄様に任せる」

「……なら婚姻しよう。ただし……俺じゃないぞ」

「……どういう事だ?」

「あぁ、少々俺にも考えがある」

 

 信広は信長にニヤリと笑いながらそう告げて翌日に再び前嗣の屋敷を訪れた。

 

「前嗣様、残念ながら某にはまだやるべき事があります。なので……」

「……そうか、済まぬな信広殿」

「あいや暫く」

「ん?」

「某はまだ嫁は持ちませぬが、織田家一族の者でなら……」

「真でおじゃるか!?」

「はい」

 

 信広は自分ではなく、身内の者にした。その身内の名は織田長益、後に有楽や有楽斎と称される者だ。

 信長の弟であるがこの長益、茶に目がなかった。所謂数寄者である。

 茶に精通していた事もあり他の公家との顔見知りが多くまさにうってつけの存在だった。

 

「(信広殿ではないのが残念でおじゃるが……これはこれで好機でおじゃる)信広殿、嫁の方は任せるでおじゃる」

「はい」

 

 こうして長益の婚姻が決定した。なお、両者の仲は非常に良かった事を記しておく。

 

「それと……畏き所にも謝罪の書状を送ります。前嗣様は済みませぬがお渡しを御願い致します」

「心得たでおじゃる(今回は身内の者だが……儂はまだ諦めておらぬぞ信広殿?)」

 

 信広が書いた謝罪の書状を読んだ畏き所は信広に好感を持たれた。後にこの書状は国宝にまでなるがそれはまだまだ先の話だった。

 

「それとでおじゃる。妾のように織田家に好感を持つ者もおれば持たない者もおる」

「………」

「妾の物見が水面下で得た情報では信長の妹に接触しようとしているかもしれないでおじゃる」

「!?」

 

 前嗣の言葉に信広は目を見開いた。

 

「気を付けてほしいでおじゃる。今、織田家が分裂すれば……」

「忠告、感謝します前嗣様」

 

 信広はそう言って前嗣に頭を下げるのであった。

 

(とりあえず信長に相談だな)

 

 

「……厄介だな」

「あぁ、流石に公家も一枚岩じゃないって事だな」

「一掃してやろうか」

「それはまた今度な」

 

 信長と信広は二条城の信長の一室で話をしていた。

 

「信行の周りの監視が必要だな。兄様の忍では無理か?」

「撫子達は今、三好の動向の諜報に行っている。今いるのは上の天井にいる紫だけだな」

「むぅ……流石に一益で見張るのはな……それに一益は伊勢攻略に携わるから無理だな」

 

 ちなみに一益とは滝川一益の事である。今は尾張にて伊勢攻略の任務を帯びていた。

 

「……一つ案がある」

「何だ兄様?」

「甲賀の忍だ」

「……成る程」

 

 頭の回転が早い信長は信広が言いたい事が分かった。

 

「この件は兄様に任せる」

「あい分かった、直ぐに行動しよう。紫」

「は」

 

 天井裏から紫がシュタッと降りてきた。

 

「御主は甲賀に向かい、甲賀の忍と接触してくれ。行けるか?」

「御意」

「一筆書く、それを届けてくれ。それと手紙は真実だから信じてくれと言って舌噛んで自決するなよ。手紙を若衆にでも渡したら即座に引き上げろ」

「御意」

 

 信広は信長から筆と墨を借りて紙に何かを書く。書き終わると紫に渡して紫はそのまま甲賀に向かった。

 

「織田家からの忍じゃと?」

「は、忍はこの手紙を携えており、渡すと直ぐに帰りました」

 

 甲賀は惣を形成して全ての案件を多数決の合議制にしていた。若衆からの報告に乙名達は織田家からの手紙を一目した。

 

「なんと……」

「これはまた……」

 

 乙名達は一目して驚きの表情をしていた。

 

「手紙には何と……?」

 

 若衆の一人が意を決して乙名に問う。

 

「我等に服従せよとだ」

「な!?」

「いくら織田でもそれは……」

「待て待て。話は最後まで聞け」

 

 騒ぐ若衆達を押さえる。

 

「服従したら今まで通りで良いとな。ただし、複数の忍を登用するのが条件だと」

「それが条件ですか?」

「信じられんな……」

「罠ではないでしょうか?」

「御主らの信憑性も分かる。だが、名目上甲賀を治めるのは織田信広との事だ」

「あの織田信広ですか!?」

「なんと……」

 

 またしても若衆達が騒ぎ出した。忍の世界で織田信広の事は有名であった。

 曰く、信広は忍の重要性を他の大名達よりも理解している事、忍を信頼し自分が考えた農具を提供している事等々忍の人間には好評価だった。(伊賀者がそれとなく農具を甲賀にも提供したりしている)

 そして信広を心酔する者も現れてくる。

 

「信広なら……我等を悪いようにはせんと思う。どうじゃろうか?」

『……服従しましょう』

「よし、なら手土産に六角親子を捕らえて信広様に渡そうぞ」

 

 多数決にはならない全会一致の賛成であった。これ以降、伊賀と甲賀は織田家の直轄地となる。

 甲賀の惣がそうしている頃、二条城では騒然としていた。

 

「……サル、それは真実か?」

「真実です信長様。三好家家臣、松永久秀が降伏してきました」

『……………』

 

 藤吉郎の報告に信長達は驚きを隠せなかった。何せ三好家の重臣が降伏してきたのだ。お供は僅かの者しかおらず降伏は本当のようであった。しかも寸鉄の一つすら持っていなかった。

 

「なら会おう」

「信長様!?」

 

 信長の言葉に長秀が驚くが信長は平然とした。そうして松永が信長達の前に通された。

 

「三好家家臣、松永久秀です」

「松永久秀か。御主には悪い噂しか聞かぬが相当悪どい事をやっておるようじゃのう」

「あら、どんな噂でしょうか?」

「そうさのぅ……て「例えば……二条城の襲撃とか?」何?」

「……………」

 

 信長が久秀が東大寺を焼いた事を言おうとしたが信広が口を開いた。信広の言葉に久秀は少しだけ眉を動かした。

 

「それに本圀寺の襲撃も疑われてますな」

「……本当か兄様?」

「………」

 

 信広の言葉に信長は真偽を問う。対して久秀は何も言わない。

 

「俺の忍は優秀だ」

「だそうだが……返答は如何にだ久秀よ?」

「……その通りよ」

『………』

 

 久秀の告白に勝家や藤吉郎達は自然と刀に手を沿える。しかし信長は勝家達に視線を向けて「控えろ」と告げる。

 

「それを告白して最悪殺されるかもしれないのによく言えたものよのぅ?」

「あら、言っても私は生きているわ」

「ッ」

「落ち着け信長」

 

 二人が自然と喧嘩腰になるが信広が信長の肩を叩いて場を整える。

 

「……まぁ良い。それで降伏の証には御主の信貴山城か?」

「はい、それと此方を……」

 

 久秀は何かを入れた木箱を信長に差し出す。それを藤吉郎が代表して開ける。

 

「室町三代将軍足利義満が所有していた九十九髪茄子。これを信貴山城との降伏の証です」

「……ほぅ」

 

 信長は目を細めて九十九髪茄子を見つめていた。

 

「……良かろう。降伏を認めよう」

「信長様!?」

「控えろ長秀」

 

 またも驚く長秀に信長は手で制した。流石に主君に文句は言えず、誰も久秀の降伏を容認しようとしたが……。

 

「……足りんな」

「……何が足りないので?」

 

 信広の言葉に久秀はそう返した。

 

「九十九髪茄子は確かに素晴らしい唐物茶入だろう。だがもう一つあるだろ?」

「……何の事です?」

「あるんだろ……平蜘蛛釜?」

「………」

 

 信広の言葉に久秀は殺気を出して睨み付けた。

 

「その表情……あるんだな? ならあるなら出せ」

「貴方のような輩に差し出す事は無いわ」

「……クク、何か勘違いしていないか松永?」

「……どういう事かしら?」

「俺は一言も差し出せとは言っていない。あるなら出せと言ったんだ。つまり……機会があるなら一度見せてくれないか?」

「……それなら構いませんよ」

「あい分かった。なら俺も降伏を認める」

 

 こうして久秀は織田家に降伏した。

 

「……勝手に話を進めるな兄様」

「いや、こうしないと後々の事があるからな」

「後々の事?」

「久秀の事だ。俺達の前では臣従すると言ってるが織田家が危険になれば直ぐに裏切る。それで平蜘蛛釜で降伏するかを聞いておく必要があったんだ」

「……なら平蜘蛛釜は諦めるしかないな」

「まぁ久秀は一旦信貴山城は取り上げだろな」

「……三好の事もあるな」

「その事は久秀と相談だな」

「あぁ。ただ、久秀は畿内から遠ざけた方がいいだろう」

 

 そう話す二人であった。

 

 

 

 

 

 




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