『信長の庶兄として頑張る』   作:零戦

5 / 41
第十六話

 

 

 

 大和国、信貴山城。今で言う奈良県生駒郡平郡町にあった山城である。

 築城主は木沢長政であるが、今は三好家の松永久秀が城主で本丸には四層の天守櫓が建っていて松永久秀は築城の才覚も備わっていた。

 

「京にいる義輝を討つわ」

 

 家臣達が集まった中、久秀はそう宣言した。

 

「姉上、何故また義輝公を……」

「長頼、貴方は黙って久秀の言うことを聞いていれば良いの」

「……御意」

 

 久秀の弟である長頼の言葉に久秀はジロリと長頼を睨んで反論をさせなかった。

 

「義輝は本圀寺を仮御所としているわ。貴方に九千の兵を預けるから本圀寺を攻撃しなさい」

「ですが姉上、此処の守備は……」

「久秀が三千で守備するから問題無いわ」

「……御意」

「それと、旗は紅白の旗を用意しなさい。松永の家紋ではなく紅白の旗よ」

「御意」

 

 そして松永長頼を総大将とした部隊が密かに信貴山城から京へ出立した。久秀は三好家の目を部隊からそらすため筒井順慶が城主の郡山城へ三千の兵を率いて向かう。

 松永久秀の侵攻を確認した筒井順慶は籠城戦を行おうと決断した。だが、久秀は郡山城を包囲しただけで攻撃を行おうとはしなかった。

 言わばチラ見状態だった。そのおかげで長頼の部隊は筒井順慶に気付かれずに大和国から京へと向かう事が出来た。

 その京であるが、京には治安維持を目的とした信広の約五千の兵が駐留しており本陣は本圀寺である。

 本圀寺の南には天智天皇陵であり、信広はそこに本陣としようとしたが義輝が「本圀寺で構わない」と言ったので本圀寺となった。

 信広は部隊を三つに分けて羅城門に忠勝、直元、道三と兵二千、清水寺に長秀と兵二千、そして本陣の本圀寺に大将信広と兵一千が駐屯していた。

 隊を三つに分けたのは義輝からの要請だった。

 

「京の治安維持を優先するのじゃ。本圀寺には少数で良い」

「(あんたの弟が史実で襲われたというのに……)……御意」

 

 こんな感じで信広は隊を三つに分けていた。信広の治安維持部隊は京の民からは頗るほど受け入れられていた。

 

「狼藉をした者は斬首。無論俺の近習であろうと容赦はするな」

 

 信長が先に出した一銭斬りを信広は忠実に守っていた。

 

「(旭将軍の二の舞にならなくて良いのぅ)京の治安が守られるなら満足じゃ」

 

 物見から報告を聞いた近衛前嗣はそう安堵した。そうした中での事だった。

 

「申し上げます!!」

「どうしたこんな夜半に……」

 

 本圀寺の一室で就寝していた信広は物見の大声に飛び起きた。

 

「何処かの軍勢が宇治方面より押し寄せて参ります!!」

「(遂に動いたか……)治安維持部隊を呼び戻せ!! 軍勢の旗は?」

「……紅白の旗で御座ります」

「何……?」

「紅白の旗御座ります。それしか分かりませぬ」

「家紋は?」

「それが一切有りませぬ……」

「……御苦労。急ぎ部隊を呼び戻せ」

「御意!!」

 

 信広は直ぐに鎧に着替えて義輝の元へ赴いた。

 

「義輝様、何処かの軍勢が本圀寺に押し寄せて参ります!!」

「な、何じゃと!?」

 

 義輝は寝間着のまま飛び起きた。

 

「急ぎ脱出する準備をなされませ。某は防戦準備に入りまする」

 

 信広は義輝の返事を待たずに寺の外に出た。外には多数の騎馬武者達が勢揃いしていた。

 

「……何処の軍勢か?」

 

 信広は太刀に手を伸ばしたが、軍勢から一人の女武将が姿を現した。

 

「私です信広様、明智十兵衛光秀です」

「おぉ光秀か。してその軍勢は何だ?」

「は、若狭国衆の者です」

「山県源内でござりまする」

「同じく宇野弥七でござる」

 

 光秀に促されて二人の武将が信広に頭を下げる。

 

「義輝様警備のために参加を促して帰ってきたところです」

「ふむ、そう言えば義輝様がそう言っていたな」

 

 光秀と信広が最初に出会ったのは信長が美濃に帰国する前だった。

 

「光秀は朝廷の伝があるから京にいる方が良い」

 

 信長はそう判断して本圀寺に残らしていた。無論、信広にしてみれば妹を後に殺害する者である。

 

(……普通に接しておくか。光秀が信長の怒りの矛先にならないようにしないとな……)

 

 信広から見た光秀は真面目の部類に入るので自由奔放な信長と反りが合わないと判断している。

 

「信長のあれの振る舞いははもう気にするな。お前が責任を感じて不満を溜め込む必要はないからな。何か相談があればいつでも聞いてやる」

「は、はぁ……」

 

 端から見れば光秀を口説いているような光景だが信広はそんなの気にしている場合ではなかった。

 それは兎も角、光秀は信広と共に義輝の警備をしていたが義輝は信広を気遣い、警備を負担するため光秀に命じて国衆に警備の依頼をしたのだ。

 その到着が丁度今日であった。

 

「よし、早速済まないが本圀寺周辺に防御陣地を築くから兵を動員してくれ。寺の畳を使っても構わん」

「御意」

 

 山県と宇野は兵を指揮して陣地の構築に当たる。

 

「信広君」

「撫子か」

 

 撫子が天井からシュタッと現れた。先に使者を送ったが、念のために信広は撫子にも使者役として長秀に遣わした。

 

「長秀達と合流出来るか?」

「残念ながら無理だね。清水寺方面に別の軍勢が現れて現在防戦中だよ。送られた使者も別の軍勢に殺されてる。紫が使者の死体を確認している」

「何!?」

「だから京からの援軍は完全に不可能だね……しかも清水寺から此方へ通じる道は謎の軍勢が押さえている」

「……撫子、命令を下す。紫、霊夢の二人は長秀の元へ向かえ。長秀を臨時の総大将とし羅生門の兵をも纏め、一刻で突破出来るなら合流せよ。一刻過ぎても無理な場合は近衛前嗣の屋敷に向かい屋敷及び畏き所の警備に当たれ。飛龍と烈風は近衛前嗣に事情を説明しろ。俺が一筆書く。撫子と彗星、佐助は直ぐに信長に報せろ」

「だがそれだと信広君の傍に誰も……」

「今は一刻の猶予も無い。直ちに急げ!!」

「……御意!!」

 

 撫子はそう頷いて姿を消した。

 

「さて……聞いていたな光秀?」

「は」

「此処は一刻だけ全力で死守する。今のうちに逃げる準備をしておけ」

「ですが長秀殿達を置いて行くような……」

「なら名案はあるのか光秀?」

「それは……」

 

 信広の指摘に光秀は躊躇してしまう。

 

「全ての責はこの信広が取る。だから心配するな」

「……御意」

 

 そして信広は近衛前嗣に手紙を一筆認めて飛龍と烈風が近衛の屋敷に向かう。その間にも軍勢は本圀寺まで十町まで接近していた。寺の前は畳や米俵を楯にした防御陣地が構築されていた。

 

「掛かれェ!!」

『オオオォォォォォーーーッ!!』

 

 そして軍勢は本圀寺に攻撃を開始した。

 

「鉄砲隊構えェ!!」

 

 信広の号令の元、鉄砲隊が敵兵に照準を合わせる。

 

「まだ撃つなよ」

『………』

 

 鉄砲隊の兵は緊張しながら構えている。ある兵など緊張し過ぎて汗がダラダラと流れていたほどだ。

 

「まだまだぁ……」

『オオオォォォォォーーーッ!!』

 

 敵兵は雄叫びをあげつつ本圀寺に接近してくる。そして二町ほどになった時、信広が叫んだ。

 

「撃ェ!!」

 

 鉄砲隊の兵は次々と引き金を引いて鉛の弾丸を放つ。鉄砲は全て新型種子島の事もあり二町からでも射撃は出来た。敵兵は倒れた仲間を見る事もせずに突き進む。

 

「弓隊、竹筒矢に火を付けて放て!!」

 

 弓隊が矢に節間毎に装着した矢の紐に火を付けて山なりに射角を取って敵兵に射つ。射たれた敵兵は倒れるが数秒して突如爆発して近くにいた兵を負傷させた。

 

「ぎゃ!?」

「な、何だ!?」

「身体が爆発したぞ!!」

「妖の仕業か!?」

 

 敵兵達は騒然としているが騒ぐのも無理はなかった。

 

「ククク、方法は汚いが敵の士気は削れるな」

 

 騒然としている敵兵を見ながら信広はそう呟いた。先程弓隊が放った竹筒には火薬と数発の弾丸を混ぜていた。それに導火線で火を付けて矢を放つ。

 後は敵兵に命中してもしなくても勝手に爆発していくので敵兵の士気が低下するのは当然の事である。

 

「長頼様、兵達の士気が著しく低下しています。このままでは……」

「く……僅か千しか満たない奴等を九千の軍勢が押し潰せんのか!?」

 

 部下からの報告に長頼はそう叫ぶ。このままでは姉の久秀の怒りが激しくなるのも無理はなかった。

 

「……やむを得ん、一旦後退して戦力を整える。法螺貝を鳴らせ!!」

 

 戦場に法螺貝が鳴り響き、謎の敵兵――松永軍は一旦後退するのであった。

 

 

 

 




御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。