『信長の庶兄として頑張る』   作:零戦

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第十九話

 

「久秀、貴様は暫く信貴山城から離れよ」

「……三好の事ですね?」

 

 久秀が信長に降ってから翌日、信長と久秀、信広を加えた三人で信長の部屋にて内密の話をしていた。

 

「久秀殿、御主の事を鑑みれば降伏の事が三好に伝われば首を討ちに信貴山城まで来るのは明白だ。それに筒井も三好と手を組んで攻めるかもしれん」

「……筒井には遅れを取りませんが手を結ばれば厄介になりますわね。それに寺社勢力も」

(奈良は平城京や藤原京もあった寺社勢力も強いんだよなぁ…よく筒井や寺社勢力相手に戦えたものだな)

 

 内心にそう思う信広である。

 

「そこでだ……大和の寺社勢力と手を結ぶ」

「……何?」

「良い手ね」

 

 信広の言葉に久秀は成る程と頷いたが信長はジロリと信広を睨んだ。

 

「考えがある。今は俺を信じてくれ」

「……あい分かった」

(……ふぅん)

 

 二人のやり取りに久秀は何かを確信した。その後、信広と久秀が二人で話し合っていた。

 

「筒井は臣従すれば領土安堵にしておく」

「拒否するならば潰すまで……ね」

「何か不満でもあるのか」

「そんなのじゃないわ。これも戦国の世の運命(ざため)ね。それと信広殿」

「何か?」

「織田家は貴方の手腕に掛かっているわよ」

「……どういう意味だ?」

「貴方は織田家は信長が中心となっていると思っているようだけれど、果たして本当にそうかしらね?」

「………」

「まぁこれは織田家の問題だろうけど」

「それとも俺を此処で殺して織田家を狂わせるかい?」

「それはそれで楽しそうだけれど平蜘蛛が割られそうだからやめておくわ」

 

 久秀はそう言って温くなったお茶を飲む。信広もお茶を飲むが味を楽しめなかった。そして数日後、信広はある書状を携えて密かに清水寺に赴いた。

 

「ほぅ織田の者でも身内が来るものとは……」

 

 清水寺のとある一室で信広は興福寺から赴いた僧と面会をしていた。

 

「して……我等とは何をやりたいので?」

「……大和国は織田家が抑えます」

「ほぅ……」

「興福寺はそれに協力してもらいたいのです」

「……我等に利は?」

「これを」

 

 信広は書状を僧に渡した。僧はそれを受け取り、内容を一目すると目が見開いた。

 

「これは……!?」

「織田家からの朱印状です。それに織田家の朱印状を認める関白近衛前嗣公の書状もあります」

 

 信広は僧に織田家の朱印状と近衛公の書状を渡す。織田家の朱印状には興福寺に一万石の安堵が書かれていた。

 

「信用ならぬのであれば右大臣花山院家輔、左大臣西園寺公朝の書状もあります」

「これは……」

 

 書状を持つ僧の手が震えていた。いくら今では力が無い朝廷でもその権威は未だ衰えてはいなかった。

 

「また、大和国が無事に織田家の物となれば感謝の証として倍の一万二千石を増やします」

「……分かりました。直ぐに話し合いましょう」

「良い返事を期待しています」

 

 信広はにこやかに答えた。そして興福寺は織田家に協力する事になる。

 

「上手くいったみたいね」

「あぁ。僧どもは我等に口出しせずに念仏を唱えて日ノ本の繁栄を祈れば良い」

「……一向衆は潰すつもりかしら?」

「完膚なきとまでは言わんがある程度の影響力は削り、京に寺を二つ用意するつもりだ」

「二つ……」

 

 茶を飲む久秀の口角が上がる。この茶室には久秀と信広の他にも信長がいた。

 

「やはり織田家に降伏したのは良かったみたいね」

「それは良かった」

「でも肝心の当主は不満そうね」

「……私としては完膚なきまで殲滅したいがな……」

「やれば出来るでしょうね。でも人間には不満を吐き出せる拠り所が必要なのよ」

 

 わらび餅を食べる信長に久秀は信長の茶碗に茶を入れつつそう答えた。

 

「……仕方ない……か。その方針で行こう」

「御英断、真に感謝致します信長様」

「此処ではそのような事はせんでよいぞ兄様」

「貴方達は面白いわね」

 

 信広達の会話に久秀は面白そうにクスクスと笑う。

 

「でも……時としてはそれが諸刃の行為になるわよ」

「……だろうな」

 

 久秀の言葉に信広は溜め息を吐くのであった。

 

「京周辺は兄様に任せる。その間に私は尾張周辺を押さえるため伊勢に攻め込む」

「……北畠はどうする?」

「臣従せよと書状を送るが臣従するならそれで良し。拒否するなら攻めるまでの事よ。それと平行して一益が伊勢に調略をかけている」

「兵力は?」

「今川と竹千代から兵を一万ほど。我等で二万を出す。兄様には二万と久秀の兵力でやってくれ」

「私の兵力は凡そ一万二千になります」

「……京周辺からも兵を集めるか」

 

 信広はそう呟いた。そして数日後、信長は岐阜に引き上げた。信広は京に残り三好の動きを牽制する事になる。

 

「取り合えず兵を集めるか」

 

 信広は京や山城国で兵を募集、集まった五千の兵は京を守護する御親兵となり初代司令官には近衛前嗣が兼任で就任したが、実際に指揮をとっていたのは別の人物だった。

 この御親兵は約二百数十年後には近衛師団に改称される事になる。

 

「京の守護は任せるぞ義治殿?」

「お任せ下され」

 

 信広は三代目司令官に就任した六角義治にそう言う。六角親子は信長が京への上洛時に抵抗したが呆気なく敗走して甲賀に逃げ込んだが甲賀の忍は六角親子を捕らえて信長に差し出して所領安堵してもらっていた。六角親子の処遇にどうするか悩んだ信長だったが前嗣の口添えで京で監視付の保護をする事になった。

 そして御親兵が創設され前嗣が初代司令官に就任したが戦素人の前嗣では無理な事なので直ぐに信広に司令官が就任した。

 当初は信広も「近衛師団ktkr!!」と喜んでいたが、大和や三好の事もありおいそれと京を離れる事が出来なかった。そこで信広は軟禁状態の六角親子に目を付けたのだ。

 信広は六角親子と面会し、御親兵司令官を六角義治に任命した。当初は義治も織田の謀略で邪魔な自分達を暗殺するのでは疑心暗鬼したが前嗣の茶会で「殺すなら初めから殺している。貴殿方を朽ちらせるのは惜しいと思った次第まででござる」と信広がそう言ったので義治は司令官就任を引き受けた。

 なお、父親の承禎は義治を補佐する形になっている。

 

「信長は憎いが信広殿は別だ」

 

 後に義治はそう洩らすのであった。それは兎も角、後ろ(京)の守りを固めた信広は大和国攻略に乗り出す……筈だったがそれに待ったをかけるように京へ上洛をする者がいた。

 

「……御元気そうで何よりでございます」

「……久しぶりじゃのぅ……長慶よ」

 

 二条城で義輝は京へ上洛してきた三好長慶と面会していた。義輝は長慶にジロリと少々の殺気と視線を向けた。対して長慶は義輝の視線に冷や汗をかいた。

 

「わらわが京から離れている間、御主は何やら面白い事をしていたよの」

「………」

「はて……何じゃったかな幽斎?」

「……義栄を第十四代将軍にしたそうじゃが……」

「我等は草の根を掻き分けてでも貴女様を探しました。しかし――」

「よいよい。わらわが見つからねば新しい将軍を建てねばならぬからな」

 

 途端に義輝は殺気を四散させて部屋にホッとした雰囲気が流れた。

 

「まぁそれも直ぐに無くなるかもしれんがの」

「はい?」

「いや、何でもないのじゃ」

 

 義輝と長慶の面会は難なく終わり、長慶は部屋を出た。廊下を歩いていると目の前に一人の男性が現れた。長慶を見た男性は長慶に頭を下げ、長慶に道を譲った。

 

『………』

 

 一瞬の交差だったが二人は互いに相手の力量を見た。

 

(あの男……一存並、いや……)

(はぁ~……可愛い、綺麗な女性だな。でも中々の面構えだし貴族の娘でもない……なら三好長慶かもな)

 

 両者は何も言わずにその場を後にするのであった。後に長慶と長い付き合いになる最初の出会いだった。

 

「おぉ来たか信広」

「茶会で呼ぶのは構いませんが……先程の女性は何方ですか?」

 

 信広が呼ばれたのは義輝と幽斎の三人での茶会だった。幽斎から茶が入った茶碗が信広の前に置かれ、幽斎に会釈をして右手で茶碗を取り上げ、左手の平の上に置き、右手で時計回りに少し茶碗を廻して茶碗に口を付けた。

 

「三好長慶じゃ。何じゃ? さては長慶に惚れたかのぅ?」

「ハハハ、かもしれませんなぁ。出来れば戦場(いくさば)で会いたくはありませんな」

「……ほほぅ」

 

 信広の言葉に和菓子を食べていた義輝が目を細める。擬音があればキラーン☆としていたかもしれない。

 

「ふむふむ……成る程のぅ」

(……何か地雷踏んだような気が……)

 

 ヌフフフと笑う義輝に信広は嫌な予感を覚えたのであった。そして雪も解けて桜の季節になった四月、信広は二万の大軍を率いて一路大和国へ向かった。

 目的地は筒井順慶が籠る郡山城であった。

 

 

 

 

 

 




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