「――よし、とりあえずは起きて良いぞ」
「はいよーっと。……しっかし、検査って色々めんどくさいなぁ」
「そうも云ってられんじゃろう、貴様は」
「でも健康そのものなんだけどなー」
RaDの医療関連全てを集積したグリッド086の一区画――通称で病院と云われている――内の一室。
白衣を着た爺さんの台詞に、身体の至る所に張り付けられたデータ取り用のパッチを剝がしながらベッドから起き上がると、
大きく伸びをするアクリである。
そんな彼女は下着姿(とは云っても、大胸筋サポーター的な上とボクサーパンツ的な下なので色気もへったくれもあったもんでは無いが)だが、
鍛えられたその体躯は中々の肉体美を誇っており。腹筋も薄っすら割れてたりもする。
「ドクター。アクリは大丈夫なの?」
そんな彼女が心配だったのか近くで見学していたユミコは、
ドクターと呼ばれた爺さんへとどんな状況のかを尋ねてみるのだが。
「分からんッ! 何せ儂はヤブ医者じゃからのぅッ!」
「オイコラ待てやクソジジイ」
ガッハッハ、とばかりに呵々大笑するジジイへとコメカミに井型を張り付け突っ込みを入れて。
まあでも一つ云えるのは、じゃ。
「儂はどっちかっちゅうとコーラル関連の研究がメインじゃからの。
とりあえず、コーラルの許容量が普通の一般ドーザー共よりも相当高めじゃなあ。
……ま、じゃからと云って旧式の強化人間に届く程ではない様じゃが」
「誤差の範囲……とは云い辛いけど、問題は無しと」
「その通りじゃッ」
胸を張って云う程のものでもなかろうが。
「大事無いなら、もう帰っても良いかな?」
「……それじゃがの、アクリ。貴様は暫く
「何故に?」
はよ復帰したいと云う申し出はあっさりと却下され、疑問顔のアクリ。
「今、カーラが貴様等が先日見つけたハッキングドローンの出所を探っておるが、ほぼ間違いなく予想通りのアレ等じゃからの。
お礼参りに貴様も参加させたいんじゃろ」
思わせぶりな爺の台詞にあ~……、と納得の表情を浮かべる。
「つまり、ほぼ確定
それ完了したら花火会場の警備か、ぶち込んだ後の掃討で私を使いたい、と」
「よーわかっとるのぅ。
他にもリブラにも何事か頼んでおるようで、共同でなんかをプログラムっとるみたいじゃぞ?」
「ぬぅ。そんじゃどっちにせよリブラの要件が終わるまでこっちは動けないのか。
じゃあ仕方ない。グリッド086からは出ないでおく。……流石に
「その辺りはカーラに聞いとくれ。儂ゃ知らん」
「おい。……まあ良いか。とりあえずカーラに連絡してから、オールマインドのACテストで大豊から貰った武器の訓練でもしとくわー」
「無理はしない様にねー?」
「うーい。……って思ったけど、企画落ちした武器ってデータ読み込めるの……?」
緩い返事と口の中でぶつぶつ言いながら立ち去るアクリを見送ってから、
少しばかり真面目な表情を浮かべたドクターはユミコへと視線をやり。
彼の状態に、彼女の方も何かを察し居住まいを正して。
「……ユミコ。貴様はアクリと幼馴染だった筈じゃな?」
「そうですけど。アクリの出自が聞きたいって所ですかねー?」
「そうじゃな。……あの娘は…「あ、先に云っときますけど、出自そのものは全くの一般人ですからね、あいつ」
少し聞き辛そうに躊躇いながら言葉を紡ごうとするドクターに、被せながらそう返しつつ苦笑を漏らすユミコ。
そうじゃないとわたしと幼馴染なんぞやってませんって、と肩を竦め言葉を重ねる。
「ドーザー共に故郷焼かれる前からの付き合いですけど、両親がミールワーム飼育してた程度には一般人」
(因みにわたしの方は、両親共に学があったので集落のまとめ役みたいな事してたみたいだけど)
今の話題はアクリであるからして、己の出自は云っても栓無き事なので思うに留め。
そんで逃げた先で偶々RaDのまだまともなドーザーに拾われて今に至ってる訳で。
軽い口調で昔話をするユミコに、何かを考えている風のドクターである。
「……では、強化人間とか、その辺りの話は……」
「全く影も形も無いですね。……ああ、でもそう云えば一つだけ聞いた事が。
……嘘かホントかは分からないですがアイツ、最初期のルビコン3入植者の血筋ではあるみたいですね」
曾孫だったか玄孫だったかはうろ覚えですけどねー、と更に続けて。
「ふむ……」
「なので、アイツを探ったとして何も出ませんよ?」
だから恩ある貴方達を、
親友の危機となり得そうであるので、言外の圧を醸し出すユミコである。
そんな彼女の鋭い視線に肩を竦め、言葉を返すドクター。
「流石にそこまで外道に落ちとらんわい。……まあ良い。聞きたい事は聞けた。済まんの、時間を取らせて」
「いえいえ~。お気になさらず。……それじゃ、わたしも行きますねー。お仕事がそこそこ溜まっちゃってるのでー」
そんな感じでユミコは一つ頭を軽く下げ、くるりと踵を返し部屋から出て行く。
それから、暫し。
「――だ、そうじゃぞ、シンダー・カーラ」
『……完全にシロ、か。どこかの回し者の可能性……企業とも解放戦線とも、『私等』とも違う……"四つ目の組織"。
そいつ等に繋がる何かが分かればと思ってたんだけどねぇ……』
どうやら通信を繋げっぱなしにしていたらしいドクターの言葉に応えるは、カーラの様で。
そんな彼女の反応に、やれやれと肩を竦めつつ爺は言葉を返して。
「貴様も、RaDの頭目に収まった直後に拾われて来たアイツ等の面倒を見ていた筈じゃったろう。
"そっち"の気が無いのは分かり切っておったろうに。……まあそれは良い。
何の改造も無しに微弱なコーラルが視える事がある、っちゅうんは、さっきのユミコからの話からも推察するに、
最初期入植者世代と血が連なり……。ルビコン3星内で世代を重ね続けて、普通の一般人がコーラルに適応し始めておる可能性が濃厚じゃの。
儂の見立てでは、コーラルの分解速度も星外の人の数倍~十数倍以上。……下手をすれば旧世代強化人間よりも早い」
『コーラルに適応を始めただけのただの人、か……。あの変態的なAC回しは柔軟な発想と反射神経に体捌きってだけだったのかい』
考え入りそうになるカーラを諫める様にドクターは口を開き。
「……このまま二大企業が集積地を見つけられなんだら、焼く必要は無くなりゃあせんか……?」
『だが、それをアテにするにゃ、まだまだ時間が足りなさすぎる。それでも大丈夫になり得るのは一世紀以上先の話だろう。
……それにもうそろそろ、賽は投げられるからね』
「そう、か……。やっとここまでこぎつけたんじゃな?」
『あぁ。……ウォルターも、先に聞いた話だと……最短半年、最長1年程でワンコ達を連れてこのルビコンに戻って来る手筈になってる。
それまでに、こっちも体制を整え切らないとねぇ……』
カーラのそんな言葉に少しだけドクターは表情を歪め、ため息を吐くように言葉を吐き出して。
「ウォルター、か。第四世代型の旧式の強化人間の傭兵集団を要した様じゃが、アレも進んで貧乏籤を引きに行かんでも良かろうに……」
『自責の念があるにしても、性分じゃないかねぇ、あれは』
通信越しに苦笑を漏らし合いながら星の外で今も己を痛めつけながらも前へ歩んでいよう戦友を思う二人なのである。
どシリアスをしているRaDの重鎮達と同じように、
シリアスな感情をノリと空元気で乗り切った感があるアクリは、己がACのコックピット内で溜息を一つ吐くと、
ぴしゃり、と云った風で両頬を一回張る。ちょっとばかり強く張り過ぎたか、微妙に涙目になりつつも小さく独りごちて。
「うじうじ考えてても意味はない、か。切り替えろ、私」
先の「赫」の件にて、己が内のナニカに色々と葛藤はあるが、悩み続けていても分かるものでも無し。
それよりも今は、自分に出来る事をするべきであろう。
そう気分を新たにすると、オールマインドのACテストの仮想空間を起動。
その空間に立つ彼女のACには、以前大豊から譲り受けた企画落ちの武器二種を両手に持っていた。
「……しかし。現物があるんだったらデータ再現可能なのか
――DF-HA-XXX、"RED-GUN"と、DF-MW-XXX、"ARM"、か……。
制式不採用だったから、正式名称は貰えなかったんだろうけど……後者は兎も角、前者の名称ヤバくね?」
そんな事をしみじみ呟きつつACの右手に握られている大型のハンドガン……否、
ベイラムのハンドガンよりもさらに武骨に大口径に作られているそれは、もう男心をくすぐりまくるやべー代物であった。私、女だけど。
まあそれはそれとして。
これ多分、大豊的にはレッドガンの基本兵装として使ってほしかったんだろうなーと云う強い思いをひしひしと感じる。
「後……。こっちはトンファーってやつだったっけ?」
そして左腕に視線を移すと、左腕をすっぽりと覆うぐらいに大きい棒状の板に握り手を付けている、
至ってシンプルな見た目の武器で。あと、これ小盾としても使える様にしてるわ。甲側の方が丸みを帯びてるし。
「確かこれ両手に持って使う武器だったよね? もう片方は……そいやもう一個、ボックス内に包装された物があったよーな……?」
とりあえず自分の記憶を漁りながらあったかもしんないとか呟きつつ使ってみる事にする。
「えーと……とりあえずは、RED-GUNからかな」
敵機はAI無しの案山子で、と設定し、現れたACトレーナーに先ずは一回発砲。
銃撃音、と云うよりは轟音がシミュレーション内に響き渡り。
「……マジかー。そりゃ正式採用されんわこれ……」
まさか
因みに、ACトレーナーの中心部を狙って撃ったその弾丸は、それの頭上、遥か上方に弾痕……? 弾痕??
……小型のグレネードが直撃したぐらいのデカい跡を残してないかこれ?
「うっひゃー……。これ、もしもまともにACの中心部に中ったら、一発で
やっべー、やっべーよこれ、なぞとか呟きながら戦慄するアクリである。
「でもまず中らんだろうから、産廃だよねぇ……。でも何とか使い方考えないと勿体ないわー。この衝撃力だし。
……よし、次。トンファ―の方だ……? ってあれ?」
トンファ―の情報データをモニタの端に呼び出しそれの仕様を確認すると、疑問符が浮かび。
「……ぇ、これパルス発生器も兼ねてるの? ベイラム系の武装なのに?」
質より量、EN系よりも実弾を推奨するようなベイラムの傘下企業が、
タキガワのお家芸であるパルス系を一部にせよ使っているのに驚きを隠せない。
隅々まで確認してみると、パルスの噴射口が板部の取っ手側とその逆先周りに取り付けられているらしい。
握り部分の親指を添える部位にスイッチがあるようだ。
「……とりあえず、使ってみるか」
柄部を握り込みながらスイッチを押し込むと、逆先の方にあまり強くないパルスが漏れ出て来て。
ぶんぶかと回し振ってみると、そのパルスがバチバチと音を鳴らしながら弧を描く。
「あ、これ楽しいかも」
ぶんぶかぶんぶか。ぐるんぐるん回してバチバチバチバチ云わせながらパルスの流れが円状に光る。
よし、それじゃ案山子を殴ってみようかとブースタを軽く吹かし突撃!
「……シャッ!」
ガゴゴン、と中々に鈍く重い音を立てながらパルスを纏った様に見えるトンファーからの一撃を案山子に打ち込んだ。
……が、手応えが物理的な方向しか感ぜれない。
「……うーん、これ、パルス振動がかなり弱いっぽい……?」
ひょっとしてこれのメイン運用はパルス防壁破壊用? パルスガン系統みたく?
そんな事を予測してみるアクリは一回行動を辞め、再度データを呼び出してみる。
ゆるゆると解説文を読み進めていく内にじわじわと表情が渋く苦り始めて。
「……そっかー。本体そのものは頑丈なんだけど、出力が安定しないお陰でパルス波が強弱の波が激し過ぎるのかー……」
最大出力時にはタキガワのパルスブレードの高周波振動すら上回る攻撃力を得るのだが、
いかんせん不安定が過ぎてその最大出力になるまでの溜めに十数秒。
そして撃ち込んだ後はほぼオーバーヒートか回路が焼き切れ動作不良を起こし、完全に鈍器に成り下がる様だ。
一回の威力は申し分ないが、それだけ。試験評価機の域を出ない代物である。
まあ、トンファーと小盾として使うだけならば普通に優秀なのかも知れないが。
超至近距離で殴る形になるので、使い道に困るけれども。
「……これ完全にパルス系武装の研究用試験機だったんだろうなぁ。
まあでもベイラム系だから、お察しぐらいの開発度で中止って所か」
因みに取っ手側の噴射口の方はパルスガン想定だったらしいが、その不安定な状況下では使用不能。
まぎれもなく産廃である。廃棄予定の代物をくれやがったな大豊の連中ッ! いやくれるって云うなら貰うんだけどさッ。
貧乏性の極みではあるが、ジャンカーなので間違っていない。
「これはどっちもリブラ頼み……って、あれ? ちょっと待てよ?」
ふと思い出した事が頭を過ぎり、リボルバーの方を見やる。
「大口径……。拳銃型……。頑丈そう……。あッ、これはちょっと改造してもらえば……」
RED-GUNの方は運用法を思い付いたらしい。
なら、ARMの方は?
「今の所は、改造で出力を上げて貰って使えるようにするぐらいしか考え様が無いなぁ……」
やっぱこっちもリブラ案件だわ。そんな事をぼやきつつ一通りは仕様覚えたし、
そろそろ一旦引き上げるか―、と思っていると。
「……ん? 新着メッセージ?」
ふと気づいたら、モニタの傍らにメッセージ着信のマーカーがチラついており。
誰だろ? と思いながらも開いてみる。
『――傭兵支援システム、「オールマインド」より登録番号"Rd31"、識別名"RaDer’s"。今のACテストで使用中の武装についてお話が』
「オールマインド? ……あ、やっぱ正式採用されてない武器って拙かったですか?」
アクリはうっわやべ、と云う表情を浮かべながらそう聞き返してみる。
だが、彼女の台詞に否定を返すオールマインドで。
『いえ、そう云う訳では無く。差し支えないのであれば、その武装二種のデータの提供をお願いしたく』
「どうぞどうぞ。……因みにこれ大豊からの好意で貰った量産コンペ落ちした試作武器ですね。クセ強すぎますけど」
『感謝します、独立傭兵RaDer’s。――度々、他の独立傭兵では見られない斬新なデータ提供、ありがとうございます』
私のどこが斬新だ。喧嘩売ってるのかな、この傭兵支援システムさん。
そんな事を思いつつも口には出す気はないが。
「いえいえー。こちらこそ面倒な諸々を肩代わりして頂いたり、
傭兵プログラムやACテスト、アリーナでもお世話になってるんですから、出来る範囲では協力しますって」
そんな内心は彼方にブン投げつつ、何だかんだ云ってお世話になり続けているのは確かなのでお礼はしっかりとね。
そういう感じである。
『再度の感謝を。返礼、と云う程の物では無いですが、以前の機動データの件も加味して、
ログハントプログラムの解放とポイントの付与をする事に決定致しました。
今回の珍しい武器での戦闘データも含めて2点加算され、合計2点となります。残り6点でクラス1の報酬が獲得出来ます』
「あ、ありがとうございます。……確か以前チラっと云っていた、有用な戦闘ログを集めると報酬があるとかなんとか」
『それで間違いありません。傭兵支援のログデータからの情報蓄積により、
私どもオールマインドが新規制作した武器パーツ類がそれに当たります』
「報酬は有難いですけど……。私そこまで戦闘力高くないので、イキの良い戦闘ログなんてそうそう手に入りませんよ?」
『承知しています。何事かあった時にでも思い出して頂ければ』
「それならばなんとか……」
そんな感じでアクリが納得したのに満足したか、
退去の言葉とオールマインドは全ての傭兵の為にあります、と云う何時もの〆を残し、通信は沈黙した。
それから暫し。一つ溜息を吐いたアクリは、独りごちる。
「んー……。今度のコヨーテス狩りの時に、ログ手に入れば楽なんだけどなぁ……無理だろうなぁ……」
まあ、なるようにしかならないよね、とぼやきながら軽く伸びをした後、今日はこんなもんかなー、
と云った感でコックピットから降りて休憩をする為に自室へと歩みを進めるのであった。
次回からノリは元に戻ります。
……シリアス、下手すぎますわ僕……。