とあるルビコンのジャンカートリオ   作:清狼光牙

39 / 41



 ……相変わらず遅くなっており……(吐血
ほのぼの()回……だといいなぁ(願望




39話

 

 

 

 

 

 

 「――やほ、617(ムイナ)。お元気?」

 『――ッ、ア、クリ……?』

 

 時間帯的には夜に入っている時期の少々薄暗い自室の中。

一人の女子―アクリである―が、軽い声音でモニタの先に居るであろう人物に通信を繋げて声を掛けており。

そう間を置かず返って来たのは、驚きと疲れを滲ませた強化人間娘(ムイナ)からの返答。

その声音にああ、やっぱり先日の闘争の件で相当精神ヤられてるな、と苦笑いしつつ、努めて明るい声音にて更に言葉を投げる。

 

 「――以前、ハンドラーから貴女への直接回線を教えて貰ってたから、ね。

どーせムイナの事だし、私達とあそこまでやり合って……

戦闘中で感情を切り離している時は兎も角。

そのあとにもの凄く凹んでるんじゃないかなって予想はしてたから、

軽く話をしておきたかったんだよね。……で、声を聞く限り、案の定みたいだし」

 『わ……私、達、ふたり、を……』

 

 説明を交えながらも、全く私気にしてませんよ的な声音でカラカラと明るく笑うアクリへと、

通信機越しでの居た堪れない色が多大に含まれた言葉が返って来る。

――やはり、この娘っ子は戦闘中は兎も角に、普段は善人が過ぎる様で。

  

 ウォルターやアリエスに順調に調きょ……もとい、影響を受けているのがよく分かる。

 

 まあそれはそれとして。

 

 「死んでないんだから、ノーカウントノーカウント。

……それにハンドラ―からも云われてた事、あったんでしょう?

"傭兵稼業をしていたらよくある事だ(イケボ)"、って。

だから、620(ロニーゼ)にも先日の闘争……殺し合いの件は気に病まないで、って伝えといて。

ま、あの子の方は普通に戦闘を楽しんでた節があるから、伝えるまでもなさそうな気がするけれども」

 

 そんな感じにて軽ーい言葉で宥めつつも、傭兵としてごく当たり前の(ことわり)を口にするアクリである。

……つうか、わざわざムイナ達がウォルターに云われているであろうその台詞を、

彼の声に寄せたイケオジボイスでやるなと云いたいが。

更に言うと地味に巧いのもどうなのか。

 

 だが、そんな彼女の台詞に、通信越しながらも強い反応があり。

 

 『……ッ。マス、ターは、そん、な、云い、方を、しな、い。もっ、ともっと、優し、くて、格好、良い』

 

 ……似ている筈なのだが、ムイナとしてはお気に召さないらしく、

今だ、たどたどしい話し方ではあるが、過剰とも云える強い口調で言葉を返して来て。

 

 「――まさかの突っ込みの概念を持って無さそうな娘っ子からすらダメだしされたッ!?

……ま、まあそれは兎も角。それだけの返しが出来るぐらい元気みたいで良かったよ」

 

 そんな思い掛けない反応に、アクリは少々の驚きと共に苦笑を深くしながらも安堵の溜息を一つ。

……と、意識を(悪い意味で)切り替えると、にんまりとした性格の悪そーな笑みを浮かべる。

 

 ――それは、そ・れ・で・さ?

 

 等と愉し気にほざきやがりまして。

 

 「――やっぱりムイナってご主人様(ハンドラー)、大好きだよね?」

 『……そ、そん、な事はな、いよ?』

 

 アクリは、思い切りよくからかいの色が見えるそんな声音の台詞をモニタ越しのムイナへと浴びせかけると、

通信の向こうの相手が勢い良く目を泳がせまくっているのが目に浮かぶかの様な焦った感の反応が返って来る。

 

 いや中々に愉しい感じになりそうなんですよクォレワ。

 

 そんな相手の反応に更に笑みを深めて根掘り葉掘りにウォルターとのあれそれを聞き出しつつ、

ムイナを暫し弄り倒したアクリは、妙にツヤツヤテカテカした表情のままに一息を吐くと、

唐突に声に真剣さを帯び、話を変えた。

 

 「――ふぅ、堪能。……あ、そうだ。云えないなら話してくれなくても良いけどさ。一つ訊いていい?」

 『……あん、なま、で弄り、倒し、た後で、素、直に答、える、とで、も?』

 「ゴメンて」

 

 弄られっぱなしでちょっとばかりへそを曲げてしまったらしいムイナに緩い謝罪の言葉を返すアクリ。

まあしかし、あちらの方も本気で怒っている訳では無い様で。

聞く気になっている雰囲気を察し、そのまま話しを続ける事にする。

 

 「――先の私達の襲撃。その同時期、ベイラム側への物資集積場への襲撃もあったんでしょう?」

 『……そっ、ちも、あな、た達の、差し、金だっ、たの?』

 

 その話を聞いた途端、声音が固くなったムイナにすべてを察し。

 

 「うん、その反応をしている時点で良く分かった。

……間接的に雇い主になった人が、ベイラム(あっち)側に派遣していたって云う子飼いのAC部隊が、

全滅した(・・・・)って云うのを、ツィイー(ある筋)から聞いててね。

――レイ君、流石の強さだなぁ。旧BASHOかそれを主にしたカスタム機だけであろうとは云え、

ACが二十機近く居たって話だったんだけど……」

 『……私、何、も云っ、ていな、いんだ。けれ、ど?』

 「依頼がかち合ってる訳でもないのにベイラムの方の襲撃の件を知っている。

有能なオペレータが付いているとは云え、そんなに直ぐに直ぐ情報が洩れる事はあり得ないだろうし……

と云う事は、ささっと情報共有できる余程親しい間柄か……当事者か。

その辺りの人が同時期に別口で依頼を受けていたって事で、

私達の方にムイナ達が来てたって事は……って感じで消去法だね」

 『……本、当に、油断な、らない』

 

 ちょっとした反応と会話である程度は察するのはこいつの真骨頂である。

ムイナも少々知人への警戒心が緩いというのもあるのだろうが、簡単に情報を抜かれ過ぎているのはどうなのだろうか。

 

 ……しかしそのAC部隊。個々としてはアクリより劣るのであろう事を勘定したとしても、

その物量をたった一人で壊滅させる事が出来ると云うレイヴンの戦闘力がそうとうやべーレベルなのを再確認してしまう。

 

 戦場で遭遇したら、一目散に逃げる事にしよう、うん。逃げ切れる気がしないけれど。

 

 「――っと。もうこんな時間か。ムイナの様子も大丈夫そうだし、伝えたい事も伝えたし。

色々と聞きたかった事も聞けたし。通信終わるねー?」

 『……本、当に、場を引っ掻、き回す、だけ回、して……。

……ふぅ。そ、れで、なに、か急ぎ、の用、事?』

 

 弄り倒していた間に、相応に時は過ぎていたらしい。

長話をし過ぎた、と云った感のある発言をするアクリに、半分諦めと呆れが混じった声音で突っ込んだあと、

一つ溜息を吐いて気を取り直しつつ疑問の言葉を返して来るムイナで。

 

 「――あー。半分以上個人的な依頼がね。ムイナの方はこのあとはどうなん?」

 

 それに応え返答をすると、ふと何かを思い立ったのか、アクリは今一度そんな言葉を返し。

彼女の台詞に、小首を傾げているであろう事が容易に想像できる雰囲気のままに言葉が発されて。

 

 『こっ、ちは6、21と、ロニー、ゼが、依、頼を熟、す予定、になっ、てて。

私は、もし、もの時、の為、の予備、役で、待、機中』

 「……あぁ、優秀な戦闘員が増えてるから、ローテーションで休暇も織り込めてるの……?

福利厚生も手厚いとは……流石のハンドラーだねぇ。

んじゃあさ、こっちから依頼、頼んでいい?」

 『……本、当に、何も、わだ、かまりが、無いの、は逆に凄、いと感、心す、るよ?』

 「いやぁそれほ『褒め、てないか、らね?』――ボケを潰さないで頂けませんかねぇ!?」

 

 ほんの数日前に殺し合いをしていた相手に「騙して悪いが」案件ではない依頼を投げるなんぞ頭おかしい所業である。

それをあっさりやってのけるアクリに色んな意味で戦慄を禁じ得ない。

 

 「……ま、この頃殺伐とした仕事しかしてなかったから、ってユミコが話を持って来ててね。

息抜きとは云ってたんだけど……内容的にカーラが絡んでるのがちょっと面倒くさいのがあったり」

 『……それ、って、ど、うな、の?』

 

 そんな彼女の突っ込みに、肩を竦めつつも応え。

 

 「まーもう受けちゃってるしねぇ」

 『内、容は、兎も、角。流石、にマ、スター、に休、めと云、われてい、るのに、別、の依頼を受、ける、のは……』

 「……まあそれもそうか。ゴメン、変な事云った。この件は忘れて?」

 『気、にしない、で』

 「……しかし。今の発言鑑みるに、やっぱりムイナってばハンドラーの事、大好き過ぎない?」

 『そ、れ、蒸、し返す、のッ?』

 

 流石に何のアポイントメントも無しに依頼をブン投げようとしたら断られても仕方ない話で。

アクリ自身もダメ元で聞いただけなのであろう。

そう返されたらあっさりと諦めの言葉を呟くが、再びからかい気味の言葉が発せられて。

 

 その後も何だかんだとゆるゆるわちゃわちゃと話が続いてしまい、夜は更けていく。

 

 

 

 

 

 

 

 ムイナとの女子トーク(笑)から数日。

 

 先日、彼女とのやり取りにて言及していた依頼の為、

アクリは一人でとあるグリッドくんだりまで来ていた。

 

 今、彼女が居る――グリッド090。

RaDのある086からボナ・デア砂丘を横断して更に少々東へ行った、べリウス大陸中央部寄りのグリッドの一つである。

一応はグリッド同士を繋ぐ橋は残っており、物理的にも繋がっている場所なのだが、

(ソレ)を使用すれば高確率でお空(封鎖機構)からの狙撃が降って来るので、まともに使う訳にもいかず、

橋の陰に隠れコソコソとブースタを吹かせ続けると云う回りくどい機動にて少々時間を掛け辿り着いた様で。

 

 「……なんつうか、凄い久しぶりだねぇ、こっちまで来るの」

 『――通信回線は問題なく生きてるみたいだねー』

 「そりゃね。RaDの皆も、(地続き)な箇所の通信回線の保守点検だけはしてるみたいだし、問題がある方が困るって」

 『まーねぇ』

 

 そんな感じで呟いているアクリに、今回はRaD内部の通信施設の一つからオペレートしているユミコの合いの手。

態々リスクを負ってまで大型輸送ヘリ(自宅)を090に持って行ってオペレートをするよりも、

物理的に繋がっている状況を生かし、安全な所でソレを出来る方が良いのはごく当たり前の話である。

 

 「しかし。ものっそく久しぶりに二脚使ってるけど、違和感が酷い」

 『そうは云っても逆脚使い出して、まだ半年も経ってないでしょ?』

 「そうだけどさぁ」

 

 そんな事をぼやき合いながらも、ガッションガッションと歩んでいるアクリ機。

彼女達のやり取りの通り、先日の猟犬達との戦闘にて見事にやられたACの脚は、

SPRING CHICKEN(重逆脚)改弐ではなく、

ソレを買い取った時に付いて来たCRAWLER(探査脚)になっていた。

 

 リブラは重逆脚の修理と共に更に改造強化を施す為、RaDの工廠区にまで赴き、

そこの馴染みの先輩メカニック(頭でっかち)共と籠っているらしく、今回の依頼の方には参加していない様で、

幼馴染ーズだけでの依頼遂行となっていた。

まあ、安全面で全く心配いらない仕事だったから、と云うのもあったのかも知れないが。

 

 因みに今回の依頼内容はと云うと、グリッド090のカーラの知人から、幾つかのデータを持ち帰る事。

そんなもん、回線繋がってるんだからデータ送ればええやんとも思わないでもないが、電子としては残していないらしく。

 

 「……なんであのバアさん、わざわざアナログな方法でデータ管理してんのかねぇ……」

 『さぁ? 防諜という観点では間違ってないとは思うけど……』

 

 溜息を吐きつつそんな事をぼやくアクリに同じくやれやれと云った感のユミコが頷きつつも有用性はあると云い。

そのデータを持つ相手は、バアさん等と親しく呼ぶ程度には見知っているらしいが……

相当の偏屈者であることは間違いではなかろう。

 

 「でもさぁ。カーラってば幾ら大型武装ヘリの解析の諸々が完了したからってさぁ。

こっちの件そっちのけでオリジナルの復元改造と、

商売道具としてのダウンサイジングしたデチューン機の量産を始めるってどうなんよ?

こっちのデータも重要じゃないん?」

 『だからわたし達に依頼して来たんだろうけど……。

こっち、RaD寄りではあってもRaDの人間じゃなくなってるのに。

何故に幹部級じゃないと拙そうな重要なレベルの頼みごとを依頼して来るのー?』

 「それはそう」

 

 緩い感じで機体を歩ませつつ、そんな通話をしている二人である。

 

 「しかし、いつ来ても……この光景は、うん」

 『グリッド090(ココ)、傍目廃墟となっている所に、やっつけで建造物が重ねて造られてる感じだもんねー』

 

 ――アクリ達のやり取りの通りにグリッド090と云う場所は、

上層部が"アイビスの火"にてほぼ全壊し、辛うじて骨組みが残っている程度で、

中層部がその後、このグリッドの生き残り共の物資の奪い合いの抗争にて、4割方ほど損壊し。

それでも、アイビスの火以降もこの場に居残った人々は更に深い抗争と共に、努力と屍を積み重ね……。

歪過ぎるきらいはあるが、ここまでの状況にまで回復させた様で。

そしてどこかからデータを抜き出して来たらしき情報を元に、

衛星軌道上からの狙撃を防御する為、特殊コーティングを施したドーム型の建物を建造し。

その建物を生活の場にし始めたらしい。

 

 それからも、建造物(ソレ)は徐々に増えて行き、

アクリ達が見ている現在の光景へとなった様だ。

 

 そして、その一角にあるひときわ大きい、

何度も何度も、増改築を繰り返したかのような大型のドーム型……とは云い難くなっている、

歪な建物の一つに歩みを進めていくアクリ機で。

 

 『――さて。建物に入ったら中の状況の所為で間違いなく通信にノイズが大量に出るだろうから、通信止めるよー?』

 「あいよー。とりあえず次に通信繋げる時は、バアさんに会ってから、何か面倒事でもあった時にでも」

 『はいなー』

 

 そんなやり取りをしながら建物へと足を踏み入れるのであった。

 

 

 

 「――相変わらず、ここはやかましいなぁ」

 

 そんな言葉をぼやきながら、ガッションガッションと目的の場所へと歩んでいるアクリ機。

目的の場所は、このドームの最奥にある、首領が住み着く一区画である。

 

 その近場までは機動兵器でも問題なく辿り着けるほど広いので、そこに至るまではACで行動する様だ。

そんな彼女が歩んでいるその横手にて、金属同士がぶつかり合う激しい音に、銃撃音。

ソレに湧き立つ歓声に怒号と云う喧騒。そんな総ての音をごった煮にした騒音をバックミュージックに聞き流しながら進む。

 

 ――先の説明の時に出ていたアイビスの火に偶々焼かれずに生き残った連中の物資の奪い合いの抗争。

泥沼化していたソレを敵味方構わずに薙ぎ倒し、終結に導いたとある女傑が、

頭目となって一番最初に作った原始的なルール……。血の気の多い馬鹿野郎共を纏め上げる為、

強い奴がこの寄合のトップを取れ、と云う至ってシンプルなソレを体現する為に整えられたこの場――通称、MTコロシアム。

使用者を選ぶ上にコストも高く付くACではなく、安価であり誰でも訓練さえ怠らなければ乗りこなせるMTを使っての暴力。

この大型の増改築されている建造物の丸っと全てが、そんな改造・違法製造のMTを売る物やそれを仲介する者。

モグリの修理屋や乗り手として、傭兵崩れのドーザーや賞金首として指名手配されている様な犯罪者共等、

コロシアム上層部から許可無く賭けを開催している大小さまざまな無法者共。

アンダーグラウンドな連中が軒を連ね、ひしめき合っているのである。

 

 そして、こんな状況下。

当たり前に通信なんぞ利きゃあしないので、あらかじめユミコは通信を切っていたと云うオチもあるが、

それはそれとして。

 

 ……搭乗機がMTであればなんでもござれの生死不問のこのバトル場は、

比較的民度が高いガリア多重ダムACタンクレースとは違い、

アングラに身を置く頭おかしい連中の格好の娯楽の場になっており、

そのトップに君臨すればこの寄合の総てを手に入れれると云う餌に食い付く無法者も大多数いる訳で。

毎度毎度ながらに、異様な盛り上がりを見せていた。

 

 「ぉー、やっとるやっとる。久しぶりに見たなぁ、この一種異様な活気。

私もMT乗ってる時分に、タウラや李穏(リオン)と一緒になってちょくちょくお世話になってたのぅ」

 

 MT乗りをしていた時にあいつ等とコロシアム(ここ)の中位辺りを荒らし回っていた、と云う話もあった。

更に云うと、当時のアクリの機体装備は片手にMT用に調整されたSWEET SIXTEEN(RaDショットガン)と、

ナックルガード程度は付いていたが、素手だったと云うのだから末恐ろしい。

……まぁ、しかし。あまりに行き過ぎた無法をしていたら、

首領……アクリが今現在会いに行こうとしている者に、一まとめに捻り潰されるのだが。

流石は四十余年、コロシアム無敗という記録を打ち立てている化け物な女傑だ。

 

 「――あぁ、ヤメヤメ。あのバアさんの化け物っぷりはもう思い出したくない。さっさと依頼熟して帰ろ……」

 

 ぼっこぼこに張り倒された嫌な記憶を掘り起こしてしまったか。

思い切りよく顔をしかめて(かぶり)を振りながらそんな事をぼやきつつ歩みを続けるのである。

 

 

 

 それから、少々。

アクリは検問の様な所にたどり着くと首領の領域を護る為の門番であろう、

重四脚MT二機が待機している大扉の手前で己が身分を提示すると、何事も無く最奥区画へと通され。

その区画の一角に設えてあるAC/MT共用のハンガーに自機を駐機させロックを掛けると、

この一帯を支配している主と対面すべく個室の一つへと入室していた。

 

 「……あァ、カーラの使い、アンタだったのかい」

 「お久しぶりですね、バアさん」

 

 その主とは、先にアクリ達が話していた通りに……

背筋も伸び、眼光鋭き矍鑠(かくしゃく)とした老女。

そんな彼女の姿に昔っから変わってないよねぇ、なぞとかどうでもいい様な事を考えつつも挨拶を告げ。

 

 「レディ・チーフと呼びな、この小娘が」

 「レディ(笑)」

 「分かった。今日のコンクリ詰めの希望者だね? それとも溶鉱炉の方が良いかい?」

 「申し訳ございませんでしたぁッ!」

 

 ボケてみたらどこぞの怪異爺さん張りの威圧を発しつつ獰猛に嗤うレディ・チーフと自称する老女の言葉に平謝りを返すアクリ。

口は禍の元である。

 

 しかし、そんな通称を名乗っているこの老女が、先のアクリのボヤきにも何度も出て来ていた女傑――

グリッド090の実質的支配者なのだ。

 

 彼女自身にはACに適性は無かったようであるが……戦闘型MTを駆って半世紀近く戦い続け生き残り、

"暴虐"の二つ名で呼ばれる程になっている、ルビコン在住の生え抜きの化け物の一人となっていた。

……だがこのレベルの化け物が、ある程度の頻度で闊歩しているのがこのルビコンの現状である。

やはりこの星は魔境か。

 

 「――全く。とりあえずボケ倒そうとする体質はどうにかして欲しいもんだがねェ。

ま、良いさ。とりあえずコレがカーラに渡す資料さね」

 「アタッシュケース……の中に、紙資料……。紙の現物って初めて見たわ」

 「まあ今時はデータで渡すのが手っ取り早いし楽だからねェ」

 

 一つの手提げ箱を机に置き、それを開けるとその中にあったのは紙の束であり。

表紙に当たる部分を少しだけ流し見てからふと思い立ったのか、

ひとつの疑問を投げ掛けて。

 

 「……そ云えば。私、これを見ても良いモンなの?」

 「まあ敵対勢力とかに売り込もうとしなければ構わんさ。

それに軽く読めば解るだろうけど、そこまで拙い情報は無いデータさね」

 「――あー……。RaD製の新作の参考になりそうな違法改造MTの稼働データと、

RaD(あっち)から横流しされた試作武器類の評価や改造案かぁ……」

 

 促されるままにぺらりぺらりと紙をめくりながら軽く目を通して見ると、ぼやく様に呟き洩らすアクリ。

そんな彼女の反応にレディは肩を竦め、そう云う事だよ、と返す。

 

 RaDの改造MTや、戦闘に耐えうる人型特殊重機関連。

他、解体作業用のハンマーやチェーンソー、アクリやリブラも良く扱っている鉄板を留める為に使う鋲打ち機や溶接用のトーチ。

その辺りを兵器転用したものや、RaDの開発者(頭でっかち)のノリと勢いで造られた謎兵器やパーツ等。

そんな諸々をこのMTコロシアムにお安く卸している。

代わりにこのコロシアムでの戦闘データはほぼ全てRaDが吸い上げる。

そんな関係が成り立っているのだ。

 

 ……因みに、BAWSのMTであるMT-T026(ハコアシ)にRaDの連中が違法改造を施した、

RC1(PUNCHER)RC2(KICKER)や、

RaDオリジナルのMTである重MTのトイボックスと云ったあれそれは、

この場にてデータ取りが行われ、正式に量産が確定した例である。

 

 ……この場が、基本来るものも去るものも拒まない空気感の所為かのかも知れないが、

敵対勢力であるジャンカー・コヨーテス(馬鹿野郎共)の方にもRaDのMT(ソレ)が流れてしまっているのはご愛嬌か。

 

 閑話休題(まあそれはそれとして)

 

 「――ああそう「それでは私はこれで」――まだ何も云っちゃいないんだけどねェ?」

 「アンタ等みたいなのが基本そんな事云う時は、無茶振りしかないから帰りたいんだよ私ッ!」

 

 ふと何かを思いついたかのようなレディに、何かを察したアクリはそそくさと帰ろうと退去の言を告げたのだが。

再度獰猛な笑みを浮かべて瞬く間にアクリの目の前へと移動して来て。

 

 「逃げれると思っているのかい?」

 「ちょ、早ッ……?! ぐぇ」

 

 老婆の踏み込み方じゃないんよ、とか考えていた時にはすでにアクリはレディ・チーフに首根っこを掴まれており。

なんという早業である。

 

 「まあそんなに急いで帰らなくても、十二分に楽しいお持て成しをしてやるからねェ。愉しんで行きなよ?」

 「アンタ等の云う"お持て成し"って物騒な事しかないじゃないですかッ!!」

 「良く分かってるねェ。なら、こう云う状況で断ったら……どうなるかも解ってるんだろうねェ?」

 「ちょ、超理不尽ッ?!」

 

 更にやべーオリジナル笑顔になっているレディに、表情を引き攣らせ、更に抗議しようとするのだが。

 

 「まあ、死なない程度には加減はしてやるさね」

 「いやだからアンタ等にとってのその言葉は、九分九厘殺す、って事と同義ですよねッ!?」

 「それで済めば御の字じゃないかい? ……そいじゃ、久しぶりの愉しい闘争(お祭り)だッ!

――手前等ッ! そこらに転がってる有象無象のありったけのMTを全部叩き起こしてきなぁッ!!」

 「だから聞いてよ人の話ぃッ!?」

 

 へるぷみーッ! なぞとか云う悲鳴が、辺りに響き渡りながらの状況にて、地獄の釜の蓋が開かれるのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 「――あ゛ー、死ぬ。本気で死ぬぜぇ……」

 『本気でヤバそうだねー。お疲れ様だよー、アクリ?』

 

 そんなこんなでMTコロシアムにて何時の間にか用意されていた戦闘型MTへと強引に乗せられ。

第一回 チキチキ! 地獄の組手! 百機夜行~ラスボスも添えて~等と銘打った、

MTでの超連戦を経たアクリは疲労困憊の様子で。

そんな彼女へと労いの言葉を掛けるユミコである。

 

 完全な巻き込まれ事故のレディ・チーフの思い付き(地獄)を何とか潜り抜け(だがEXステージにて彼女に瞬殺された様であるが)、

依頼の品に他に、愉しませてくれた報酬らしき色々な品を携え、グリッド086への帰途の道。

ちょっとばかりヘロヘロに見えなくもない機体捌きだが、何とか移動が出来ている様であり。

 

 「――良く生きててくれた私。蝶・頑張った私。感動した私」

 『程よく壊れてるねー。わたしもレディの方からカーラ経由で話聞いて、

回線ハックして視聴してたけど、アレは酷い』

 「――助けてよ、そんな事してるんならさぁッ!!?」

 『だが断る』

 

 わちゃわちゃきゃいきゃいと地獄の感想戦を熟している二人である。

とりあえずアクリは深く、ふかーく溜息を吐くと、ボヤきの言葉を漏らし。

 

 「……何事も無ければさっさと帰ってゆっくりする予定だったってのに……さぁ。もう、夜半じゃん……」

 『……ある程度休憩は取れてたみたいだけど、半日以上の戦闘だもんねぇ。そりゃ暗くなってるってー』

 「それはそう。……あぁ、そいや、カーラには……」

 『先の経由からの言伝の時に、話は通したよ。まああっちもそれは理解してるだろうけどねー。

……でも、ちょっとあの人の話、聞いてみた感じ……

カーラってば、レディに絡まれるのを嫌ってこっちに依頼してきた臭いんだけど』

 「……あそこまで暴走しまくってた辺り、レディも色々と溜まってたみたいだしねぇ……」

 『うむ。んで、それに巻き込まれるのを嫌ったんだろねぇ』

 「やっぱ、チャティのボイスをきゃるんきゃるんな女の子声に差し替えて、

カーラを笑い死にさせると云う復讐を決行する時が……」

 『それ凄く面白そうだけど、止めとき? 後が怖いよ?』

 「うぬぅ」

 

 そんな感じにてぼやき合う幼馴染ーズ。

RaD(カーラ)は、同盟組織っぽい関係のMTコロシアム(レディ・チーフ)とは、あまり仲が宜しくないらしい。

ただ付き合うのが面倒くさいだけなのかも知れないが。

 

 まあそれでも、違法改造MTのデータはちゃんと(仲介が居るとは云え)届けている辺り、

嫌い合っている訳では無いと思いたい。

 

 ……そんなゆるいやり取りをしていた折。

夜が唐突に明けたかの様な強烈な光が夜空を真っ白に染めて。

その数瞬後。グリッドそのものが揺れたかと思う程の轟音と衝撃が辺りに響き渡り。

 

 「――何ッ、爆発ッ!? ユミコッ、グリッド086(そっち)の方から、すげぇ衝撃波が来たんだけどッ!?」

 『――待ってて、今調べ……ッ!? これ、基地とか大型の戦艦とかが使っている大型のジェネレータの爆発……ッ!』

 「ちょとまてい! グリッド086(その辺り)でそんな大それた代も……ッ?! ――解放戦線の採掘艦(ストライダー)ッ!?」

 

 思い当たる節があったか。そんな言葉を叫ぶアクリに、得心したらしきユミコは再度ソレを踏まえ、色々と調べ始めて。

 

 『――確かに、ストライダーのこの時間帯の予測航路と、先の爆発の位置合いは凡そ同じみたいだけど……』

 「マジかぁ……。一体何があったっての……?!」

 

 まああんな大型の地上採掘艦。小回りも利かないのは分かり切っているので、

正面を向いている位置を把握出来れば、大まかな航路は問題なく読み取れるから、

その辺りから予測を立てたらしい。

 

 『それはカーラにでも掛け合って調査を頼んだ方が良いかも。

戦力として相当な代物だったのに、こんなにあっさり沈んだんだから。

……アクリも、好奇心のままに行動は厳禁だよ?』

 「そこまで信用無いの?」

 『うん』

 「そこは否定して欲しかった!? ……まぁ、ソレは兎も角。

流石にあの連戦続きの後に、どう考えてもヘヴィになりそうな事をする気は無いよ?」

 

 はぁ、と再度溜息を一つ。

その後に気分を切り替えたか、アクリはそんな言葉を返し。

 

 『――まぁ、今回は信じとく。……とりあえず、アクリは一旦グリッド086(こっち)に返って来て休んで。

そんでRaDの皆と一緒に、それから後の事は考えよ?』

 「……了解」

 

 何が来たのかもよく分からないが、あんな巨大な艦を撃破できる何者かに嫌な予感を感じながらも、

ひと先ずは、休息を取る事とした様である。

 

 

 

 

 

 






 ……グリッド090とか相変わらず捏造してますがその辺りは大目に見てやって下さい(ぁ




 ……そして、夜のストライダー襲撃なのです。
あとは、分かって貰えるかと?(ぁぁ

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。