……一体何度目のお久しぶりなのか(生首中
いや真面目に申し訳ないです、半年近いとか生きワレ過ぎますね(吐血
「――"壁"が落ちたのッ!?」
「……そう、みたい」
そんな絶叫が
その叫び声の発生源……驚きの表情のままのアクリが口をあんぐりと開けていて。
彼女のそんな反応にさもありなんと、苦い表情を浮かべたユミコが頷いている状況である。
……因みにリブラは相も変わらず機械いじりの真っ最中の様で、この場には居ない様だ。
――ブルー・ワンとブルー・セヴンの二人の機体の修理とオーバーホールが終わり。
報酬を受け取り、名残惜しみつつ迎えに来た己が同僚たちと共に撤収して行って数日。
その別れの時に何故か、お土産とばかりにMT用の改造武器数種と、
いざと云う時の為にリブラが書き起こした封鎖機構MTの簡易メンテナンスと、
復旧の手順を記したデータチップを青の連中へと進呈したと云うオチがあり。
下手をすれば報酬分以上の価値がある諸々の贈り物の数々を渡されたその時、
ワン以下フォーまでのコイツ等と交流が深くなっている連中が、
そう云えばこういう奴等だったな、的な苦笑を浮かべていたのが趣深い。
その辺りはコイツ等の性分だから諦めてもろて。
とまれ、諸々の片づけを終え、やっとこ一息付けるかなと云った塩梅であった一行へと、
突然降ってわいたその一報が飛び込んで来て、重く深く空気が辺りに満ち。
「――ツィイーはッ!?」
そして焦りの色を多大に含みつつ、"壁"の防衛隊に所属している筈の自分達の友人の名を出すアクリで。
他の解放戦線の連中も多少は気になるが、先ずはマブダチから気にするのはごく当然の話であり。
「……その日、ツィイーはたまたま非番だったみたい。
一緒に居たらしいアーシルから連絡があって、難を逃れれたって話を聞いたんだけど。
んでもって、ツィイーの方は同胞の仇だ、って、直ぐに"壁"を取り戻そうと息巻いているみたいで。
どうにかこうにかで宥めすかしている状況みたい」
「……そっ、かぁ……」
そんな風に取り乱している状況、アーシルからの情報提供を元に裏取りをしつつ応えるユミコに、
アクリは心底ほっとして、操縦室の座席のひとつへと倒れる様に座り込む。
やっぱダチが戦死したり捕虜になったり、となったら心情穏やかに出来るものでもないので。
……そして数瞬ののちに意識を切り替えると、彼の要害を落とした張本人へと話が移り。
「……んで、壁を落としたのって?」
「――ベイラムのレッドガンナンバーって話、みたい。
運よく逃げ延びれた解放戦線の生き残りの通信情報を拾えた」
「――マジか」
アクリの問い掛けに、精査が完了したらしき情報の一つを口にするユミコ。
まあだがしかし。ある程度は予測は出来る範囲ではあったが。
流石にアーキバス・ベイラムの下部組織と云える、
傘下企業や同盟企業の戦力程度で要害である"壁"は堕とせるとは思えないし。
精鋭部隊の、ヴェスパーかレッドガンのどちらかが実行者になるのは明白である。
「……流石に、レッドガン総出ではないよね?」
「それはまあうん。……でも、結局はまだ分からないし、
今も情報収集は続けるけど、さっさと統制掛けられそうで……。
……とりま、分かりもしない首謀者の事はとりあえず脇に置くんだけどさ」
「ん? まだ何かあるの?」
そんなやり取りののちに、苦笑を漏らしながらそれとは別件、
とばかりに話を始めるユミコに疑問顔で言葉を返すアクリで。
「――ツィイーの事なんだけどさ。頭冷やさせる為に、一旦
って先の連絡の時にアーシルから頼まれたんだよねー。
こっちとしては受けても良いんだけど、アクリとしてはどう?」
「……そりゃ、全然ウェルカムで構わないけど、期限はどうなん?」
「とりあえず"壁"の奪還の目途が付くか、ツィイーが完全に落ち着くまで、って所みたいね」
「――それ、あの
「そんな気はしてる。……今の解放戦線に、"壁"を再奪還出来るほどの体力があるとは思えないしー」
やれやれ、と云った感でそんな言葉を返すユミコに苦みが混じる笑みを浮かべ、同様に肩を竦めるアクリである。
まあそれでも、受け入れるのは変わらないのだが。
そんなやり取りの暫しあと。
アーシルにツィイーを預かると云う言伝を返すとそれから一日も間を置かず、
ツィイーと
……因みに解放戦線の上層部の方から何かを云われていたか。
一応は彼女等を載せた輸送ヘリのパイロットとして同道していたアーシルも、
挨拶もそこそこに解放戦線が持つ基地の一つへととんぼ返りに戻って行き。
彼自身も大分に焦燥している様子であったが、
そんな状況であってもツィイーをお願いする、と云い残していく辺り、
彼女への思いの強さがよく分かる。
おう、やっぱりラヴラヴかああん?
そんな内心が幼馴染ーズにはあるにはあるが、茶化せる程状況が良い訳では無いので、
とりあえずは口には出さない方向の様だ。我慢できて偉い。
まあそれはそれとして。
カーゴ内のハンガーに乗り入れた己が機体を駐機し、コックピットを開きタラップを降りて来たツィイー。
少しばかりおぼつかない足取りながらも、
何とかアクリ達の前にまで歩んで来た彼女のその表情はどうにも重く、暗い。
……一時は、復讐だ、敵討ちだ、なぞと昂っていた様であるが、
いざ一息ついたら、気分が最底辺にまで落ち込んだらしい。
"壁"での大切な
彼女の目は見事な程に虚ろになっていた。
少しばかり気を使ったかのような声音で名を呼ぶアクリ。
「……ツィイー?」
「……ごめん、今は……」
「ん、りょか。――ユミコー」
「はいなー。とりあえず客室に連れてくねー?」
「お願いー」
そんなツィイーの反応に、こりゃ駄目だわ、とばかりに肩を竦めつつ、
己が側の傍らに居たユミコに一声掛けると、何を云いたいか承知していたか。
一つ頷くと共にツィイーに近寄り、支える様にして用意していた部屋に連れて行く事にしたらしく。
見事なツーカーである。
「……ツィイーさん、本当に、焦燥してたね……。真正面に居たアクリさん達は兎も角、
ツィイーさんのACの後ろで作業してた僕に全く気付いてなかったみたいだし」
……そして、そんな二人を見送ったあと。
沈痛な面持ちでアクリへと近づいて来たリブラがそんな台詞を呟き洩らし。
「ま、云わば家族に近しい人々が一斉に亡くなったんだし、仕方ない部分もあるよ。
――で、リブラ」
「ん、どしたのアクリさん?」
そんなやり取りからの少々の沈黙ののち。
少々考え込んでいたらしきアクリからリブラへと一言があり、ソレに言葉を返し。
「……もしもの時の為に、ツィイーの
あの娘の気が再度昂った時に、勝手に出撃されても困るから、ね?」
「――そっか。そうだよね。うん、一通りパーツの確認をしてからオーバーホールも兼ねて、という名目でその辺り、やっとくよ」
「お願い。―――さて、これでひとまずはあの娘のアレコレは良いとして……これからどうすんべかねぇ?」
頼んだ事を早速始めようとするリブラの背中を見送りながら、
アクリは盛大に大きなため息を一つ吐くと、これからの事の思案を始めるのである。
――それから半日程経った深夜、"壁"近郊の都市群にて。
アクリは己がACを駆り……哨戒しているであろうベイラムの連中と接敵するのを嫌っているか。
駆動音を出来うる限り殺し、警戒態勢中のMT小隊を避けながら、ビルの陰から陰へと機動していた。
そんな中、己が座席の傍らに増設され(そのお陰か内部はすこぶる狭くなっている)ているらしい
コックピットの座席部以外を埋める勢いの大きな機械から、ユミコの呆れを含んだ声が流れ。
『……んで、思い付いた事はログデータの火事場泥棒、か』
「内部潜入も考えたんだけどさ。流石にそれを許してくれる程甘い訳は無いでしょうし。
……とりあえずは"壁"の周辺に残っているであろう撃破された、
ベイラム・解放戦線双方の機動兵器群の残骸を漁って……
戦闘ログとか戦場のログ。あとは目視確認ぐらいしか出来ないけど、
堕とした相手であるベイラムの今の大まかな進駐戦力の確認も、かな?
それぐらいのデータは拾っておきたい」
そんな彼女の言葉に頷きつつその機械へと言葉を返すアクリ。
……しかし、これだけの大型の基地なのであれば、相当質の良い通信傍受の施設なぞが在る筈なのに、
堂々と通信を行っている辺り、しっかとその対策は施している様で。
――以前、グリッド086の定修時に見つけた大量のコーラル式の通信装置――
対になった機器でしか相互通信が出来ないと云うそれ。
RaDの方で回収したその一部をRaDear’sの方で買い取って、
リブラが試行錯誤の末に改造を施して小型化に成功したのである。
まあそれでも先に云った通り、
コックピット内のシート以外の空間にぎっちぎちに詰め込まれているのはご愛嬌か。
『――んで。コーラル式の通信機だけど……大丈夫なの?
主にアンタの視神経とか、他になんか新しい症状が出てるとか』
「んー、今の所はよく分からないなぁ」
『本ッ当に気を付けなさいよ? 違和感を感じたらさっさと知らせなさい』
「善処するかも知れない。しないかも知れない」
『オイコラ』
そんな感じに以前のコーラル関連のアレコレを心配されつつ、雑な漫談も交え、話はさらに続き。
『で、あとは、わたし達ででも情報保持して……売れる所に売る?』
「今回の件では、解放戦線からは流石に取る気はないよ。
……となると、占領したベイラムの一番の敵対企業であるアーキバスになる訳だけど……」
『ある程度の地位がある知り合いって居ないよね?
……傭兵担当であるV.Ⅷ……えっと、ペイター、だったっけ?
ソイツに売り込んでも門前払いされるだけな気がするしー?』
「ばら撒き依頼程度ならそれなりの回数熟してたけど、
それだけじゃあ目にも留まらない、その他大勢の一つでしかないしねぇ。
自分のACの構成を鑑みていたら、アーキバスと交流する必然が全くなかったのがここに来て裏目に出るとは」
やれやれ、と云った感で肩を竦めるアクリに、まあそうだよね、と相槌を打つユミコである。
企業自体が依頼にて情報提供を求めたと云うなら兎も角、
ほぼ知らない一独立傭兵如きの飛び込みでの情報の売り込みなぞ、
信用も信頼も出来る訳がねぇので精査程度はする可能性が無くもないが、
報酬はそう期待出来ないであろうし。
まあそれは兎も角として。
『じゃ、分かってるだろうけど哨戒部隊には気を付けてね?』
「りょか。隠密機動は六文銭程じゃなくとも自信はあるからね。大丈夫、ダイジョウビ」
『なーんか、不安になる答えよねー』
心配を口にするユミコにゆるーい返答をするアクリ。
そんなゆるゆるとしたやり取りをしつつ、多数の敵が居るであろう、
その現場へと更に踏み込んで行くのである。
(――これは酷い)
"壁"の表側の輸送用に設えられた足場の一角の下の端。
かの足場と壁の陰と云う死角。
そしてAC全身に施された迷彩ペイントと云う最低限の隠形状態にて死角になり得る場所にアクリ機は張り付いていて。
予想以上にMTの数が多い。
「ユミコ、そっちの索敵ではどんな感じ?」
『――芳しくないねー。熱源反応でも音源反応でも……
解放戦線が"壁"を防衛していた頃よりもあからさまにMTが増えてるんじゃない?』
「――こっちも
……流石、物量ですり潰す戦術を取る事が多いベイラムって所かな?
――あ、重四脚MT。……マジか、あそこに五機連なっとる」
『流石にそれはやべーですわ、ですわ』
「突然何故に似非おぜうさま言葉に?」
『とてもやべーので、素の自分が出たのですわー』
「私と同じで素が粗野な
『喧嘩売ってンのかワレ?』
索敵をしていた場所から隠密機動のままに離れながら、
そんな物騒な口調での毎度のプロレス的なやり取りをしつつも話は続き。
『――んー。とりあえず適当なのを
「それは最終手段にしたいかなぁ。一応はバレ辛い装備を選んで来たけど、
ヤったら、その音で間違いなくバレるし」
そらそうである。
幾ら音を相応に殺していても、破壊音や下手を打てば爆発するような代物に、
おいそれと攻撃をすると云うのは愚の極みだ。
じつりきがやべー独立傭兵であれば、襲撃に気付かれ、寄って来たその場から斬り捨て殲滅して、
撃破報酬を根こそぎすると云う方向性もあるのかも知れないが……
今回は依頼ではないし(寧ろバレたら色々と拙い事になる)、ヤったとして燃料武器弾薬の消費があるだけでリターンは無いし。
……因みに今の彼女のACは、先にも紹介しているRENCONの改装品に、
BASHO弐式のコアと脚。腕はMELANDERの改参と云う状態になっている。
流石に
そして装備は、右手と腰裏の小ラックに何時ものお供、鋲打ち機改造ニードルガンを一丁ずつ。
左は
左肩は何も装備していないクレーンアーム改、
右肩はこの件の専用にリブラがでっち上げてくれた収音機も兼ねている小型の索敵レーダーである。
完全に戦闘そのものを回避し、もしも見つかった時の自衛の為の小武装を確保しているアセンブルだ。
それはそれとして。
隠密機動をしている内に撃破され、擱座したらしきMTを一機見つけ、こそこそとデータログを取得。
とりあえずはデータのコピーだけに留め、情報を抜いている事を気付かせない様、細工もしておく。
その現場を離れながら、そのログを確認し始めると、直ぐに溜息一つ。
「……他愛のない会話ログか。ハズレ、だね」
『んー……? あ、でもこのログデータの操縦者のモニタの画像の方、機影が映ってる』
指摘と共にその乱れていた映像を補正し。
何かよく分からないもの、程度にしか見えていなかったソレを更に数回補正すると数機の機影らしきモノが確認出来て。
部位をズームアップしつつ雑に赤丸を付けた様だ。
そんな彼女の台詞に今一度その補正された画像を見返し、
言葉の通りに雪の積もった辺りの一角に、視認対策の為であろう、
雪原迷彩が施された数機のMTの姿が見られ。
「ぇ? ……マジだ。……でも、単なる戦闘MT群でしかないよね?」
『良く見なって。レッドガンのマーク。入ってるよー?』
「うぉ。ユミコすげぇ。本気でよく分かるね?」
更に指摘した上にもう一段階拡大と、
それにより更に荒くなった画像を補正した画を出したユミコに、
賞賛の言葉を返すアクリである。
『本職舐めんなってー』
「口調荒くなってるよー?」
『おっと、失礼致しましたわー』
「……ゴメン。こっちからボケ話振っといて悪いけど、正直その口調キモいからやめて?」
『ブっ殺しますわよ?』
そんなゆっるい茶化し合いをしながらも次の情報源へと向かうアクリである。
それから、暫し。
巡回しているMT小隊からこそこそと逃げ隠れる様に機動をしながらも、
まだ片づけが終わっていない撃破され、中破ないし大破している戦闘MT(内一機は重四脚があった様だ)のログを漁り続け。
……MTをネコババしていないのは、こんな状況下では運んでいる内に確定でバレるから避けている様だ。
それはそう。
兎角、ある程度の情報が集まっている状況ではあるのだが。
通信越しにてログデータの確認作業をしつつぼやくユミコ。
『――碌なのが無かったよねー?』
「まあ、首謀者が分かっただけでもめっけもんだって。
ログと画像データの確認をしている限り……
奴さんの戦力、MTの中隊に重四脚が二機。
あとは……タンク型のACと中量二脚のAC、か」
『エンブレムを確認して、レッドガンナンバー……
"G4:ヴォルタ"と、"G5:イグアス"で確定だねぃー』
「ま、あの人達。性格は兎も角、強かったしねぇ……」
以前のG1の
彼ら二人の実力は申し分ない事を知っているアクリ達は納得の言を吐き出し。
『――ま、でも頭の回らない……いや違うか。頭に血が上り易いヤツ等だったし、
挑発さえすれば色々と罠にハメれそうなだけ、他のナンバーよりはマシかもねー』
「ま、罠にハメれたとして、勝てるかどうかは別の話だけど。
……
ま、その辺りもこのデータログのコピーを纏めて、
私の見解付きの報告書でも作って一緒くたにデータチップにぶち込んでツィイーにブン投げれば良いかなー?」
『
「当然でしょ? ……で、ツィイーにはそんな分の悪い賭けをやるのは無謀だって思い知らせて……
はぁ。これで諦めてくれればいいんだけど」
『どうだろねぇ。……でもあの娘、なんだかんだ反骨精神強いから、再燃には気を付けないとねー?』
「それはそう」
そんな感じで傷心の乙女(笑)に物理的ダメージと戦力比開示と云う精神的ダメージで諦めさせようとする算段を組みつつ、
さて次の獲物を漁りに行くか―、的に己がACを再び稼働させようとしたその時。
ユミコから制止の言葉が掛かる。
『――? ちょっと待って。……戦闘音……?』
「げ。他の敵対組とカチ合った?」
そんな彼女の台詞に頬を引き攣らせながらも、
己がACの肩に装備されている索敵レーダーの集音機の感度を高める。
――すると、銃声や爆発音。後は焦りの声が混じったノイズがアクリの耳朶を叩いた。
そんな状況となりこれは潮時かな、と考えると同時、己が推測を口にするアクリ。
「……今の今まで襲撃の報が奴さんの方から出て無かった所を見るに、
下手人はちょい前に
大騒ぎになってない辺り、単機か、それに準ずる少数かな。たまたまでカチ合うなんて運がない……。
ま、兎も角。何者だか知らないけど、あの数のMT相手に良くやるよ。
……うん、とりあえず襲撃してる奴の戦闘に紛れて撤収しよう」
そうユミコへと宣言しつつ撤収準備に入る事にしたアクリで。
『そだね。中々派手にやってるみたいだし、少々無茶な撤退してもバレづらいと思う。
――とりあえず安全そうなルートを送ったから、ソレを参考にして撤退ヨロ』
「あいさー、助かるー」
送られて来たマップデータを元に、撤退機動を開始するアクリであるのだが。
どうも、
――たった一機のACになんてザマだッ!
――"壁"に砲撃支援を急がせろッ!! 飽和攻撃でなら……ッ!!
――止めろ! 来るな、来るなぁぁぁぁッ!!
――畜生、何だこの化け物……ッ!
――G4、G5、G8が出撃可能になるまで耐え……ぎゃああッ!
――嫌だ嫌だ嫌だ、死にたくな……!
もう取り繕う余裕そのものもなくなっているのであろう、
部隊内の回線すら使う事もなく外部スピーカーでの絶叫が垂れ流され、
断末魔と共に破壊音、爆発音が多重に響く。
「――やべぇなぁ、マジで」
『たった一機、って云ってるし、本当にそれな』
顔をしかめつつも、呑気にそんなやり取りをしている幼馴染ーズ。
完全に他人事である。ド外道かな?
まあそれはそれとして。
「……しかし。戦闘型MTだけだとは云え、
レッドガンの鍛え上げられた部隊を相手取っても、単機で圧倒する……。
なんか、すげぇ嫌な予感しかないんだけど」
『だねー。アクリも本能的に警戒しているだろうけど、
こっちも三段ぐらい警戒度上げとくよ』
「一足飛びに警戒度上げまくってて草」
そんなトボけたやり取りをしつつも更に撤退をしている状況ではあるのだが。
その声は真剣そのものである辺り、相当嫌な予感がビンビンであるらしい。
更に、こんなやべー事をしているのは予測通りであれば、知己の可能性が高いのも笑えない話である。
幾らこのルビコン3が魔境であろうとも、
ここまで大それた戦闘力を持つ者がそう何人も……何人も……?
「――ヤれそうなの、何人か心当たりがあるなぁ……」
『それは多分云っちゃダメな話だと思――推定ACが高速接近中ッ!!』
「――今の今でッ?!」
更に緩く話を続けようとしたその時。噂をすれば影、なのであろうか。
ユミコの言にアクリは素早くレーダーを見やると、
先に戦闘を起こしていたらしき熱源の一つ――これは襲撃者なのであろう――が、
「やべ、隠れる場所――」
『間に、合わないッ!!』
そんなユミコの台詞が終わるか否かの所で、一機のACがアサルトブーストを使用しつつ飛び込んで来た!
その上で、目の前に現れたように見えた機影――アクリのACへと、
重四脚MTが持っている大型レーザーブレードに似た形の発振器の様な武装を振り絞り。
「うっそでしょッ?! アサルトブーストを切らずにそのまま攻撃ッ?!」
彼の相手は行き掛けの駄賃で邪魔になるであろう自分を撃破しようとしているらしい。
相当の精度が無いと中てる事すら難しい攻撃を行うその者に舌を巻きつつ回避を行おうとするのだが。
――衝撃ッ!
「がッ!?」
《左腕大破、消失。撤退を推奨》
彼女の回避行動に攻撃を合わせ、やおらあっさりと
明後日の方向に吹っ飛んで行く己がACの左腕であったスクラップをモニタに捕らえて。
――コックピットの真芯を捉える様なその攻撃を防ぐ為に左腕を何とか差し込み犠牲にして無理やり往なした様である。
判断が早い。
そしてCOMの報告とアクリの漏れた苦悶の声に、
何が起こったのかを遅ればせながら気付いたユミコが悲鳴染みた声で彼女の名を呼ぶ。
『あ、アクリッ?!』
「チッ、油断してる気はなかったんだけど――」
舌打ちをしつつも追撃を警戒した上で再度回避行動を取ろうとするのだが、
そんな彼女の行動すら、相手には予測できる範囲だったか。
あっさりと横合い――右肩の通信機側へとクイックブーストの連打にて移動。
……見覚えがあり過ぎるその機動に、やっぱ嫌な予感は当たっちゃうか、なぞと思いつつも、
クイックブーストの連打の終着点を凡その当たりを付け、
そちらへとクレーンアーム改を振りかぶって機動の勢いとこちらの攻撃を合わせて、
慣性を味方にしてダメージを最大限にぶちかまそうとしているらしい。
……なのだが。
その攻撃はむなしく空を切り。
(――え?)
……どうやら相手は、更にクイックブーストを吹かせた上で、
以前アクリがレッドガンとの模擬戦で見せた様な超低空での水平跳躍も同時に使い、
彼女の起死回生になりうるその攻撃を回避しつつ更に距離も稼いだらしい。
何度もログデータを確認して覚えたその挙動を今更さらに先鋭化するとか何考えてるんですか貴方はッ!?
そんな突っ込みを内心で入れる。
……だが、そんなもんは今やるべき話ではないと思うのだが。
彼女の反応を他所に響くガシャン、と云うウェポンハンガーの起動音。
(流石にこりゃ、死んだかも……!)
そんな死の宣告の如き音が収音機に拾われ、
これはもう万事休すか、と云う思考が頭をかすめるそんな中。
背中側からコックピットブロック部へとウェポンハンガーにて切り替わったパルスの刃の切っ先が寸前で止まり、
コックピット内にけたたましく鳴り響くアラート音と共に、たどたどしい声音での彼女の名を呼ぶ声が、コックピット内に届く。
『――あ、くり?』
――少女か、それとも変声前の少年か。聞き覚えが無いその声音ではあるが、
このたどたどしさと、データログに残っている挙動(改良型)の直後。
勢いを付けていた攻撃を、寸止めする余裕すらある超反応。
あとは、現実逃避気味に見なかった事にしていた相対しているACの構成パーツは、
ほぼ全てがリブラが全力でカスタムしたそれであり。
「――先の機動とリブラ製のカスタムACパーツに……
結局一般はおろかアングラででも全く見かける事がなかった、
……やっぱキミだったね、レイ君?」
『ん。ぼ、くだ、よ?』
やれやれ、と云った感でそんな言葉を吐くアクリ。
いやお前さっきまで殺されかけてた筈なのに余裕あるな。
まあそれはそれとして。
『……で。な、んで、こん、な、ところ、に?』
「野暮用で、ね。そっちこそ……あー、情報収集の依頼でも受けてた?」
『ん。うぉ、るたー、が、こうい、う、いら、いも、うけて、みろ、って』
「流石のハンドラ―。過保護が過ぎる」
アクリの台詞にゆっくりと言葉を返して来る相手――
何事も無かったかのように世間話なやり取りを始め。
そんな彼の説明に――ああ、これはハンドラーってば、
レイ君に色々と経験を積ませてるんだろうなぁ、なぞとか思いつつ苦笑を漏らし。
先程の緊迫感が完全に霧散しているのは気にしては駄目なのだろう、多分。
そんな呑気なやり取りの中。
緊迫感が抜けたらしいユミコからの突っ込みが通信から入り。
『何でこんな状況下……しかも一瞬前まで殺し合いに近い事をしていた相手と
和気藹々と話し込めるのか疑問が尽きないんだけどさ。
とりまレイ君を追いかけてた連中、追いついて来るよ?』
「……と、そうだった。詳しい事はそっちのハンドラー達も交えてって事で、撤退するよ!」
『――わか、った』
「出来るなら、
『だ、んや、く、と、すいりょ、くざい、がき、けんりょ、うい、きには、いったか、ら、てったい、ちゅう』
「あんだけ連中を景気よく蹂躙してた割に、唐突に逃げを打った辺り、
そうだろうとは予測してたけどねぇッ!!」
そんな感じで、一瞬の交差で一方的に殺されかけた相手に全く臆する事も無く漫才を熟しつつも、
さっさとその場から撤退する事にした二人であった。
……と言う感じで、本格的にメインの流れからズレだしています。
これからどうなる事やら……僕も分かりません(ぉぃ