「……スクラップの山……。ACの残骸……?」
己が乗機であるACを二つある内の奥側のハンガーに駐機させ、タラップを降りてきた一人の女性が直ぐ隣のゴミの山に圧倒されて思わず呟きを漏らし。
そんな彼女に気付いたか、端末に何かを入力していた先の女性と同じぐらいの年恰好の娘っ子が端末の方から視線を上げ、挨拶を掛けてきた。
「貴女がツィイーね? わたし、独立傭兵"RaDer’s"、オペレーターをしてるユミコって云いますー。お疲れ様ですー」
「あ、ご丁寧にどうも。ツィイーで、す」
「——あ、このスクラップの山に驚いてる? 兼業で……と云うか、独立傭兵の方が兼業なんだけど。わたし達のメインはジャンカーなのよ。
だからレストアとかリペア用のジャンクの山があったりするの。ちょっと汚く感じるかもしれないけどごめんなさいねー?」
「あー、別に
ACやMT用のハンガーを持つ輸送ヘリはよく見かけているし、なんなら乗ってもいるので、そこまでの驚きは無い。
無いのだが……視線は、ジャンクの山とACハンガーの間にある、駐機用のハンガーと変わらぬぐらいの大きな機材で。
「ああ、此処で色んなパーツの開発とか改造もしてるから、色々ごちゃごちゃしててごめんなさい」
そのあまり見かけない様な機材に圧倒されていると、ひょこっとその機材の陰から一つの謝罪の言葉。
ツィイーはそちらに視線を回すと、まだ十代の前半ぐらいにしか見えない男性の姿。
「僕も同じく、ジャンカー兼独立傭兵"RaDer’s"、メカニックのリブラ、って云います。宜しく」
「あ、宜しく。ツィイーよ」
再度の挨拶の交わし合い。
なのだが、ツィイーは面食らう。こんな子がメカニック? マジで? 的な感情が渦巻いているのがよく分かる表情を浮かべ。
『ツィイー、ウチの子は見た目とは裏腹に凄く有能だから侮っちゃダメだよー?』
そんな彼女の反応を分かって居たかの様なスピーカーからの声音が頭上から降って来て。
視線を上げると、大破したMTを抱えたACの姿が。
『リブラ―、こいつどこに置いとくー?』
「あ、それベイラム製のやつだよねー? とりあえず先にバラして解析するから、"ジャックインザボックス"の近くに置いといて欲しいかな?」
『りょかー』
リブラの台詞に了承の言葉を返し、ACは先にツィイーが見上げていた機材——ジャックインザボックスと云われた代物——の近くに大破MTを丁寧に横たわらせる。
「ジャックインザボックス?」
「カスタムやレストア、リペアがある程度簡易に出来る作業制作ユニットの通称です。
リブラとRaDのエンジニア連中が共同で作り上げた特殊機材ですよー?」
不思議そうにその固有名詞を復唱するツィイーに、ああ、そりゃ知らないよね、とばかりにユミコが簡単な説明をする。
そんな言葉を受け、へー、とその機材を見上げるツィイー。しかし"
「独立傭兵のコードネームと云い、RaDのロゴが入っている機材をちょくちょく見かける事と云い、そっちさん、RaDの関係者?」
「RaDって云ったらRaDかもだけど、独立傭兵でもあるから一応形としては脱退しているよ。それでもひも付きである事は間違いじゃないんだけれどもさ」
そんなツィイーからの問い掛けに、中々に面倒くさい言い回しをしながら歩み寄ってくる一つの人影。
視線を移すと、その人物はゆるーく手を上げつつ、再び口を開き。
「生身では初めましてだね、ツィイー。アクリだよ」
「ふーん……あの変態機動をしてたのがアンタか……」
「だから変態云うなし」
「間違いなく変態機動なんだから仕方ないんじゃないー?」
「ユミコまでッ」
「あ、あははは………」
じろじろとアクリを見やりながら案外酷い事を云うツィイーに突っ込みを入れるが、他の二人も似たり寄ったりの反応を返し。
まあ生身でやるよりかは難易度は低いが、どっちにせよ変態染みた動きでしかないので、さもありなん。
分が悪いと感じたか、アクリはとりあえず話を変える事にした様で。
「そ云えば、ツィイー。ちゃんとこってり絞られたの?」
「う゛ッ……」
「ここのハンガーに駐機させてから暫くACのコックピット内から出てこなかったから多分大丈夫じゃないかなー?」
「う゛ぅ……。アーシルにものすごーく叱られた……。感情だけで突っ走るんじゃなく、もうちょっと考えてから動け、って……」
思い切りよく気落ちしてるツィイーである。
まあ、周りの制止すら振り切って自らの勇み足で死地に突っ込んで行ったのだから仕方ない話であるが。
人名が呟きから漏れているが、確かにその人が解放戦線の窓口の人だったな、
とアクリ達は思い出すがそっちに関しては取り合えず突っ込まない事とする。
「正義感があるのは悪い訳じゃないと思うけど、命あっての物種だからね?
死んだら最終被害の内約に貴女って云う死体が一つ増えるだけなんだし」
「反省させて頂きます……」
非情な台詞ではあるが間違ってはいないので、項垂れ反省の言葉を述べるツィイー。
「まあ、反省してるみたいだし、いちおー依頼人への義理は果たしたよねうん。
だからこの話はもう終わり。——んじゃあリブラ、ツィイーのACの修理はどれぐらいで済むか予測付いた?」
「粗方の確認は終わって細かな修理は開始できるぐらいまでは準備出来てるけど……状況見つつ一日半ぐらい、かな?」
「え、それぐらいで大丈夫なの?」
リブラの答えに驚きの表情を浮かべるツィイー。
逆に彼の腕をよく知っているアクリは悩まし気な表情で。
「うーん。送り届ける予定の解放戦線の拠点、距離的には一日も掛からないんだよねぇ。
——リブラ。ウチで保有してるBASHO腕、交換でツィイーの機体に移植しよう。修理の工数減らせるし」
「あ、そうだね。同じBASHOだし、そっちの方が時短になるよね。準備しとく。
ツィイーさんのACの腕、ざっと見た感じ共食い整備の上にあんまり精度も良くなさそうだから、
こっちの手持ちの腕使った方がレスポンス良くなると思うし」
「——えッ!? そ、そこまでして貰うのは悪いよッ!?」
アクリの提案にああ、それは賛成と云ったリブラのやり取りに驚き遠慮をしようとするツィイーであり。
だが、そんな彼女の反応も全く気にする風もなく言葉を返して。
「気にしないで。出来る限り工数減らしてツィイーさんのACを修復しないと、
こっちは腐ってもメカニックだしね。交換した大破してる腕でも材料さえあればリペア出来るから。
——あ、そうだ。それだったらついでにBASHO頭も大破してるみたいだし、それもこっちのと交換しようか」
「——ああ、あの魔改造品ね」
「うん。アクリさん以外にも使用感聞いてみたかったのもあるし。……と云う事で、ツィイーさん」
「うん?」
「BASHOの頭パーツの改造品を使ってみる気、ないかな?」
——それから暫し。ツィイーからは実物を確認してから、との事なので、準備をしてみる。
リブラは端末を操り、AC用のクレーンを使って二つのヘッドパーツをアクリ達の前に下ろし。
それは、BASHO頭を二つ重ねて装甲を溶接しているのと、三つ重ねている異形のパーツで。
リブラはその異形パーツの前に歩み寄り、振り返ると説明を始める。
「僕ってネーミングセンス皆無だから、この二つのヘッドパーツはシンプルに"ダブルヘッド"と"トリプルヘッド"って呼称してる。
"ダブルヘッド"の方は上段が中距離用のカメラやセンサー類が搭載されてて、下段に近距離用のが入ってるんだ。
それで環境に応じて切り替えて、って感じで運用する頭パーツ。"トリプルヘッド"はダブルヘッドの上段と下段のセンサーが上段中段になって、
下段に広域センサーと情報共有システムを搭載してるんだ。主に中隊以上の現場指揮官専用のカスタムヘッド想定だね。
こっちはそれぞれの頭部が独立してて、別方向を確認しつつ情報共有する、って形になるかな。
どっちの頭パーツも、それぞれが特化してるお陰で負荷も分散されるし、スキャン性能も安定性能も相応に高いよ?
それにBASHOはBASHOだから、BAWSの製品を扱えるメカニックがいるなら容易にメンテし易いのもポイントかな。
ただ、デメリットなんだけど……改造の折に、頭の防御力に影響しない辺りの装甲板とか必要ない機能群のシステム部取っ払って肉抜きしたんだけど、
それでも通常のBASHO頭よりも重くなっちゃったんだ。数字で云うと、ダブルで約1.4倍。トリプルになると約2倍。
他には、やっぱり重ねた分大きくなってるから、多少は敵機の攻撃が当たり易くなっちゃってる所。
EN効率もどうしても落ちちゃってるのも問題と云えば問題だけど、これは使い方次第で最小限に抑えれるハズだから無視して欲しいかな。
後、使用感は兎も角スペック上ではアーキバスやベイラムのカスタムヘッドに比べたらやっぱり性能が一枚は落ちるかな、って所」
説明を終えた彼に向け、ツィイーは恐る恐ると云った感で問いを掛け。
「これを、私に……。良いの?」
「うん。アクリさんの件でのお詫びの代わりになるかは分からないけど、通常のBASHO頭よりは有用だから。アクリさんの実証付き」
「ちょい前のゴミ拾いの時にちょこっと使ったけど、ダブルの方は通常パーツと比べても体感では大分いい感じに仕上がってると思う。重さは慣れれば気にならない程度だし。
トリプルの方は……指揮とかやる事無いからあんまり実証は出来てないんだよねぇ。確実に視野は広がるのは分かるんだけど……」
そう云い終わると、苦笑しつつ肩をすくめるアクリ。
あ、そうそうと何かを思いついたかの様にユミコが口を挟んで来て。
「こっちも一応商売にしたいから、どっちか一つにしてね。ツィイーのACの頭も一つなんだし。
片方だけなら無償で取り換えるけど、もう一つも欲しいって云うなら残った方、BASHO頭二つ分のCOAM……切り捨てで100,000Cでなら売るよ。
物々交換でも可。因みに物々交換でなら、壊れたBASHO頭でも受け付るね。そっちだったら頭5つ分は欲しい所だけどー」
完全にセールストークである。
まあアクリは実働要員、リブラは開発改造修理が出来ればそれで良い質であるからして、
取引云々に関しては全く期待出来ないので、ユミコがその辺り頑張らないといけないのは仕方ない話なのである。
その彼女のトークに悩まし気に唸るツィイー。
「物々交換でも良いの? って、壊れたのでも良いんだ……。それだったら修理待ちで大分保管してたと思うから、それでも?」
「大丈夫だよー。——ってどしたの、リブラ」
お、好感触と思ったユミコは、更に話を進めようするのだが、リブラから横から口を挟み。
「えっと、他にも使用感のレポートも
あ、後おまけで今回アクリさんが使ってたMT用装備のAC変換器兼用の肩武装ラックも付けるよ」
「あ、こら。リブラきゅん、君の云うおまけの方も商売道具にしようとしてたのにあっさり無価値にしないで欲しいんだけどー?」
「………あッ。ご、ゴメンなさいユミコさん。で、でも使用感の感想があればアップデートもし易いし、新たなる開発に繋がるからお得だと思うんだ、よ?」
「完全に開発者の目線でしかないッ!?」
そら開発者ですし。
そんな声がどこからともなく聞こえそうなぐらい当たり前の顔で首をかしげているリブラであり。
「と、とりあえず、ダブルの方貰えるかな。使用感とかもレポート送るから、おまけもお一つ頂戴な?」
「はーい」
上げ足取りと云う訳では無いのだが、そんなやり取りを目の前で聞いていたツィイーの強かな言葉により、
取り引きとしては半分は失敗に終わりそうなので気落ちするユミコ。
「——それじゃ、これアドレスです」
「ん、認証した。データ送ってみるね」
「——うん、こっちも認証したよ」
「で、何和気藹々してるかなッ?!」
そんな彼女の反応にどこ吹く風でレポートの提出用のアドレス交換をしているらしい。
手が早いと云うかなんと云うかである。それはそれとして、話を戻して。
「——っと、それは兎も角として、頭と腕の交換だけならかなり楽になるから、半日もあれば修理完了すると思うよ。
後やらなきゃならないのはコア部と脚周りの確認と破損が酷かったら修理に、電送系の整備。肩部のラックの取り付けの後、全体の調整ぐらいかな?」
「丸一日の短縮かー。流石に破損部を交換だと早い早い」
「凄いんだね、リブラって」
「凄いだろー」
「いや何でアンタが偉そう?」
「だって私のチームの専属だし! 絶対に
「——ちッ」
「残念そうに舌打ちするなやおい」
リブラの腕も当然あるのだろうが、本当に仕事が早い。
感心した声音でそんな言葉を呟くアクリとツィイー。
——と云うか、貴女馴染み過ぎじゃないですかねリトル・ツィイー。
そしてそのまま漫談に雪崩れ込みそうになる二人に割り込む様に、ユミコは一つの提案をする。
「——ま、それは兎も角、二人ともある意味死地からの生還なんだから精神も肉体も相当酷使したでしょ。
こっちはリブラとわたしに任せて、休息を取りなさいな。お腹も空いてるなら、先に食事しててくれても良いから」
「じゃあ僕も修理と整備に戻るね。アクリさん、ツィイーさん、ごゆっくり、だよ」
「へーい。あ、そだ。ツィイー」
「んー?」
彼女達の言葉にアクリはそんじゃ、お先に休ませてもらうねー、と云いつつもツィイーに言葉を掛けると、
ゆるっとした反応が返って来て。まあとりあえずは、だ。
「ベイラム系統のそこそこ美味しいけど一食分程度の栄養価しかないレーションと、
アーキバス系統の味がほぼ無いけど丸一日分の栄養素が取れるエナジーバー、どっち食べる?」
「へッ?」
突然のその言葉に何云ってんだコイツ的な反応を返すのはまあ分からないでもないが。
そんな彼女に苦笑をしながらもアクリは更に言葉を重ね。
「戦場を共にした縁だ、一食ぐらい奢ったげる。まあ食事ってよりは栄養補給でしかない気がしないでもないけど。
——これも独立傭兵の強みだよねぇ。食べ物類も企業からよりは割高ではあるけど、オールマインド経由で買えるし、
独立傭兵を尖兵とか捨て駒にするって思惑がある企業経由からでも量は買えないけど融通は利くし。
……専属になればもっと良いもの食べたり出来そうだけど、私、生粋のルビコニアンだし、星外企業の首輪付きはちょっとねぇ」
かと云って解放戦線専属も戦力事情と食糧事情がねぇ等とぼやくと、驚きで表情が固まっていたツィイーが恐る恐ると云った風に聞き返し。
「い、良いの?」
「当然。……後、乙女としての提案だけど、ついでにシャワーも浴びていきなさい。貸すから」
「至れり尽くせりッ!? って、えッ? し、シャワーもあるの!?」
「ろ過装置とコーラルの除染装置もちゃんと付けてるし、温水にもなるから、汚れ落としとリフレッシュするには最適だよ。
私個人的には、湯船欲しいけど流石にそれは贅沢が過ぎる……」
くそう、と云った風で悔しそうに唸るアクリであるが、シャワーがついているだけでも破格だと思われる。
実際ツィイーが驚き慄いている事だし。
「と云うか、これ大型のAC輸送ヘリだった筈だよね!? 何でそんな生活空間がッ!?」
「そりゃ、ジャンカー兼独立傭兵として活動するに当たって頑張って購入して改装もしたんだよ。
——活動資金と色々入用だろうからって溜め込んでたお金が全部吹っ飛んだんだけどね……」
「わたしの貯蓄も食い潰されたよー……。だから、AC購入資金が捻出出来なくて、
活動始めようとするちょっと前に知り合ったリブラに泣きついてジャンクAC都合して貰って同時にスカウトもして。
承諾貰えなかったらジャンクMTで活動始めるって云うオチになり兼ねなかったんだよー」
「完全無欠にユミコのファインプレーだったよね、リブラを引き込もうって話」
「崇め称えよー」
「へへー」
凄く遠い目をするアクリに同じく遠い目をするユミコも同調しつつそんな過去話をしみじみと述べると同時に寸劇も始めだし。
そんなに昔でもない筈であろうに、中々に濃ゆい生活をしていたようだ。
「——ま、それは兎も角に、操縦室に行こっか。生活空間って云っても、
シャワー室と給湯室とトイレとせっまい自室が三つに同じスペースのお客さん用の部屋しかないから、
一番広い部屋が操縦室になるんだよねぇ。まあ、
泥とか土とか油とか鉄粉とか舞ってそうな中で食べるのも……うん、だし?」
「あ、あはは……。そりゃそうなるよねぇ……」
同意も得られた事であるし、さあ操縦席へと行こうか。
連れ立って目的地に行こうとする二人に自然と会話が生れ落ちて行く。
「……しかし。ACもほぼ完璧に整備してあまつさえカスタムまでして貰えて、ちゃんと食べれて、
水の制限はあるんだろうけどシャワーまで浴びれる……。わたしもここに住むぅ……」
「ダーメ。たまに遊びに来るぐらいなら歓迎するけど、流石に敵対する可能性がある相手を常駐させるのは問題あり過ぎだし」
「じゃあ私も独立傭兵になるぅ」
「解放戦線と依頼相手ぐらいの距離まで離れれるの? それ出来るならオールマインドに紹介するけど」
「う゛……。その問い方、ズルいよぅ……」
そんな感じで和気藹々と歩み去って行く二人の少女達に和みながら、ユミコは己の仕事を為す事にする。
とりあえず今は、リブラの指示に従ってジャンク品の仕分けをする為に作業機械を動かす事に専念するとしましょうか。
——後日、インデックス・ダナムとか云う解放戦線の幹部の一人からダブルを五機分、
トリプル二機分の受注を貰い、ホクホクした表情のユミコの姿があったとかなかったとかと云う場面があったらしいが詳細は不明である。
カスタムパーツってオリジナルになるんでしょうか……?
まあ半分ネタな気がしないでもないですけども。