Fate/Pseudepigrapha   作:カツオ大好きハヤさん

1 / 5
1930年、冬木市のとある邸宅で2人の人間が語らい、訣別していた。


開戦
はじまり


「貴様…何故こんなことを…ッ」

「知れたこと、聖杯…中々に唆られる」

 燃え盛る屋敷、その大広間で2人の男が対峙していた。本来その部屋は見る者が見れば感嘆に包まれて、まるで幼児のように目を輝かせるような格調高い調度品が数多く並んでいたが…今や屋敷を包み込む炎を維持する為の燃焼剤と化している。そしてその中央に佇む者達がそれを気にすること無く会話を続ける。

「あのまま行けば、我々で聖杯を掴むことすら出来たのだぞ…ッ、それを今更…」

 1人は傷だらけの壮年の男性。その身に纏う服装は平民のそれと比べれば雲泥の差がある程の価値があるが、今は全身から滴る真紅によってその美麗さを失ってしまっている。特に左腕は酷く、如何なる術を用いたのか肘から先が完全に消失してしまっている。

「それは否定しない、尤も…裏切りを想定していなかった貴殿の不手際だと思うのだがね」

 もう1人は、先の男と比べれば一回り程歳を重ねた老年の男。言って差し支えないだろう。何せその背に歯車が幾何学的に重ね合い、ゴウンゴウンと低い音を響かせながら回転している巨大な機械を背負っているのだ。何より、それは見ただけで分かる、重過ぎるのだ。少なくとも1人の人間が背負って、汗一つかかず振る舞うなんてことはあり得ない程に。

 

「まあ、これに関しては君の優しさが原因と考えよう。とはいえ安心したまえ、私にキミを殺す理由はない……聖杯は頂くがね」

「ほざけ、我が令呪を以て命ずる─キャスター、来いッ!!」

 次瞬、傷だらけの男は自らの右手を掲げる。そこには紅い痣─2つ程の掠れたようなものと、はっきりと浮かぶ1つの痣が絡み合った様な紋様─があった。だが、それだけだ。傷だらけの男が放った言葉は無意味なまま燃え盛る空間に掻き消えていく。

「何故、だ…何故来ない……!」

 それは男にとっては不可思議極まりない事態だった、その言葉と紋様はこの窮地を脱するには必要十分な()を備えていたからだ。だがそれが訪れない、という事実が焦りとなって表情に現れる。

「全く、キミは優し過ぎる。それ故にキャスターもまた優しい。彼女なら先程、キミを狙いに来たセイバーとそのマスターと激突し、撃破したよ。……自らの全てを用いて」

 歯車の男は淡々と、しかしまるで素晴らしい劇を目の当たりにしたかの様に大仰しく傷だらけの男が頼りにしたキャスターなる人物の最期を語る。

「そん、な……キャスター…」

「彼女は正に至高の英霊だろう。アインツベルンの呼び出した、我らの住まう宇宙とは異なる宙より降りし降臨者(フォーリナー)なるサーヴァントを打倒し、最優たるサーヴァント・セイバーをも自らの主を守る為に相討ち覚悟で挑み、そうなった……マスターとして誇るが良い、トオサカ。彼女の主に恥じる事なき振る舞いを、キミはしなくてはならない」

 トオサカ、と呼ばれた男は力無く項垂れる。最早争う術は消失したという事実が、彼の総身を打ち据える。だがそんなことはお構い無しに歯車の男は続けていく。

「これでサーヴァント…セイバー、アーチャー、ランサー、ライダー、バーサーカー、フォーリナー…そしてキャスターは消失し、その魂は聖杯に注がれた。そして残るマスターはキミだけとなった……だが、聖杯を得るのは私だ。だが安心して欲しい、キミの命…そしてトオサカの血筋は残そう」

「……何故、残す。殺さないのか…」

 それは単純な疑問だった。傷が癒え、戦う術を取り戻せばそれは脅威に成りかねないだろう。血筋が残れば、先代が抱く怨みがその子に、孫に、更に後の世代にまで渡り続けるだろう。禍根を断つという最大の利点を失ってまでも、そうするのかと問うたのだ。

「それは、決まっている」

 もう、この場に用は無いと言わんばかりに歯車の男は背を向き歩き出す。だが、答えは然りとトオサカに告げる─。

「私は、友誼を結んだ友をその手で殺せる程…魔術師としては出来ていないのだからね。さらばだトオサカ、願わくば…魔術師の(このような)世界から立ち去ることを祈ろう」

「待て、ヨハン…ヨハァァァァァァァァァァァァン!!!!」

 歯車の男─ヨハンは立ち去るその最後に、餞別と言わんばかりに自らの指を鳴らす。瞬間、先程まで燃え盛っていた炎が一瞬にして消え去っていく。水も、風も用いずに消え去った術は、人智を超えた代物だった。

「何故だ、ヨハン……何が、お前を変えたのだ……」

 そして、1人残されたトオサカは……黒く焦げた天井を─その先にある空を見上げて、呟くのだった。

 

 

「何が変えた、か……さてな…私にもそれは分からない。故に識る…それが、我が目的」

 ヨハンはある山を登っていた。所々に破壊の跡地があり、まるで戦略爆撃機を数百機が載せられる爆弾を一箇所に投下した様な、甚大な被害がそこには広がっていた。

「とは言え、老体にはこれはキツいな…全く、ランサーとアーチャーめ…斯様な破壊を齎すとは」

 その光景を作り上げた犯人に対し愚痴をこぼしつつ、目的地が存在する山寺──柳洞寺に辿り着いた。やはりそこも激しい戦闘が繰り広げられていたのだろう、あるのは破壊された寺の残骸と黒く燃え盛る屍だけだった。その地獄の様な光景を尻目に、ヨハンはトオサカに教えられた秘密の場所、その入り口を目指して歩き続ける。だがそれは目に入れたくない訳でも、ましてや興味が無い訳でも無い。それは自らが引き起こした災禍であると自覚しているからこそ、その被害を受け止めているのだ。すまない─口に出すこと無く、心の内で死していった者達へ詫びると共に歩みを早めていく。

 暫くして、ヨハンはある洞窟内に辿り着いた。そこにあったのは、巨大な球体だった。山より巨大な黒い岩を丹念に丹念に削り、研磨し、整えて造られたかのような芸術性を醸していた。しかし、それはある一点を除いての話だった。ヨハンはそのある一点をじっと見つめる。その視線の先にあったのは、黄金に輝く女性の像だった。聖母の如き黄金の像が折り重なっており、こちらもまたある種の荘厳な情景を生み出していた。

 それこそが、ヨハンが友を裏切ってまで求めた究極の代物、聖杯であった。

「ふむ…」

 まるで天上の楽園が如き風景だったが、ヨハンからすればこれは異常事態とも言えるべきだった。()()()()()()()()()──、元来あるべき形になっていないのだと気付くのに時間はそうはかからなかった。何故なら、聖杯の影に隠れていた人影を見つけたからだ。

 そこに居たのは女騎士だった。黄金に輝く長髪と、身に纏う白銀の鎧が暗闇の中を照らしていた。正に天女と呼ぶに相応しい人物だったが、その美貌はヨハンの想像でしか無い。四肢はもがれ、胴には酷く大きな傷が刻まれていた。常人なら、すぐにその命を救うべく行動を開始するだろう。だがヨハンには分かる、目の前で死にかけている者が()()()()()()()()()()()()

「キミは、何者かな?少なくともセイバーではあるまい、ではランサーか…はたまたライダーか」

 その問いに、女騎士は小さく「…ご、ふ…ぁ…ライダー……」と答える。

「そうか、ライダーか。察するにアーチャーとランサーとの死闘に巻き込まれたかね?マスターはどうなった、死んだかね」

 続け様に質問するヨハンだが、女騎士(ライダー)は答えることも出来ずにいた。何せ傷が酷過ぎる、すぐの会話は困難を極めることは誰が見ても明らかだった。

「ふむ…これはすまないことをした、ライダー。キミが望むなら…私が救おう。その代わり、私と契約し…我がサーヴァントと、なってくれ」

「………ぃ………ぅ」

 最早小さく、掠れた声を聞くことは難しかった。だが、ヨハンはライダーの答えを然りと聞き届け、彼女の額に手を翳し、儀式を執行する。

 “―――告げる

  汝の身は我の下に、我が命運は汝の剣に 聖杯のよるべに従い、この意、この理に従うのなら―――”

 

「―――我に従え。 ならばこの命運、汝が剣に預けよう」

 それは自らの魂と彼の者の魂を結びつける言祝。友を捨てた男と、主を失った騎士の間に1つの繋がりが生じていく。誰もいないこの場所で戦が終わり、そして新たな戦が幕を開ける。

 

 

 ─1930年、極東の地日本。後の世において第二次世界大戦が勃発する直前の土地にて一つの儀式が始まり、そして終えた。多くの土地を焼き払い、命を奪い尽くした儀式の名前は、聖杯戦争。──万物の願いを叶える力を持つ「聖杯」を求める7人の魔術師が覇権を競い、殺し合い、最後に残ったものが願望器を手に入れる魔術闘争である。だが、これは唯の魔術師の戦い─己が家系が数多の生涯をかけて織り成した神秘による戦いでは無い。英霊、正式名称─「境界記録帯(ゴーストライナー)」と呼ばれる、人類史そのものが記録した使い魔である。歴史、神話、伝承──多くの記録に刻まれている彼等が有する力の総量は人類とでは比較することすら烏滸がましいほどのそれを備えており、個体によっては戦略爆撃すら上回る程の火力を有している。聖杯戦争では、それらを7騎召喚し、己の配下として従えて殺し合うのだ。だが、それは決して表に出してはならない裏の闘争。

 

 

 

 洞窟にひっそりと佇む大聖杯を、ヨハンは自らの内に煮え滾る願望を自覚しながら見上げる。

「ユスティーツァ。キミが目覚めるまでには些か時が足りない……そうだな、後は90年ほど時が必要だな。それに数も足りん……尤も、それもこの場における概算に過ぎんがね」

 そうだ、己の野望には今の聖杯では心許ない。6騎の英霊の魂では足りないと直感で推測する。だがそれは直感、謂わばヨハン自身の経験則によるもので、後ほどに改めて計算し直す必要性はあるものの……ヨハンは確信していた。あと15騎。それだけの数の魂が、人類史にその名を残す英雄達の魂が必要なのだと。

「トオサカが、聖杯には予備機能があったと言っていたな…通常、7騎しか召喚出来ないものを追加で7騎召喚し、大戦とする機能が。ふむ、やはりそれが必要か」

「………」

 嬉々として次なる計画を練るヨハンの背後に、ライダーは黙して直立し続ける。自らの命を救った恩人の計画は知らないし分からないが、どうでも良い。救われた恩は必ず返すのだと心に決めた故に。しかし、ライダーは気付けない。彼女が先まで繰り広げたサーヴァント同士の激突、7騎でも街には相応の破壊が巻き起こり、柳洞寺では周囲の森も含め原型も残さず焼き払われていたのだ。それが追加で7騎─計14騎の激突、文字通り空前絶後の死闘となるのは間違い無いだろう。そしてそれが引き起こす厄災もまた、人類が経験したことのない代物になるだろうが、ライダーはそれに気付かない。いや、敢えて気付いてないフリをしているのだろう。彼女にも、彼女なりの願いがある。それを叶えられるなら──世界を犠牲にしても構わない、そう思わせる程の願いをライダーは有している。

 

 

 

 

 

 

 そして、90年後──。ドイツのとある河川沿いにある、白亜の城にて一つの事態が動き出す。始まりが起きた場所の名、それをアインツベルン城という。聖杯戦争を創り上げた御三家、アインツベルン家の本拠地だ。元来、そこは侵入者を阻む強大な結界が備えられており、名のある霊体で無ければ触れることすら出来ない。だが、その結界は見るも無惨に破壊されていた。吹雪く風に打ち据えられて尚輝きを保つ城の中を彩る無数の真紅と、その内に転がる無数の屍と、立つ2つの影がそこにはあった。

 その影の正体は、かつて柳洞寺の洞窟内に居たヨハンとライダーだった。2人はかつての装いと異なりまるで聖職者(神父と修道女)を思わせる服装をしていた。だが、ヨハンは神父の服とは不似合いなかつて背負っていた物と同じ歯車の機構を有しており、横に立つライダーの手には今尚血が滴る、聖性さえ帯びる黄金の槍を手にしていた。

「マスター、ここの殲滅は終わりました。他の生存者がいるやもしれません、駆逐して参ります」

「頼んだよライダー、ここに居るのはホムンクルス…今までの魔術師と比べても力はある。気をつけるのだよ」

 恐らくここで起きた惨劇(一方的な虐殺)を引き起こしたライダーは淡々と、未だ城に残るホムンクルス達を始末すべく霊体化をし探し出していく。ヨハンはそれを静かに見送り、再度視線を別方向に──倒れ伏す老人に見やる。その老人は、既に死体となっていた。破壊された肉体から零れ落ちる臓腑と血液が床を汚していくものの、それが生き物が持つ機能を有しているとはヨハンには到底思えなかった。強いて言うなら、それは機械だった。肉で出来た歯車とオイルが破壊された機械から漏れ出ている、というのがヨハンの感想だった。

「さらばだ、アハト翁。トオサカは既に魔導の道を外れ、マキリは闇の底に堕ちた。残るはキミだけだった…せめて、安らかに眠ると良い」

 それは自らの願いを叶える為に使う聖杯、その製造者の血統へ向けた最期の手向だった。次瞬、歯車が回転を開始していく。同時に練られた魔力の奔流が光輝となってアハト翁(ゴーレム・ユープスタクハイト)に向けて放たれた。数秒─僅かな時間の照射で、かつてアハト翁と呼ばれた残骸は影も形も無くなり消え去った。これで、邪魔者は完全に消失した。残るは聖堂教会だが、計画が完全に始動すれば手出しは不可能だ。15騎のサーヴァントが荒れ狂う戦場を闊歩するなど自殺行為も甚だしい。

 

 土地は手に入れた。聖杯は既に(ヨハン)の手に。

「ここに手札は揃った、故に、さあ──」

 

 ──聖杯戦争を再開し(続け)よう




Fateの二次創作です
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。