Fate/Pseudepigrapha 作:カツオ大好きハヤさん
まず生じたのは紅蓮の炎と地を駆け巡る黒白の雷だった。全てを灰燼に帰す2つの火力が激突し、互いが互いを弾け飛ばし被害を拡大させていく。
「「「ハアアアァァァァァァァァ!!!」」」
その地獄めいた空間において響き渡る3つの咆哮と共に激しい剣戟音が轟き氾濫していく。長槍と馬上槍と旗と剣が織りなす激突は周囲の炎と黒白雷を巻き込みながら更なる破壊を引き起こす。周囲の木々や大地を砕きながら縦横無尽に駆け巡る3つの影を前にして、ヨハンは黙って見ていることしか許されなかった。迸る裂帛と、煌めく剣閃。遅れて轟く万象が崩壊していく音が彼女達の戦場を輝かせていく。
黒のランサーが放つ真紅の魔槍の薙ぎ払いをすんでのところで跳躍し回避する
放たれた薙ぎ払いの慣性を殺さずに回転、ルーラーと赤のランサーが放った致命の一撃を見ずに回避しながら追撃を2人に叩き込む。
「「チィッ」」
─実のところ、空を飛ぶ力を持つサーヴァントというのは存外少ない。よって空中にある2騎のサーヴァントは当然のように回避出来ず、攻撃を喰らう─筈だった。黒白の雷が赤のランサーを強制的に後方に弾き飛ばしたのだ。
「魔力放出か!」
魔力放出、というスキルを持つサーヴァントがいる。武器・肉体に魔力を帯びさせ、瞬間的に放出することにより能力を向上させる、謂わば魔力によるジェット噴射を行えるスキルと言えるだろう。
黒のランサーの一撃を回避出来た赤のランサーだが、ルーラーは
即座に追撃を加えんと放たれた黒のランサーと、僅かに遅れながらも追随する赤のランサー。それを遠目から見ていたヨハンはルーラーを支援すべきかと悩むが、それは彼女達にとっては余りにも遅過ぎた。転がることで生じた運動エネルギーを上手く活用して立ち上がったルーラーに迫る2本の槍の追撃はしかし、突如出現した2人の人影により防がれた。
「ア゛ァ!?」
「…何だこいつら」
それは炎だった。炎が人形を形成し、2人からの攻撃を防いだのだ。余りにも朧げで、直ぐにでもかき消えてしまいかねないほどの儚さを有していたが破滅的なまでの熱量をその身に宿しており、2人のランサーからルーラーを守るように立ちはだかるその姿は、正に騎士と呼ぶに相応しいものだった。そんな炎に守られたルーラーはすっくと立ち上がり、敵手である2人を見据える。
「これこそが我が力、聖なる乙女を守る誇り高き騎士を召喚することができるのです!」
ふふんと自慢げに語るルーラーだったが、相対するランサー達の表情は険しいものだ。当然だろう、目の前に立つ2つの炎の影の力量が極めて高いものであると戦士としての直感が叫んでいるからだ。最低でも、サーヴァントに匹敵し得る程。つまり──
「おい、黒のランサー。先ずはあのふざけたルーラーを叩き潰す」
「猪騎士の貴様の提案なぞそこらに捨てたいが、そうも言ってられん。乗った」
速やかに締結される
黒のランサーが相対したのは、剣士だった。揺蕩う紅蓮の炎の輪郭など分からないが、少なくとも痩せぎすの男なのだろうと直感する。
「シィッ」
無骨とも取れる直剣を巧みに扱うその技量は多くの戦場を潜り抜け、戦の王とも称される大英雄と激突した経歴もある黒のランサーからしても手強いと思わせる程だった。よってその場に生じるのは純粋なる速度の勝負だった。如何に素早く相手の攻撃を潜り抜け、内に秘める心臓を破壊するかの勝負──時間にして僅か数秒、その合間に100を超す斬撃と刺突の応酬が繰り広げ、今尚加速して増大しつつある。
一方、赤のランサーはというとこちらは徒手空拳を扱う大柄な男だった。赤のランサーとしては初めて見る戦士なのは間違いない。剣、槍、弓─変わったところで盾を武器にする者達は見たことはあるが拳を武器にした者は生前に出会ったことはなかった。
「チィ!」
故に攻めあぐねる。そもそも未経験なことに加え、
だがやはり、影と
「遅い」
黒のランサーが炎の影が振るった剣を弾き態勢を崩したその瞬間、数十を超す刺突薙払の応酬により完全に吹き飛ばし。
「めんどくせぇ!消し飛べッ!!」
赤のランサーの総身から迸る黒白の雷が鳩尾めがけ拳を放とうとした炎の影を
ただただ、ひたすらに異なる戦闘経験とその身に宿す
「……すみません、お兄様。レェ卿」
一方のルーラーは、消し飛んだ炎の影に向け小さく謝罪を告げて、改めて戦闘を行うべく旗と剣を構える。先の影ではランサー達を打倒出来なかったが、次は異なるとある手段を用いることを決意する。そしてそれは、目の前のランサー達もまた同じ。サーヴァントがその身に秘める神秘の具現、その最たるものの使用を───。
「こ、れは…!」
先の攻防を見守っていたヨハンに、突如として悪寒が生じる。まるで目の前に冥界に繋がる門が出現し、こじ開けられようとするかのような濃密な
「まさか、宝具を使うのか…!?」
宝具。人類史に刻まれた伝説の英雄、怪物達が持つ神秘の具現。人間が抱く幻想を骨子に作り上げられた武装、ノウブル・ファンタズム。アーサー王におけるエクスカリバー、ジークフリートにおけるバルムンクといった多くの人々により語られる伝説・神話の再現を可能とする神秘の究極。それが──。
「これなるは淫蕩なる女王より授けられし破滅の呪槍─」
「目覚めろ卑王、貴様の喰らう地平は遠き彼方に在ろうともここに我は軛を穿たん─」
「この円陣にて我を保護し、暖め、防御したる火を灯せ─」
3つ同時発動、それはまさにこの戦闘の終結を意味し、全滅を予感させるものだった。このままではルーラーが死ぬ、そう判断したヨハンだったが止める術が存在しない。いや、あることにはあるが…それはルーラーの死を早めることになるだけの可能性が非常に高かった。だがやるしかない、そう思いこの身を犠牲にしてでも止める。そう覚悟を決めたその刹那。
『そこまでだ、ランサー』
その声が相対していた3人を静止させた。声の主は、先のサーヴァント達の乱闘の中で見た者の1人だった。
「僕を止めるつもりか、キャスター…!」
『当然だ、バーサーカーの暴走がこれ以上続けば、この聖杯大戦そのものが御破算になる……マスター達はそうお考えだ』
ロボット─最早そう言うしか出来ない程に肉と内臓が存在しない、異形の存在が黒のランサーに対し機械的に対応していく。怒りを抑えられない黒のランサーはキャスターを睨みつけるものの、現れた別の気配に反応する。
「そうですよ、ランサー。此度の前哨戦はここまで……大人しく城に帰りましょう?後でいーっぱいヨシヨシしてあげますからね〜」
「っせぇな、勝手に撫でようとすんなライダーのクソババア!」
そこに現れた影を、ヨハンは唖然としてその者達を見た。赤のランサーの隣に降り立ったドレスを纏い、余りにも不釣り合いな巨大な
「まさか、彼女は…ドラゴンライダー…!?」
それをまるで自らの配下のように扱い、騎乗する赤のライダーは確実に騎兵としては最高位に属するだろう。そして何よりも、ヨハンはその目で見てしまった。
「何だあの2人…ランサー達よりも…っ」
彼らが宿す力の数値、それはサーヴァントのマスターとなった者に与えられる特権。サーヴァントを一目見ただけでその者のパラメータやクラススキルを見ることが出来るようになるのだが、ヨハンの目には突如現れた黒のキャスターと赤のライダーがルーラーが先程まで戦っていたランサー達を上回っているのだ。
「なるほど、黒のキャスターに赤のライダー。ふふん、良いでしょうこのルーラーが相手してやりますよ!」
だがルーラーはそれに気付いていない、このままでは彼女が死んでしまう。最早、考える暇は無い。ここから移動してルーラーの下に向かわねばと駆け出すと同時に手をルーラーに伸ばして叫ぶ──!
『止まってくれ、ルーラー!』
「っ!?こ、れは…っ!」
その瞬間、手の甲が一瞬淡く輝いたかと思うとルーラーがプルプルと震えたままその場に硬直する。
『……令呪を用いたか。いや、だが……ふむ』
その様子を見た黒のキャスターは何かを考え、思考し出し。
「さあ、戻りますよランサー。早くこの子に乗ってくださいまし〜」
赤のライダーはルーラーなどに興味を持たず、無理矢理赤のランサーを引きずってドラゴンに乗せようとしていた。
そんな中息を切らせながらでこぼこになったところを駆け抜けて到着したヨハンに対し、恨みの視線を飛ばすルーラーはというと。
「マ、スター…!!何故、止めるんですぅ…っ!?」
「え?あ、えとそのなんか、ごめん…?」
恨み言を自身のマスターに向けていたのだった。先程まで繰り広げられていた激闘が嘘のように鎮まっていた。そんな中、口を開いたのは黒のキャスターだった。
『ルーラー、これは我々のマスターからの言伝だ。手出し無用、とっとと失せろとのことだ。ではな』
淡々と、感情の情動など無い電子音声が告げたのは裁定者の不要。それを告げた後は自らの役目は終えたと言わんばかりに腰部と脚部からスラスターを露わにし、空の彼方へと消え去っていった。同時に、
「貴様達はこの僕、黒のランサーが必ず仕留める」
黒のランサーもまた、宣戦布告とも取れる言葉を残し、その場を霊体化させて消失した。
「では、また今度…お会いしましょうねルーラー様?ほらランサーも、挨拶挨拶」
「うっせ黙ってろ!良いかルーラー、テメェは絶対にアタシが殺す!!」
赤の陣営もまた捨て台詞を残し空へと羽ばたいていった。残されたルーラーも、令呪によって命じられた効果が切れたのか硬直が解けて普段通りになっていた。つまり─
「さあて、このマスター様は…!私ならあの程度の連中けちょんけちょんのぎーったんぎったんにしてやれたものをー!よりにもよって令呪を使って止めるなんてなーに考えてんですか!このバカっ!バカバカバカ!」
─お説教の幕開けだった。今にも殴りかかりそうな雰囲気のルーラーだが、ヨハンはそれを黙って受け入れるしか無かった。令呪を使ってしまったのだ、しかも暴発じみた形で。何故そうなったかは分からないものの、その罪は受けるべきだろう、そう考えたのも束の間。
「はあ、まあマスターが無事ならそれで何よりです。それで、改めて聞きますが。貴方が私を召喚し、救いを求めたマスターですか?」
「えっと…」
ヨハンはその問いに答えて良いのか、何かの間違いでは無いか、そう思ったが手の甲に宿る令呪がそれを否定する。だから、躊躇いつつもルーラーからの問いに答える。
「うん、僕が君を召喚…したんだと思う、多分」
「たーぶーんー?」
「いえ召喚しましたさせていただきました!ヨハン・ドライツェーン・エルンスラーと申します!!」
ペシペシとじぶんの手のひらを抜き身の刃で叩く様をを見せつけるようにしてきたルーラーに恐怖を抱き、自らの名を告げる。そんなヨハンを見て、ルーラーは満面の笑みを浮かべ、
「よろしい!では改めて、サーヴァント、ルーラー。真名ジャンヌ・ダルクです、よろしくお願いしますね、マスター!」
それに満足したのか、すぐに剣を鞘にしまいルーラーもまた改めて自らの真名を名乗る。その笑顔はまるで、月光を照らす白百合のようだった。
地下大聖堂の、ある一室に2人の人物が居た。それはアインツベルン城を攻め落とした男─何の数奇かは不明だが、ヨハンを名乗る老魔術師と先の聖杯戦争にて召喚されたライダーだ。彼等はこの場から都合11騎のサーヴァント達による前哨戦を眺めていた。まるで映画館でB級映画を鑑賞するかのように、淡々と粛々と。
「マスター、漸く
「うむ、これで遂に…我が計画が始動するというものよ」
2人は空中に浮かぶ映像─ヨハンとルーラーが話し合っている姿を写したものを使い魔を通して見ていたのだ。その2人を見て、ヨハンはニヤリと口角が上がっていく。長年に渡り望んだ未来がもうすぐ到来する、その事実が彼の心を喜びで満たしていく。
「さあ、サーヴァント達よ。人類史に刻まれた歴史の体現者よ、我が計画──世界を救う階となれ」
今この瞬間、歯車が動き出す。世界を救う為に、この宇宙に潜む無自覚なる悪意を殲滅する為に。
「その為に争え、競い合え。