ドラゴンボール超 ビールを飲んだおっさんがダラダラと全王様になった話 作:北村 貴之
俺の名前は善応寺冬彦。
愛知県名古屋市在住のビール好きの営業部長だ。
ある日俺は部下たちと居酒屋でビールを飲んでいたらいつの間にか寝落ちしていて、目を覚ましたらドラゴンボール最強のキャラクター、全王様になっていた。
なぜかは不明だが、最強の存在となった俺はドラゴンボールの世界を漫喫することにした。
そんな俺はというと、いまはミスターサタンの屋敷で居候している。
一緒に同居しているのは、破壊神のビルス、大神官、戦闘力5の農夫の親父、ライフル銃のテロリストの男だ。
みんなどれも個性的な奴らだ。
俺はそんな彼らと共に暮らしている。
そんなある日。
外は真っ暗な雲に覆われており、昼というとにかなり暗かった。
さすがに真っ暗というわけではなかったが、いまにも豪雨が降りそうな天気だった。
しかも、風もかなり強く吹いている。
テレビを見ても台風やハリケーンが来ている情報は一切なかった。
なのになぜ、こんな天候になっているのだろうか…。
「不気味な天候ですね」
大神官が、屋敷の窓から黒い雲を眺めている。
俺も彼の近くにいたので、一緒に空を眺めていた。
「おお、全王様、大神官様。クッキーが焼けましたよ。どうですか?」
ミスターサタンの親父がにやけ顔でやってきた。
エプロンを着けており、台詞通りクッキーを焼いていたらしい。
「親父。こんな趣味があったなんてな」
俺は彼に笑いながら答えた。
それを聞いたサタンは照れくさそうにする。
おっさんなので可愛さは皆無なのが残念だ。
「てへっ…。パンもいるので、これくらいはこなさないとなって」
ミスターサタンが嬉しそうなのは事実のようだ。
パンとは彼の孫のことである。
彼は努力しているようだ。
これ以上言うのはやめておこう。
「わかった」
と俺は言った。
こうして、俺と大神官はリビングへと向かった。
リビングへ向かうと、ライフル男がダージリンの紅茶を淹れてくれていた。
ビルスと戦闘力5の農夫は椅子に座っている。
「全王様、はやくっ!」
子供のようにビルスが急かしてきた。
「わかったよ」
俺は言いながらテーブルの椅子に座った。
大神官も無言で椅子に座る。
テーブルの上にはサタンが焼いたクッキーとダージリンティーが置いてある。
おっさんと異形のティータイムはまさしく異様であった。
「いただきます」
俺はさっそく、サタン、ビルス、大神官、農夫、ライフル男と一緒に紅茶を啜った。
「うまい!」
俺が言うと、ビルスと大神官は頷いた。
「ああ、なかなかだな」
「ええ、美味しいですねえ」
しかしだ…。
戦闘力5の農夫はなぜか浮かない顔をしている。
体調が悪いんだろうか。
俺は心配になり農夫に声をかけた。
「親父…。どうした?」
俺の問いかけに、どこかしょげたような顔で農夫はこう答えた。
「おぉ…。全王様。あんな、ワシ、なんか全王様が遠くに行ってしまいそうな予感がしてて…」
意味深な発言だった。
俺はそんな言葉を聞きたくなかった。
しかも、こんな悪天候の中…。
窓に強風が鳴る音が聞こえる。
今にもガラスが割れそうな勢いだ。
「親父…」
俺はそう呟く。
農夫はいまにも泣きそうな顔でこちらを見てきた。
「全王様! ワシは心配なんです! なんか、全王様が遠くに行ってしまうような気がする…。ワシの予感です!」
農夫の予感は当たっていそうで怖かった。
証拠として、窓ガラスが割れそうなくらいに風が強く鳴っている。
しかも暗雲のせいで空は暗い。
なにかの予兆なのは俺も薄々感じていた。
「親父…」
俺がそう言ったときだった。
突然、窓ガラスが割れたのだ。
「んなぁっ!?」
ビルスが驚いた声をあげる。
ライフル男は慌てて割れた窓からの方へ向かい状況を見に行く。
俺も急いでライフル男のもとへと向かった。
「くそっ!なんて強さなんだっ?」
屋敷内の柱にしがみついているライフル男。
必死に飛ばされないようにしている。
俺はライフル男を助けに、足を急ぐことにした。
ビルスが驚いており、大神官はポカンとした様子で立ち尽くしている。
「ライフルの兄貴っ!待ってろ!」
俺はそう叫びながらライフル男の元へ向かった。
しかし、次の瞬間だった…。
突然、俺の身体が勝手に、吸い寄せられるような感覚に襲われた。
俺は抵抗しようと試みるものの、まるで金縛りにあったように動かなくなってしまった。
なぜなんだ。
「な、なんだっ!?」
俺は思わず声を出したが、それでも身体は動かない。
大神官とビルスは遠くにおり、それでも飛ばされないように壁や柱にしがみついて俺たちの方へ目を向けていた。
「大神官様っ!あ、あれは…?」
柱にしがみつきながらビルスが声をあげて指差した。
ビルスの指差すほうには、紫色の巨大渦が不気味に渦巻いている。それは、まるでブラックホールのような物体だった。
その渦は俺を容赦なく吸い込んでいる。
「あ、あれはもしや…」
大神官は驚きながらその渦を見ている。
彼らは本心では俺を助けようとしていたが、見たことがないものらしく
「全王様っ!」
ビルスが叫ぶ。
俺は必死に抵抗しようと試みるが、身体は言うことを聞かない。
「親父!大神官!ビルス!」
俺は叫ぶことしかできなかった。
びゅおおおおっ、と凄まじい音を立てながら、紫色の渦は俺を吸いこもうとしている。
俺は必死に足をじたばたさせた。
「くっ…、くそっ…!」
俺は抵抗するのがやっとだった。
「全王様っ!」
と大神官は叫んだが、それでも俺の身体は動かない。
俺は大神官たちにこう叫んだ。
「お前ら!このバカでかい渦は俺を喰らおうとしている!ここは俺がひきつける!」
「で、ですが…!」
ためらった顔の大神官。
その顔には助けることができないもどかしさがにじみ出ている。
わかるよ。
お前がオレを助けたい気持ちは。
だけど、俺は本来、ここにいてはダメな奴らしい。
お時間か…。
俺はそう心の中で呟くと、抵抗をやめた。
「親父!大神官!ビルス!生まれ変わることがあれば…。また会おう!」
俺は、そう叫んだ。
俺の身体はもう動けない。
紫色をした不気味な渦に吸い込まれていく…。
「全王様っ!」
大神官が叫ぶのが聞こえたが、俺はそのまま紫色の渦に吸いこまれてしまった…。
「うっ…。うわああああああああああっ!!!!」
俺は絶叫しながら、この渦の中でもがいていた。
しかし、俺にできるのは急降下落下でどこかに落とされるのを耐えることと、叫ぶことだけだった。
俺は全王の姿だった。
小さい姿なのかは不明だが抵抗がまったくといっていいほどできない。 俺はどこへ向かっているんだろうか。
本当に現実世界なのか。
ビールを飲んで寝落ちしたらドラゴンボールの世界だったが、果たして帰れるんだろうか。
あんなことを言ってしまったが、あっちに帰れたらあいつらの生まれ変わった姿と相まみえるのだろうか。わからない。
ただ、いまはこの渦の中で耐えることしかできない。
「ああ…、ああっ!!」
俺は叫びながらもがき続けた。
しかし、この渦の中ではなにもできない。
抵抗は無駄だった。
「くっ…」
俺はもう叫ぶ気力もなくなった。
このまま死ぬのだろうか…。
そんなことを思っている俺の目の前はどんどん暗くなっていく。
くそっ、何も見えないな…。
なるほど、平凡すぎる俺はこうして死を迎えるのか…。
犯罪も犯してないってのに、なんで俺がこんな目に…。
耳も聞こえなくなってきた。
そうか。本格的に死ぬのか、俺…。
最強のキャラクターになっても死という概念はあったのか。
すまん、大神官、ビルス…。
そして父さん、母さん…。
そして、俺の元いた世界のみんな…。
俺は死ぬみたいだ。
もう何も聞こえないし、なにも見えない。
あの世ってどんなところなんだろうか…。
俺にはわからない。
くそっ……。
平凡すぎた俺にもこんなに悔いが残るとはな…。
もう死ぬのか。
ああ…、もうだめだ…。
……?
「…こ」
なんでだろう。声が聞こえる。
どうして?俺は死んだのに…。
「…ひこ」
…ひこ?
あれ?これってまさか…。
まだ死んだわけじゃない感じ…?
ま、まあ渦に巻き込まれて絶対に死ぬってわけじゃないし…。
聞こえるのは聞こえる。
しかし、目の前が真っ暗なのでどうしようもない。
「ふゆひこ」
えっ…?ふゆひこ…。俺の名前じゃないか。
本当の名前…。善応寺冬彦…。
そうだ。俺は全王様じゃない。
善応寺冬彦だ。
愛知県名古屋市在住のしがないおっさんだ。
「ふゆひこ」
また聞こえた。
俺の名を呼ぶ声だ。
聞いたことがある声だ…。
とても懐かしい…。
で、でも誰の声なんだ…?
女性なのは確かだ。
…でも、なんか聞き覚えがあるような気がする…。
俺が行き着いた先は天国なのか。
はたまた地獄なのか。
それとも…。