ドラゴンボール超 ビールを飲んだおっさんがダラダラと全王様になった話   作:北村 貴之

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現実世界
全王様になったビールを飲んだおっさん、現実世界に帰還する


俺はドラゴンボール最強のキャラクター「全王」になっていた。

部下と居酒屋でビールを飲んでいて、酔いつぶれて眠ってしまい、気がついたら全王になっていてドラゴンボールの世界に来てしまっていた。

…俺の本当の名前?ああ。そうだな。

俺は善応寺冬彦。

愛知県は名古屋市。ここで生まれた頃から家を離れずにいた男だ。

兄弟は兄がひとり、弟がひとり。つまり3人兄弟の真ん中、次男ってわけだ。

全王様になっていた俺は、ドラゴンボールの世界を満喫することにした。

ある日には破壊神ビルスとビールを飲み、またある日にはカプセルコーポレーションの会社見学会に行ったり、またある日にはミスターサタンの家にいきなり住み着いたり…。

割とやりたい放題で全王様を満喫していた。

大神官とビルスを振り回しつつ、全王様を、ドラゴンボールの世界を楽しんでいた。

 

だがそれも終わりを告げるように、突如として紫色の大きな渦が俺を巻き込んだ。

俺のみを狙うようにその渦は発生しており、空一面を覆う暗雲と木をなぎ倒すほどの強風が予兆だった。

俺は必死に抗ったが、運命には逆らうことはできずにその渦の中に巻き込まれてしまった。

あの渦は意思を持っていたようだった。

まるで俺を餌として認識し、他の者は一切興味を示していなかった。

紫色の渦に飲み込まれた時、俺はだんだんと生命力がなくなっていくのを感じていた。

どこかに落とされている感覚はあった。だが、だんだんと音は聞こえなくなり、目の前も次第に暗くなっていった。

そうか。これが「死ぬ」ということなのか。

俺は秩序を乱しているはずもないのに、犯罪を犯しているわけでもないのに、その渦に巻き込まれてしまった。

なぜ俺「だけ」が飲まれてしまったのか?

その渦の中にいるとき、俺はあることが脳裏に浮かんだ。

そう、俺はあの世界に本来はいてはならない存在なのだ。

本当の全王様ならばこの世界にいるべきなのだが、俺がなっていた全王様は異物同然の存在だった。

考えてみれば、異世界の人間が突然神になるなんておかしい話だ。

小説や漫画ならありえそうだが、現実でこんなことが起きるなんてあり得ない。

俺の魂は、あの世界にとっては異物だったようだ。

本来いるべきではない存在が、あの世界が許していないのかもしれない。

だがなぜ俺が全王様になっているのか?それは俺にもわからない。

ただひとつ言えるのは、俺はもともとあの世界にいていい存在じゃないということだ。

だから俺は全王でいることに違和感を覚えていたのかもしれないし、すぐにでも元の世界に戻りたかったのかもしれないな…。

 

耳が聞こえなくなったはずの俺の耳に声が聞こえる。

…なんだろう。聞き覚えのある声だ。声は女性だった。

俺はこの声を知っている。

「…ひこ。…ゆひこ」

「冬彦」って呼んでいるんだろう。

あの世界に来てから俺はずっと「全王様」と呼ばれていた。

当たり前だが「冬彦」だの「善応寺」だのと呼ばれたことは1回もなかった。

そりゃそうか。見た目が全王なのだから、他の名前で呼ばれることはないのも当然だ。

それにしても誰が俺の名前を呼んでいるんだ?

でも俺は声の主を知っている…。

「冬彦…」

そうだ。俺の名前は冬彦だ。全王じゃない。

早く答えなきゃ。返事をしないと…。

「冬彦…。冬彦っ…!!」

 

 

 

「ほら起きて!起きなさい冬彦っ!」

そう大声を上げられながら、身体を揺さぶられていた。

こうして、俺はゆっくりと目を開けた。

俺を呼ぶ声。俺の名を呼ぶ人物…。

目を開けると、そこは別の場所だった。

目覚めた俺はすぐに気づいた。

そう。ここは俺の家…。俺の自室だ。

そして俺の目の前にいたのは女性…。俺の母親だった。

「母さんっ!?どうしてここに?」

俺は上半身を起こして、あたりを見渡す。そして、いまいる場所が俺の自室だったことに驚きつつ辺りを見回した。

 

「冬彦…。やっと起きたのね!」

母さんはほっとした表情を浮かべていた。

母の名は京子。

もうじき還暦となる年齢に反して、見た目は30代前半くらいの若々しい外見をしている。

ウェーブがかった栗色のロングヘアに、推定Eカップはありそうな乳。

しわ一つない、整った顔つき。

ニットのシャツを着ているため豊満な乳がばっちりと形を成していた。

俺は今、ベッドの上にいた。

「か、母さん…。俺…」

「冬彦…。あなた、居酒屋で酔いつぶれててね、部下の子たちがあなたをここまで運んできてくれたのよ」

「えっ…」

俺は居酒屋で酔いつぶれていたのは覚えていた。

だが、運ばれたことに関しては一切記憶にない。

俺は頭が混乱していた。

寝起きだったのもあるが、いきなり現実世界に戻されたことに頭が追い付いていなかった。

「…てかあいつらよく俺の家の住所なんて知ってたな」

俺はあぐらをかいてそう呟いていた。

「冬彦。会社に着いたらあの子たちにちゃんとお礼言うのよ」

京子はそう言いながら、ベッドから立ち上がり台所へと歩いていった。

「はぁ…」

とため息をひとつつきつつ、俺は頭をぽりぽりと掻いた。

頭を掻きむしった感覚。俺はそれで人間に戻れたことを確認できた。

そして、両手を見る。肌色で大きな手だ。

確かに人間としての俺の手だ。間違いない。

俺は紺色のスウェット姿だった。

寝間着として着ているものだ。

 

時計を見た。朝の7時15分だった。

俺は一気に眠気が覚めた。

しかも曜日は金曜日、余裕で平日で仕事もある日だ。

「やべえっ!!」

俺はそう叫び、すぐに支度を始めることにした。

着替えを済ませる。

スウェットからスーツへと着替えたのだった。

まだネクタイは締めていない。

服を着替えると、朝食を食べるべくひとまずリビングに向かう。

母さんが朝食を作り、机の上に並べてくれていた。

椅子には父が座っていた。名は勇司。

還暦を迎え、定年退職したために今は家にいる。

「おお冬彦、おはよう」

「ああ、おはよう、父さん」

俺はそう挨拶をした。そして椅子に座り、箸を手に取る。

テレビをつけると朝のニュース番組がやっていたのでチャンネルを変えることにした。

そのチャンネルでは、高校野球の特集が取り上げられていた。

俺は母さんが机に食事を並べている間、そのニュースを見ることにした。

 

「さあ、いま愛知でアツい高校!その名も彩家高等学校!この学校の硬式野球部の活躍に今、目が離せません!」

テレビに映るアナウンサーが興奮気味に伝えている。

俺は初めて聞くその高校に、少し興味を持った様子をしていた。

彩家高等学校という、愛知県の学校。

野球部は毎年甲子園への出場経験もあるようで、現在在学中の球児が話題となっているようだった。

父さんもテレビを見ていた。

「特にいま目が離せない球児は、主将の西谷空悟くん!超絶イケメンかつ高身長の、絵にかいた最強球児!」

「にしたに…。くうごか」

俺はそう呟く。

「彩家高等学校・西谷空悟くん!そのスイングのキレと超絶イケメンさは、野球界に新風を巻き起こすか!」

アナウンサーが熱っぽく語る。

そうこうして、次の球児の紹介に移った。

「そして彩家高校の名ピッチャーは、岸部瞬太くん!背は低くても球のキレは抜群!彩家高校を引っ張るエースです!」

アナウンサーが興奮気味に話す。

「きしべ…。しゅんた…」

俺はそう呟いた。そしてテレビを見る。

「西谷くん、岸部くん。いまわれわれが目が離せない存在となっています!」

テレビに映る球児たちは勇ましく、そして美しく映えていた。

来たるべき日に備えて必死に身体を鍛錬していることがよくわかる。

隆々とした腕の筋肉がその証拠だ。

「さあ、来年の愛知県の高校野球の夏に目が離せませんっ!!」

そんなアナウンサーの言葉とともに、テレビは別のコーナーに切り替わっていた。

「…」

俺は一瞬思考停止になった。なぜかはわからないが…。

テレビには芸能人の不倫の報道が行われていた。

母さんが食事を並べ終えたようだ。

「さ、食べましょ」

母さんがそう言うと、俺たちは手を合わせて、

「いただきます」

と言ってから朝食をとった。

 

俺が家の朝食をとるのはかなり久々だった。

あちらにいた時間がかなり長かったためか、ここでの食事がだいぶ久しく感じれてしまったのだ。

母さんの話から察するに、酔いつぶれたのは昨日の出来事らしい。

つまり、俺があっちの世界にいる間、こちらではたった数時間しか時間が経っていなかったようだ。

う~ん、なんとも不気味だ。

「母さん、父さん」

俺は食事をしながら話しかける。

「ん?なんだ冬彦」

父・勇司が聞く。

「その…。俺が酔いつぶれて寝込んでいる間なんかあった?」

俺はそんなことを言った。

その発言に二人はきょとんとした顔をしていた。

「いや…。特に何も起きなかったがな」

父さんがそう返す。

「そ、そうか…」

俺はそう答えて、朝食を食べることに専念した。

そうか…。何もなかったのか…。

「あっ…」

俺が何かを思い出したかのように声を上げた。

「どうしたの?」

そう母さんが聞く。

「なんだろう…。なんか久しぶりに母さんの手料理食ったなって」

嘘ではない。本当に俺は母さんの料理が懐かしく感じてしまったのだ。

その証拠が卵焼き。

絶妙な甘さと焼き加減が、いつも通りの味だった。

口に入れた瞬間のあの味。

俺は懐かしさと嬉しさのあまり、涙ぐみそうになっていた。

「なによ急に…」

母さんはそんな俺を見て笑っていた。

母さんと父さんは俺よりも先に朝食を食べ終えていた。

どうやら少しのんびり食べてしまっていたらしい。

「ごちそうさまでした」

俺は手を合わせてそう言った。そして、食器を流し台に運んでいった。

 

それから数分後。

俺は出社すべく家を出ることにした。

「行くのね」

「ああ。あいつらには迷惑かけたしな」

俺は革靴を履きながらそう母さんに返答した。

こうして靴を履くのもなんかだいぶ久しぶりに思えた。

「そうね。さ、行ってきなさい」

「ああ。行ってきます!」

俺は元気に母にそう言って、家を出て行った。

外を出ると、だいぶ久しく感じる名古屋市内の住宅街。

青々とした空が俺を落ち着かせる。

「んん~。やっぱりここが一番だな」

そんな独り言を呟きつつ、俺は駅まで歩いていった。

 

こうして地下鉄に乗り会社の最寄り駅に着き、エスカレーターを使い地上へと上がる。

そして、徒歩で会社の前に来た。

変わらぬオフィス。変わらぬビル街。

いつもと変わらない日常だ。

「さっ、行くか!」

俺はそう言ってオフィスの中へと入っていった。

 

 

「おお!おはよう」

オフィス内の営業部の部屋にて。

俺は先に来ていた部下に挨拶をした。

昨日俺と飲んでいたという、やせ形でガリガリの冴えない男の竹内。そして、しなやかな身体を持つ元サッカー部のイケメンの福元。

彼らはパソコンでメールを確認していたようだ。

「おはようございます部長!」

福元が一礼して挨拶してくれた。

「悪いなふたりとも…。昨日は迷惑かけて」

俺は居酒屋で酔いつぶれたことを謝罪した。

家まで送ってくれたのは本当に申し訳ない。

「いえいえ!俺たちだっていつも部長に迷惑かけてる立場ですし…」

竹内がそう言葉を返す。

「部長、今日はいつもより顔色がよさそうですね」

福元がそう言った。

「ん?そうかな?」

俺はそう言ってみたものの、自分自身で実感はない。ただいつもの調子というだけだと思っている。

竹内は俺を見て、なんか安心したような顔をしていた。

俺はひとまず、自分のデスクへ向かい、パソコンに向き直ってメールを確認し始める。

そして、きょうの仕事の準備を始めた。

 

 

数時間後、営業部の部屋にて。

俺はパソコンで作業をしながら、竹内にこんなことを質問してみた。

福元はというと、まだ営業先から戻って来ていない。

会社に帰ると連絡はあったため、戻ってくるのは確定だった。

「なあ、竹内」

「はい部長」

竹内もパソコンの前にいたようで、椅子に座ったまま俺の方に顔を向けた。

「お前ってさ…。生まれ変わりとか信じる?」

変な質問をしてしまった。

ま、まあ全王様になってしまったので、現実世界に戻ってくればこんな質問もしたくなるので仕方はないと思うが…。

「はあ…」

竹内は気の抜けた返事をしていた。

「寝てるときに俺な、すごい夢を見たんだ」

俺はすぐにそう返答した。

「ど、どんな夢ですか?」

竹内は少し首を傾げてそう言った。

そして数秒間を空けて俺はこう話した。

「ドラゴンボールに全王様っているだろ?俺な、その全王様になってたんだよ」

ちょっと自慢げに話してみた。

「全王様って…。あの全王様ですよね?」

「ああ。そうなんだ。俺は本当に全王様になった夢を見ていたんだ」

俺は少し興奮気味に話す。

竹内の目が若干信じてないような色をしているが気にしないでおいた。

「全王様…、ですか」

竹内がそう返してきた。

「あんな量のビール飲んだんだから、変な夢を見るのも仕方ないと思いますけどね…」

「へっ…?」

なんか軽いな…。まあ昨日迷惑をかけたわけだし、こういう対応をされても仕方ないと思うが…。

「びっくりしましたよ昨日は…。いきなり音を立てていびきかいて寝るんだから」

「わ、悪い…」

俺はそう返すしかなかった。

「まあでも、部長がああやって酔いつぶれるなんて珍しいですね」

竹内がそんなことを言ってきた。

「そうだな…」

俺はそう返してから、また作業に戻った。

果たして彼は俺の話を信じたのか、それとも信じなかったのか…。

真相は竹内のみ知る。

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