ドラゴンボール超 ビールを飲んだおっさんがダラダラと全王様になった話   作:北村 貴之

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最終話 全王様となっていたおっさんと生まれ変わった者たちとの出会い

突然だが、皆さんは、別の誰かになっていたことはあるだろうか?

俺はある。

俺は何になったのかというと、ドラゴンボール最強のキャラクターとして知られている、全王様になっていたことがあった。

俺はある日、職場の部下と仲良く居酒屋でビールを飲んでいた。

ビールの量が多すぎたのか、俺は酔つぶれてしまいそのまま寝落ちしてしまったらしい。

その間、俺は当然ぐっすりと爆睡してしまったわけだが、その時に全王様となった夢を見ていたようだ。

しかも、ただの夢ではなかった。

本当にドラゴンボールの世界にいたのだった。

あの世界の人々、食事、文化をこの肌で感じてきたのだ。夢にしては妙にリアルだった。

こんな夢は生まれてはじめてだった。

いや、あれを「夢」と呼んでいいものなのだろうか…。

 

あの世界にいてる時だった。

俺はその時ミスターサタンの屋敷に居候しており、サタンの焼いたクッキーでお茶会をしている時だ。

突如として紫色の大きな渦が俺を飲み込むように吸ってしまったのだ。

俺を目的としているらしく、他の者には眼中もなく俺のみを吸い込んだ。

俺はあの大きな渦に飲み込まれたとき、こんなことを思っていた。

俺は、あの世界に存在してはならない異界の紛い物ではないのか?と。

ただの人間である俺はあの世界からすれば確かに異物なのかもしれない。

俺はあの世界にいてはならない存在だったのだろう。

しかし、なんで俺は全王様になっていたんだろうか。

こちらの世界では数時間しか経っていないのに、あっちの世界にいた時は1ヶ月以上経過していた。

いったいどういうことなんだ…。

 

 

「冬彦?冬彦っ!」

俺を呼ぶ声が聞こえる。

この声は俺の母・京子の声だ。

俺はぼーっとしていたらしく、母に呼ばれているのに気がつかなかったようだ。

「ああ、母さんか」

「どうしたの?ボーッとして」

俺は自分がなぜあの世界にいたかを母には話さなかったが、あの世界のことは一生忘れることはない。

なんせ、夢にしてはかなりリアルすぎたのだから…。

俺の目の前には母が用意してくれた食事が並んでいる。

そうだ。

夕食の時、俺はこんなことをふと思い、考えてしまった結果意識が遠のいてしまったようだ…。

「なんか悩んでることでもあるの?あるなら相談に乗るけど?」

母さんは昔から変わっていなかった。

困ったときにはいつもこうして手を差し伸べてくれる。

「いや、何でもないんだ母さん。ちょっと考え事をしてただけだから…」

「そう?」

俺の母は勘が鋭いのだ。

俺が何か悩んでいることを見透かしているのかもしれない。

いや、見透かしていたとしても俺はこのことを話すわけにはいかない…。

あの世界のことは簡単に話してはならない気がする。

「そういえば冬彦、最近仕事の方はどうなの?」

「ああ、最近は順調だよ」

俺はありのままのことを話した。

あちらの世界に帰ってきてから久々に元の仕事を再開したが、トラブルもなく難なく事が進んでいる。

俺は母さん特製のハンバーグを箸で掴み、口に運んだ。

ハンバーグはとてもおいしい。

母さんの料理は本当にいつ食べてもうまいのだ。

俺は昔から母さんの手料理が一番好きだ。

「それはよかったわ。深刻な顔してるから、心配になっちゃった」

「ああ、すまん」

俺は笑いながら頭を掻いた。

現実世界に戻ってきてからトラブルがひとつも起こっていないのは本当に良いことだった。

しかし、俺は何か頭の中に引っかかるようなことがあった。

 

俺はテレビを見ていた時、気になる高校を知った。

その高校の名前は「彩家高等学校」。

読みは「さいやこうとうがっこう」と読む。

テレビでやっていたニュースでは、愛知県では有名な甲子園出場の常連校として知られている高校らしい。

「彩家高等学校」という高校、俺は実は知らない学校なのだ。

俺は名古屋市内の高校に通っていたが、そんな高校の名前は知らなかった。

愛知県内の高校はある程度知っていたが、そんな名前の高校は聞いたことはないし、制服も見たことはなかった。

俺がこの現実世界へ戻ってきたとき、テレビを見ているとこんな高校の名前が飛び込んできた。

俺は信じがたかった。

「さいや」と名を冠した高校を知らなかったからだ。

ドラゴンボールの世界から帰還して「さいや」と名のつく高校を知ったとき、俺は戦慄した。

俺があの世界から帰ってきたとき、どうしてあんな学校がいきなり出てきたのだろう…。

いったいあの世界と現実世界では何が違っているのだろうか?

「母さん…」

俺は思い切って母さんに聞いてみた。

「ん?どうしたの?」

母さんは首をかしげたが、優しく答えてくれた。

「あのさぁ…、彩家高等学校って高校って本当にあったっけ?」

食卓には父・勇司がいた。

母さんに変わり父さんが答えた。

「はっはっは。冬彦は何を言ってるんだ。あの高校を知らないなんて、お前は遅れてるな」

父さんは高笑いした。

「えっ?それって有名なところなのか?」

「ああ、有名も有名!愛知県では知らない人はいない超有名な高校だぞ」

俺は父さんの話を聞いた後、母さんにも聞いてみた。

「母さんも知ってるよね?」

そう聞くと…。

「毎日ニュースでやってるからね、知らない訳はないわ」

母さんも知っているようだ…。

いや、本当にあんな名前の高校はなかったのだ。

俺は背筋が冷えるような感覚になった。

なぜだろう。

俺だけがこの違和感を感じていた。

父さんも母さんもあの高校は知っていたようだ。

俺があっちの世界にいたとき、こちらでは何があったのやら…。

 

 

そんなことがモヤつく中。

俺が勤務している会社のオフィスにて。

俺はある日、総務部の部長である武田部長に呼ばれていた。

俺がいまいるのは総務部の部長室。

俺は一体なぜ呼ばれたのだろうか…。

「おお善応寺くん。悪いね、いきなり呼び出してしまって」

武田部長は笑いながら俺を迎え入れてくれた。

「いえいえ…。それで、今日はどうしたんですか?」

俺は愛想笑いした感じで尋ねた。

「ああ、実は君に頼みがあってな…」

武田部長は俺に何か頼みたいことがあるらしい。

俺は武田部長の依頼を聞くことにした。

「実はだな…。今度、出前授業で職業紹介として君に営業職とはなんぞやを教えに行ってほしいんだ」

武田部長の頼み事。

それは、学校での出前授業で営業職の紹介をしてほしいとのことだった。

しかし、どこの学校で出前授業をするのだろうか?

高校であるのは明らかであった。

「えっと、どこの高校なんです?」

俺は武田部長に尋ねる。

それを聞くと、武田部長はにやっと笑い、こう答えた。

「よくぞ聞いてくれた。君に行ってもらう学校。そこは、彩家高等学校だよ」

彩家高等学校…。

あの高校だ。

西谷空悟と岸部瞬太をはじめとする球児がいる、あの強豪校だ。

全王様となっていた俺があの高校に出前授業をするために赴くのは偶然なのだろうか。

「来週の月曜日だ」

「はぁ…」

「頼めるか?」

「ええ。構いませんよ」

俺は即答した。

武田部長からの依頼を俺は引き受けた。

断る理由も特になかったからだ。

だが、俺はあることを知りたかった。

彩家高等学校。西谷空悟。岸部瞬太。

あるものによく似ている名前だ。

真相を確かめるべく、俺は彩家高等学校へと赴くこととなった。

 

 

彩家高等学校へ赴く前日である日曜日。

俺は自宅にいた。

そこで、彩家高等学校についての情報を、ノートパソコンを用いてインターネットで検索していた。

彩家高等学校は愛知県では有名な高校だ。

甲子園出場の常連校であり、硬式野球部への入部希望もかなり多い。

そんな強豪校の有名な球児は、主将の西谷空悟と、ピッチャーの岸部瞬太だ。

俺はテレビで彼らを知った。

だが、そんな情報ははじめて知った。

俺の記憶にまったくない学校と、まったくない少年たち。

俺は不思議でならなかった。

俺は調べたいものをすべて調べた後、ベッドに横たわった。

横になっても考えはまとまらないが、仕方がない。

明日になれば何かわかるのだろうか…。

 

 

初めて彩家高等学校へ行く日がきた。

俺にとって、高校で出前授業をするのははじめてだった。

俺はスーツを纏い、愛知県でも知らぬ者はいない有名な学校へと足を踏み入れた。

なんだろうか。俺にはわかる。

校門をくぐると漂う、神聖な空気。

学校の見た目はごく普通の高校だ。

しかし、俺には感じていた。

まるで、違う世界世界にいるようなそんな感覚を…。

俺は学校を見回した。

どこにでもある高校だ。しかし、ここには何かがあると俺は感じていた。

校門の前には教師と思われる男のが1人立っていた。

ハゲ頭に黒縁のメガネをかけていた。

「善応寺さん!お待ちしておりました」

と大きな声で言い俺を迎えてくれた。

「あぁ、本日はお願いします」

俺は彼に頭を下げて挨拶した。

そして、

「ささっ、どうぞこちらへ」

と案内され、俺は男に付いていった。

俺が連れて来られたのは1階の控室だった。

俺は控室にあったソファに座る。

俺を案内してくれた男が、リストと思わしき紙とお茶を机の上に置いた。

「しばらくお待ちください」

男はそう言って控室を去った。

俺は出されたお茶を飲む。

ごく普通の緑茶だった。

そして、俺は、お茶と共に出されたリストに目を向ける。

そこには、今回授業を受ける生徒たちの名前が記されていた。

俺の目に、複数名の人物の名が目に入る。

俺が気になった人物名はというと…。

 

岸部瞬太

秩父純子

西谷空悟

古川麻里子

滑川正彦

水木三太

 

その名が目に入ったとき、俺は一瞬、思考が止まった。

なぜかは俺もわからない。

だが、名前を声に出して呼んで見ると、明らかに「あの世界」の人々と名前が似ているのだ。

ここまで見届けていた人たちなら言うまでもないが、ドラゴンボールの世界の人々の名前と似ていた。

だが、なぜだ?

俺があの世界から帰還して、なぜ彼らがいるんだろうか?

考えれば、考えるほどわからなくなる。

まさかとは思うが、ドラゴンボールの世界にいる彼らが生まれ変わったとでもいうのか?テレビで注目されている、西谷空悟たちが…。

俺はリストを再度見たあと、机に伏せてしまった。

一体この学校はなんなんだ? 俺にはわからないことだらけだ。

「善応寺さん!時間です!」

先ほどの男が控室に入ってきた。

そろそろ出前授業の時間のようだ。

「はい!ではでは!」

俺は立ち上がる。そして、控室を後にした。

 

俺は出前授業を行う教室に着いた。

一学年の生徒全員が入れるかなり大きめの教室だ。

廊下から教室を覗くと、そこにはすでに100人を超える生徒がいた。

先ほど見たリストに書かれた生徒たちだ。

「ではこちらへ」

教師は、俺に教室へ入るよう促した。

俺は指示通り教室へと入る。

生徒たちの目線が俺に集中する。

教室内は静寂が支配していた。

「皆さん、おはようございます。今回授業を行う、善応寺冬彦と申します。本日はよろしくお願いします」

俺は生徒たちに挨拶する。

生徒からの返事で、

「よろしくお願いします」

と一斉に挨拶をした。

こうして、俺による営業職の紹介が内容の出前授業が始まったのだった…。

 

俺は持ってきたノートパソコンと教室のプロジェクターを用いて営業職のことについて説明していた。

「営業職とは、皆さんが思っているよりも素晴らしいお仕事なんです」

俺はそう説明していた。

生徒たちは俺の話を真剣に聞いている。

「営業職はただ売るだけではなく、お客様の満足度も重要になってきます。そのために必要なこと。それはトークスキルです。上手く話を展開が出来るか否かによって、大きく変わってきます」

俺はこのように話をして、丁寧に説明をしていった。

生徒たちはノートをとりながら黙々と俺の話を聞いてくれている。

進学のみならず就職をする者もいるため、仕事を知るということは今後の将来を考えるのにとても大切なことだ。

そんなこんなで、出前授業は順調に進んだ。

 

 

 

そして、出前授業は終わりを迎えた。

今回の出前授業は個人的には成功だった。

ありのままに自分がいまやっている仕事を伝えることができたためだ。

「えーっ、本日はここまでとなります。最後までご清聴いただき、ありがとうございます」

そう言って俺は生徒たちに頭を下げる。

生徒たちから拍手が起こった。

俺は控室に戻ろうとしたとき、1人の男が俺に声をかけた。

俺を案内してくれた男とは別の男だった。

ふっくらと太った男だった。

「あっ!善応寺さん!」

俺が控室に戻る際に声をかけてきたようだった。

「どうされましたか?」

俺は彼に聞き返した。

「あのーっ、少しお時間よろしいですか?」

そう言われると、俺は腕時計で現在の時刻を確認した。

まだ正午にもなっていない。

会社に戻るのもまだ早めの時間帯だ。

「ええ。少しだけなんですけど、まだありますよ」

俺はそう回答した。

それを聞くと太った男は、

「おお、それはよかった!実はですね、この学校に先ほどお客様様が来られててですね、今日出前授業をする善応寺さんにどうしてもお会いしたいと申しててですね」

「ぼ、僕にですか?なんで会社じゃないんだろうか…」

俺は疑問に思った。

普通、会社に連絡するものじゃないのかと…。

「あっ!申し遅れました。私、この学校の校長をやっております大山と申します」

彼は頭を深々と下げてそう名乗った。

まさかの学校長だった…。

「それで…。どこに行けばいいんでしょうか」

俺は大山に質問をした。

「ええとですね。とりあえず、校長室に来ていただけますか」

「はぁ…」

俺は大山に言われるがまま、校長室に向かうことになった…。

 

校長室の中は学校の外観からは想像できないほど、豪華なものだった。

「善応寺さん!こちらです」

大山が俺を案内する。

俺は彼の後に付いていく。

「こちらです」

彼はそう言って、ある扉の前で立ち止まった。

「この中にいるんですか?」

俺は大山に尋ねたが、彼は首を縦に振っただけだった。

そして、彼は扉に向かってノックした。

コンコン…。

「失礼致します、善応寺さんをお連れしました」

大山がドアに向かってそう言った。 「ご苦労さん。じゃあ、入ってもらって」

扉の向こうからは老婆の声がした。

お婆さんが俺に会いたいっていうのか?

俺は疑問に思った。

「では、どうぞ」

大山は俺に促す。

俺は校長室の中にある部屋へと入った。

中には、老婆が1人と、複数の生徒がいた。

老婆の見た目は70代後半といった感じだ。

服装は黒い大きな三角帽子とローブだった。

白雪姫とかに出てきそうな、いかにも魔法使いのお婆さんといった風貌だ。

髪は白く染まっており、背も低い。

しかしお年寄りの割にはとても元気な方に見えた。

お婆さんは俺を見るなり、こう言った。

「ああ…、あんたが善応寺冬彦くんか」

と言ってきたのだった。

俺は校長室の中に入り、その老婆と生徒たちに一礼する。

生徒たちは先ほど出前授業を受けていたあの生徒たちだった。

なんなんだこのメンツは…。

まさかとは思うけど、この部屋にいるのって…。

「え〜っ、紹介しよう。善応寺冬彦さんだ」

老婆が俺を紹介した。

初対面なのにどうして俺の名前を知っているんだ…?

「えー、先ほど出前授業を至しました善応寺です。また会ったね、ははは…」

改めて自己紹介をする俺。

そんな俺を、生徒たちが見つめている。

「あんたの席はこっちだ」

老婆が俺の座る席を教えてくれた。

俺は用意された席に座る。

「よし、これで役者は揃ったね」

老婆がそう言った。

役者は揃った…。

その言葉が、俺の中で何か引っかかるものを感じさせた…。

「善応寺くん、急に呼び出してすまなかったね」

老婆はそう言って俺に詫びてきた。

お婆さんはどうやら俺のことを知っているらしいが…。

俺が困惑していることを察してか、お婆さんは再び話し始めた。

「皆の衆、忙しいのに集まってくれてありがとう。私の名は浦井ハツエ。大須の方で占い師をしているババアだ」

ば、ババア? 自分でそう言うのか。

まあ、「女子」を自称するよりははるかにマシではあるが。

俺はこの集まりが何の集まりなのかまったく理解できていなかった。

そのため、視線があちこちに向いてしまう。

それを察したのか、ハツエさんが俺に声をかけてきた。

「緊張しているのか。まあ、仕方がないか」

「す、すみません」

俺はひとまず謝る。

「謝る必要はないよ。急に呼び出されれば、誰だって緊張はするもんだ」

ハツエさんは、俺の謝罪を受け入れてくれたようだ。

お婆さんは俺への視線を一度やめさせ、話を始めた。

「今回集まってもらったのは他でもない。お前さんたちの初の顔合わせだ。まっ、あんたらここの生徒たちは、善応寺くんと、そちらの宇井さんとビルちゃんは初対面だがね…」

宇井さん。ビル。

その名を聞いた瞬間、俺はある人物が目に止まった。

そう。あの日、ライブに行く最中に出会ったうちの近所に住むという宇井さんだ。

飼っている犬のビルはというと、学校内というわけでプラスチック製のケースの中に閉じ込められている状態となっている。

「う、宇井さん!?なんでこんなとこに」

 

俺は、驚いた表情で宇井さんを見た。

「冬彦くん。奇遇ね」

宇井さんが言った。

俺の声に反応したのか、ケース内にいるビルが暴れ出した。

「あぁっ、ビル!」

宇井さんが慌ててケースの方に駆け寄る。

「こら、ビル!静かにしなさい!」

宇井さんがそう言って、ビルを叱る。

「す、すみません」

俺は宇井さんに謝った。

「はっはっは!こりゃあっちの世界で大分いじめたようだね」

ハツエさんが笑っていた。

ハツエさんの台詞から察するに、ドラゴンボール世界にいた時の出来事のことを指しているんだろうか。

ビルとビルス。名前がかなり似ている。

いや、でもそもそもこの集まりはなんなんだ? お婆さんの浦井ハツエさん、そして俺の近所に住むという宇井さんとその飼い犬のビル…。

浦井ハツエ…。

もしかすると占いババと何か関係が?

生徒たちがハツエさんの発言にキョトンとしている…。ような様子は見せていなかった。

おいおい、そこは戸惑うところだぞ?

なんで黙って見ているんだ?

俺は思わず彼らの方に目線を向けた。

 

生徒のひとりが俺の方を見てきた。

スポーツ刈りの頭部をした、端正な顔つきの男子生徒だ。

背も比較的高い。

俺は彼を見て、はっとした。

そうだ。彼はテレビで注目されている、西谷空悟だ。

間違いない。

「ええと、君は西谷空悟くんかな?」

俺は見つめてきた彼に声をかけた。

「はい。僕が硬式野球部の主将の西谷です」

やはり!俺が会ったことがある西谷空悟だ。

「やっぱりそうか!テレビで見ているよ」

俺は西谷空悟にそう話しかけた。

「あ、ありがとうございます」

西谷は俺に礼を言った。

「でも、どうして僕のことを?」

西谷が聞いてきた。

「いや…、それはな…」

俺は返答に困った。

俺が言葉に詰まっていると、ハツエさんが助け舟を出してくれた。

「おお、これは孫悟空と全王がこの世界で相まみえた瞬間だな」

その発言は助け舟になっているのだろうか?

俺はハツエさんの一言に、戸惑った。

「えっ、全王様がこの人ってわけですか?」

西谷が聞いてきた。

「ああ、そうだ」

俺は肯定する。

「そ、そうだったのか…。子供っぽい性格とは真逆じゃないか」

確かにもとの全王様は子供のような背と性格だけどね…。

「ぜんおうさ…、じゃなかった。善応寺さんもあっちの世界にいたんですか?」

西谷が俺に質問してくる。

俺は意を決して話した。

「あ、ああ。夢なんだけど、全王様になってたことがあるんだよ」

俺は冷や汗をかいてそう言った。

生徒たちは顔を見合わせた。

「おい、本当だって…」

西谷が仲間の生徒たちにそう言っている様子が見て取れる。

俺は彼らのやり取りを黙って見ていた。

 

そんな彼らを一旦黙らせるかのように、ハツエさんが、

「さっ、ちょっと黙ろうか!本題に進むとしよう」

生徒たちが一斉に口を止めてハツエさんの方に視線を向けた。

「今回お前たちに集まってもらったのは他でもない。あっちの世界からやってきて、生まれ変わったお前たちを合わせるためだ」

ハツエさんが言った。

生徒たちが頷く。

「早速自己紹介に入るとしよう。先ほども紹介したと思うが、私の名は浦井ハツエ。あっちの世界じゃ、占いババとされていた女だ」

や、やはり!

この人、あっちの世界じゃ占いババのようだ。

だが残念ながら俺はあの世界で占いババには会ってはいない。

「生徒諸君、こっちから頼む」

ハツエさんが生徒たちに促す。

「は、はい!」

1人の生徒が立ち上がった。

先ほどのスポーツ刈りの男子生徒だ。

「西谷空悟です。野球部の主将をしています、よろしくお願いします」

西谷はそう言って一礼した。

「んーっと、君はあっちじゃ元は孫悟空か」

ハツエさんが言った。

やはりそうか。名前で薄々気づいてはいたが彼はあっちでは孫悟空だったようだ。

しかし、彼は俺のように夢で孫悟空となっていたのか。はたまた、孫悟空その人が転生して西谷空悟となったのか、どちらなのだろうか?

俺が全王様になっていた時、孫悟空には会ってはいない…。

それは少し残念だ…。

彼の自己紹介が終わると、今度は別の生徒が立ち上がる。

おさげが可愛らしい、女子生徒だ。

「あ、あの…、私は古川麻里子です」

宇井さんが自己紹介をした。

「あんたはあっちじゃブルマ゙だったね」

ハツエさんが言った。

やっぱりそうか!俺は心の中で叫んだ。

おさげが似合う可愛らしい女の子はあっちではブルマのようだ。

となると、ここにはベジータの生まれ変わりとされる岸部瞬太くんがいるんだろうか。

いやあ、あっちの世界じゃ岸部(ベジータ)には悪いことしたなぁ…。

何言ってるんだ?という人は、前回のお話(「好きやねんけどどうやろか」)を見て欲しい。

俺があっちの世界でいかに愚かなことをやっていたのかがわかるから…。

「よ、よろしくお願いします」

古川さんは一礼した。

そして次に立ち上がったのはスポーツ刈りの男子生徒だった。

彼は西谷空悟とは真逆で背は低めだった。

「俺は岸部瞬太です。硬式野球部べはピッチャーをしています。よろしくお願いします」

彼は自己紹介した。

岸部瞬太。やはり彼は…。

「あんたがベジータだ」

ハツエさんが言った。

俺の予想は見事的中していた。

「麻里子ちゃんとはどうなんだ?」

岸部は先ほど自己紹介した古川さんの方を見た。

古川さんが頬を少し赤く染めた。

どうやらあちらのようではあるが流石に結婚には発展していないようだ。

せいぜい交際中とでも言うべきか。

「か、か、彼女はですね…。か、か、」

岸部は顔を真っ赤に染めた。

「ああ!もういい!」

ハツエさんが岸部の発言を遮った。

「あ、あの…」

次に立ち上がったのはポニーテールが似合う女子生徒だった。

そうか、彼女が…。

「私は秩父純子です。そちらの古川と硬式野球部マネージャーをしています。今日はよろしくお願いします」

ポニーテールの女の子はそう名乗った後一礼した。

やはり彼女は…。そして…。

「あんたがチチだな」

ハツエさんが彼女に言った。

「チチ?」

秩父さんはキョトンとしている。

無理もないだろう。彼女にとっては初めて聞く単語だと思うから……。

「西谷くんとは交際中かな?」

ハツエさんが補足説明を入れるように言葉を進めた。

「え、ええ!?」

秩父さんが驚きの声を上げる。そして、西谷の方を見た。

「あ、あの…」

西谷もまた、秩父さんの方を見て頬を赤らめている…。

そんな2人の様子を、他の生徒たちがニヤニヤしながら見つめている。

宇井さんは微笑ましく西谷と秩父さんを見つめていた。

「ははは、恥ずかしがることはないさ。あっちでも同じくこちらもうまくやってりゃなんも言うことはない」

それ言っていいのか…。「は、はい……」

秩父さんが顔を真っ赤にしながら返事をした。

そんな秩父さんの様子を、西谷がじっと見つめていた……。

お次は、高校生にしてはやたら身長が高いスキンヘッドの生徒だった。

目つきは若干悪い。彼はハツエさんの方を見て一礼した。

「俺は滑川正彦です。野球部では野手をしています」

いかつい容姿に反して規則正しい男だった。

硬式野球部に入ってれば礼儀作法もよいものだ。

「あんたがピッコロだね」

ハツエさんが言った。

「ええ、そのようです」

滑川のその表情には緊張など微塵も感じられなかった。

原作のピッコロも真面目だったし、似るのは必然のようだ。

そして、最後の生徒となった。

「で、あんたが…」

俺とハツエさんは最後となる男子生徒のほうを見た。

髪型はというとアフロっぽいくしゃくしゃで丸みのあるものだった。

「はい。僕は水木三太です」

水木三太。ドラゴンボール世界にて居候させてもらった「あの男」を思わせる容姿だった。

ハツエさんはそんな彼を見て、

「あっちじゃあんたはミスターサタンだね」

と言った。

俺と水木はたまたま目が合った。

…のだが特に進展はなかった。

「さてと、お前たちに集まってもらったのは他でもない」

ハツエさんが言う。

「あっちの世界から生まれ変わってやって来た者。そして、あっちの世界に行ってしまった者…。その両方を会わせるために今日こうして集まってもらった」

ハツエさんは続けた。

「私が占いババになりあっちの世界に行ったことのある、浦井ハツエだ。そして私の目の前にいるのは孫悟空の生まれ変わりである西谷空悟だ」

お婆さんがそう言うと、西谷は一礼した。

「西谷くんと同じく、そしてあっちの世界から古川麻里子と岸部瞬太と秩父純子と滑川正彦と水木三太…、そして宇井澄子とビルだ」

お婆さんは俺の方を見て言った。

だが他の生徒たちは複雑な表情をしている…、ような様子は見られなかった。

みんなすんなりと受け入れすぎだろ…。

「あ、あのお…」

俺は忘れられていると思いハツエさんに声をかけた。

「ああ、そうだったね!こちらの善応寺冬彦くんも、あっちの世界で全王様だった男だ」

ハツエさんは俺を見て言った。

「は、はい」

俺は頷いた。

お婆さんが俺の方をじっと見る。

「冬彦くん。君はあっちの世界に行ったがこちらの世界に帰ってきた…。どんな気分だ?」

お婆さんから唐突に謎の質問をされる俺…。

一同が俺の方を向いていた。

俺は話をすることにした。

「ええっと、私、善応寺冬彦はあの日、居酒屋にいました。その日大好物だったビールを大量に飲んでしまって、気づいたら酔つぶれて寝てしまってて、んで、起きたら全王様となっていました…」

俺はひとまず、本当に起きたことを話した。

ハツエさんは、それを黙って聞いていた。

「あっちの世界では色々なことがありました。この世界とは全然違う世界を体験しました」

俺はそう言ったあと一呼吸置いた。

「私はこっちの世界も悪くないと思いました。なんせ、あの世界的に有名な漫画の世界を楽しめましたからね」

俺はそう言ってからハツエさんの方を再び見た。

お婆さんは俺の言葉を聞いて少し微笑んでいた…。

そして言った。

「そうかい…。それは良かったよ…」

ハツエさんはそう言うと、生徒たちの方に向き直り話をした。

「この男の発言が嘘だと思う奴は手を挙げろ」

ハツエさんはそう言って、俺の発言がウソなのかを確かめるが生徒たちも宇井さんも手を挙げなかった。

どうやら信じてくれるようだ。

「…そうか。まあ、お前たちは元々あっちの世界の人間だから信じざるを得ないようだな」

ハツエさんは少し笑みをこぼした。

「この世界は未だに謎に包まれている。生まれ変わる者もいれば成り変わる者もいる。この世界はそんな心理でできているんだろう。だが恐れることはない。誰かが生まれ変わる度に歴史ってのは刻まれていくものだ。私たちはそんな歴史の主人公なんだ」

ハツエさんはそう言った。

俺も頷いた。

 

だが…。

俺はあることが気になった。

俺や西谷空悟たちは死んでしまったらまた全王や孫悟空になるのだろうか? それともまた違う人物として生まれ変わるのだろうか?

そんな疑問が頭をよぎったのだった。

 

輪廻転生…。

そんなもので世界は回っている…、か。

意味深で神秘的な心理だ…。

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