ドラゴンボール超 ビールを飲んだおっさんがダラダラと全王様になった話 作:北村 貴之
どうも。ダラダラとビールを飲んでしまったがゆえに寝落ちし、目覚めていたら全王様になってしまっていた男、善応寺冬彦だ。
愛知県名古屋市在住の営業部長であった俺は部下と居酒屋で楽しくやっている最中に酔いで寝落ちをしてしまい、ふと目覚めると居酒屋や自宅ではなく、まさかの全王がいる神殿であった。
全王というのはドラゴンボールのキャラクターである。
神様の中でも最も最上位にいるまさしく「神の王」であり、機嫌を損ねて宇宙を消し去ったという恐ろしい力を持つ神様だ。
本当に消滅させることができる能力らしく、まさに「ドラゴンボール史上最強のキャラクター」と言っても過言ではない。
前置きが長くなったが、今回は、全王となった俺が、あるキャラクターと戯れた際のお話をしていこうと思う…。
「おやおや。全王様直々お呼びするなんて珍しいですね」
逆立った奇抜な髪形に、中性的な顔つきの長身の男。
大神官と同じく青白い肌を持つ、神秘的かつどこか不気味な雰囲気を醸す。
ビルスに仕える天使にして、彼の師匠でもある「ウイス」だ。
彼の隣には、ウサギのような長い耳を持つ獣のような破壊神の「ビルス」がそこにいた。
ビルスも全王同様、機嫌を損ねると破壊衝動に駆られてしまう恐ろしい存在だ。
ビルスは全王、つまり俺の目をそらすように、
「そそそそ、それで、全王様。今日は一体何の用でお呼びしたんですか?」
と明らかに日和っている態度で言った。
何かされるんじゃないか、と言わんばかりに顔中には汗を流している。身体もプルプルと、まるでスマホのバイブレーションのように震えている。
なぜならビルスにとって全王は同じ神でもランクが違うようで、能力も段違いだった。
全王の方がはるかにその破壊の力は上回っており、ビルスの比ではない。
消滅させる力を発揮させれば瞬時に消滅させることができてしまう。
ビルスの方はというと、こちらに比べると少々時間はかかるがそれでも破壊の力は計り知れない。
ビルスが恐れるという存在である全王となった俺は、試しにビルスを呼んで何かをしようと思っていた。
「理由はひとつだよ。ビルス、お前と話がしたくてな」
「え?話…」
俺は同じ神族であるビルスと会話をしようと今回呼んだのだった。
ドラゴンボールおなじみの熱い格闘は一切展開しようとは思わない。
実際にあの世界にきてしまったのだから、この際彼らと戯れようかと思っていた。
最強のキャラクターなら、力を見せつつ最強から繰り出される会話術で相手を圧倒してみてもいい。
「そうだよ。お前を説教しようなんて気はさらさらないから安心してくれ」
「…?あ、あのう…。全王様…、しゃべり方変わりました…?」
そう言っていたビルスはビビりまくっていた。
それだけ全王が怖いってことか…。
しかも喋り方を突っ込まれる。あの幼げな喋り方がビルスにとっては普通のようだった。
なので、こんなダラダラとビールを飲んでいるおっさんのしゃべり方は違和感があるのは当然だったのだ。
「いやあ、あれだよ。イメチェンってやつだ」
「喋り方を変えるのをイメチェンとは呼びませんけどね」
俺の答えに大神官が突っ込みを入れた。
「まあ気にするな!今日は楽しくやろうや」
俺はビルスの肩をポンと叩いた。
当のビルス本人は不安そうな顔だった。
「なあ。お前、ビールでも飲まないか?」
「はえ?」
ビルスが俺の誘いに、戸惑いながら反応した。
「実は僕、ビールは飲んだことがないんですよねえ…」
意外だった。破壊神はビールを口にしたことがないらしい。
ビルスの食事シーンは実際に俺もアニメで確認したことがある。本当に酒は飲んでいる描画はなかった。
酔った勢いで「創造の前に、破壊ありっ!」なんて言われたら困るから敢えて飲んでないんだろうか。
「うまいぞ。お前たち、悪いがビールを持ってきてくれないか」
俺は側近たちに声をかけてビールを用意してもらった。
側近たちはわずか数秒でビールをどこかから召喚し、手にはきちんと黄金色のビールが注がれた大型ジョッキが2つあった。
そして、そのジョッキを俺とビルスの前に差し出す。
「ありがとう」
俺は側近たちに礼を言った。
「はぁ…。これがビールですか。シュワシュワしてますね」
ビルスはためらいながら、ビールを眺めていた。
俺はそんなビルスに、
「さあ、遠慮するな。飲むぞ」
と促した。
ビルスは意を決してビールを一口飲む。
次の瞬間、ゴクゴクと飲んだビールを全て吹き出してしまう。
「な、なんだこの味…!苦みがきつくて飲めたものじゃないですよ」
どうやらこいつにはビールの味が合わなかったらしい…。それもそうか。
どんな人間(20歳未満はのぞく)が好きなわけでもないようだ。
おっと、こいつは神族だったな。
当の俺は、ビールをグビグビと飲み干していた。
全王様がビールを飲む姿は連想できないと思うが、実際に全王様になっている俺は大きなジョッキを片手に神聖な味を堪能していた。
喉に黄金のビールをゴクゴクと流し込む。
美味い。その一言に尽きる。
俺はビールを飲み干した後、大神官に向けて言った。
「やっぱりうまい!最高だ!だがビルス、お前はダメだったか」
「ええ、どうも口に合わないみたいです…」
俺の反応とは対照的にビルスは困った顔をしていた。
そして、ビルスはまだ咳き込んでいる。気管に入ったのかな?可哀想に…。
「酒がダメな理由は?」
俺はビルスに聞いた。
「破壊神は酒なんて普段は嗜みませんので…」
ビルスはすごい汗をかきながら答えてくれた。
まるで全速力で2~3kmを走った後のような顔をしている。
「そうか。お前らも健康第一なんだな。俺なんて毎日飲んでたよ」
「え?全王様…」
ビルスが俺の会話内容を聞き、「お前飲むんかい」と言わんばかりの顔で俺を眺めていた。
それを見た俺はうっかりしていた。
「あっちの世界」にいた時の出来事を話してしまったことだ。
こいつらにとって俺たち日本に住む人間など、異世界の存在であることは当然だ。
こんなことを話しても、理解されるどころか困惑されるだろう。
言ってよかったのかと思ってしまう…。
俺は改めてビルスの顔を見た。
産毛が一切生えていない紫色の肌は、どこか赤くなっているようにも見える。
もしかすると酒に弱かったのだろうか。
それにしても、こいつの目、どこかめんどくさそうにしているのは気のせいだろうか…。
「おい、大丈夫か?」
俺は心配して声をかける。
「へ、平気ですよ…」
ビルスが笑いながら返してくれた。
汗をかきながらも、なんとか返答してくれたようだ。
それだけ全王が怖かったのだろうか…。
しかし、中身は俺だ。安心して接せるようにこちらも努力せねば。
「俺は全然怖くないからな、無礼なことをしても消すことはしない。むしろ、もっとお前と仲良くなりたくてな。肩の力抜いて、楽しくやろうや」
「あ、ありがとうございます…」
なんだろうか。ビルスの顔をじっくり見ると、どこかで見たような気がする。
う~ん。こいつ猫なんだよな…。
というよりも、実際に見てみると犬みたいなんだな。
確か…。知り合いの飼っている犬がそんな顔だっけ…。
「おい、こいつに水をやりたい。悪いが用意してくれないか」
俺は側近にビルスを落ち着かせるために水をお願いした。
側近がすぐさまコップ入りの水を召喚する。
「ほら、飲め」
俺は側近からもらったコップの水をビルスに飲ませた。
ビルスの喉に、ミネラルたっぷりの水が流れて、のどを潤していく。
「ふぅ…」
「どうだ、気分は落ち着いたか?」
俺はビルスに尋ねた。
「ええ、なんとか…」
「そうか」
俺はそう言って安堵した。
俺はビールはすべて飲み干してしまった。一方のビルスはというと、慣れないビールの味に悶絶してしまい結局残してしまった。
頑張って飲んではいたが、それでもその味は受け付けなかったようだ。
泣きそうな顔になり、俺の方を見ている。
俺もさすがにかわいそうなことをしたな…。
気分転換に、俺はこんな話をすることにした。
「なあ、ビルス。お前は好きなアーティストとかいるか?」
「へっ?」
ビルスがすっとぼけたような顔で俺を見た。
8歳の子供のような顔だ。
「たとえば…。安室ちゃんとか、BEGINとか…」
「えっ…?」
俺の言葉にビルスは困惑していた。
俺が何を言っているのかわからないようだ。
酔っているのか不明だが、とりあえず聞いてみた。
「そ、そういわれても…。あんまり音楽って聞かないんですよ。ボクは普段寝るか食べるかしかしてないんで」
そういえば、こいつは破壊したり、飲食したりしているのが大半で音楽を聴いたり、ゲームをしたり、パソコンの前でデスクワークをしたりするのは一切していない。
まさしく「神様」とでもいえる存在だった。
俺も神様なのによくもこんなに軽く発言ができるものだ…。
「そうか。お前にはいないんだな、残念だ」
俺はすこしがっかりしたが、こればかりは仕方がなかった。
ちなみに、沖縄の子たちはBEGINが大好きらしい。
これは沖縄出身の仕事仲間から聞いた話だ。
どこか父性を感じさせるあの出で立ちから出るあの優しく素朴な歌声が、沖縄県民にマッチしているらしい。
俺は姪の影響で一族総出ではまっている「げんじぶ」の話をしようと思っていたが、やめておくことにした。
水を飲んで落ち着きを取り戻したようだが、こいつにそんな話をしたらまた困り果ててストレスになってはいかんからな…。
また今度話をするとしよう。
「き、今日は悪いな。慣れない酒なんて飲ませて」
「いやいや…。こんな貴重な体験は生まれてはじめてですよ」
ビルスは苦笑いを浮かべながら、返答した。
俺はビルスに無理をさせてしまったのではないかと思った。
しかし、アニメのキャラクターと接するのがこんなにも楽しいなんてな。
営業職をしてたからというのもあってだが、割とこちらから言葉が出てくる。
「もしこのキャラクターとお話ができたら」というシチュエーションを実際に体験しているようだ、俺は。
これはうれしいのかそれとも…。
いや、今は深く考えないでおこう。
「今日はわざわざ来てもらって悪かったな。楽しかったよ」
「はい、こちらこそありがとうございました……」
ビルスは作り笑いで俺に礼を言った。