ドラゴンボール超 ビールを飲んだおっさんがダラダラと全王様になった話 作:北村 貴之
俺は善応寺冬彦、ビールをダラダラと飲んでそのまま寝落ちしていたら全王様になってしまっていた男だ。
俺は突然、ドラゴンボール最強のキャラクターになってしまっていた。
俺の側には大神官という青白い肌を持つイケメンがいる。
姪っ子が推している某グループのあるレベチにはさすがにかなり劣るがそれでも男前だ。
そんな俺、全王と大神官は、ドラゴンボールの世界にある、とある料理店へとやって来ていた…。
俺たちが来ていたのはいたってシンプルな中華料理店。
雰囲気はいかにも下町の店というべき大衆店だった。
それ故に、店内はさび付きはあったがどこか落ち着きを感じられそうな空間だった。
俺が日本人だからなのだろうか。
店主はハゲ頭のおっさんで、ナメック星人を髣髴とさせるほどつるりとしたスキンヘッドをお持ちであった。
俺たちはいったい何を頼んだかというと…。
俺たちのテーブルには、焼き餃子、海鮮炒飯、エビの天ぷら、麻婆豆腐、ふかひれのスープと、誰もが知る中華料理が並んでいた。
頼んだのは俺なんだが。
大神官はレンゲを手に、眉をひそめて麻婆豆腐を食べていた。
食べたことがないのか、神妙な顔つきで辛い餡を乗せたレンゲを口へと運ぶ。
麻婆豆腐の器からはほかほかと湯気が立ち込めており、辛みのある香りが鼻をついた。
「どうだ?」
と、俺は聞く。
俺はビールではなく珍しく紹興酒を飲んでいた。
なんで子供みたいな見た目の奴が酒なんて飲んでるのって?…聞くな。
大神官は
「うむ…」
と小さく返事をすると、レンゲで麻婆豆腐をすくって口に運んだ。
辛いものが好きなのだろうか。
一度口にした瞬間から、どんどんレンゲを動かす速度が上がっていく。
レンゲに載せた熱々の麻婆豆腐を口に入れた。
どうやらまずくはないようだ。
神族にも中華料理はあうようだ。
「はじめて食う味だが…。お口にはあったかな?」
俺は再び大神官に質問した。
それを聞いた大神官は、
「はい…。長い間を生きていましたが、こんなものがあったとは」
と、割と気に入っていた様子を見せた。
「好きになったのか」
「はい…」
大神官はそう返事すると、レンゲで麻婆豆腐をすくって、再び口に運んだ。
もぐもぐと咀嚼して飲み込むと、今度は海鮮炒飯に手を出す。
むしゃむしゃと炒飯を食べる大神官の表情は楽しそうに見える。
俺も紹興酒をくいっと飲んだ。
餃子にも箸を伸ばしてみるか……。
俺は餃子を頬張りながらふと考える。
(この世界には孫悟空もベジータもいるってわけか。となれば…。)
そう。俺は実際にこの「ドラゴンボール」の世界に来ているのだ。
ここでやりたいこともないことはない。
帰りたいとは思ったが、漫画の世界に入って来たとなれば、強制帰還があるまではこの世界にとどまって世界を満喫するのも悪くはないと考えていた。
この世界には現実世界のようにきちんと飲食店はあるし、スーパーなどの施設も存在している。
ひとり暮らしをしようと思えば生きてはいける。
店の入り口に求人の無料雑誌を見かけたため、アルバイトやパートもなろうと思えばなれるようだ。
ここもきちんと日本ないし中国と同じだ。
俺の脳裏にはふと、ゴジータブルーのことが浮かんでいた。
なぜかは不明だが、食事中になぜか浮かんでいたのだった。
彼が登場したのは2018年12月14日に公開された「ドラゴンボール超 ブロリー」だった。
確か兄貴と弟と一緒に見に行った映画だ。
敵対するのはタイトルにもある通りブロリーだ。
そんな彼と闘うのが、孫悟空とベジータがフュージョンしたゴジータなわけだが、なんと超サイヤ人ブルーとなった姿をお披露目した。
デザインしたのが鳥山先生というわけで当たり前といえば当たり前だが、ドラゴンクエスト6の主人公(レイドックの王子)やドラゴンクエスト11の盗賊カミュを思わせる顔だ。
彼の顔を見ると、かわいい妹がいそうなのは気のせいだろうか。
当然だが、ラミアスの剣を持ってブロリーと闘ったり、分身してデュアルブレイカーを放ったりは一切していない。
俺がぼんやりとそのことを思い浮かべていると…。
「全王様?全王様!」
大神官が俺を呼ぶ。
俺はその呼び声にはっとして正気にもどった。
「どうしたんです、ぼーっとして」
「ああ…。酒で少しぽけーっとしてただけさ」
俺はあわてて取り繕うと、紹興酒の瓶を手に持ってぐいと一気に飲んだ。
「全王様…。本当にまったく別人のように気が変わりましたね」
「そう見える?」
俺は仏頂面の大神官を見て、ふふっと笑った。
「ええ」
大神官は神妙な顔つきでうなづいた。
「私の知る全王様はこう…。こどものようにきまぐれな性格でした。ですが、今の全王様はなんか、こう…。どこか友好的で落ち着いているような感じがしててですね」
大神官の話を聞くに、俺はどうやら全王の性格を変えてしまったようだ。
いや、変えたというよりは俺が全王に成り代わってしまったといってもいいんだが…。
「そうか…。お前は正直でいい男だよ。部下に欲しいくらいだ」
「ぶ、部下といわれましても、わたしはもうとっくにあなたの部下みたいなもんですけどねえ」
あっ、と俺は何かを思い出したようなしぐさをする。
「どうしたのです、全王様」
大神官が怪訝そうな顔をした。
俺はまたうっかりしていた。
「部下」という、日常でよく使う単語をまた発してしまった。
なぜ俺は営業部長という立場ではなくなっているのにこう、慣れた言葉を発してしまうのか。営業部長時代の習慣が抜けていないようだ。
部下ではあるが厳密には違う大神官を前に俺は思わず口を滑らせてしまったが、一体どうしたものだろう。
「いや、なんでもないよ」
と俺はごまかそうとする。
「はあ……」
と大神官は納得したようなしていないような様子だった。
とりあえずその場しのぎでごまかしておくとするか……。
「よし、これを食ったらだな…。」
俺は話題を変えることにした。
「ええ、何か?」
「この世界にパチンコ屋はないか探してみよう。あ、急いで食わなくて大丈夫だ」
「わかりました」
大神官は炒飯を再び食べ始めた。
俺はテーブルの上に置かれたメニュー表を片手に、餃子をもぐもぐと食べていた。
こうしてようやく食事が終わった。
俺は店主に、この世界にパチンコ屋がないかどうか確認した。
「ああ…。ここから歩いて数分のところにあったかな。…で、君みたいな小僧がなんでパチンコ屋なんかに?」
確かに。ちんちくりんな見た目の俺なんかがパチンコ屋になんで行くのか、このおっさんは疑問に思ったようだ。
そもそもパチンコ屋は18歳未満は入れないのでこんな疑問が浮かぶのは不思議ではないのだが。
「いや、この世界を視察しているのだが、パチンコ屋はあるのかなって聞いただけなんだ」
「…そうか。気を付けていくんだぞ」
店主はそう言って、厨房の中へと消えていった。
「ほら、あるそうだぞ」
「じゃあ行ってみますかね」
俺たちは店主からメモ書きをもらっていた。
ここからその店までの地図が書かれている。
俺はそのメモを手に取り、パチンコ屋へと大神官とともに足を運んだのだった。
「ここか、パチンコ屋」
俺たちは迷うことなくそのパチンコ屋へと来ていた。
まるでラスベガスのようにきらびやかな照明が店全体を照らしている。
「全王様はパチンコは初めてですか」
「ああ、そうだな」
俺は返事する。
実は俺は初めてではない。上司に誘われて何回かやったことはある。
しかし、俺が営業部長に就任したとき、もうこの時期には一切手はつけていなかった。
上司がよく打っていたのは確かリゼロだったっけ…。忘れてしまった。
「じゃあ入ろうか」
俺たちは中に入る。
内部は凄まじくうるさい音が響き渡っている。
久々にパチンコ屋特有の轟音を聞いたが、耳が慣れない。
「うわあ~。うるさいですね」
「そうだな」
大神官は耳を塞いでいた。俺は免疫があったため耳を塞ぐことはしなかった。
「じゃあ、どこに行きますか?」
「え~っとね…。ちょっと待てな」
俺は立ち止まり考えた。
そして数秒後。
「よし、あっちに行くか」
俺は大神官を連れて、打ちに行く予定の台へと向かった。
あれ、ドラゴンボールの世界にはそもそもパチンコ屋は実在してたっけ?
銃火器はありましたけどねえ…。