ドラゴンボール超 ビールを飲んだおっさんがダラダラと全王様になった話 作:北村 貴之
「ごめんなさいね、片付けまで手伝っていただいて」
場所はカプセルコーポレーションの社長一族が住む住居の中にある、厨房内。
全王になった俺、善応寺冬彦は、付き人の大神官と、そして社長令嬢の女性のブルマと3人で、夕食会の後の片づけを行っていた。
俺たちはカプセルコーポレーションの会社見学会に来ていた。
そして、他のお客様が帰った後、ブルマ一家に夕食会に誘われて食事をしたわけだ。
ブルマとその母親が中心となり食事を調理していた。
味はなかなかのものだった。
漫画内のキャラクターの作る飯を実際に食ってみたが、ここまでの味を出すとは…。
たまに炊事する俺もこのレベルの飯は作れない。
「いえいえ…。神族である我々も、偉そうに何もしないなんて気が引けますからね」
そう言って俺は、大きな皿を洗剤を使い器用に綺麗にしていく。
ちんちくりんな体格の全王様が食器洗いをする様子は想像するとシュールだろうが、やっているこっちは本当に真面目にやっている。
大神官はというと、俺の隣で小鉢などを洗っていた。
一方ビルスとウイスは何をしているのかというと…。
別の場所でテーブルクロスを直したり机を綺麗に拭いたりしていた。
俺がやりますと言ったため、それに同調して彼らもやる羽目になった。
恐らくビルスはめんどくさそうに机を拭いていることだろう…。
そんなことを頭に浮かべ、俺はブルマと大神官と食器を洗っていた。
そして数分後。ようやくすべての作業が終わった。
洗った食器は丁寧に拭いて、元の棚へと戻してある。
「ふーっ……終わった。しかし、ブルマさんはなんでもこなせるんですね。社長令嬢なだけあって家事も完璧だ」
俺はタオルで手を拭きながらそう言った。
「そんな…。神様にしては世辞が過ぎるわよ」
ブルマがどこか照れ臭そうに言った。
俺はふと…。あるものが脳裏に浮かんだ。
やってはならないのはわかっていた。
だが、俺の目の前にいるのは、漫画の世界に存在するキャラクターだ。
そして、俺も実際に漫画の世界にいる。いや、アニメか?
俺はどういうわけか身体の制御ができなかった。
おい、俺、何をしている?
気づけば俺は、目の前のブルマに壁ドンをしていた。
ブルマはきょとんとした顔で俺を見つめている。
実際に見るブルマはというと、全盛期のミポリンとさとう珠緒を足して2で割ったような端正な顔つきだった。
こんなに美人であれば、多くの男どもがたかってくることだろう。
そんな女性を、サイヤ人の王子は嫁にしたようだ。
なかなかやるな。
だが、俺はそんな女性に壁ドンしていた。
なぜなのかは不明だが、漫画のキャラクターに壁ドンをしたいのはある意味、男の性でもあった。
「…えっ?全王様…」
ブルマはそう呟く。
俺はそのつぶやきに応えるかのように…。
「ブルマさん。言いたいことがあるんだが…」
俺は恰好をつけて低い声でそう喋る。そして。
「俺。俺な。お前のことが好きやねん」
なぜかは知らんが、関西弁でそう喋っていた。
「は?」
相変わらず戸惑い顔のブルマ。自分より背の低い人外の存在に壁ドンをされていたが、恐怖の感情は感じられなかった。
まあ、ブルマも旅をして色んな存在に出会って来たので、驚かないのが普通なのかもしれない。
「俺な、ブルマさんのことが好きやねんけど、どうやろか」
俺はなぜか、仮面ライダーの主人公役の俳優が出演していたあのドラマのタイトルを用いて、ブルマに告白をしていた。
いや、告白のような「なにか」だろう。
「いやだ全王様。残念ですけれど私結婚してまして、子供も二人いてますのよ」
「せやけど、あんたのことが好きやねん」
BOTのように「好きやねん」を連発する俺。
全王はそんなことは言わないだろうが、中身が俺なので仕方ない。
漫画のキャラクターをいじくるのがこんなにも面白いとは…。
俺はスパイスを追加することにした。
…が、その矢先。
俺は別の方向から、殺気のようなものを感じていた。
野生の勘が告げたのだろうか。
俺は全王だ。ドラゴンボール最強の存在だ。
なんか攻撃が飛んできても、回避できる自信がなぜかあった。
なぜかは俺もわからないが…。
そして、俺の背後から、何かが飛んでくるような気配を感じた。
それは時速500キロの速度で俺へと迫ってきた。
「貴様…。人様の妻に何してやがる!このブリッツボール野郎!」
そう言いながら、何かが俺の方へと向かってきた。
俺はすかさずそれを回避した。
「のわっち!?」
変な言葉を発してしまったが、突発に言ったので仕方ない。
俺は慌てて飛んできた攻撃を回避した。
何が飛んできたのかというと…。
それはそう。ブルマの旦那である、サイヤ人の王子ベジータだった。
俺がふざけてブルマに告白のような「なにか」をしていたら、苛立ちを募らせて我慢できずに突撃していったようだ。
俺に向けられたベジータの鉄拳は、大型の冷蔵庫に直撃していた。
金属製の冷蔵庫は鉄拳を打ち付けられて見事にべっこりと凹みを見せていた。
凹みの周りにあるひび割れが生々しい。
これが純血のサイヤ人の本気の攻撃というわけか…。
「おいお前…。危ないだろ!」
俺が完全に悪いのに俺は勝手に怒っていた。
「いや…。これは完全にあなたのせいですけど」
大神官が突っ込んだ。当たり前の反応だった…。
ベジータは未だに冷蔵庫に拳をへこませていた。
身体をブルブルと震わせ、力士のようにしこを踏むような姿勢で動じずに立ったままだ。
「ち、ちょっと、ベジータ!」
ブルマはそう言ってベジータの方へと向かっていった。
「ぶ、ブルマ!無事かっ!?」
妻に反応したのかベジータがブルマの方を向く。
いや、そう簡単に事が収まらないようだ…。
「何勝手にうちの家電を壊してるのよ!弁償してよね!」
ブルマは怒っていた。
おそらくこの冷蔵庫、数百ゼニ―はする代物だろう…。
それもそうだ。レストランで使われていそうなものだった。
テレビで見たことがあるが、普通の冷蔵庫よりもはるかにサイズが違う。
「いや…。お前が襲われていたと思って…。つい…」
「だからって勝手に物を壊さないでよ!」
怒り心頭のブルマと困惑するベジータ。
ベジータは完全に落ち込んでいた。
妻には頭が上がらないようだ…。
怒られているベジータは完全にシュンとしていた。
まるで落ち込んだ8歳の子供のような顔で、うつむいている。
何があったのか駆けつけていたビルスとウイスは何もせずに、夫妻の様子を見つめていた。
そうなった原因の俺はというと、ベジータがへこませた冷蔵庫を見ていた。
まるで王子本人が打ち付けられた岩盤のように見事にへこみを見せている。
まさか自分がへこませに行く立場になろうとは、王子本人も予想してなかっただろう。
「あっはっは…。ま、まあ元気出せよ」
俺は笑ってそう言った。だが、ベジータは依然として落ち込んだままである。
「しかしお前すごいな…。あの冷蔵庫をここまで凹ますとは……」
俺がそう茶化すように言っても、ベジータのテンションは全く上がらなかった…。
むしろ、大神官とビルスが冷めた目で俺を見たのだった。
ベジータは完全にブルマに頭が上がらないようだ…。
いや、俺のせいなのだが…。
こうして、楽しい楽しいカプセルコーポレーションの会社見学会は幕を閉じた。