「はぇ…?」
アルの言葉に、思わず情けの無い言葉が漏れた。
頭部を殴られた時のように、ぐらりと視界が歪む。
私の表情を見たムツキは、アルに呆れるような視線を送っている。
「アルちゃん、言葉選びが壊滅的にヘタ。先生、ショック受けちゃってるじゃん。」
アルはハッとした表情を浮かべて、違う、違うの!オブラートに包もうにも言葉が出なかったの!とわたわたと視線を泳がせている。
「…ごめん、えっと、つまり…?」
「先生はさ、好意に種類があるのは、分かってるよね?」
アルを軽く手で制して、ムツキが問う。
「もちろん。…親愛とか、友愛とか。」
「結構ざっくりしてるね。けど、まぁそんな感じ。例えば、私からの先生への好意。なんだと思う?」
「…ペットに向けるような感じ?」
「…酷くない?」
「いや、だって構い方がそんな感じかなぁって…」
「…ふーん、そんな風に思われてたんだ、ちょっとショック。」
「ご、ごめん…?」
「いいよ、別に。半分は正解だから。」
「えぇ…?」
どっち?と困惑する私に、ムツキは続ける。
「私なりに考えたんだけど、私が先生に向けている『好き』は、家族に向けるものに似てるんだよ。先生といると安心する、先生なら、私が揶揄っても、笑って許してくれる。…それってほら、パパに向ける感情と似てるでしょ?」
「なるほど…?」
「理解してくれた?じゃあ次、ハルカちゃんね。」
「は、はぃ…。私から先生への好意は、どちらかと言うと、その…神格へ向けるものと言いますか、何と言いますか…」
「…なんて?」
「その、えっと…」
「…このままだと埒あかなくなりそうだから、次。アルちゃん。」
「私から先生へ向ける好意は、憧憬ね。先生の目的に対してブレない姿…それは、私の目指す人物像そのものだもの。」
アルの歯が浮くようなセリフに気恥ずかしさを感じていると、ムツキが言葉を続けた。
「とまぁ、こんな感じでさ。影響を受けてない…ううん、影響が比較的軽い生徒たちはきっと、先生に向ける感情が親愛とか、家族愛とか、友愛に近いと思うんだ。ハルカちゃんは…まぁ、話ごちゃごちゃするから置いとこっか。で、先生の命を狙ってる子たちに共通する事ってなんだろう、って考えたらさ、先生のことが、異性として好きな子なんじゃ無いか、と思って。」
「…ちょっと待って。推察だって言うけど、なんでそう思ったの?」
「え?だって先生、大概人誑しだもん。それに…」
「…それに?」
「私たちの中にも一人、居るんだよ。」
ムツキは、気まずそうに目を逸らした。
一人、いる。
…誰が、とは、聞かなかった。いや、聞けなかった、と言うのが正しいか。
「…カヨコちゃん、先生のことが好きなんだよ。」
口を閉ざす私に追い打ちをかけるように、ムツキは言葉を続けようとして…
「ご飯できたよ。食べよう。」
エプロンを着けたままのカヨコが部屋に入ってきて、話が途切れる。
会話の途切れた私たちを見て不思議そうな顔を浮かべるカヨコを尻目に、ムツキとアルが話を切り替える。
「そうね。話もキリのいいところまで進んだし、ご飯にしましょうか。」
「そうしよー。私、お腹空いちゃったー。」
「…ほら、先生も。」
「…あぁ、うん。いただくよ。」
カヨコに手を引かれて、リビングの方へと向かう。
「ほら、冷めないうちに食べちゃおう。」
いただきます、とみんなで合掌をして、食事を取る。
かちゃかちゃと食器の擦れ合う音が30分ほど続き、皆各々のお皿をさげる。
「…ん、お粗末さまでした。先生、お皿洗うの手伝ってもらっていい?」
「うん。ご馳走になったからね。」
「ありがとう。じゃ、私お皿洗うからさ。先生はその布巾でお皿拭いてほしいな。」
そう言うと、カヨコはお皿を洗い始める。
私は手際よく洗われて目の前に積まれていくお皿を拭き上げていく。
かちゃ、かちゃ。キュッ、キュッ。
ただ、お互い無言のままで、気まずい沈黙が場を満たす。
「…よし、これで終わり。」
備え付けたタオルで水浸しの手を拭きながら、カヨコはケトルでお湯を沸かし始める。
「…ね、先生。ちょっと一緒に、一息つこうよ。…話したいことも、あるからさ。」
「…分かったよ。」
「良かった。…緑茶と、コーヒーがあるけど…どっちがいいかな?」
「カヨコと同じものでいいよ。」
「…わかった。それじゃ、先生は座っててね。」
そう言うと、パタパタと足音を立ててキッチンへ向かっていった。