ってコメントそこそこきてるんですよねぇ...
早けりゃ次回、次次回あたりでネタバラシです。
「…お待たせ、先生。」
緑茶を注いだ湯呑みを持って、カヨコは私の待つダイニングキッチンへとやってきた。その目元には、メイクの上からでも分かるほどのクマが浮かんでいる。
「はい、お茶。来客用のじゃなくて、申し訳ないけど…」
「ありがとう。」
すっと差し出された湯呑みを受け取り、一口飲む。
苦味と渋味が口の中で混ざり合って、緩やかに口の中で解けていく。
「…なんだか、落ち着くよ。」
漸く、落ち着いた。
不可解なことと命を狙われる状況で、酷く疲弊していた心が、緩やかに安息へと向かっている。
「…そっか、良かった。」
そう言うと、カヨコもお茶を口に含む。
ほぅ、とカヨコがゆっくりと息を吐いた。先ほどまでの緊張した面持ちとは違って、険しさが表情から抜けている。
「…それでさ、話…なんだけど。」
「うん。」
「多分、ムツキあたりから聞いてると思うけどさ…」
私ね、先生のこと好きなんだ。
ぽつり、と。
微かに聴こえるくらいの声量だった。
「こんな時に、告白したくなかったなぁ…。」
「…カヨコ、私は…」
「何も、言わないで。…ごめん、困らせたいわけじゃ無いのに…こんなこと伝えても、先生が困るだけだって、分かってる…。」
「…別に、返事が欲しいわけじゃ無いの。だから、今は何も言わないで欲しい。」
小さく震える背中が、俯いた彼女からぽとりと溢れる雫が、酷く儚いものに見えた。掛けるべき言葉すら分からず、私はただその場に座り尽くし、ただ呆然と眺めることしかできない。
「…ごめんね、先生。変な空気になっちゃって…」
数分経つと、カヨコは涙を拭いながら痛々しい笑顔を溢す。その姿は今にも消えてしまいそうなほどで。
「…カヨコ。」
「…なに、先生。返事はいらないっ…!?」
カヨコの存在を確かめるように、壊れてしまわぬように、ゆっくりと抱きしめる。
「ちょっ、先生…!?」
身動ぎするカヨコが、私を引き剥がそうと回された手に触れる。
「…ごめん、カヨコ。少しだけ、このままでいさせて欲しい。」
「…はぁ。少しだけ、だからね。」
「…ねぇ、先生。」
「…何、カヨコ。」
「私、少しだけって言ったと思うんだけど。」
「…そうだね。ごめん。」
腕を解くと、カヨコは少し残念そうな顔を浮かべ、けれど、同時に眉を顰めた。
「先生、他の子にそんなことやったらダメだからね。セクハラだよ?」
「…ごめん。」
「私は、嫌じゃ無いけどさ。」
「…ねぇ、カヨコ。さっきの返事なんだけど…」
「返事はいいって。フラれるの、分かってるから。」
「…それでも、ちゃんと君の言葉に応えたいんだ。」
「…それ、私にとっては死刑宣告みたいなものなんだけど…」
カヨコはやれやれ、と言ったようにかぶりを振る。
「ちょっと、心の準備だけさせて。」
そう言って、ゆっくりと深呼吸を繰り返す。
2回、3回。
「…ん、良いよ。」
表情には翳りが見える。
平静を装って入るものの、ぎゅっと一文字に結ばれた唇が、膝下でぎゅっと握られた拳が見える。
「…やっぱり、待って。」
話を切り出そうとした瞬間、カヨコが私の口を塞いだ。
「…ごめん。私から告白しといて、あれなんだけどさ…今、答えは欲しくないんだ。フラれるのは分かってる。けど、今はまだ、この気持ちを抱えたままでいさせて欲しい。」
「…分かった。」
「この騒動が終わってさ。そしたら、また…私から、先生にちゃんと言うから。だから、返事はその時まで、待ってて欲しい。」
「…うん。分かった。でも、カヨコ。これだけは、分かってて欲しい。」
伏せられたカヨコの顔がおずおずと立ちあがり、伏し目がちながらも、私の目を捉える。
「君のことが、嫌いなわけじゃ無いんだ。一緒にいると心地がいいし、君は、私をしっかりと、一人の人間として尊重してくれる。今回の件だって…私は一度、君たちを否定した。それなのに、君を…君たちを信じられなかった私を、受け入れてくれて…本当に、感謝しているんだ。…私は、君のおかげで救われているんだ。」
「…先生ってさ。恥ずかしいこと、サラッと言っちゃうよね。」
そういうカヨコは、うっすらと優しい笑みを浮かべている。
「…私、先生の止まり木になりたいんだ。」
「…止まり木に?」
「うん。先生が疲れた時、大変な時に、寄りかかれるような…私には、そんなことできてないのかもしれないけど…でも、そう在りたいって、そう思う。」
「…もう、充分だよ。カヨコが…便利屋のみんなが、助けてくれた。それだけで私は、もう一度前を向ける。君たちが守ってくれるなら、怖いものなんてないから。」
「…ふふ、なら、今はそれでいいや。それじゃ、先生。みんな待ってるし、事務所の方行こっか。」
カヨコはスッキリした様子で立ち上がり、私の手を握る。
「…カヨコ?この手は…」
「いいじゃん。…そうだね、私を悲しませたペナルティ…ってことで。」
「…なら、甘んじて受け入れるしか無いかな。」
「…カヨコ、ありがとう。」
「…ううん。こちらこそ、私たちを想ってくれて、頼ってくれて、ありがとう。」
「…入ろっか。」
握られていた手を離し、便利屋の面々が待つ事務所の扉を開いた。
「そちらでの話し合いはもう良いのかしら。」
「うん。ありがとう、社長。」
「…そう。それじゃあ、先生。此方からあなたに、もう一度…」
「君たちに一つ、依頼がある。」
私と一緒に、この異変を解決するのを手伝って欲しい。
「…えぇ、もちろんよ。皆も、いいわね?」
「もちろん!」
「うん。必ず、解決してみせる。」
「私にできるかわかりませんが…」
「…皆、ありがとう。」
小さく、不確かな一歩。
進む先は、絶望だろうか。
それとも、希望だろうか。
依然、見通しは立たないまま。けれど、暗闇の中でも、君達と共に行けるなら。