嫌悪の果てに   作:黒糖煎餅

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黒き異形の来訪者

「それじゃあ、私たちは情報収集にでも向かおうかしら。先生は危険だから、ここで待っていてちょうだい。…そうね、カヨコか…ハルカ。どちらかにはこのまま、先生の護衛を任せたいのだけど…」

「私がやるよ、社長。建物の中だったら、拳銃の方が取り回しがいいし…それに、ハルカのショットガンだと、誤射が怖い。」

「…そうね。それじゃあ、私たちはこのまま情報収集に向かうわ。それから、敵襲があった場合はなるべく応戦しないこと。敵襲と同時に、私たちの内の誰かに連絡を入れなさい。それ以降は、時間稼ぎに徹すること。…幸い、弾薬や手榴弾なんかは大量に仕入れてあるし…私たちが戻るまで持ち堪えて。」

「…分かった。最悪の場合、このセーフハウスを放棄して車両で逃げるけど、かまわない?」

「当たり前でしょ。損傷した物品なんて、後でいくらでも買い直しができるけど、先生の命は取り返しがつかないもの。」

「…うん。肝に銘じておく。社長たちも、無事でね。」

「えぇ。カヨコも。先生を任せるわよ。」

「分かってるよ。絶対に、死なせたりしない。」

「…それじゃあ、ここは任せるわね。ムツキ!ハルカ!行くわよ!」

「はーい!それじゃ、またね。先生。」

「それでは、い、行ってきます…」

「ムツキとハルカも。気をつけて。」

 

そう言って、便利屋のカヨコを除いた3人は情報収集に向かっていった。

 

「…それじゃ、今の時間で色々と準備をしておこうか。先生に装備も渡しておきたいし。」

「頼むよ。」

「うん。それじゃ、ついてきて。倉庫まで案内するから。」

カヨコに続いて、物置と思われる角部屋へと歩いていく。

「…ここ。私が最低限持っておいて欲しい装備は渡すから、先生は別途必要になりそうなものを持っておいて。」

そう言うとカヨコは物置の奥へと歩いていく。

「…必要になりそうなもの、か。」

つまりは、戦闘に必要なもの。…当然と言えば当然なのだろう。真に信頼を置ける集団が便利屋の皆のみである、と言うことを考えれば、尚更だ。

私は目眩しになりそうな閃光弾、煙幕弾、催涙スプレーなどの軍需品を手に取り、ポーチの中に押し込んでいく。

「…テーザー銃。」

非殺傷性かつ、無力化を望める武器。これも必要になるだろうと手に取ろうとした頃、カヨコがこちらに戻ってきた。

「…それ、持ってても意味ないよ。はい、これ。先生の分の拳銃。」

持ってて。と、私に拳銃を渡すカヨコ。受け取ろうとしない私に怪訝そうな目を向けて、どうしたの?と問いかける。

「…それは、人を殺すためのものだ。」

「…そうだね。けど、同時に先生を守る道具でもある。」

「私には…」

過ぎたものだよ。と口にすると、カヨコは大袈裟にため息をついた。

「確かに、先生にとってはコレは、酷く恐ろしいものなんだと思うよ。人を殺しうる道具だからね。…実際、コレで酷い目にあった先生からしたら、忌避すべきものなのかもしれない。でもさ。私たちは、コレじゃ死なないよ。この口径の銃ならせいぜい、軽い怪我とか…最悪の場合でも、気絶するくらいで済む。だから、持って。使って。躊躇っちゃダメだよ。」

グッと押しつけた銃を私が漸く受け取ると、カヨコは小さくごめんねと呟いた。

「…カヨコが謝る事じゃ無いよ。私が、覚悟を決めなくちゃいけない事だ。」

「…そっか。もし、さ。先生がどうしても気に病むなら。一緒に、謝りにいってあげるから。」

「…ははっ。ありがとう、カヨコ。」

「…ん。それじゃ、装備も整った事だし…これからの作戦でも立てようか。」

「うん。そうしようか。」

事務所の方まで戻り、カヨコがコーヒーを淹れに行こうと部屋を出る。

ピンポン、とインターフォンの音が響いた。

「…ごめん、先生。私が対応するから、先生はコーヒー淹れててもらえる?」

「分かったよ。気をつけてね。」

「うん。」

踵を返したカヨコは、そのまま玄関の方へと向かっていった。

コポコポとコーヒーを淹れていると、なにやら疲れた顔をしたカヨコがキッチンへ脚を踏み入れる。

「…先生にお客さんだよ。」

「誰?」

「黒いスーツを着た変人。」

「…分かった。カヨコ、少し待っていて。」

「うん、任せるね。コーヒー、持っていった方がいい?」

「ありがとう。お願いするね。」

私はカヨコが招き入れた黒いスーツを着た変人の待つ部屋へと向かう。

「先生、コーヒー置いておくね。」

部屋にたどり着くと、ソファに座して待つ黒服の前と私の前にコーヒーが置かれる。

「…何かあったら、すぐ呼んで。」

「あぁ。ありがとうカヨコ。」

それじゃあ、とカヨコは部屋から退出した。

そのことを確認し、目線をゆっくりと眼前に戻す。

「…何の用だ。黒服。」

いつもの不敵な笑みは見えず、黒服はただ此方を見つめている。

「…今日は、先生に謝罪に参りました。」

「…は?」

事態を飲み込めず、素っ頓狂な声が漏れる。

 

黒服はソファから立ち上がり、深々と頭を下げた。

「此度のこの事態ですが…遠因は我々、ゲマトリアにあるのです。先生へ危害を加える事態にまで発展したこと、深く謝罪申し上げます。」

「どういう、ことだ。」

震える唇が漏れた言葉は、強い怒りで震えていた。

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