嫌悪の果てに   作:黒糖煎餅

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対等

部屋ですっかりと冷えてしまったコーヒーを啜りながら、ぼんやりと考え事をしていた。すると、カヨコが後ろから声をかけてくる。

「先生、どうするの?」

「…どうするのって、何が?」

「ごめん。さっきの話、部屋の前で待機してたら、ぼんやり聞こえてきて。」

「…そっか。」

「それで、どうするの?」

「…事態の原因は分かったし、早急に解決するのが望ましいって言うのは、分かってる。このままだと、ジリ貧だしね。しかし、今回は殊勝な態度だったけど…アイツと私は、不倶戴天の敵だ。絶対に相入れることは無い。そんな奴に、生徒を…君達を預ける事ができるのか、迷っている。もし、君たちに何かあったらと…そう思うだけで…」

「…先生。」

震える掌に、ひんやりとした手のひらが重ねられる。

「私は、…ううん。私たちは、先生を助けたい。先生を助けるためなら、なんだってするよ。大丈夫。自分の身は自分で守れるし、危険な賭けだとしても、私は乗るべきだと思う。」

「黒服は狡猾な男だ。私一人が危険ならまだしも、君達を巻き込む事は…」

「先生。確かに先生は、私たちを守ることが役目なのかもしれないけどさ。」

カヨコの手が、ぎゅっと強く、しかし優しく。私の手を包み込む。

「私たちにも、先生を守らせてほしい。一人の生徒としてじゃなくて、私たち便利屋を…陸八魔アルを、浅黄ムツキを、伊草ハルカを…鬼方カヨコを、生徒としてじゃなくてさ。一人の人間として、貴方と対等でいさせて欲しい。危険な賭け?そんなの関係無いよ。私たちの命も、これからの未来も。先生を助けるためなら、全部使い潰したって構わないから。どんな苦難だって、アル社長なら立ち向かう。どれだけ絶望的でも、きっとムツキは笑って戦う。どれだけ辛い状況でも、ハルカはきっといつも通り、全部壊してくれる。だから、先生。私たちを信じて。私たちに、全部託して。先生の迷いも、懸念も、後悔も。全部、私たちが壊してあげる。先生がもう一度笑って…皆と過ごせるようにしてあげる。だから、迷わないで。」

 

彼女は私を見て、そう告げた。

真っ直ぐな瞳だった。

台頭でありたい。対等に見てほしい。

それは確かな彼女の思いで、私が意識的に超えずにいた境界を、意図せず踏み越えた。

「きっと、すごく大変な事だ。」

「迷惑なんて、かけられ慣れてるよ。」

「君達に、大きな怪我をさせるかもしれない。」

「それは…確かに。でも、入院できたら当面の食糧問題は解決しちゃうし、一石二鳥だよ。」

私の言葉を、彼女は微かな笑みを浮かべながら捩じ伏せる。

「何度でも言うよ。先生。私たちは、あなたを守りたい。だから、なんだってする。キヴォトスの全てが敵だろうと、関係無いよ。だから、私を…先生の信じる便利屋を、信じてほしい。」

まるで、聞き分けのない子供を諭すように。

けれど、その言葉は溢れんばかりの愛に満ちていて。

「…カヨコには敵わないなぁ。」

灼きつくまでに真っ直ぐな視線は、絶えず私の瞳を捉えていた。注がれた視線には、その幼い体にはそぐわぬ程の決意が宿っている。

「ありがとう、カヨコ。私の命運を、君たちに預ける。」

「うん。」

「よろしく頼むよ。」

「うん。それじゃあ、皆を呼び戻すよ。」

そう言うと、カヨコはスマホを取り出した。

「…社長?うん。進展があったから。取り急ぎ、戻ってきてくれるとありがたいかな。…うん。うん。わかった。よろしく。」

社長たち、二時間くらいで戻るってさ。

カヨコはそう言いながら、淹れ直したコーヒーを持ってきた。

「それじゃ、私たちは私たちでやれることをやろっか。…作戦会議だよ。先生。」

 

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