投稿遅れてすみません!
最新話、先生の言う『信頼できる生徒』とは?
と言うことで、あのキャラクターの再登場です。
夜が明ける。眠気覚ましを飲んだのに、結局は眠ってしまっていたらしい。健やかな秋晴れの朝陽に目を焼かれながら、私はソファから体を起こした。
少し休むだけのつもりでソファを選んだが、やけに体のあちこちが痛い。身体をほぐす様に動かすと、骨がポキポキと滑稽な音を立てる。
古びたソファがギシギシと音を立てる。
ゆっくりと伸びをして、扉を開く。もう既に、皆は起きている頃だろうか。
「おはよう、先生。」
ふわりと花が咲いた様に、カヨコが頬を綻ばせた。
「おはよう、カヨコ。皆も。」
各々は朝食を済ませた後なのだろうか。コーヒーやココアを飲みながら、ぼんやりと時間を過ごしている様に見受けられる。
「今日、先生の言ってた子を交えての作戦会議だけど…私と社長で迎えに行くからさ。先生は、ハルカとムツキと一緒に時間を潰してて欲しいんだ。良い?」
「構わないよ。もう行くのかい?」
「うん。昨日連絡をとってみたら、10時半にはこっちの方まで来れるってさ。この辺、寂れてるから。目印になる様な建物もあんまり無いし、迎えに行こうと思って。」
「ありがとう。助かるよ。」
「いいよ、これくらい。…それじゃ、社長。行くよ。」
「えぇ。それじゃあ、行ってくるわ。ムツキ、ハルカ。先生のこと任せるわよ。」
「はーい。」
「か、かしこまりました!」
「…それじゃ、行きましょうか。」
やり取りを交わすと、カヨコとアルは車両へと乗り込み、待ち合わせの場所へと向かっていった。
「…さて、と。」
出発してから、30分ほど。事務所を構えた所より、更に寂れた自治区の外れ。そこが、私たちと彼女の待ち合わせ場所だった。
「社長、警戒だけは怠らないでね。先生の言葉を疑うわけじゃないけど…」
「分かっているわ。目に映るもの、全てが敵の可能性を考えること…でしょう?」
「うん。お願いね。」
腰に携えたホルスターの中の拳銃を確かめる様に握り直しながら、私たちはじりじりと足を進める。
「…まだ、着いてないのかな。」
それか、私たちの臨戦態勢に気がついているのか。そう思案を巡らせ、モモトークを開こうとパーカーのポケットに手を伸ばそうとした、その時。
不意に聞こえた足音に向き直る。青みかかった銀髪に、きっちりと着こなされたミレニアムの制服。おそらく、彼女が先生の言っていた生徒だろう、と当たりをつけた。
「貴女が…」
声を掛けようとすると、彼女は口元に指を立てる。視線で喋るな、と制された。
『盗聴器がつけられている可能性があります。』
と書かれたスケッチブックを取り出し、彼女はゆっくりと頷いた。私も意図を理解し、社長へとモモトークを送る。
『会話が盗聴されているかもしれない』
と送ると、社長は驚きの表情を見せた。
『裏切り…?それとも密偵かしら』
『違うと思う。少なくとも、密偵なら盗聴されていることを打ち明ける理由がない。信頼に足るかは別にして、害意はないと思う。』
そう返信すると、社長はやれやれといった様子でかぶりを振った。厄介ごとに巻き込まれたものだ、と表情に書いてあるのがありありとわかる。
私と社長のやりとりの間に追加で文言を追加した彼女が、スケッチブックを掲げた。
『新しく卸した服に着替えます。』
と書かれている。つまりは、制服等に盗聴器の類が取り付けられていると考えているらしい。
『了解。近場に閑散としている銭湯がある。そこで。』
とモモトークの画面に入力し、彼女へと提示した。
こくり、と頷いた彼女をその先頭へと案内する。
銭湯へと入り、番頭に金銭を渡す。大事な話があるので、と少ないながらも口止め料を支払い、脱衣所へと足を踏み入れた。
到着するや否や彼女は服を脱ぎ始め、制服を脱衣所の一番離れた場所へと置く。
『手間を掛けてしまいました。ありがとうございます。』
と書かれたスケッチブックに対し、気にしないでと書き返す。微笑み返した彼女はそのまま、銭湯の中へと足を踏み入れた。
「はじめまして。ミレニアムサイエンススクール、セミナー所属、生塩ノアと申します。」
「ゲヘナ学園。便利屋68所属の鬼方カヨコ。あっちは便利屋の社長の陸八魔アル。…自己紹介なんてまだるっこしいことは省略して、いくつか聞きたいことがある。」
「えぇ。いくらでも。」
「端的に言わせてもらう。私たちは…いや、私は、貴女を信用していない。貴女が信頼に足る根拠を教えて欲しい。」
「…カヨコ。落ち着きなさい。申し訳ないわ、生塩さん。でも、私としてもカヨコの気持ちがわからないわけでもないの。今日に至るまで…僅か5日足らずで、先生は何度も襲撃に遭っているわ。ゲヘナの無法者を率いた風紀委員、トリニティの正義実現委員会…話では、アビドスの生徒からも敵対的な対応を取られたそうよ。もちろん、探せば敵対的ではない生徒もいるのかもしれないけれど…」
「…私がそうとは限らない、と。」
「えぇ。気を悪くしたのなら申し訳ないわ。」
「いえ、懸命な判断です。実際、私に先生に対する害意は無いか、判断できる材料が無いんですから。」
「私と、他の方との違い。それは、ずっと覚えている、と言うことです。」
数秒の沈黙ののち、彼女はゆっくりと話し出した。
「他の方たち…少なくとも、私の身の回りの方々は、先生に対して…かつての感謝や敬意より、怒りが上回っている、そんな様子でした。私にも、先生に対する怒りは勿論あるのですが…私は、憶えているのです。あの人の優しさを。あの人の献身を。あの人が、誰よりも私たちの幸せを考えていてくれている、と言うことも。怒りと、感謝。相反する想いは、今でも私の中に渦巻いています。…けれど、私はそれに飲み込まれることはないでしょう。怒りで我を忘れられぬほどに…私は、あの人に多くのものを貰いました。その感謝は、絶えることなく…その想いが朽ちることは、決してありません。」
手桶に溜めた乳白に濁る湯を眺めながら、彼女はぼんやりと言葉を並べる。
「あの人を守るために戦う。その為なら、私は友を売りましょう。友を守るための刃を、友に向けましょう。たとえ、そのせいで確執が残るとしても。耐え難いあの人の喪失も、友に罪を背負わせることも、私には酷く耐え難いのです。」
乳白色の液体が指の隙間を滑り落ちる。きゅっと握り締められた細指が微かに震えている。
「…分かった。少なくとも、敵意はなさそうだね。それじゃ、行こうか。」
立ち上がると、ゆらゆらと水面が揺れた。
「はい。行きましょうか。」
ざぱん、と水の弾ける音が聞こえて、彼女が立ち上がった。
2人で脱衣所に入り、貸付のバスタオルで身体を拭きあげる。無言のままで着替え、暖簾をくぐると、気だるげな番道が声をかけてきた。
「お嬢ちゃん、もう1人のお友達はどうしたんだい?」
「…?どうしたもなにも、後ろに…」
居なかった。急いで踵を返し、浴室へと押し入る。浴槽には、天を仰ぎながら顔を赤く染めている社長がいて。
「そういえば長湯、苦手だったね…」
ぐったりとしている社長を担ぎ上げ、脱衣所で身体を拭き、着替えさせる。
「よい…しょっと。社長、休憩所行くから、そこで少しゆっくりするからね。」
「…えぇ、任せるわ…」
そういった社長を背負いながら、彼女の待つ休憩所へと足を進めた。
「…大丈夫ですか?」
「うん。ただの湯あたりだと思う。長湯、苦手なんだ。色々考えて、頭が茹であがっちゃったみたい。」
「そうなのですね…」
無言の時間が流れる。
「…詳しい話は、後でするけど。ざっくり今回のあらまし、聞いておく?」
「はい。よろしくお願いしますね。」
アル社長が目を覚ますまでの時間で、彼女に説明を開始する。結局、社長が起きたのは30分ほど時間が経った頃だった。
「社長も復活したし、そろそろ行こっか。」
駐車場に停められていたオンボロの軍用車両に全員で乗り込み、事務所へと車を走らせた。