疲労と深夜テンションで書き上げました。
気に入らなければ後日書き直します。
「先生、お時間です。」
枕元に置いたシッテムの箱から、彼女の声が聞こえる。
「…おはよう、プラナ。起こしてくれてありがとう。…アロナは?」
「…先輩なら、ご就寝中です。と言っても、私から薦めたのですが。」
「そうなんだ。」
「はい。今回の作戦は恐らく、長期化するかと思いまして。私たちが常時稼働するより、交代で臨むのが良いかと。…結果的に、シッテムの箱の電力消費も抑えられるはずですので。」
「うん。君たちの判断なら、そうしてくれた方がいいね。便利屋のみんなと合流しようか。」
「はい。よろしくお願いします。」
プラナ との会話を切り、ベッドから降りる。備え付けられた洗面所で身嗜みを整え、服を着替え、シッテムの箱や、準備してあったポーチを持つ。
「…先生、忘れ物です。」
「…あぁ、そうだったね。」
ジャケット内にホルスターと銃を仕込み、再びジャケットを羽織り直す。いつもと同じ服装。けれど、纏うその鉄器の違和感が、どうも気持ち悪い。
「…やっぱり、違和感がすごいね。」
「…違和感、と言うよりかは、嫌悪感かと。」
「…そうだね。本当だったら、銃なんて持ちたくはないんだけど。」
「…今は、非常事態ですので。身を守る術を多く持つことは、決して悪いことではありません。」
「分かっているよ。じゃあ、行こうか。」
「はい。」
シッテムの箱を仕舞い、事務所へ向かう。既に準備を終えた面々が待ち構えていた。
「…おはよう、みんな。」
緊張しているのか、口数は少ない。けれど、心配はなかった。彼女たちなら、と、そう信じているから。
カヨコが、ゆっくりと息を吐いた。
「それじゃ、行こう。」
それぞれが応え、階下の軍用車両2台に乗り込む。重いエンジン音が二つ響き、夜明け前の静寂を破った。
「先ずは、黒服と合流。座標はアビドス北西部…自治組織を持たない、廃棄された区画に向かうよ。」
「了解。私たちの車両が先導するから、先生はその後ろについてきてちょうだい。会敵時には車両のハザードランプを一瞬だけ点灯させるわ。それを見たら、即座に回避行動を取って。車両による追跡以外は無視して振り切ること。良いわね?」
「了解。後はインカムで、適宜情報の共有だけお願いね。」
「分かったわ。それじゃあ、行きましょうか。」
アルの号令で、車両が動き出す。
暗がりの中を駆ける。
ゲヘナの外れから車両をかっ飛ばして、早くも数時間。空は白み始めており、もう暫くすれば、生徒たちも動き出す頃だろう。日が登り切る前には黒服と合流しなければならない。
「…車両の影は無いわね。」
「うん。…少し、気味が悪い。」
前方の車両に乗っている2人は周囲警戒の警戒を強めながら、出せる限りのスピードで突き進んでいく。追随し、速度を上げようとアクセルを強く踏み込んだ。その、刹那だった。
「…先生!退避行動を!」
後方から、ノアの声が響く。訳もわからぬまま、ハンドルを大きく切った。遠心力によってぐらりと体が傾く。
「…っ!」
後方で轟音が響く中、なんとか車体を安定させると、先ほどまでいた場所に大きなクレーターが出来上がっている。
「衝撃信管のグレネード…。先生、建物から離れてください!」
「わかった。」
素早く車を発進させ、建物から大きく距離をとろうとアクセルを踏み込む。
「よぉ。逃げんなよ。」
ズン、とボンネットに衝撃が走る。
聞き覚えのある声だった。幾度となく前線に立つ姿を見た。彼女を重用していたからこそわかる。悠長なことしている暇はない、と。冷や汗が背筋を滑り落ちる。
「車から出…」
「じゃあな、先生。」
ぽろり、と。彼女の掌から、球状の何かが零れ落ちる。
「プラナ!」
「シールドを形成します。」
私の意図を汲み取ってくれたプラナが、車両を包み込むように防壁を形成する。大きな揺れに苦悶しながら、私は皆へと指示を出した。
「脱出して、戦闘態勢!」
ぐらりと大きく揺れた車体から逃げ出し、各々が戦闘態勢をとった。
「おいおい、ターゲットが隠れないでどうするよ?…カリン、やれ。」
冷笑を浮かべるネル。直後、ぞくり、と背筋が粟立った。
「プラ…」
言うより速く、プラナはシールドを展開する。刹那、大口径の銃弾が着弾した。
「…弾丸の相殺を確認。先生、ご無事ですか。」
「ありがとう。…次も頼むね。」
「はい。」
「…アル!近くに狙撃手がいるはずだから、その子を狙って!」
「えぇ。既に対処済みよ。」
「…チッ、カリン、次弾装填だ。…あぁ!?スコープをやられただァ!?狙えねぇ事はねぇだろ!」
苛立ったように声を荒らげ、舌打ちをするネル。
「まぁいい。コイツらを全員ブッ潰して、腹に何発か撃ちこみさえすりゃあ…それで終いだ。」
「ムツキ!」
「はぁい!」
後ろに飛び、私のいたネルの真正面にムツキが立ち塞がる。両の手で銃を乱射し、そのほとんどがネルに命中する。
「おまけに、もういっちょ!」
ムツキは懐から取り出した手榴弾を足下に転がして、大きく後ろに飛び退いた。爆炎が眼前に迸る。
「…なんだよ、蚊か蠅でも飛んでんのかと思ったぜ。」
立ち昇る砂煙を鬱陶しそうに手で払い、ネルは平然とした様子で再び姿を現した。
「なっ…!」
驚愕の表情を浮かべたのは、彼女を知らぬ便利屋の面々だった。
「全員で一斉に仕掛けて!」
その言葉に反応して、その場の全員がネルに向かって弾丸を掃射する。
各人が装填された弾丸を撃ち切るほどの、一斉掃射。倒せる。倒せたはず。甘い考えが脳裏を過ぎる。そんな事は無いと、誰よりも分かっていた。だって、彼女の強さを、識っていたから。
「…あー、もういいか?」
そう言ってネルは首を鳴らし、眼前にいるムツキとハルカを蹴り飛ばした。
「ノア、すぐにリロードして応射…」
私の言葉より疾く、ノアは行動を開始した。彼女もまた、識っていたから。
視界の端で、ネルが嗤う。
「…なぁ、1人、忘れてねぇか?」
「しまっ…!」
爆発物からは遠ざかるように動いていた。
狙撃手は早々に無力化した。
後は、ネルを…最高戦力さえ叩けば終わりだと、勝手に思い込んでいた。
居ないと思っていた。
彼女は只、純真な子だと、そう思っていたから。
彼女はまだ、恋を識らないと、そう思っていたから。
後方に遮蔽と呼べるものは無い。
なら、どこから…
ふと、背後に走る寒気。
「やれ、アスナ。」
そう言われたアスナは、無表情のまま引き金に掛けた指を引き絞る。
『上空より飛翔体を確認。シールド、展開します。』
刹那、響く爆音。巻き上がる砂塵。聞こえたのは、彼女の微かな呻き声。
「アビ・エシェフの起動を確認。贖いと、個人的な借りを返しに来ました。…先生を、守ります。」
颯爽と現れ、彼女は私とネルの間に立ち塞がる。
「トキ…!?」
「えぇ。貴方の飛鳥馬トキです。それに、もう1人。」
トキの指差す方向には、もう1人の人影。身の丈ほどもある、巨大なレールガン。
「皆!退避を!」
向けられた銃口が、煌々と光を帯び始める。
「先生、舌を噛まないように。」
そう言うと、トキは私を掴み上げてその場から大きく跳躍した。刹那。
「光よ!」
銃口から、雷を思わせるほどの炸裂音が響く。
まるで、空が真っ二つに裂けたかと思われるほどの、轟音。
「もう大丈夫です、先生。私が、先生を守ります。」
夜明けの明かりに照らされる彼女の瞳は、確かな意志を持って、そこに立っていた。