嫌悪の果てに   作:黒糖煎餅

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投稿遅れました。申し訳ないです。
いやぁ、仕事が忙しいとなかなか時間がとれないもんですね。



叱咤

タイヤが砂地を蹴り、夥しいほどの砂塵を巻き上げながら加速する。護衛対象は遥か彼方へと飛び去っていく。

「ハルカ!すぐにgpsの確認と案内を!ムツキはなるべく最短で突っ切りなさい!」

指示を飛ばしながら、私は隣に座る彼女チラリと横目で見る。

「…はっ、はっ、はっ…」

夥しい汗の量。荒い呼吸。合わない焦点。動転している様子の彼女の手を、強く握る。

「…やっぱり、無理、だったんだ。」

整わない呼吸のまま、隣に座る彼女…鬼方カヨコはぽつりとそう言葉を溢した。

「カヨコ…」

震える手で顔を覆い、彼女は俯く。カタカタと全身が震えて、嗚咽を溢す。その姿は、痛々しくて、弱々しくて…いつも毅然としている彼女の姿は、そこには無かった。

「怖い…。」

それは紛れもなく、彼女の本音で。いつもの私ならば、どう受け止めていいかわからなかっただろう。

「…顔をあげなさい、カヨコ。」

…でも、今は、違う。

賽は投げられた。もう、後戻りのできない場所まで、来てしまった。ならば、私のやるべきことは、ただ一つ。

「…無理だよ。どう足掻いたって、この作戦は…」

万に一つも、成功しない。

諦めたように、絶望したように。彼女は、ぽつりと呟くように、吐き捨てた。

 

パァン、と。平手が、大きく響いた。

「…ぇ?」

「…鬼方カヨコ!」

強く、名を呼ぶ。

「気を強く持ちなさい。もう、後戻りはできない。援護も期待できない。でも、そんなことは百も承知なのよ。私も…もちろん、先生も。でも、それでも彼は、この決断をしたの。…何故か、分かる?」

「…それしか、活路がなかったから?」

「…そうね、きっと、それもあるわ。…でも、先生に危害が及ばないようにするなら、彼はここを…キヴォトスを出る選択肢もあった。それが、安全で、安心で、最短の道だった。それをしなかった理由は、分かるかしら。」

カヨコはぐっと押し黙る。

「あの人は、生徒たちのためにこの決断をしたのよ。誰かを憎み続けるって言うのは、きっと…とても、辛くて、苦しいものだわ。楽しい時、嬉しい時、悲しい時…その刹那に、ふと憎しみが込み上げることだってある。悲しい思い出が尾を引く様に、憎しみというものはきっと、胸の内に澱のように溜まるものよ。そんな思いを、させないように、この決断をした。その為に、私たちを頼った。彼一人の力では、どうしようもないから。」

カヨコがぐっと顔を上げる。ゆらゆらと揺れる双眸が、けれども真っ直ぐに私を見据える。

「私たちが諦めるのは、彼の決意を、彼の命を無駄にすることと同義よ。あの人が、困難を乗り越える為に必要としてくれた私たちへ寄せる信頼を、裏切る行為よ。確かに、成功する確率は低いかもしれない。針の穴に糸を通すような、茨の道を歩くような…辛く、険しい道のりになるかもしれない。でも、絶望するのは今じゃないわ。彼はまだ生きていて、私たちもいる。カヨコ。信じなさい。自分を…私たちを。あの人が信じる、私たちを。あの人が信じる、貴女の力を。」

肩を掴む。彼女の体がびくりと震え、けれど、次第に震えが弱まっていく。

「…私は、私を信じられない。」

「…。」

「ねぇ、社長。…ううん、アル。」

「…なにかしら?」

「…信じても、いい?」

「えぇ。」

「…たくさん、迷惑かけると思うよ。」

「そんなの、屁でもないわ!」

「…やっぱり、敵わないね。」

そう言うと、彼女はかすかに苦笑いを浮かべた。けど、その言葉はどこか、晴れやかで。

ゆっくりと、彼女が息を吐いた。深く、深く。内心に押し留めた弱音を、不安を、吐き出すように。もう、足を止めないために。

「…不思議。アルの言葉は、いつだってスッと入ってくる。」

柔らかな、嫋やかな、微笑み。

「吹っ切れたかしら?」

「そりゃ、もう。…頼りにしてるよ。アル。…皆。」

さぁ、仕切り直しだ。大切な仲間の、大切な人を守るための戦いが、始まる。

 

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