銃声が聞こえた。
ああ、死ぬ時ってこんな感じなのか。時間がゆっくりと流れているような不思議な感覚を覚え、ぼんやりと目の前のイチカを眺める。一説によれば、人間は死の間際に思考が加速するらしい。過去の経験から助かる道標を探し出すためだとか、なんとか。まぁ、脚を撃たれた私にとっては関係のない事で。来るべき痛みと衝撃に備え、きつく目を瞑る。
「ちょっ…なんなんすかこれっ…!」
いつまで待っても来ない銃弾を不思議に思い、目を開く。そこに広がっていたのは、網に絡まり付かれのたうち回るイチカの姿。その近傍には、見慣れた紫と黒の軍服…もとい制服を着こなしている少女の姿が映る。
「…ハルカ?」
そして、背後から迫る複数の足音。他の生徒たちが襲いにきたのだと思い振り向くと、そこには赤を基調にしたゴスロリチックなスカートの上に、制服を纏った小柄な少女がいて。
「ムツキ。」
迫ってくる足音の主たちにマシンガンを掃射し、手榴弾を楽しそうに放り投げている。
状況が飲み込めない私の背後から、こつ、こつ、とゆっくりと近づいてくる足音が聞こえて…
「先生、少し眠ってて。」
ちくりと首筋に痛みが走り、そのショックからか困憊した私は、投げ出すように意識を失った。
「…社長。取り敢えず、先生は確保した。連れて帰るから、車こっちまで回してくれる?…うん、なるべくそっちに近寄りながら行くけど、追手が来たら追い払わないとだから、合流地点はこっちの方に設定してあるよ。…うん。それじゃ、よろしく。」
「ムツキ、ハルカ。先生は確保したから、追手をいなしながら合流地点まで行くよ。ムツキ、先生を運ぶのは…」
「私は戦いたいからやだ!」
「…じゃあ、ハルカは…」
「ひぇっ!わ、わたしなんかが先生に触れるなんて…烏滸がましくて、できません!」
「…わかった。じゃあ、2人とも露払いをお願い。ムツキ、殿頼める?」
「うん!」
「ハルカは私たちの前で。進むのはゆっくりでいいよ。確認だけ丁寧にやって欲しい。サーチアンドデストロイでいこう。見つかる前に無力化して。なるべく、先生を危険な目に合わせたくない。」
「わ、わかりましたぁ…頑張ります…」
「よし、行くよ。」
そう言って、ハルカの少し後ろを歩き出す。背中に当たる体温と、耳に掛かる柔らかな寝息を感じながら、私たちは社長の待つ合流地点に向かった。
「間に合ってよかったよ。本当に。」
あと少しでも準備が遅れていたら、先生は死んでいた。大怪我をしているけれど、止血もしたし、呼吸に異常もない。
「こっちよ!」
合流地点に待っていた社長が乗っている車に乗り込み、今の仮事務所の方へ向かいながら、私たちは今後の対策を話し合う事にした。