じくじくと痛む疼痛に悶えながら、私は薄暗い道を進む。打ち捨てられた街道には、何年も手入れされていないであろう街灯がチリチリと灯っては消え、影を作ったかと思えば消えていく。街灯の明かりは荒れ果てた道を歩く私にとっては心許無く、なるべく月明かりが射す大通りを、息を潜めながらゆっくりと進んでいく。
便利屋の事務所から抜け出して、かれこれ一時間半ほど。普段の足であればとうに最寄りのセーフハウスに到着しているだろうに、傷を負った私の体は、いつも以上に動きが悪い。
「…クソっ。」
先程の自らの醜態が頭をよぎり、思わず悪態をついた。
惨めなほどに打ちのめされ、裏切られ。窮地に立たされた私を救ってくれたのは、彼女たちだった。
けれど、正常では無かった私の頭には、
『彼女たちも私を裏切るのではないか。』
などと言う、根拠すら無い与太が思考の中心を据えていた。…酷い話だ。私を殺したい…いや、死んでもらいたかったのならば、あのまま放置していれば、彼女たちの目的は達成されていたのだから。風紀委員からの取引のために私の身柄を確保した時点で私を殺し、遺骸を風紀委員にでも引き渡せば、彼女たちは晴れて依頼を達成し、風紀委員からの追跡も無くなる。それをしなかったと言うことはつまり、単に彼女たちの目的は、私の救出だったはずなのだ。そんな彼女を…彼女たちの善意を裏切り、罵り…剰え、差し伸べられた掌を払い落としてしまった。
疑心暗鬼を生ず、とは、まさにこの事だと、自身の醜態を心で嘲笑する。こんなことになって尚、私を救おうとしてくれた彼女たちを否定した。
その上で彼女たちに救いを求められるほど、私は厚顔無恥にはなれなかった。これ以上、彼女たちのもとに居たく無かったのだ。彼女たちには申し訳なかったと思う。だが、あのままあそこに居るのは、心が耐えられなかったのだ。
無様を晒して、罵声を浴びせ…彼女たちに先生として振る舞っていた私が、先生として…いや、大人としてしてはならない醜態を、他ならぬ彼女の前で見せつけてしまった。
消えてしまいたかった。彼女の前から。
野垂れ死ぬ事になっても、優しい彼女たちの前で、これ以上醜態を晒したく無かった。
彼女は、私を慕ってくれていたから。
心の擦り切れそうな私を、支えてくれようとしていたと、分かってしまったから。
寄りかかれば、諸共に腐り落ちてしまうのではないかと…彼女の、彼女たちの未来を大きく左右してしまうのではないかと、そう思ったのだ。
セーフハウスまではあと一キロメートル程度のところ。
ようやく終わりの見えた道のりに安堵のため息をつくと、膝から力が抜けてその場にへたり込む。二時間近くの移動に、私の足は悲鳴を上げていた。あと少しなのだ、と気合を入れ直し、立ち上がろうとした瞬間…
「先生。ようやく見つけたよ。」
チリチリと明滅する街灯が、私の眼前に人形の影を映す。思わず息を呑んだ。眼前の影は明滅のたびにその姿を大きく、色濃く映るようになる。遠かった足音が、刻々と大きく、ささくれ立ったコンクリートを踏み締める音が、私の半歩後ろでぴたりと止まった。
「…ムツキ。」
ゆっくりと背後に振り向くと、そこには彼女がいて。
「やっほー、先生。…ちょっと、お話ししたいんだけど。いい?」
こちらを見つめる瞳に映るのは、軽蔑か、憤怒か。
少なくとも、かつての彼女の瞳に浮かんでいた、喜色の色は見えなかった。
「…分かった。」
ごくりと固唾を飲み、彼女へと向き合う。
射竦めるような、彼女の冷ややかな視線を感じながら、私は彼女の言葉を待つ。
「私ね、先生に怒ってるの。」
何に怒ってるか、わかる?そう言って、彼女は小悪魔的に首を傾げた。いつも通りの、彼女の振る舞い。けれど、その瞳は一切笑っていない。言葉を選ぶ私に、ムツキは苛立ったように声を荒げた。
「何に怒ってるか、わかる?ねぇ?」
「…君たちを、信じなかったから。」
「…違うよ。」
先生が、カヨコちゃんを泣かせたから。
「泣か、せた?」
「そうだよ。私ね、便利屋の皆のこと、大好きなの。…だからね、便利屋のみんなのことを傷つける人は、大っ嫌い。」
「…ごめん。」
「私に謝るのは違うでしょ。」
「…ごめん。」
「…取り敢えず、事務所戻ろっか。それで、カヨコちゃんに謝って。今、一番辛いのはカヨコちゃんだから。」
そう言うと、ムツキは私の手を取って、事務所の方へと歩き出した。
ドレスヒナちゃんと水着おじさんを引くために取れる石を全て回収していました。どうも、黒糖先生です。
ドレスヒナちゃんと水着ハナコお迎えできてウレシイ。水着おじさんは天井した(課金込み)のでカナシイ。
星3自体はたくさん出たのでまぁ、ヨシ!
それはそれとして、なんか私の書く便利屋のみんなは若干しっとりしてるような...気がするだけですかね?
取り敢えず、今回は失踪した先生をムツキちゃんが捕まえる話。
次回は先生とカヨコちゃんの和解。
その次から、漸く物語が動き出すかなと。かっこいい便利屋を書けるように頑張ります。