フランカの鉱石病が悪化してリスカムが曇る話 作:potetopoteto
今回も徹底的に曇らせます。
「ケルシー先生、フランカは!?」
リスカムは医務室の扉を開けたケルシーに飛びかかる。既に泣いていたのか、目はひどく充血している。
「大丈夫だ、今すぐに命を落とすようなことは無いだろう」
『命を落とすことはない』その言葉にリスカムは大きく安堵し、地面にへたり込んだ。
長年連添った相棒が自分を庇って死んだとなれば、正常では居られないだろう。
「しかし、完全に危機が去った訳では無いということを理解してくれ。こちらも最善を尽くすが、
「……わかりました」
ケルシーの警告を聞き終わると、リスカムは駆け足でドアに駆け寄り、手を掛け、フランカの下へ向かおうとする。
「待て」
しかし、ケルシーはそうはさせまいとリスカムの腕を掴み静止した。その行動に憤りを覚えたのか、リスカムはロドスのリーダーを睨みつける。
「何故です!」
角を青白く光らせ、ビリビリと電気を纏うリスカムに、ケルシーはため息をつく。
「ついて来い、フランカの状況を説明する。話はそれからだ」
リスカムは不満を抱えながらも、ケルシーに同行した。
* * *
「恐らく、今から明かす内容は、君の精神に強いダメージを与えるだろう」
「――それでも、聞くか?」
ケルシーの問いかけに、リスカムは考えた。
正直、怖い。 けど、駄目だ。
私がこうしている間にも、フランカは苦しんでるかも知れない。私が怖気づいてる場合じゃない。
「聞きます、聞かないといけないんです」
「そうか、君の意見を尊重するとしよう」
そう言ってケルシーは、フランカに関する書類をいくつも取り出した。中には鉱石病に関するものも多くあり、リスカムは顔を強張らせる。
ケルシーはレントゲンの写真をテーブルに広げた。
「まず、原石が突き刺さったことによる外傷だが、脊髄に大きな損傷があった。主な症状としては、末端の痺れや、運動機能の喪失といったところだろう」
「フランカは両手の痺れ、両足の不自由といったところだ」
「恐らく、今後の戦闘に参加は出来ない」
いきなり告げられた、衝撃的な内容に、リスカムは分かりやすく顔を歪めた。脳で情報が処理できないのか、口を開け閉めして何も発せていない。
「リハビリを重ねることで、単独での歩行ぐらいは可能になるだろうが……まあ、そんなところだ」
ケルシーなりの慰めなのか、不器用に希望を持たせた後、テーブルの上を片付け、次の書類を並べる。
「そして、フランカの鉱石病だが……」
いつも仏頂面のケルシーだが、リスカムの様子を見て言葉を詰まらせた。――しかし、言わなければならない。
「原石が患部から直接的に侵入した結果、明らかに悪化していると言える。これを見てくれ」
差し出された2枚の書類にはそれぞれ、『造影検査の結果』『循環器系原石顆粒検査の結果』と書いてある。
リスカムは震える手でその片方を手に取った。
「原石融合率……23%?」
慌ててもう片方も手に取る。
「血液中原石濃度は0.49――? そ……そんな事って」
ケルシーは深刻な眼差しでリスカムを見つめた。
「残念だが、これは紛れもない事実であり、無かったことにはならない。そして、君がこれから背負っていく
リスカムは書類を強く握りしめたまま動かない。
「話はこれで終わりだ。健闘を祈る」
ケルシーは部屋を出た。
リスカムはその後も希望を求めて書類を繰り返し読んだが、見えてくるのは絶望だけであった。
「回復の兆しなし……か」
リスカムはこれまでにない自己険悪を感じた。フランカはもう治らない、鉱石病も悪化した。私なんかを助けるために、一生治らない傷を何個も負った
懐からナイフを取り出し、リスカムは自分の腹部に向ける。
ナイフを持つ手はひどく震え、安定しない。呼吸は徐々に平穏を保てなくなり、やがて過呼吸に陥る。
そしてナイフを上に振り上げ――手を放した。
床にナイフが落ちる音が響く。
「……っ、できない」
フランカに助けられた命を投げ出すことは、リスカムにはできなかった。自分の命の価値を、見失った。
* * *
「リスカムの様子はどうだ」
椅子に座ったドクターが尋ねる。
「想像以上だ。このままでは自死を選ぶ可能性もある」
それに答えるのは、リスカムとの話を終えたケルシーだ。テラの大地でも有数の医者である彼女は、リスカムの精神状態をよく理解し、危険を感じていた。
「彼女には早急に手厚いメンタルケアが必要だ」
「……そうか」
そう言ってドクターは手元の書類に目を移す。
「リスカムはBSWを出るフランカに自分の意志で同行したと言っていたな」
さらにドクターは二人についての情報を確認していく。
フランカの鉱石病感染の経緯、二人がパートナーとして活動した期間。そして、今回の負傷について。
「これは……恐ろしいな」
『恐ろしい』という言葉は果たしてどちらに向けられた言葉なのか。否、どちらに対してもだろう。
「ドクター」
深刻な顔をするドクターをケルシーが呼ぶ。それに対して、ドクターは顔の向きを変え、返事の代わりをした。
「悪いが、濡れ衣を着てくれないか」
「奇遇なことに、私も同じことを考えていたよ。ケルシー」
これが彼女のためになるならと、ドクターはケルシーの要求を快く承諾した。