魔王城へ行きたくない勇者VS勇者に来られたくない大魔王 作:狐大総統
あるところに、国民全員が幸せに暮らす、街並みの美しい国があった。
その国の名は『ヘイワ国』といい、優しい王様によって治められていた。
だが、そんなヘイワ国の国民を震撼させる大事件が起きた。
大魔王の復活である。
50年前、大魔王率いる魔王軍によってもたらされた被害は甚大なものだった。
民家は破壊し尽くされ、自然は燃やされ、国民は多大な重症を負った。
当時、大敗を喫していた国民は、既に絶望の最中にいた。
そんな折、ある転機が訪れる。
今は亡き勇者「アーサー1世」の登場である。
颯爽と現れた彼は、一騎当千の活躍で、即座に魔王軍を討伐。
その後、大魔王へと決闘を挑み、全身に傷を負いながらも、最後には大魔王を討ち倒すという偉業を成し遂げたのだ。
そんな大魔王が復活したとあれば、国民の動揺は計り知れない。
「びえぇぇぇえん!うぇぇええん!!誰か助けてよぉお!」
ここにも、大魔王の復活に動揺したのか、泣きじゃくる少年がいた。
それもそうだろう。
過去のことは物語等で読み聞かされているため、子どもは泣き出してしまってもおかしくはない。
更にいえば、大魔王とは過去にヘイワ国だけでなく、多くの国を一夜にして滅ぼし、人類に恐怖を与えている。
大人であっても、泣くなという方が難しい。
だが、1世がいれば、2世もいる。
あの大魔王を撃ち倒した1世が自身以上の強さと認めた2世が!
「なんで、この緊急事態に逃げてんだよ、父ちゃーん!びぇぇえん!」
…先ほどから、やかましい少年について説明しよう。
この少年はアーサー3世。
かの勇者アーサーの孫である。
つまり、アーサー2世はトンズラこいてしまったということだ。
「仕方ないではありませんか。貴方の父上は、危機察知能力にも優れています。かのアーサー2世様でも、逃げるほどの相手ということでしょう」
執事のその言葉に、アーサー3世は震えた。
父でも太刀打ちできない大魔王へ自身が立ち向かわなければならない恐怖だろうか。
無理もない話である。まだ、アーサー3世は経験不足だというのに、いきなり大魔王と戦えと言われれば、難しいものがあるだろう。
アーサー3世は、数十秒ほど震えたかと思うと、ガバッと顔を上げて叫んだ。
「だからって、大魔王が復活したってときに、母ちゃんに浮気がバレたからって逃げだすか!?」
違った。
大魔王からではなく、妻から逃げていた。
いくら、勇者であっても怖いものは怖いようだ。
普通に最低だった。
「やだよー!俺戦いたくねーよ!死にたくねぇよ!うえーん!」
アーサー3世は、とにかく命が惜しかった。何故ならば…
「まだ、彼女もできてないのにー!」
そう、彼女いない歴=年齢であるためだ。
「勇者だからってモテねぇしよぉぉお!」
この国で、勇者は役職となっている。
アーサー1世は勇者として、強敵を屠る強さに加え、高潔な精神性を誇っていた。
そのため、その子孫には勇者の役職が与えられてきたのだ。
だが、強さはともかくとして、残念ながら精神性までは引き継がなかったようだ。
「お父上のモテるところは全く似なかったんですねぇ」
「うるさいよ!うぇぇえん!」
執事のど正論に、アーサー3世は更に泣きじゃくる。
さすがに泣き声を煩わしく思った執事は、ある助言をすることを決める。
「泣き虫なところを治したら良いのではないですか?」
「ぐすっぐすっ…そしたら、モテるかなぁ?」
執事の言葉を聞いて、頑張って泣き止もうとするアーサー3世。
「あと、自分に自身がないところ、訓練をサボろうとするところ、すぐに逃げだそうとするところ、臆病なところ、うるさいところ、落ち着きのないところ、ヘタレなところ…」
まあ、ようするに全部ですねと執事は締めくくった。
「びえぇえん!!」
泣き止みかけていたアーサーは大泣きした。
◇◇
時を同じくして、魔王城では戦いの準備が進められていた。
「うえーん!たすけてー!」
魔王城から悲鳴が聞こえる。
攫ってきた人間の悲鳴…ではなく、大魔王3世の悲鳴である。
「なんで、俺が大魔王になるんだよ、母さーん!俺、嫌だよー!勇者ってあの勇者だろ!調子に乗って世界征服を企んだ爺さんのことをボッコボコにした!あの!」
「大丈夫ですよ。サタン様であれば、勇者なんて瞬殺でしょう」
実際、サタンは祖父である大魔王よりも遥かに強い。
「…それ言った爺様がどうなったか知ってるよな?ワシは最強じゃ!って言ってた爺様、跡形もなくチリにされてたぜ。…はは、俺もチリにされちゃうのかな〜。嫌だな〜、まだ彼女もできてないのに。なんで、大魔王なのにモテたりすらしねーんだ?サキュバスとか、ぜんぜん寄ってこねーじゃん」
「あ、その理由聞きましたよ」
「まじ!?なんて言ってた!?尊い方だからとかか!?そんな理由だったら、すぐにでもサキュバスの塔へと乗り込むが!?」
側近の発言に首をギュルン!と回し、鼻息を荒くしながら尋ねるサタン。
その問いに対して、側近から返ってきた言葉とは…
「生理的に無理だそうです」
「…大魔王は死んだと伝えてくれ。俺は勇敢に戦ったと」
「もしかして、今聞いたことが戦いだったのですか?それはなんというか…」
これ以上は口に出せないとばかりに、側近は自身の口を抑える。
「マジでどうすんだよ。もし、俺がぶっ殺されて、人間達の教科書に復活した大魔王は全くモテませんでしたとか載ってたら」
「…それは、…そうですね」
サタンの言葉を、側近は真面目に捉えたのか深刻そうな顔をする。
「あ、あはは!そんな真面目に受けとんなよ!俺が死ななきゃいい話だ!」
側近が予想と違い、思いのほか深刻そうにするのを見て、サタンは思わず訂正しようとする。
「それは、ちょっと…
めちゃくちゃウケますね
」
だが、側近はやはり側近だった。
全くもって、サタンの心配などしていなかったのだ。
「お前を信じた俺がバカだったよ!」
この夜、サタンはベッドの中でひとり寂しく泣いていた。
アーサー3世
白い肌に金髪青目の容姿で、黙っていればイケメン。
サタン
白い肌に黒い長髪、赤い目を持った中性的な容姿。