「なぜだ……なぜ、私は勝てなかったんだ………比類なき力を手にしたというのに………」
どこか分からない不思議な空間で、ラウラは一人呟いていた
「力こそが、全てのはずなんだ………」
ラウラは悔しそうにそう言うと、拳を握り締めた
すると、そんなラウラに黒いモヤが近寄ってきた
ラウラはそれから膨大な力が放たれていることに気付くと、それに手を伸ばして
「もっとだ……もっと力を……!」
と更に、力を渇望した
だが、その時だった
そのラウラの手を、横から伸びてきた腕が掴んで
「ダメだ、ラウラ!」
と制止した
ラウラは驚き、腕が伸びてきた方向に視線を向けた
そこに居たのは、直哉、弾、一夏の三人だった
「き、貴様ら!」
ラウラは腕を振り払うと、更にその黒いモヤに近づこうとした
だがそれを、一夏はラウラを抱き寄せることで止めた
「な、なにをする!?」
ラウラは引き剥がそうと暴れるが、一夏はより一層強く抱き締めて
「力を求めるのは構わない! けどな、間違った力は災いしか生まないんだ!」
と叫んだ
「私は勝てればいいんだ!」
「それで、命を失うことになってもか!」
一夏の言葉に、ラウラの体が僅かに震えた
だが、すぐに一夏を睨んで
「そうだ! 勝てさえすればそれでいい!」
と帰した
それを聞いて、一夏は逆上して
「この………バカ野郎!」
とラウラを叩いた
叩かれると思ってなかったのか、ラウラは呆然とした
しかし一夏は、そんなラウラの肩を掴んで
「命は一つだけなんだ! 簡単に捨てようとするんじゃねぇ!」
と怒鳴った
そして、ラウラの目を見詰めて
「ラウラがどういう産まれで、どういう境遇で育ったのかは知らない………だけどなぁ、一度関わったんだ。話し合いたいんだ!」
「話し合う……だと?」
一夏の言葉を聞いて、ラウラは理解出来ないという表情を浮かべた
「人間にはな、言葉っていう便利な平和への道具があるんだ。力は最終にして最悪の解決方法だ……出来れば、俺だって……俺達だって戦いたくない」
一夏がそう言うと、ラウラは過去に千冬から聞いた話を思い出した
『私には一人、弟が居るんだがな頑固者なんだが、意志が強いんだ………気を付けろよ? 気を強く持たないと、惚れるぞ?』
という千冬の言葉
ことここに至って、ラウラは千冬の言葉に納得した
一夏のその意志の強い瞳に、ラウラは惹かれた
今まで見たことが無かった、その強い瞳に
「なぜ、そこまで?」
ラウラが問い掛けると、一夏は自信満々と言った様子で
「最初は敵だったかもしれないが、知り合ったなら、仲良くなりたいんだ………同じ学園で過ごすんだしな」
と言った
一夏のその表情と言葉を受けて、ラウラは
(ああ……確かに、惚れてしまいそうだ)
と認めた
その光景を、少し離れた位置からシャルロットは見ていた
「なにこれ………」
とシャルロットが呆然としていると、いつの間にか直哉がシャルロットの近くに現れて
「ここは、高濃度量子空間だ」
と説明した
「高濃度量子空間?」
シャルロットが問い掛けると、直哉は頷いて
「詳しくは機密が関わるから言えないが、人の脳波を直接繋いで会話する空間だ」
と改めて解説した
すると、僅かに周囲の景色が歪んだ
「っと、どうやら終わるみたいだな」
直哉がそう言った数秒後、景色は変わってアリーナに戻った
シャルロットの視界に表示されてる時計を見ると、なんと五分と経っていなかった
「高濃度量子空間か………」
シャルロットが呟いていると、ラウラを抱き止めていた直哉がラウラをそっと地面に横たえた
遠くからだから確信はしないが、ラウラの顔色は大分良くなっていた
どうやら、保ち直したらしい
そして少しすると、近くのドアが開いて、山田先生と千冬がストレッチゃーを押して現れた
どうやら、直哉から通信を受けて来たらしい
そしてラウラを回収すると、シャルロットに近付いて
「デュノア。今しがた見たことは、全て口外無用だ。もし、誰かに漏らしたら、厳罰を処する。いいな?」
と告げた
千冬の言葉にシャルロットが無言で頷くと、千冬は直哉達に視線を向けて
「神崎。後で報告書を提出しろ」
と言うと、山田先生と一緒に去っていった
直哉達は千冬達を見送ると、ピットへと戻ったのだった
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そして時は経ち、夕方
場所は医務室
そこでラウラは、目を覚ました
「ここは………」
「目が覚めたか」
ラウラが起きたことに気づいたらしく、ベットを囲んでいたカーテンを千冬が開いた
「織斑教官! ……つっ!」
千冬に気づいて、ラウラは体を起こそうとした
だが、その顔が苦痛に歪むと
「ああ、無理はするな。寝たままでかまわん」
と千冬が手を上げて制止した
「わかり、ました……」
千冬の言葉に従って、ラウラはベットに寝転がった
ラウラが寝転がったのを確認すると、千冬はベットの近くにパイプイスを置いて座ると
「さて、ボーデヴィッヒ。何があったか、覚えているか?」
とラウラに問い掛けた
すると、ラウラは頷いて
「はい。確か、アリーナで試合をしていて………負けたんですね……」
と言うと、俯いた
その言葉に千冬は頷いてから
「正確には、試合は中止された。お前の機体に、VTシステムが搭載されていたんだ」
「ヴァルキリー・トレースシステム……!?」
千冬から聞いた名前を聞いて、ラウラは目を見開いた
VTシステム
正式名称はヴァルキリー・トレースシステム
これはISに搭載するシステムなのだが、今現在は国際IS条約
通称、アラスカ条約に於いて、あらゆる国家、企業は研究、搭載を全て禁じられている
このシステムは、搭載された機体のパイロットにモンドグロッソ各部門優勝者の動きを真似させるのだ
ただし、このシステムが起動すると、パイロットは意思を乗っ取られてしまうのだ
しかも、パイロットにとても大きな負担が掛かるのだ
故に、条約で禁止されているのだ
事実、ラウラも命が危うくなっていた
「そのVTシステムだが、かなり巧妙に隠されていたし、システムの起動条件も絶妙だった。機体ダメージのレベル。そして、パイロットの思い……」
「私が、望んだからですね………」
千冬になることを
ラウラは言外にそう言うと、俯いて拳を握り締めた
千冬はそれを見ると、大きく息を吸って
「ラウラ・ボーデヴィッヒ!」
とラウラの名前を呼んだ
「は、はい!?」
いきなり名前を呼ばれて、ラウラは驚いた様子で千冬に視線を向けた
そんなラウラを、立ち上がった千冬は見下ろして
「お前は誰だ?」
と問い掛けた
「私は……私は………」
ラウラは何回か答えようとしたが、何故か答えられなかった
すると千冬は、ラウラに背を向けて
「自分が分からないなら、ここで探して、ラウラ・ボーデヴィッヒになってみろ。幸いにも、三年間の時間がある」
と言うと、ドアに近寄った
そして、ドアの取手を掴むと
「それと、お前は私にはなれないぞ。あのバカの姉というのも、心労が絶えないんだ」
と言うと、医務室から出ていった
ラウラはそれを見送ると、顔を腕で覆い
「まったく……姉弟揃って、カッコいいではないか……」
と呟いた