三十数人が乗る大型のバス
そのバスがトンネルを抜けると、見えたのは………
「海だあぁぁぁ!!」
IS学園一年生、総勢約百八十名は臨海合宿に来ていた
この臨海合宿、一般生徒は実力の向上
専用機持ちは開発企業や国から送られてきた最新パッケージの試験を兼ねている
とはいえ、合宿期間中ずっとというのも疲れるので、初日は自由に遊んで良いことになっている
そして、IS学園一年生御一行が向かっているのは、IS学園が毎年使っている旅館である
「お前ら。ここがこれから三日間お世話になる花月荘だ。失礼のないようにしろよ!」
「「「「「よろしくお願いしまーす!」」」」」
一年生達が元気に挨拶すると、花月荘の女将さんは微笑んで
「これは、元気にどうも……
と名乗りながら、頭を下げた
かなり若い女性のようだ
「部屋割りはしおりを参照しろ。なるべく、迷惑をかけるんじゃないぞ!」
「水着へのお着替えの際は、別館に向かってください。何か分からないことがあれば、遠慮なく職員に聞いてくださいね」
千冬に続いて女将さんがそう言うと、生徒達は元気に頷いた
そして、殆どの生徒達が移動を始めた時だった
「ねえねえ、おりむー、なおなお、ごったん、カオカオー」
と間延びした声が、四人を呼んだ
四人が振り向いた先に居たのは、ダボダボの制服を着た女子
クラスメイトの
通称、のほほんさんだった
ちなみに、先ほど彼女が呼んだのは、一夏達のアダ名らしい
「なんだ、のほほんさん?」
「どうした?」
一夏と弾が問い掛けると、のほほんさんはしおりをパタパタと振りながら
「四人の部屋はどこー? 部屋割りに書いてないから、後で遊びに行けないよー」
と言った
それを聞いて、四人は頷いて
「それな……」
「俺達も知らないんだよ」
「多分、今から教えてもらうんだろうけど……」
と四人が首を傾げていると、千冬が近寄ってきて
「お前達、こっちに来い」
と四人を手招きした
それを受けて、四人は
「んじゃ、後で教えるな」
と言うと、千冬の方へと向かった
四人が千冬に近寄ると、千冬は女将に対して話していた
「今年は例外的に四人も男が居て、入浴時間の調整等、すいませんでした」
「いえいえ、構いませんよ……おや? その子達が、例の?」
女将が一夏達に気付いたらしく、一夏達を見ながら首を傾げた
すると、千冬は頷いてから
「はい、そうです。お前達、挨拶しろ」
と四人に促した
それを受けて、四人は軽く頭を下げながら
「IS学園一年一組クラス代表の織斑一夏です」
「同じく、IS学園一年一組所属の神崎直哉です」
「五反田弾です」
「カオル・リオ・アスハです」
と名乗った
すると、女将さんは微笑みを浮かべて
「あらあら、ご丁寧にどうも。ゆっくりしていってくださいね」
と言うと、旅館へと戻っていった
千冬はそれを見送ると、一夏達を見て
「それでは、お前達の部屋を教える。着いてこい」
と言って、歩き出した
四人はそんな千冬の後ろを、荷物を持って続いた
そして、数分間歩いて到着したのは
「教員控え室……」
「何と………」
教員控え室という札が付けられた部屋だった
四人が固まっていると、千冬が
「最初はお前達の部屋を端か別館に用意することも立案されたが、それだと就寝時間を無視して行く奴等が出ると予想された。だから、教員控え室にそれぞれ部屋割りすることで、旅館側の負担を減らそうと考えられた」
と説明した
千冬の説明を聞いて、四人は納得した
諺に《虎穴に入らずんば、虎児を得ず》というのがあるが、この場合は鬼穴になるだろう
四人に会うためとはいえ、誰も鬼教師のいる空間に来れる訳がない
「こっちに織斑と五反田。そっちの部屋に神崎とアスハだ」
と四人の部屋割りを告げた直後、廊下の向こうから山田先生が現れた
そして、四人を見ると驚いた表情を浮かべ
「ひゃぁ! ……って、そうでした……織斑君達の部屋、そこでしたね」
と言って、苦笑を浮かべた
それを聞いて、千冬は呆れた様子で
「山田先生……確か部屋割りは、山田先生が決めたはずでは?」
と問い掛けた
すると、山田先生は後頭部を掻きながら
「すいません……スッポリと忘れてました」
と答えた
千冬はそれを聞いて、深々と溜め息を吐いてから
「……お前達、荷物を置いたら、海水浴にでも行ってこい」
と別館の方を指差した
「織斑先生達は?」
「私達は軽く予定の確認等をする。そうしたら、海に行く」
「ですから、先に行ってください」
千冬達は行かないのかと思ったのか直哉が問い掛けると、千冬と山田先生はそう返した
それを聞いて、四人は顔を見合わせて
「わかりました」
「いってきます」
と言うと、手荷物を置いて別館の方へと向かった
しかし、渡り廊下の途中で
「菷、なにやってんだ?」
「む、一夏………」
菷が庭の方を見ながら固まっていた
菷の近くに到着すると、四人は菷が見ていた庭の方に視線を向けた
そして、固まった
なぜならば……
「う、ウサミミ……?」
「だな」
「まごこうとなき、ウサミミだな」
四人が見た先には、機械的なウサミミが庭に刺さっていたからだ
しかも、木の板が刺さっていて《抜いてね☆》と書いてある
それを見て、一夏が
「なあ、菷………これって……」
と問い掛けた
だが、菷は
「知らん。私には関係ない」
と知らんぷりを決め込んだ
「いやいや、これ、どう見ても……」
「私には関係ない!」
一夏が再度問い掛けると、菷はダスダスと去っていった
四人は見送ると、ウサミミを見て
「どうする?」
「抜いてね、って書いてあるし、抜くか?」
「誰が抜く?」
と話し合おうと、顔を見合わせた
少しすると、一夏が溜め息を吐いて
「多分。てか、ほぼ確実に俺の知ってる人だから、俺が抜く」
と言うと、庭に降りた
そして、ウサミミを掴むと
「よっと!」
と気合いを入れて、引き抜いた
一夏はそれほど力を入れた様子はない
だと言うのに、ウサミミは簡単に抜けた
それから察するに、ただ置いていただけなのだろう
すると、直哉が上を見上げながら
「一夏、後三秒」
「わかってる」
直哉が言った直後、一夏は大きく後ろに跳んで渡り廊下に着地した
その直後、先ほどまで一夏が居た場所に何かが墜落してきた
土煙が舞い上がり、四人の視界は悪くなった
しかししばらくすると土煙は無くなり、墜落してきた物が見えた
それは、成人一人が入れそうなサイズのデフォルメされたニンジンだった
「に、ニンジン?」
カオルが呆然としていると、直哉が一夏の肩を叩いて自分達の足下を無言で指差した
すると、一夏は頷いてから
「束さん、出てきてください」
と言いながら、足で床を軽く叩いた
その直後
「さっすがいっくんだねー!! 二重の引っかけにも引っ掛からないなんてね!」
と異様にハイテンションの女性が現れた
しかも、その女性の服装はかなり奇妙だった
題するならば、一人不思議の国のアリスだろうか
水色と白のワンピースに、機械的なウサミミを付けている
だが、一夏はその女性のことをよく知っていた
ISことインフィニット・ストラトスの開発者
更に、姉の友人にして菷の姉
今現在、絶賛国際指名手配中の女性
「お久し振りです、束さん。まあ、気配は感じていたので」
一夏がそう返すと、束は
「にゃはは! さっすがは、一騎当千のパイロットだね! 今だったら、束さんでも負けちゃうかなぁ?」
と言った
そして、周囲を見回してから
「ところで、菷ちゃんは?」
と問い掛けた
それに対して、一夏は別館の方を指差しながら
「あっちに行きましたよ」
と教えた
すると束は、その方向を見ながら
「ふんふん。まあ、詳しい位置はこの菷ちゃんダウジングマシーンが見つけてくれるもんね!」
と言った
よく見ると、束の頭に着いてる機械的なウサミミがカチャカチャと動いてる
どうやら、それが件のマシーンらしい
しかし、ダウジングとは本来、そのような使い方だっただろうか? と四人が内心で首を傾げているうちに
「じゃあ、そろそろ菷ちゃんを探しに行くね? バイビー!」
と言って、束は走り去った
四人はそれを見送ると、何も見なかったことにして別館へと向かった