千代に 八千代に   作:ぺったんこ

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二話

 

 

虚夜宮(ラスノーチェス)とは夜空を天井とし、廃墟と化した城だ。

壁はなく上座の周りを囲むように建つ柱はその意味を成していない。

それでも月に向かって伸びる階段の先に鎮座する人物がそこを王の城だと言わしめた。

 

バラガン・ルイゼンバーン

 

風貌は骸骨そのもの。毛皮のマントを羽織り、白黒の世界で輝く金色の冠は王の証。

彼は虚園(ウェコムンド)の王にして二番目に生まれた(ホロウ)である。

とある無精者に代わってこの国を統治して数百年、懐かしい霊圧を感じた地平に視線を向けた。

 

「申し上げます陛下!」

 

同時に配下の一匹である(ホロウ)が焦りを抑えきれない様子で現れて叩頭した。

 

「襲撃ですッ始祖ヴェロニカが突ぜん…っ…は、」

「いやいや違うんだ。襲撃じゃないよ」

「ば…ばら、が…さ、ま」

 

踏み締める砂の音と共に配下の身体が徐々に塵を化し、空気に溶けていく。

しかしバラガンは最期に王の名前を呟く配下に見向きもせず、独りではない古き友人を珍しく思っていた。

 

「やあバラガン。何百年久しぶりかな」

「暫く大人しくしておると思えば何じゃ。腹ごしらえにでも来たか」

「ごめんよ配下を喰べてしまって。ワザとじゃないんだ」

 

ここに来るまでに始祖に近付き過ぎた配下が数十体か先程のように取り込まれたのだろう。

悪びれなく肩を竦めるヴェロニカにバラガンは溜息を吐いた。

 

「おっと君の息は危ないんだ。気を付けてくれ」

「戯けが。貴様には効かんだろ」

「私じゃないよ。折角連れが出来たのに君のうっかりで老いてしまったら堪ったもんじゃない」

「連れなァ」

 

バラガンはヴェロニカの傍で佇む(ホロウ)を一瞥した。

 

「貴様の傍にいて塵とならん中級大虚(アジューカス)とは珍しいな」

「面白いだろう?ウルキオラと言うんだ」

「フン…無精者に降る奴などたかが知れる」

「無精者だと?」

「何じゃ話せるのか。この国を治めろと言うのに面倒の一言で片付けるこの戯け者の事じゃ」

「耳が痛いなぁ」

「ヘラヘラと浮付いた顔をするな。始祖の威厳もあったもんじゃないわい」

 

ドッと、瞬時に沸き上がった殺気にバラガンが手を翳すが掴まれた別の手に軌道をずらされた。

近くの柱が枯木のようにボロボロと崩壊し、砂煙を上げる。

目前に迫っていたウルキオラの黒閃を纏った手刀も同様に分散された力が柱を破壊した。

 

「こらこら。顔合わせしに来たというのにどうして殺し合いになるんだ」

「躾がなっとらんぞヴェロニカ」

「悪気はないんだよ。彼は私が大好きでね」

「ヴェロニカ様、許可を下さい。刺し違えてでも殺してみせます」

「蟻の分際でこの儂に楯突くか。望み通り塵にしてくれるわ」

「止めるんだウルキオラ、残念だけど今の君じゃバラガンに届かないよ。落ち着きなさいな」

 

ヴェロニカは両者を抑えていた手でウルキオラの頭を撫でて宥める。

 

「若気の至りだと思って許してやってほしい」

「……次はないぞ。ところで貴様、本当に何しに来た」

「だから顔合わせだよ。忠義に厚く殊勝な彼を君に是非紹介したくて」

「なら要件は済んだじゃろう。玉座に戻る気が無ければさっさと去ね」

「惜しんでくれないのかい?寂しいなぁ」

「えェい戯れるな!!!」

 

無遠慮に毛皮の上から纏わりつくヴェロニカを振り払らえば大げさに仰け反り、ウルキオラにしな垂れかかる。

鋭い視線で睨まれるが格下の(ホロウ)の殺気などバラガンにとって虫が止まった程度のものだ。

 

「ふふ。というのは冗談で暫くここを拠点にしようと思ってね」

「どういう風の吹き回しじゃ」

「興味が湧いたんだ。ウルキオラのように中級大虚(アジューカス)であっても塵とならない個体が他にいるんじゃないかって」

「配下を増やすのか?」

「!!」

「違う違う。滅多なことを言うんじゃないよバラガン」

 

ガンッと絶望を背負い込んだかのような影を落とすウルキオラをギュっと胸に抱き込む。

 

「配下の多い君と違って腹心はウルキオラだけで十分。私は次世代を育てたいんだよ」

「また下らぬことを…」

「本当にそうかい?時にバラガン、君の配下は数は多いが皆私が近付けば耐え切れず魂が消滅してしまうだろう。

惰弱、余りにも惰弱だ。嘆かわしいと思わないか?同じ同胞として」

「…続けろ」

 

ヴェロニカの言い分にも一理あると考えたバラガンは口を挟まず頬杖を付いた。

 

「ウルキオラのように私の霊圧に耐えられる特別な個体がいるんだ。もしかすると君のように最上級大虚(ヴァストローデ)に進化する者、私のように仮面が剥がれて破面(アランカル)になる者が現れるかもしれない。わくわくしないか?そんな可能性を秘めた(ホロウ)がいるかもしれないんだ!ウルキオラはその可能性の第一歩なんだよ!」

 

ウルキオラの骨に覆われた頬を包み、子供の様に瞳を輝かせるヴェロニカ。

忠誠を誓った相手から一心に期待を寄せられて歓喜に震えるウルキオラはその姿を恍惚と目に焼き付けた。

 

「強さを求める彼らを探すにはここが打ってつけだ。この国を統治している君の情報も頼りにしてるよ」

「はあああああ」

 

意見など最初から求めていない身勝手な言動にバラガンの口から大きな溜息が漏れる。

ヴェロニカが腕を一振りすると万物を崩落させる息が塵となり空気に溶けた。

 

「…ここは元々貴様の城じゃ。何をしようが好きにすればよい」

「それでも一度は君にあげた城だ。建前でもお伺いはちゃんとしないとね」

「口の減らん婆じゃ」

「貴様またッ」

「ウルキオラぁ。二度目はないよ」

「…申し訳ありません」

 

少し圧を乗せた声色で咎めると謝罪と共に後ろに下がった。

 

「では、まず手始めに何か情報は無いかい?」

 

バラガンは思案し硬い顎を指先で撫でた。

 

「近頃、北の方で最上級大虚(ヴァストローデ)が少数の中級大虚(アジューカス)を率いておる」

「何だ何だ早速耳寄りな情報じゃないか!流石我が友だ!」

「耳障りな世辞はいいから早く去ねぃ」

「辛辣だねぇ。でも嫌いじゃないよ!」

 

犬を払うように手を振れば、ヴェロニカはウルキオラを率いて足早に去って行く。

なんと楽観的で浅はかな。響転(ソニード)を使わず連れと談笑しながら遠ざかる背中を呆然と見つめた。

(ホロウ)とは喰らい合う存在で、階級と比例し闘争本能は活性化する。そんな暴徒共を自分の手で育て上げるなど与太話に過ぎない。

すぐにまた「喰べてしまった!」と軽薄な笑みを浮かべながら帰ってくるのがオチだろう。

 

しかし、ヴェロニカは楽観的で浅はかだが決して出来ないことを口にする奴ではなかった。

 

「バラガン、この城に新しい同胞が加わるぞ!友人のティアだ!」

「貴様の軍門に降る訳じゃない。我が友ヴェロニカの頼みで同行しただけだ」

 

天上天下唯我独尊。

 

「見てくれバラガン!!珍しい中級大虚(アジューカス)を二体も捕まえたぞ!」

「はァなァせェクソ婆ぁア!!!」

「ブッコロスぅぅう!!!」

 

始祖ヴェロニカは有言実行の塊のようなであることを、バラガンは思い知らされるのだ。

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