劇場版『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』公開記念投稿です。
尚、本作ではSEEDはコミックボンボン版ルートとなっています。
U.C.0084年に開戦した、自然に生まれたナチュラルと遺伝子を操作されて生まれたコーディネイターの戦争は戦火を際限なく拡大させていった。
Nジャマーキャンセラーを手に入れて核爆弾を使用した地球連邦。二射で地球連合を壊滅状態に追い込んだジェネシスを撃ったプラント。ヤキン・ドゥーエ宙域は破滅的な戦争の只中にあった。
この戦争に楔を打ち込むべく戦場に赴いた者達がいる。
『父上! もうお止めください!!』
ザフトを離脱して後に三隻同盟と呼ばれる集団に参加して、この戦いに身を投じたアスラン・ザラは父でありプラントの議長であるパトリック・ザラに通信を繋いた。
ヤキン・ドゥーエでその通信画面が見たパトリックは「アスラン……」と息子の名を口の中で呟いた。
『月基地を落とした今! 既にザフトの勝利は決しました!! この上、あなたは何を撃とうと言うのですか!!』
『決まっておろう――――地球だよ!』
裏切った息子の問いに、パトリックは何を今更とばかりに次の目標地点を明かす。
『奴ら旧人類などこの際、全員消えてもらった方が後の世の為だ! 我らコーディネイターの作り出す新たなる世界の為にな!!』
オーブの技術者であるエリカ・シモンズの計算によると、もし地球に放たれた場合、強烈なエネルギー輻射と着弾時の衝撃、気象変動等の影響で、地球上の全生物の80%を一掃できるという。
そのことを思い出したアスランの顔から一気に血の気が引く。
『父上ぇぇぇっ!!』
これだけの惨事を生み出し、尚も狂笑を浮かべる父の姿にアスランは乗機であるジャスティスを駆って単身でヤキン・ドゥーエに挑む。
『何故なんだ父上!? 何があなたをそんな風にした!?』
時期は違えど共にザフトを離脱したディアッカ・エルスマンの静止の声も聞かず、ヤキン・ドゥーエ守備隊が犇めく中を進む。
『母上を殺された復讐ですか!? こんなことをしても母上が喜ぶとでも思うんですか!! 答えて下さい、父上!! 父上ぇぇぇっ!!!!』
ジャスティスにドッキングしているミーティアのビームソードでナスカ級の戦艦を切り裂き、対艦ミサイルで道を阻むザフトのMSを撃墜する姿は鬼神の如く。
『――――止めて見せるっ! 例えあなたと刺し違えてでも!!』
『なっ、何をしている!? たった一機を相手に…………数で押せ、数でっ!』
通信越しであろうとも実の息子の気迫に押されたパトリックの命令に従い、ヤキン・ドゥーエ守備隊の総攻撃がジャスティスに集中する。
どれだけ優れた性能を持つMSであろうと、どれだけ優秀なパイロットであろうと、MSと戦艦群による100を超える逃げ場のないほどの火線を完全に回避することなど望むべくもない。
『うわっ!?』
アスランがジャスティスごと爆発の中に消える。
『諦めたたまえ。最早、止める術はない。地は焼かれ、涙と悲鳴は新たなる争いの狼煙となる! そして人は滅ぶ! 滅ぶべくしてな!』
アスランの友、キラ・ヤマトの乗るフリーダムと激戦を繰り広げていたラウ・ル・クルーゼはジェネシスのミラー交換が終わったのを確認し、己が宿願の成就を前に一瞬だけ気を抜いてしまった。
『クルーゼ!!』
フリーダムとは別の場所より放たれた攻撃にプロヴィデンスが被弾するも、実弾を無効化するPS装甲のお蔭で損傷はない。
『貴様に引導を渡すのは、この俺様だぁああああっ!!』
クルーゼの攻撃によってストライクが中破した為、帰還したアークエンジェルに残ったメビウス・ゼロに搭乗してやってきたムウ・ラ・フラガが上方から向かって来る。
しかし、彼が乗るメビウス・ゼロはジン相手ならばともかく、実弾しかない機体では核動力で常にPS装甲を展開していられるプロヴィデンスの前に現れるなど自殺行為でしかない。
『ふっ、笑わせる。そんな旧式で――』
『ほざけっ!』
ジンと渡り合えた理由であるジオンから接収したサイコミュ技術から作り出した有線誘導式ガンバレルも、より発展したドラグーンを持つプロヴィデンスの前には無意味。
敢えてドラグーンを使わず、ユーディキウム・ビームライフルを撃つが、ガンバレルを切り離しながら向かって来るメビウス・ゼロは本体に掠らせながらもプロヴィデンスに向かって愚直に突き進む。
『ぐっ……まだまだっ!!』
ムウは揺れる機体を制御して、メビウス・ゼロをプロヴィデンスの前を通過してそのまま下へと通り抜けたところで方向転換。
『ぐおっ!?』
『捕まえたぜ!』
切り離されたままのガンバレルの有線がプロヴィデンスの機体に絡み付き、クルーゼがムウの意図に気付いた時には雁字搦めになっていた。
『ムウさん!』
プロヴィデンスを抑え込むことには成功してもメビウス・ゼロがいるからキラも攻撃が出来ない。
『撃て、キラ! 俺がコイツを抑えている内に!』
手も満足に動かせない状態で、バーニアを吹かしたとしてもムウが邪魔してくるだろう。ムウの意図を察したクルーゼは絶体絶命の窮地に舌打ちをする。
『そ、そんなことをしたらムウさんまで……!』
ムウの意図通り撃てば確実にメビウス・ゼロも巻き込む。ならば、ビームサーベルでコックピットだけを貫こうと考えたキラの視界に、プロヴィデンスのバックパック上部から飛び出したドラグーンがフリーダムに向かって来る。
辛うじて回避するも、これでは迂闊に近づくことも出来ない。それどころか捕縛から抜け出す為にダメージ覚悟でメビウス・ゼロを破壊されかねない。
『とんだ甘ちゃんだな、キラ・ヤマト!』
『撃てっ! 俺を無駄死にさせるつもりか、キラっ!!』
ここでクルーゼを斃さなければ次の機会はない。キラには迷っている時間も、選択肢すらどこにもありはしなかった。
『うっ、うわぁあああああああああああああああああ!!』
背部ウィングに収納されているバラエーナ・プラズマ収束ビーム砲――――プロヴィデンスとの戦いで片方を損失している――――をプロヴィデンスに向けて撃った。
『それでいい、坊主』
ビーム砲は避けようとするプロヴィデンスと抑え込むメビウス・ゼロを飲み込み、核エンジンが爆発して大きな光がキラの視界を埋め尽くす。
『ムウさん、ムウさん! どうして…………どうしてっ!!』
兄貴分として接してくれたムウとの思い出が脳裏を過り、その人を殺してしまったことにキラは叫ばずにはいられなかった。
『――――――――ジャスティスの原子炉をジェネシスの内部で自爆させれば』
両腕両足損傷、リフターも喪失して戦闘不能状態で運良くジェネシスの前に流されて来たアスランは最後の方法を試そうとしていた。
『父上、あなたにこれ以上の罪は重ねさせはしません…………母上、僕は親不孝者でしょうか? 違いますよね?』
ジェネシス内部に侵入し、自爆シークエンスを作動して発射直前のエネルギーが高まるのをジャスティスのコックピットで待っていたアスランは亡き母に問いかける。
(キラ、カガリ…………お前達は生きろ、生きて)
死を覚悟して、親友であるキラと決戦直前に愛を交わしたカガリに想いを馳せる。
『死ぬな、アスランっ!』
聞こえてはならない声が聞こえた。
まだ生きていたセンサーで接近してくる機体を察知し、罅割れたモニターに映ったフリーダムの姿にアスランは目を見開く。
『ふ……フリーダム!? まさか、キラ!?』
無事なところが見当たらないほど損傷したフリーダムがジャスティスに向かって来る。
『来るな、キラ! 逃げるんだ、もう直ぐここは!!』
『嫌だっ!』
今の状況でアスランが何をしようとしているのかなど考えるまでもない。キラはフリーダムのコックピットを開けて体を出す。
『アスラン、君も一緒に! でなきゃ僕は……っ!!』
『キラ……』
もう何も失いたくない。その一心で手を伸ばすキラにアスランもジャスティスのコックピットから出る。
その少しの後、ジャスティスの自爆によってジェネシスは発射されることなく、核爆発と共に消滅していく。
『な、何がどうなっている? 誰か報告しろ!』
間近のジェネシスが内側から爆発し、その影響を大きく受けて強く揺れたヤキン・ドゥーエの中で負傷しながらパトリックが命令する。
荒れたコントロールルームには混乱が広がっていて、直ぐに報告が上がることは無かった。
『ザラ議長閣下』
更に命令を重ねようとしたところで背後から呼ばれたパトリックが振り返ると、そこには複数の銃口があった。
『なっ、なんだ貴様!? 何をしている!!』
『それはこちらの台詞です』
ザフト特務隊FAITHの隊長レイ・ユウキは本来なら従うべき議長に銃を向ける。
『地球そのものを撃とうなどと、最早正気の沙汰とは思えない! 我々はもうあなたの指示には従えない!』
パトリックがユウキの後ろにいる者達に視線を彷徨わせても、返ってくるのは否定の眼だけ。
『議長…………あなたのご子息アスラン・ザラは立派だった。その身を賭して我々の目を覚まさせてくれたのですから』
味方のいなくなったコントロールルームでパトリックはその身を拘束されることになる。
『宙域のザフト全部隊、並びに地球軍全軍に告げます。現在プラントは地球軍及びプラント理事国家との停戦協議に向け、準備を開始しています。それに伴い、プラント臨時最高評議会は現宙域における全ての戦闘行為の停止を――――』
U.C.0085年のこの日、地球とプラント間の戦争は双方の戦線維持困難という形で一応の終結を見た。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
U.C.0087年、プラントの軍事工廠プラントであるアーモリーワンにオーブから渡ってきた者達がいた。
「アスハ代表、服はどうされますか?」
黒のサングラスと黒のスーツという人柄が殆ど出ない青年に問いかけられたカガリ・ユラ・アスは目の前でダークブラウンのシャギーカットが揺れるのを見る。
「どう、とは?」
「一応、ドレスを持って来ています。会談の前に着替えることも出来ます」
チラリと背後に移された視線の先にあるのは、今回の渡航に付き添う者達が持つ複数の荷物。その中に不測の事態に対応できるようにカガリのドレスも入っている。
「必要ない。国家元首の話し合いで着飾っても意味はないだろう、アレックス」
「演出も必要と思います」
視線を切り、前を向いて進むカガリ。彼女の後を追いながらアレックスと呼ばれた青年は苦言を呈するように言った。
煩わし気にアレックスの方を見たカガリが口を開く。
「下手な演出で油断してくれる相手でもない。それにあくまでこれは非公式の渡航だ。目立つのは避けたい」
「…………差し出がましい申し出でした」
「構わん。私のことを思っての意見、有難く思う」
会話だけを聞いていれば忠臣と主君。そこでアレックスはカガリに近づき、耳を澄まさなければ聞こえない声で「で、本音は?」と軽い調子で囁いた。
「着替えるのが面倒くさい」
青年に合わせて随行員に聞こえないように答えたカガリ。建前も嘘ではないが本音も半々ぐらいにはあった。
「
秘書兼護衛として随行しているアレックスは国家元首を呼び捨てにして諌めようとした。
「会談はこの服で行く。予定に変更はない」
呼び捨てにされたカガリは気分を害することもなく、当然のように受け入れながらも提案を却下する。
「しかし……」
「アスハ代表」
尚も言い募ろうとしたアレックスの声を凛とした声が掻き消す。
ステーションの出入り口で待っていたその人物は几帳面そうな面持ちに緊張を走らせてカガリ達を出迎えた。
「ようこそ、アーモリーワンへ。この度、案内を命ぜられたアイザック・マウと申します」
「カガリ・ユラ・アスハだ。よろしく頼む」
一国の国家元首を迎えるにしては若すぎるアイザック・マウの面貌がプラントのオーブに対する重要度を示しているようで、面白くは無くとも年若さから舐められることには慣れてしまったカガリも平静に返す。
アイザックの先導で進む際、アレックスは護衛として気付かれない程度に目をやりながら周りを観察する。
「お疲れでしょうからホテルを用意しています。まずはそちらに」
「気遣い感謝する。だが、移動には慣れているので、デュランダル議長の予定に問題が無ければ至急会談を行いたいのだが如何だろうか」
「…………意向を伝えることは出来ます。直ぐにというのは、私には保証できません」
「ならば、お願いしたい。こちらは非公式の渡航で、あまり時間はかけたくないのでな」
「分かりました」
議長に連絡をするということで一時的に離れたアイザックが戻るのを待つことになった。
「代表」
「文句なら言われなくても分かっている」
この会談はオーブが強く要請して代表自らが赴くからとプラントは仕方なく受け入れてくれた面が大きい。彼我の力関係を考えれば、このような強硬な姿勢はマイナスにしかならないとカガリもアレックスに言われなくとも理解していても、こうせざるをえない理由がある。
「嫌なことは早く終わらせるに限る」
状況の閉塞を打破する為に一縷の望みを賭けたところで勝ち目など万に一つもなく、対外的に努力をしているというポーズに過ぎないのだから。
「パパ、船は?」
「軍艦なの? 空母?」
「やっぱり必要ですものね」
「ああ、ナチュラル共に見せつけてやるのものな」
アイザックが戻るまでの間、VIP用の高通路から明日に予定している式典に招かれたプラント市民達が宇宙港受付に並んでいる間にしている会話がカガリ達の耳に入る。
「力、力…………どこも変わらない」
カガリが憂慮を含めた面持ちでプラント市民を眺める。
前大戦から二年が経ち、緊張感を孕みながらも平和に慣れて来て戦争の悲惨さを忘れている市民達の声は正直であり、カガリ達がアーモリーワンにやってきた理由の遠因でもある。
「お待たせしました」
駆け足で戻って来たアイザックはコーディネイターらしく息を切らすことなくカガリ達の少し前で足を止める。
「直ぐにでも会談を行えます。ただ、場所についてはご不便をおかけするかもしれませんが」
「内々、且つ緊急にと無理を言ったのはこちらだ。感謝こそすれ、文句など言うはずもない」
善は急げと移動してエレベーターに乗り込む。
砂時計に良く例えられるプラントの支点に宇宙港は造られ、人々の居住区のある底部までは高速エレベーターが連絡している。
エレベーター内のソファに腰を下ろすカガリ。一番身分の高い者がソファがあるのに立ったままでは相手側にいらぬ気遣いを抱かせてしまう。元より代表の娘として姫のように扱われ、政治家となってからも亡き父の威光で上位者として敬われて気遣いをさせない行動が染みついていた。
「明日は新造軍艦の進水式とのことだが」
足を肩幅に開いて手を後ろで組んでいるアイザックを見上げたカガリが聞く。
「はい、式典の準備の為に少々騒がしく、代表にはご迷惑をお掛けするやもしれません」
「会談を申し出たのはこちらだ。プラント本国より目立たぬだろうというデュランダル議長の配慮にも感謝している。だが」
一度言葉を止めたカガリはアイザックの反応を確かめるように見る。
「噂の新型戦艦を他国人である我らが見て良いのか?」
これまたカガリ達がプラントにやってきた遠因に近い要素の一つに関連する物について問われたアイザックは苦笑を浮かべる。
「民間にお披露目される時点で完全な情報遮蔽などありえません。無論、機密ではありますが会談後は直ぐに帰られるのでしょう?」
「ああ」
要約すると、『会談してやるから式典が始まる前にさっさと帰れ』ということだろう。
普通ならば他国人に最新鋭の戦艦を見せるはずがない。現在のプラントの主力である
ホテルに缶詰めにされて進水式が終わってから会談をしても、その間の時間は無駄でしかない。
カガリらとしては直接見られればそれに越したことは無いというスタンスである。でも、多分無理だよねと諦めてもいたので居残ったりはしない…………トラブルを作って帰還を一日伸ばそうなどと思ったりはしていない。
当然、アイザックも釘を刺すのを忘れない。
「ならば、何も問題はないと我らは判断しています。短い滞在となりますが良い旅になることを祈っております」
その時、周囲に明るい光が満ちてアレックスはガラス壁面の向こうに目をやった。
(これがプラント……)
透明なシャフトを通して、眼下に広がる青い海を見下ろすアレックスはプラントの光景に感嘆する。
明るい日差しを受けて輝く海に緑の島々が広がっていて、まるで地中海を思わせる風景。しかし、ここに広がる風景は全て人間が造ったもので、外角の自己修復ガラスを隔てた外には真空の宇宙が広がっている。
(遂に来てしまった)
嘗ての大戦で地球軍の一員としてザフト兵の多くを殺した我が身を振り返り、整理できない感情が爆発するのを抑えるようにアレックス・ディノ――――――嘗てはキラ・ヤマトと呼ばれていた青年は複雑な表情で近づいて来る美しい風景を見下ろしていた。
簡単なボディチェックの後、銃を持った護衛の兵に見送られるように室内に入ると、数人いる中で一人だけ違う服装をした長髪の男がカガリを見て笑みを浮かべた。
「やぁ、これは姫。遠路お越し頂き、申し訳ありません」
姫、と言われたカガリは眉をピクリと動かしつつも歩を進める。
「デュランダル議長にもご多忙の所お時間を頂き、有り難く思う」
互いに手を差し出して握手をしながらも、カガリは当てつけのように名前と肩書を続けた自分の若さに気付いて恥ずかしくなった。
僅かに眉間に皺を寄せているカガリの若さに微笑ましさでも覚えたのか、笑みを深くしたデュランダルは何故か視線をずらしてキラを見た。護衛と秘書を兼任するのは珍しいとはいえ、一国の長にわざわざ視線を向けられるとは考えていなかったキラは咄嗟に軽く頭を下げた。
デュランダルは特段の反応を示すことなく、自然な仕草でカガリへと視線を戻す。
「お国の方はいかがですか?姫が代表となられてからは実に多くの問題も解決されて、私も盟友として大変嬉しく、また羨ましく思っております」
「まだまだ至らぬ事ばかりだ。日々、自分の力の無さを思い知る」
戦後、オーブの主権はユニウス条約により回復して復興は目覚ましいもののカガリの力で解決した事柄は殆どない。精々が体の良い御輿として価値しかないと自覚しているからこそ、答えるカガリの口調は苦い。
「私としてはカナーバ前議長の後を継いで就任早々より辣腕を振るい、プラントを戦前よりも発展させた議長の手腕を見習いたいものだ」
「周りが優秀で助かっています。誰が議長となっても同じことが出来たことでしょう」
お世辞合戦を暫くして、この地の主としてデュランダルが口火を切る。
「で、この情勢下、代表がお忍びでそれも火急なご用件とは? 我が方の大使の伝えるところでは大分複雑な案件のご相談、という事ですが……」
デュランダルが本題を切り出すと、カガリの外交用の表情が僅かに崩れた。
「…………我が国は再三再四、彼のオーブ戦の折に流出した我が国の技術と人的資源の、そちらでの軍事利用を即座に止めて頂きたいと申し入れている」
「ふむ、難民となったオーブの同胞達を我等が温かく迎え入れた事はありましたが、その彼らがどこで暮らしていくためにその持てる技術を活かそうとするのは仕方のない事ではありませんか?」
「だが」
「無論、オーブの技術と人的資源を結果的にとはいえ、プラントが得てしまったのは事実。その代価は既に払っているはずです」
笑みを浮かべているデュランダルにカガリは返す言葉がない。
「場所を代えましょうか」
そう言って先導するュランダルの後を追うように建物を出たカガリ達は何機もの同種の機体の前を通り過ぎていく。
「…………一年戦争からこちら世界には戦いが絶えない」
明日予定されている式典の為に多くの人が行き交う間を、随行員と護衛も含めて大人数で行動している中でデュランダルが歌うように告げる。
「南洋同盟の反乱、ソレスタルビーイングの武力介入、デラーズ紛争、そして先のヤキン・ドゥーエ戦役…………たった七年、されど七年の間に地球圏でこれほどの戦いを行って来た。細かい戦いを上げればそれほどキリがないほどに」
「だから、力が必要だと?」
「姫は先の戦争でも自らモビルスーツに乗って戦われた勇敢なお方だ。また最後まで圧力に屈せず、自国の理念を貫かれたオーブの獅子、ウズミ様の後継者でもいらっしゃる。ティターンズの専横と、先に起こった今も続くエゥーゴとのいざこざをご存知でしょう。混迷を深めるこの世界情勢の中で自分達を守る為には何が必要か、分からないはずがない」
約二ヶ月前に起こったサイド7のグリーン・ノアで起こったあらましは全てではないがカガリの耳にも入っている。
「今回の両組織の争いの始めも、エゥーゴがティターンズの新型ガンダムを奪ったからだと聞く。強すぎる力は争いを呼ぶ例ではないか」
「『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない』…………そうであれたら一番良い。だが、力無くばそれは叶わない。それは姫とて、いや姫の方がよくお解りでしょうに。だからこそオーブも軍備は整えていらっしゃるのでしょう?」
カガリの父であるウズミは国を守る力が足りなかったら国を占領され、理念を守る為にその命を散らした。
否定できない事実を突きつけられて、今度こそカガリは渋面を隠せない。
「姫と言うのは止めてくれないか…………そんな風に呼ばれて喜ぶ年でもない」
「これは失礼しました、アスハ代表」
役者が違う、と政治に対しては何の力も見識もないキラでも分かった。
「我が国の理念を良く理解してくれているようだが、ならばアレはどういうことなのか説明してもらいたい」
立ち止まったカガリの直ぐ傍で屹立する一体のモビルスーツ。
「何故、ザフトの新型がザクなのかを。私には火種を自ら作っているようにしか思えないのだが」
緑色のカラーリング、シールドとスパイクアーマー、ザクマシンガンを模したビーム突撃銃など、一年戦争の悪名を背負った国の象徴的な機体に瓜二つであった。
「ZGMF-1000ザクウォーリア、ニューミレニアムシリーズとしてロールアウトされた我が軍の機体。まあ、ジオンのザクに似ているのは止むに止まれぬ事情があるのです」
同じようにザクウォーリアを見上げるデュランダルに言葉で言うほどに申し訳なさは欠片もない。
「先の大戦でプラントは総力を挙げて戦っていました。結果として、国力は目に見えて落ちた。早期に復興を果たしたとはいえ、ユニウス条約でモビルスーツの数も制限された中で、人口で勝る地球連邦に戦力の優位性を保つには形振り構ってはいられなかったのです」
一度嘆息を挟み、横目でカガリを見て来る。
「一年戦争後、公国制から共和国制に移行したジオンは国家が保有するジオニックなど技術系企業の株式一斉売却に踏み切り、その一部を取得したのはオーブも同じだったと記憶しています」
「連邦やアナハイム、プラントに比べれば雀の涙程度に過ぎない」
「それでも得た物は大きいはずです」
「否定はしない。代価も相応だったが」
オーブの調べでは、地球連邦とアナハイムエレクトロニクス社が3、プラントが2、その他の国や企業が2とされている。最後の2の中の極一部でしかないオーブですら株式取得にかかった費用は莫大な物で、代表首長となったカガリは当時の記録を見た際に金額に目を剥いたものである。
10の内の2とはいえ、プラントが株式取得にかかった費用は天文学的な物だと予測は出来た。
「苦労して手に入れた物です。安易に手放すことも出来ない。ならば、有効に使うしかないでしょう?」
「だが、だからといって……」
「ジオン
ジオン共和国でもザクの外観に酷似・類似しているモビルスーツは使用できない。その権利は株式と共にプラントが得ている。無視できるとしたら国際法を無視する個人・組織になり、普通ならば使用料をプラントに払わなければならない。
「エンジンまで余所の技術を使っていても?」
空を飛ぶザクウォーリアの背面から飛ぶオレンジに近い赤い粒子は、ミノフスキー・イヨネスコ型熱核反応炉やバッテリーのエンジンから出る物ではない。
「太陽炉を造り出したイオリア・シュヘンベルグは西暦の人間であり、扱ったソレスタルビーイングはテロリストです。彼らは権利を主張できる組織・団体ではありません」
五年前、ソレスタルビーイングは太陽炉を搭載したガンダムで地球圏の紛争に介入を始めた。
当時のモビルスーツの性能を超越していたソレスタルビーイングのガンダムを最終的に倒したのは、地球連邦から選抜されたエースとどこからか齎された疑似太陽炉を搭載したモビルスーツだったと言われている。
一年戦争後から五年前の時点で地球連邦はユニオン、AEU、人類革新連盟の三大勢力で権力争いをしており、ソレスタルビーイングの武力介入とデラーズ紛争の後には、大西洋連邦、ユーラシア連邦、アフリカ共同体等々の大小様々な勢力が分派乱立して、中にはオーブ連合首長国のように地球連邦から脱退した国も少なくない。
その過程と特殊な製造方式が災いして様々な技術・資料が散逸して、実機がガンダムと刺し違えつつもその殆どが大破したことで一度は得たはずの疑似太陽炉も失われてしまった。
「五年前当時の技術・資料は直後に起こったデラーズ紛争と、半ば分裂した地球連邦の権力闘争によって失われたと聞く」
「ええ、惜しいことに。我らも開発するのに数年を要しました。前大戦には間に合いませんでしたが」
疑似太陽炉の製造方法を失った地球連邦とは対照的に独自にプラントは開発を進めていた。
「その完成度はオーブも良く理解されると思います」
「…………ああ、認めよう。だが」
カガリは続けるべき言葉を飲み込んだ。
「プラントからオーブへ友好の証として提供した数少ない太陽炉。オーブでも解析に成功したようですね。開発中の新型量産機に疑似太陽炉を搭載するとの噂が私の下にも届いて来ていますよ」
元オーブ国民の技術者とその技術の流出の代価として渡されたプラント製太陽炉。モルゲンレーテ社にて徹底的に解析し、恐らくプラントとそう性能の変わらない疑似太陽炉の開発に成功しているとデュランダルは嘯く。
「連邦はNジャマーキャンセラーを必要としない新型の原子炉を搭載したモビルスーツを実戦に投入しているとはいえ、その性能は我がザクには及ばないと聞きます。単独での大気圏で飛行も出来ない。太陽炉の取得は急務と言えるでしょう」
太陽炉が精製するGN粒子は慣性力と重力の軽減効果に、物質に吸蔵させる事で強度の増加が可能で、更に巨大な斥力を発生させている。
総合的な性能で大きな差が無ければ太陽炉を搭載したがる、特に命に直結するパイロットは。
「そんな中でオーブに渡った太陽炉。連邦はオーブがプラントから条約違反の軍事供与をしていると圧力をかけられていると。だが。そんな事実は無論ない。我らはとても平和的な関係なのだから」
兵器の心臓を与える側も、人と技術の代価に喜んでいる側も、平和的な関係であるはずがない。ないのに太陽炉を甘んじて享受し、返す気もないカガリには何も言える資格がない。八方塞がりの状況に立ち尽くすカガリの耳に突如として警報の音が飛び込んできた。
「――――なんだ…………?」
俯くカガリと微笑むデュランダル。今のオーブとプラントの力関係を現すような態度の二人が辺りを見渡す。両者の護衛が周囲を警戒しながら傍による。
一拍の後、近くの格納庫から幾筋ものビームが放たれ、無防備に立っていた二体の式典用のゲイツRを貫き、背後の別の格納庫に着弾。
「カガリ!」
格納庫内の何かに誘爆したのか、大きな爆発が起きる一瞬前に前兆を感じ取ったキラはカガリを抱え込んで近くの装甲車の影に倒れ込んだ。
「何!? ううっ!」
身を伏せた直後に巻き起こった爆風が状況を理解したとは言い難かったカガリの声を飲み込む。
爆発は連鎖せず、即座な危険はないと判断して体を起こしたキラの視界に、同じように随行員に庇われたデュランダルの姿が目に入った。
「何が起こったんだ?」
もがくようにして身を起こしたカガリに手を添えつつ、キラが装甲車の影から顔を出して爆発が起こった方を見る。
「あれは……!?」
黒煙の中から出て来た三機のモビルスーツは現在のザフトの量産モビルスーツとは違う面貌をしていた。ツインアイの特徴的なフェイスは一年戦争で勇名を轟かせた『伝説』と同じ特徴を有している。
「――――ガンダム…………」
ガンダムタイプと呼称され、良くも悪くも注目を集める機体の突然の登場にキラは既視感を覚える。
「カオス、ガイア、アビス!?」
「六番ハンガーの新型が何者かに強奪された!!」
議長の随行員の上げた呼称が機体名なのだろう。そして誰かが上げた叫びはキラに二年前のことを思い出させる。
「対応を急げ! 姫をシェルターへご案内しろ! ミネルバにも応援を頼め!」
「こちらです」
郷愁とはまた違う。歴史が立場を代えて繰り返されているような嫌な感覚に身を震わせたキラは、矢継ぎ早なデュランダル議長の指示を受けた随行員の案内に従ってカガリの背を守りつつ走る。
最後に見た三機のモビルスーツは手当たり次第にモビルスーツと格納庫を破壊しており、こちらに気付いた様子はない。
「誰が、こんな……っ」
コーディネイターの随行員の足は速く、代表首長となってから政務に忙殺されて碌なトレーニングを行えていないカガリが全力疾走に息を乱しながら呟く。
彼女の脳裏にもキラと同じく二年前の光景が過っているのだろう。言葉よりも雄弁に苦渋に満ちた表情が、こんな惨劇を起こしている連中の目星に付いていることを物語っている。
「シェルターはもう直ぐです!」
随行員が背後のキラ達を見て言ったが、その進行方向で今まさに黒色のガンダムタイプがビームサーベルでザクウォーリアを貫いていた。
キラは咄嗟の反応でカガリの腰を掴んで建物の壁に飛び込んだ。
「うわあっ!?」
反応が遅れた随行員はモビルスーツが起こした爆発に呑み込まれる。
「こっちだ!」
案内人を失い、シェルターの正確な場所を知らないキラは可能な限りカガリを戦闘区域から離れる為に手を引いて建物に沿うようにして走る。
「なんで、なんでこんな……!?」
途中で血を流した死体の横を走り抜けながらカガリが泣きそうな声でやりきれない思いを吐き出す。
また近くで爆発が起こり、次は爆発と違って何か重たい物が地面に落ちたような衝撃に二人は踏鞴を踏む。
顔を庇っていた腕をどけると、罅割れた地面の中心に仰向けに倒れたザクウォーリアがあった。近くの格納庫が破壊された時の衝撃で飛び出したものらしい。
「行こう!」
キラはカガリを促して一目散にザクウォーリアに向かって走る。幸運にも倒れた衝撃でか、それとも直前に誰かが乗ろうとしていたのかコックピットは開いていた。
「まさか……」
「生身で走り回るよりかは安全だよ。こんなところで君を死なせるわけにはいかない」
モビルスーツが動けば狙われるリスクは高くなる。が、そこはキラのやり様でどうとでもなる。
「カガリは僕の腕が信用できない?」
「…………世界で一番信用しているとも。頼むぞ」
「任せて」
リニアシートに座って機体に電源を入れる。駆動音と共にOSが立ち上がり、全天周囲モニターが周辺の情景を映し出す。
操縦系統もフリーダムと違うものの大方見当はつくので動かせないことは無い。
「なあ、これってやっぱり連邦の」
「分からない。けど、ヘリオポリスと状況が似ているのは間違いない」
状況を考えれば誰でもカガリと同じ推測を立てる。
機体を立ち上がらせながらシステム周りを確認していく中で、モニターの端にザクウォーリアの背面から排出されるオレンジに近い赤いGN粒子が光が微かに見えた。
「或いはエゥーゴにやられたことを繰り返しているのか」
単純に二年前にされたことを連邦がやり返したのかもしれないし、二ヶ月前にティターンズがエゥーゴに奪われたガンダムタイプのことを考えると邪推も出来る。
「今はここから離れることが先決だ」
一分にも満たない間に大まかな操縦方法を掴んだキラは周囲に敵影がないことを確認して、疑似太陽炉を搭載したザクウォーリアをゆっくりと浮かび上がらせる。
初めて乗った機体なのでキラも慎重に慎重を期した。が、その動きが敵の注意を引いてしまったらしい。
「!?」
黒煙を切り裂くようにして直ぐ近くに現れた緑色のガンダムタイプがビームライフルを向けて来る。
強奪されたばかりだからセンサー類は緑色のガンダムタイプを敵と認識していない。『カオス』とモニターに映るガンダムタイプの名称を認識すると同時にキラはレバーを操作してペダルを踏みこむ。
「ぐっ!?」
突然の挙動にリニアシートに座っていないカガリが必死にシートに捕まりながら呻く。
ザクウォーリアは滑らかな動作で放たれたビームを回避すると、一気に距離を詰めて左肩のバインダーでショルダーアタックを仕掛ける。アタックにカオスがバランスを崩したところに空中で更に踏み込んで蹴り飛ばす。
「しっかり捕まってて!」
予想だにしていない反撃の二連撃を食らって倒れ込んだカオスに追撃はせず、この隙に逃げようとしたキラの感覚に触るものがあった。
「もう一機!?」
黒いガンダムタイプの『ガイア』が背後から迫ってきている。
ビームサーベルを抜き放って向かって来るガイアを見て、キラはザクウォーリアを動かして起き上がろうとしているカオスから距離を取る。
「武器は!」
モニターに機体図が表示され、幾つかある武装の中で今直ぐ使える近接兵装が表示されて迷うことなく選択する。
左肩のバインダーからビームトマホークを抜き放ち、向かって来たガイアのビームサーベルを受け止めた。
「キラ、もう一機が!」
「ちっ……!?」
機体性能差で押し込まれる。そんな最中にカガリからの声に目を向ければ、起き上がったカオスがこちらにビームライフルを向けていた。
押し込まれる勢いを利用してビームの射線にガイアを入るように動きながら、カガリの安全が優先なので勝つ必要のないキラはなんとか後退するタイミングを探る。奪取されたというもう一機が現れない間に逃げる必要があった。
射線を確保できずに痺れを切らしたカオスが飛び上がったところで、その背中に爆発が起こった。
「戦闘機!?」
体勢を立て直して地面に着地したカオスの横を戦闘機が駆け抜けていく。
戦闘機の後を追うようにして二機の飛行体も駆け抜け、三体は上空で合体して人型を形成する。合体した鉄灰色の機体がベールを剥ぐように色づく。
「…………またガンダムタイプ――――」
二刀のビームソードを握り、地面に着地したモビルスーツの面貌もまたガンダムタイプ。その機体はどこか嘗てキラが最初に乗ったストライクを彷彿とさせるものがあった。
「何でこんな事…………また戦争がしたいのか! アンタ達は!!!」
現れたガンダムタイプのインパルスに搭乗するシン・アスカは瞳に怒りを宿して叫んだ。
本作宇宙世紀は、以下のようになっています。
U.C.0079 一年戦争
U.C.0080 南洋同盟の反乱
U.C.0081
U.C.0082 ソレスタルビーイングの武力介入
U.C.0083 デラーズ紛争
U.C.0084 第1次連合・プラント大戦開戦 2月14日 血のバレンタイン
U.C.0085 ヤキン・ドゥーエ戦役 停戦
U.C.0086
U.C.0087 ←今ここ
修羅と地獄の世界ではなかろうか……。