スティング・オークレ達がカオス等のガンダムタイプを強奪した直後にまで時間を戻す。
アーモリーワン周辺の宙域にユニウス条約で禁止されているミラージュコロイド技術でセンサー類に引っ掛からない戦艦ガ―ティー・ルーの艦橋で一人の男が手元の時計を確認する。
「お楽しみの時間だ。さあ、戦争を始めるぞ。任せた、艦長」
「了解しました、大佐」
ニヤリと獣染みた浮かべたアリー・アル・サーシェスの宣言に、隣の艦長席に座るイアン・リーが頷く。
「モビルスーツを順次発進後、主砲発射と同時にミラージュコロイドを解除。機関最大、照準は左舷前方ナスカ級」
イアンの指令を受けて艦橋が俄かに活気づく。
「ゴットフリート1番2番起動。ミサイル発射管、1番から8番、コリントス装填」
「イザワ機、ハラダ機、カタパルトへ」
着々と攻撃準備が整っているというのにナスカ級はガ―ティー・ルーに気付いた様子はない。ミラージュコロイド展開時には視覚的にも、レーダー等の観測機器をもってしても捉えることは出来ないので危機が迫っていること気づいてすらいない。
「ゴッドフリート、撃てぇっ!」
ガ―ティー・ルーの主砲が放たれ、無防備だったナスカ級は自分達に何が起こったのかを知ることもなく船体諸共に爆散する。
「攻撃の手を緩めるな! モビルスーツは戦艦を優先的に落とせ。主砲照準インディゴ、ナスカ級――――あちらの砲に当たるなよ!」
落としたナスカ級の末路を見ることなく、イアンの矢継ぎ早の指示が出る。
ミラージュコロイドとてエンジンに火を入れた戦艦の熱量まではカバーできない。付近を哨戒中のザフト艦とモビルスーツに気取られることは予測の範囲内。高速船であるガ―ティー・ルーは特性を活かして的を絞らせずに攻撃を続ける。
「NダガーNは特殊戦仕様とはいえ、ザフトのザクに性能では及ばん。機先を制し続けろ!」
先に発進していたミラージュコロイド搭載型であるイザワ隊のNダガーNの攻撃が、モビルスーツを吐き出そうとしていたナスカ級のエンジンを貫いて諸共に爆散させる。
如何にザフトのザク系統の機体性能が優れていても戦艦の爆発に巻き込まれては運命を共にするしかない。
「ナスカ級撃沈!」
「左舷後方よりザクウォーリア、新たに3!」
「イザワ隊を迎撃に向かわせろ! ハラダ隊はまだ港を沈めんのか!」
とはいえ、奇襲も長くは続かない。モビルスーツの性能とパイロットの技量の双方共にザフトが上回っているのだから、長引けば単艦でしかないガ―ティー・ルーが不利である。
ミラージュコロイドを活かした善戦しているが、やがて押し込まれるのは目に見えていた。その為にハラダ隊のNダガーNに港を攻撃させているが吉報はまだない。
「アンチビーム爆雷発射と同時に加速20%、10秒。1番から4番、スレッジハマー装填!」
奇襲のお蔭で今暫く均衡は保てるだろう。サーシェスはイアンに任せきりのままで戦況を眺めていたが徐にオペレーターに訊ねる。
「――――ガキ共は?」
「まだです」
オペレーターはサーシェスの問いに簡潔に答える。
返答にサーシェスが顎髭を撫でるのを見ながらイアンは眉を顰めた。
「失敗ですか?」
「さあな。合図が出ていないから中で暴れているだけか……」
予定の刻限は過ぎているが作戦が思い通りに行っていないのはこちらも同じ。
この作戦の指揮を一任されているサーシェスは頬杖をついて先行きに対して思考を巡らせている。そんな彼をチラリと見たイアンにオペレーターが報告する。
「ハラダ隊より入電、港への攻撃は成功とのことです」
オペレーターの報告を共に聞いていたサーシェスが顔を上げた。
「回収ポイントにガキ共が現れなければ撤退する。命あっての物種だからな」
潜入部隊の任務の成否に関係なく、今後の方針を決めたサーシェスは徐々に集まりつつあるザフトのモビルスーツを目にしておどけるように笑った。
「露払いをする。艦を回収ポイントへ」
「了解しました」
最初からパイロットスーツを着ていたサーシェスは横に浮かばせていたヘルメットを手に席から下りる。
「格納庫、アルケーの準備を急げ! 大佐が出るぞ!」
イアンは手元のインターフォンを取って告げた。
高まっていく戦争の機運にサーシェスは鼻歌を歌いそうな気分でヘルメットを被りながら愛機の下へと向かった。
「イザワ隊は足止めに徹しろ! 大佐が出るまでの時間を稼げ!」
ほどなく左舷ハッチが開き、ほぼ赤を基調としたモビルスーツが発進する。
半数まで減っていたイザワ隊を仕留めにかかっていたザクウォーリアに接近して、碌な迎撃行動もさせずに瞬く間の間に撃墜する。
「地球連邦に存在しないはずの太陽炉搭載型モビルスーツと、存在しないはずの男が上官とはな」
集まってくるザクを一蹴していくアルケーの背部から出ている太陽炉特有の粒子放出を画像補正されたモニター越しに眺め、イアンは一人ごちる。
「何か?」
「ただの独り言だ。気にするな」
漏らした言葉に反応するオペレーターに返し、イアンも気持ちを切り替える。
不必要な詮索も追及もしない。軍人は軍人らしく与えられた命令をこなすだけと自分を律し、私情を押し込める。
「大佐との連絡は密に。敵を殲滅したら再び潜航する」
敵の掃討に時間はかからない。アルケーはザフトのザクシリーズと比べても破格の性能を有しており、操るサーシェスの技量もイアンが知るどのパイロットよりも優れている。サーシェスが強化人間達と共に部隊に来た時、単機で隊の全員を倒す姿を目にしているのだから心配はなかった。
「イアン、アイツは使える男だな。長生きはしないだろうが」
露払いを終えたサーシェスはは実直その物といったイアンの顔を脳裏に浮かべ、そう評して回収ポイント近くのコロニーの外壁付近でアルケーの相対速度を合わせて張り付かせる。
「制限があるものは上手く使わねぇとな…………ガキ共は上手くやっているのか」
サーシェスは作戦の成否に興味はなかった。戦争の火種は二ヶ月前にエゥーゴとティターンズの間で盛大に爆発してくれたし、襲撃があったという事実をプラントが認識すれば事態は動く。無論、上手く行った方が個人的に面白くなることは否定しない。
「お」
様子を窺う内にアルケーから離れた場所でコロニー内部からの攻撃で穴が開き、目標の内の一機である黒いガンダムタイプが飛び出して来た。少し遅れて二機のガンダムタイプも続く。
アルケーをコロニーの外壁から離れさせ、ガンダムタイプに近づく。
「ガキ共、聞こえるか?」
一瞬身構えた様子の三機のガンダムタイプが攻撃を仕掛けて来ないことを確認して、緑のガンダムタイプの肩に手を置いて接触回線を繋げる。
「…………サーシェスか、聞こえている」
「ポイントαにガ―ティー・ルーが来ている。そこへ向かえ」
「ちょっとさ、労りの声ぐらいないわけ?」
「よせ、アウル」
「落ち着いたら褒めてやる。俺はお前らが連れて来たアレの相手をしなけりゃならん」
スティングは存外に使える男だから、機体の肩を押してガ―ティー・ルーに向かわせれば自分で考えて行動することをサーシェスは知っている。
「情報に無かった四機目…………子守といい、旦那は俺を試しているのか?」
話をしている間に穴を通って宇宙に出て来た自身も知らなかった四機目のガンダムタイプを目にしながらキーボードを叩き、ガ―ティー・ルーへ通信を送る。
ニュートロンジャマーにミノフスキー粒子、駄目押しにGN粒子によって戦艦レベルの通信機が無ければ通信もままならない。現在のところ、レーザー通信が最も信頼性の高い通信方法だった。
「まあ、いい。その機体も頂こうか! ファング!」
初手必殺。こちらに気付いた様子のない白いガンダムと、遅れて穴から出て来たザクウォーリアを仕留めんとリニアスカート内のGNファングを射出する。
強奪された三機を追ってアーモリーワンを飛び出したシンはその姿を完全に見失っていた。
「くそっ、奴らはどこに……」
焦燥も激しく、周辺を見渡して探すも影も形もない。
センサー類を阻害する要素が多く、レーダーの索敵範囲は極々狭いので闇雲な捜索に終始してしまう。索敵に特化した装備を持っているわけではないインパルスでは一度見失った三機の所在は掴める可能性は低い。
「あ、ザクも来てくれたのか」
レーダーの反応に過敏に反応してみれば、共に戦っていたザクウォーリアであったので肩から力を抜く。
頼りになる味方が近くに来てくれたことで、性能で劣る機体で最新鋭のガンダムタイプと戦って見せた凄腕のパイロットの身元が気になった。
「どこの隊の人なんだ?」
助けてもらった礼を言うついでに聞いてみるかと、通信を繋ごうと瞬間にシンの感覚に何かが触った。
「なっ!?」
初撃がシールドに当たったのは完全な運。幸運は二度も続かず右足をビームが貫き、シンは揺れる機体の制御に四苦八苦する。
「――――どこから!?」
遅まきながらレーダーが敵機の接近を知らせ、モニターが敵機の姿を映し出す。
コロニーの方面から向かって来る機体の背面から噴出する赤い粒子は疑似太陽炉を搭載していることを示していた。赤いGN粒子によって画像補正が追いつかず、その輪郭は曖昧なままシンは警戒をしてインパルスに距離を取らせた。
「登録されていない機体――――どこの所属だ?」
機体名は『Unknown』としか表示されない。即ちザフトが未だ出会っていない機体ということで所属が分からないが、取りあえず敵と判断してビームライフルを向けると別方向からのビームが襲って来た。
「別の機体? いや、ドラグーンみたいな攻撃か!」
レーダーは他の機体の存在を認識していない。機影らしきものも確認できず、代わりに再び四方からの攻撃に機体を急旋回させて射線を躱す。その最中、視界の中に高速で飛び回る小さな物体が一瞬だけ見えて思い付きで叫んだ。
ビームを放つも既にそこには何もない。全方向からの間断ない砲撃に、今度は肩に被弾して機体のバランスを崩す。
(やられる!?)
と思ったが、機体に何かが高速で当たったかのような衝撃と共にGがコックピットを揺らす。
「気を抜くな、シン!」
「アスラン隊長!?」
機体が掴まれて移動している。接触回線から聞こえてきた声に顔を上げれば赤い機体が目に入って、アスラン・ザラのセイバーに助けられたことに気づく。
視線を移動すれば、インパルスと違って無傷で無数の射線を躱し続けているザクウォーリアを助けんと、セイバーと一緒に来たらしいレイ・ザ・バレルのブレイズザクファントムとルナマリア・ホークのガナーザクウォーリアが敵機に攻撃を加え始めていた。
「お前はミネルバに向かえ!」
セイバーはインパルスを放り捨て、機体を旋回させる。
「俺もやれます!」
「損傷した状態で何が出来る! 邪魔だ、さっさと戻れ!」
機体を持ち直して叫ぶもアスランに一刀両断される。
シンはグッと歯を噛み締め、遠くに見えるライトグレーの戦艦に機体を向けた。
「五機目だと?」
獲物を仕留めかけたところを掻っ攫われて、やってきた銀色と赤色のザク二機をあしらいながら未だに落とせない緑のザクに集中的に攻撃を仕掛けていたサーシェスは、白いガンダムタイプを助けた赤い機体が可変してモビルスーツになり、ガンダムタイプのフェイスを露わにしたことに目を細める。
更に遠くでザフトの戦艦とガ―ティー・ルーの位置関係から攻撃を仕掛けられているのをレーダーから判断し、セイバーのプラズマ収束ビーム砲にGNファングが落とされたのを目にして撤退を決めた。
「ちっ、ガ―ティー・ルーも敵戦艦に見つかったか。欲張り過ぎは元も子もない」
数的不利でも負けるつもりはないが、赤いガンダムタイプと緑のザクウォーリアは雑魚ではない。何より帰るべき母艦を失っては流石のサーシェスも困る。
サーシェスは退き時を知っていたからアルケーのコンデンサーを切り離して、撃ち抜いて爆発させて内側のGN粒子を撒き散らす。直後、遠方でも大きな爆発が起こった。
「――――退いて、くれた?」
戦闘中の母艦に戻れず、戦闘を注視していたシンは爆発と同時に広がった赤いGN粒子によってアルケーの姿を見失ったところで自分が夥しい汗を掻いていることに気づいた。
バイザーを開けて顔を振って汗を飛ばしていると、モニターの一部に光を捉えた。
「帰還信号? 追撃するのか、ミネルバは」
打ち上げられた発光信号からその意味を読み取ったシンはインパルスをミネルバに向けて進める。
セイバー、ブレイズザクファントム、ガナーザクウォーリアと続き、遅れて緑のザクウォーリアも向かっているのが見えた。
「遅れてすまなかった、シン」
「レイ」
ブレイズザクファントムがインパルスの無事な肩に手を置き、レイが接触回線を繋げてきた。
「来てくれて助かった」
言い訳をしないレイにあれこれと理由を訊ねもしない。シンとしては救援に来てくれただけでも感謝である。
「あのザクには誰が?」
「あ~、結局聞けてない。けど、アスラン隊長並みの凄腕なのは間違いない。随分と助けられたよ」
「そうか……」
殿のザクウォーリアをレイも気にしていて、シンは礼の一つも言おうと考えてミネルバに着艦する。
機体がハンガーに固定されたのを確認して、初めての実戦の疲労に重い身体を押してコックピットから出る。
「シン、大丈夫か?」
「ああ」
整備員であり訓練学校の同期でもあるヴィーノ・デュプレが心配して気遣ってくれる声に言葉少な気に返しつつ、インパルスに遅れて着艦して同じようにハンガーに固定された緑のザクウォーリアを見る。
「隊長?」
先にミネルバに着艦していた隊長のアスラン・ザラが銃を手にして、シンと同じ赤いパイロットスーツのままでザクウォーリアの下へ向かっていた。その後ろには銃を構えた警備兵もいた。
「どうしたんだ、ヨウラン。あれって」
ヴィーノと同じく同期のヨウラン・ケントが目の前を漂ったので捕まえて聞く。
「あのザクがコックピットを開けないんだって。通信も通じないし。もしかしたらガンダムを強奪した一派が乗っているかもしれないってブリッジが」
「そんなバカな! あのザクは俺を助けてくれたんだぞ!」
「俺に言われたって……」
敵の一派ならば強奪犯同士で戦闘したり、シンの援護をしてくれるはずがない。
ふと見れば、レイが乗っているブレイズザクファントムが緑のザクウォーリアを何時でも制圧できるように待機しているのが目に入った。共に戦ったことで緑のザクウォーリアに仲間意識があるシンはコックピットを包囲しようとしているアスランの下へ向かう。
「おい、シン!」
「隊長、何やってんですか!」
ヨウランを壁にして移動して無重力の中、コックピットを外部から開けようとしているアスランの肩を掴む。
「シン、お前は下がって――」
白兵戦においてもザフト随一のアスランが無防備に近づいてきたシンを下がらせようとしたところで、コックピットがゆっくりと開いていく。
警備兵が一気に銃を構える中、シンを背後に庇ったアスランも銃をコックピット内に向ける。
「撃つな!」
背後にいる者を庇いながら手を上げた青年が言いながらコックピットから姿を見せる。
パイロットスーツもヘルメットも身に着けていない青年を見たアスランの目が見開かれた。
「キラ?」
「――――アスラン?」
「え?」
出て来た青年を見たアスランが漏らした名前と、青年がアスランの名前を呼ぶのをシンははっきりと聞いた。
お互いに相手がここにいるのが信じられないといった表情を浮かべている。
逸早く我を取り戻したのは青年の方だった。
「銃を下ろせ! こちらはオーブ連合首長国代表カガリ・ユラ・アスハ氏だ。私は随員のアレックス・ディノ」
アレックスと名乗った随員が口にした中に、アスランが呟いた名前はない。
それよりもシンにとっては他のところに意識が向いていた。
「オーブだって?」
明確な敵対国ではない国名の代表という所謂、偉い人の身分が出て来たことで警備員も戸惑ったような表情を浮かべる中でシンは脳裏を過った光景に奥歯を噛む。
「デュランダル議長との会見中に騒ぎに巻き込まれ、避難もままならないままこの機体を借りた。艦長と話をさせてもらいたい」
そう言ってアレックス――――キラは瞳を揺らすアスランを見据えて言い切った。
前大戦のヤキン・ドゥーエ戦役でオーブのカガリとザフトを抜けたアスランが同じ陣営にいたことは良く知られた話であったから、身元証明がされたキラ達に向けられていた銃口は下ろされた。
パイロットスーツから着替える為、案内は出来ないアスランに代わって警備兵に周りを固めながらとある部屋に案内されたキラ達。
暫くすると前大戦後にザフトは階級制を導入しているので白い制服に中佐の階級章を付けたミネルバ艦長であるタリア・グラディスがやってきて、何故かプラントの議長であるギルバート・デュランダルも一緒にいた。
「議長!? 何故、戦艦に?」
「それはこちらの台詞ですよ、姫」
驚きで椅子から立ち上がったカガリに微笑むデュランダルは若干の苦笑も交えて言葉を返し、初対面の時と同じくまたキラをチラリと見る。
ザフトの主力機であるザクウォーリアに無断で乗り込み、あまつさえ戦闘まで行ったことで注目を集めてしまった自覚のあるキラは謝辞の意味を込めて小さく頭を下げる。デュランダルは笑みを深めて軽く頷き、カガリに椅子を勧めた。
「遅れました、議長、艦長」
カガリが椅子に座り、対面の席にデュランダルも座ったところで大尉の階級章を付けた赤服を着たアスランも入室した。
チラリとこちらを見たアスランがデュランダルの後ろでタリアと共に並んで向かい合うことがお互いの立場を嫌でも自覚させされたキラ。同じ事実に気づいて沈んだ様子のカガリの背中を指で突いて気持ちを切り替えさせる。
「本当にお詫びの言葉もない――」
自国の問題に巻き込んだ形になるカガリにデュランダルが何時もの口調で話し始めた。
「姫までこのような事態に巻き込んでしまうとは。ですが、どうか御理解いただきたい」
「ザフトの精強さは良く理解している。そのザフトを相手取ってあそこまで出来る部隊に最新鋭機を奪われたのだ。追撃は止む無い判断だと思う」
先立って、乗り込んだミネルバが強奪部隊の追撃の為にアーモリーワンに戻らないことは聞いていた。理解を求めるデュランダル以上に追撃の必要性は重々承知しているカガリの口調は重い。
「あの部隊についてはまだ全く何も解っていないのか?」
カガリがこれから戦うことになるであろう相手の情報について尋ねる。
「艦などにははっきりと何かを示すようなものは何も」
「そう、ですか……」
「ただ、一つだけ分かっていることがあります。こちらを」
互いに強奪部隊に対する目星はついていても口にすることはない。明確な証拠のない中でデュランダルが一枚の紙を差し出した。
「これは、あの赤いモビルスーツ?」
受け取った紙には、モビルスーツで記録された映像から抽出されたあの時に戦ったモビルスーツの画像のようだった。
「ええ、画像補正を行っていますので実物と全く同じとは言えませんが」
「GN粒子にNジャマー、ミノフスキー粒子まであるんだ。既知の機体ならばともかく、未知の機体ならば贅沢は言わない」
カガリの後ろから写真を覗き込んだキラは赤い機体を見ても該当する機体を思いつかない。
「眼のタイプはツインアイからしてジオン系ではなく、連邦系にしては類似する機体がないように思えるが」
ジオンはモノアイ、連邦はツインアイ、もしくはゴーグルタイプが多い。画像のモビルスーツはツインアイだが写真の機体は全体的な意匠は尖っている部分が多く連邦系の意匠ではないように見えたカガリがデュランダルを怪訝気に見る。
「我々が注目したのは太陽炉の方です」
「…………赤い」
指摘を受けて注目したカガリは太陽炉の色がザフトの疑似太陽炉のオレンジに近い赤に比べれば色が濃いことに気づいた。
「色にも若干の修正は入っているかもしれませんが、恐らくこの機体は初期型の疑似太陽炉を搭載したモビルスーツです」
だからどうしたのだとカガリが考えているのが分かり、キラは再度その背を指で突く。
「五年前のソレスタルビーイングの武力介入で、本機と類似した特徴を持つモビルスーツが目撃されています」
「ソレスタルビーイングのガンダムの粒子の色は緑色だったはずでは?」
武力介入を行ったソレスタルビーイングのガンダムタイプの意匠等に関して目撃情報が多くあったのでカガリも周知していたので、赤色の粒子を出す機体も赤いガンダムタイプもいなかったと記憶していた。
「一般には知られていませんが、ソレスタルビーイングを名乗って武力介入を行っていた機体が他にもあるのです。その機体は赤いGN粒子とガンダムに類似したフェイスをしていたとの話です」
「待ってくれ。そんな話は今まで聞いたことがない。本当なのか?」
「間違いなく。情報が少ないのは、この機体達は武力介入を行う時に徹底した殲滅を行っていたことで目撃者が殆どいないからだと。我らが知ったのも、その数少ない目撃情報とソレスタルビーイングと連邦軍の決戦を記録していたから…………対象に類似した機体は連邦軍側として参加しています」
ソレスタルビーイングと連邦軍の決戦を記録したことで、プラントは太陽炉の研究・開発を進めてヤキン・ドゥーエ戦役の後に製造に成功していることは知られた話であった。
当時の記録映像を抽出した画像だと差し出された一枚の紙には、不鮮明ながらも赤の機体色と粒子色が分かる。カガリが手元の二枚の紙に映っている機体を並べると、似ていると言われれば似ているかなという程度でしかないが検証する価値はありそうだ。
「当時の連邦軍はどこからか疑似太陽炉の製造技術を入手しているが、当該機体を鹵獲か入手したのか」
「恐らくは――――その後のデラーズ紛争や連邦軍の内部分裂で製法を失った様子ですが」
一年戦争後、南洋同盟の反乱を始めとした様々な紛争によって纏まりを失っていた地球連邦はユニオン・AEU・人類革新連盟の三大勢力が主導権を争いし、様々な国が連邦から脱退して独立を始めていた。
そこにソレスタルビーイングの武力介入が起き、収めたところでデラーズ紛争が発生してその動きが更に加速。大小様々な国が連邦から脱退して独立し、オーブ連合首長国もその一つである。
「仮にこの機体が連邦の物だとしても、連邦は頑として認めないだろうな」
「証拠能力としては弱いですからね。特にティターンズはスペースノイドを敵視していますから、現状で太陽炉搭載機を運用しているのはザフトだけだから自作自演と言われかねない」
分裂した地球連邦とプラントの戦いであるヤキン・ドゥーエ戦役は勝利出来たジオンの時と違って半ば痛み分けに近い状態で終わった。続く内外の闘争に、強く統一された地球連邦に戻る為に設立された独立治安維持部隊が『ティターンズ』である。
「この火種、放置したらどれほどの大火になって戻ってくるか…………それを考えるのが怖い。奪われた機体の奪還、もしくは破壊は現時点での最優先責務」
ティターンズはスペースノイドを軽視した地球至上主義を掲げ、強引な手段による暴徒鎮圧や反地球連邦運動の取り締まりを行っているが情報統制によって連邦民がその事実を知ることは無い。
既に一度は独立した国等が様々な要因で連邦に再加盟を強要されていることは連邦民以外では周知の事実でもある。
「今からでは下船して頂くこともできませんが……」
「私のことは気にしないでくれていい。今は何であれ世界を刺激するようなことはあってはならないんだ、絶対に。一刻も早く、この事態を収拾しなくてはならない。取り返しのつかないことになる前に」
「ありがとうございます。姫ならばそう仰って下さると信じておりました」
安堵したように笑みを深めたデュランダルが立ち上がったのでカガリも合わせて行動する。
「私は政務が残っておりますので失礼しますが、アスランとは旧知の仲と聞いています。久しぶりの再会ともなれば積もる話もあるでしょう」
話題に出されたアスランの表情が揺れ動く。
「このミネルバも足自慢ではありますが、敵もかなりの高速艦です。直ぐにどうこうということはないと艦長から聞いています。時間を取れるとしたら今しかありません。如何でしょうか?」
「――――議長の心遣い、感謝する」
「では、アスラン。頼んだよ」
「はっ」
ザフト式の敬礼をするアスランに頷きを返したデュランダルがタリアを連れて部屋を出ようとしてドアの前まで歩いたところでカガリらの方を振り返った。
「それと話をしてもまだ時間あるようなら艦内を案内してくれ」
「ぎ、議長!?」
まさかの提案にカガリが驚きで目を丸くし、ザフトの最新鋭艦を他国人であるキラ達に見せると宣言したデュランダルに艦長のタリアがその肩に手を置こうとして止めた。
アスランが目を剥いて声も出ない中、手を引っ込めたタリアにデュランダルが顔だけを振り返させる。
「一時的とは言え、いわば命をお預けいただくことになるのです。それが盟友としての我が国の相応の誠意かと」
議長がそう言ってしまえば一艦長に過ぎないタリアは二の句を告げなくなる。わざわざ案内してくれるというのだからカガリ達も容易には断れるはずもない。
爆弾を落としたデュランダルがタリアと共に部屋を出て行き、アスランが深く息を吐く。
「すまない、二人とも」
謝罪に内容が内容だけに曖昧な表情を浮かべるカガリ達に気を取り直したアスランが顔を引き締める。
「議長はああ言っていたが艦の案内はしないぞ」
「分かっている。議長は何時もあんな感じで?」
「…………偶に、な。後々になって正しい方向に向かう時もあるから無碍にも出来ん」
無茶ぶりに近いことは以前にもあったようで、引き締めたアスランの顔に影が差す。
「ただ、今回は別だ」
「大丈夫だ。案内されても、こっちが困る」
最新鋭艦ともなれば機密も多く、本来ならばこういう緊急事態でもない限りは他国人が乗ることなどありえない。状況から乗り込むことになったが、そこら辺の機微については良く理解しているカガリもアスランに笑顔を向ける。
アスランも安心したように微笑み、改めて三人は席に座った。
「改めて――――久しぶりだな、二人とも。前大戦振りだから2年振りになるか」
前大戦の折、レイ・ユウキを始めとした多くの人に請われ、プラントに戻ることを選んだアスランは過去を振り返るように遠い目をする。
「もうそんなになるのか。あっという間だったような気もする」
「それだけ濃密な日々を送って来た証拠じゃない?」
カガリも見知った面子になったことで肩から力が抜けたことで表情も柔らかい。キラも仕事モードから私人モードとの半々ぐらいの気持ちで話に混ざる。
「あのカガリが今では代表首長だもんな」
「なんだ文句あるのか?」
「いいや、ただ――」
言い方から馬鹿にされていると思ったカガリが不満そうに眉を顰める姿にすら郷愁を覚えたアスランは苦笑と共に続ける。
「――――綺麗になった」
空気が止まった。キラは目を丸くし、カガリは最初キョトンとした表情から急激に頬を真っ赤に染め上げる。
「どうした?」
「いや、アスラン……」
無自覚で褒め言葉を発しただけで全く自覚のないアスランにキラは続けようとした言葉を飲み込んだ。横目にカガリを見れば顔全体を真っ赤にして膝の上で握っている手を見ている姿勢で、下手な藪蛇を突いて親友との数年振りの再会の場を壊したくはない。
「ザフトも階級制度を導入したとは聞いていたけど大尉になったんだね。おめでとう」
幾らプラントの成人年齢が他の国に比べれば早いとはいえ、年齢を考えれば尉官の最高位の階級を得ていることは十分に凄いことだと、前大戦後にオーブで一通りの軍事教練を受けたキラも理解していた。
「褒められることじゃない。前大戦のアレコレで一番面倒の無い階級を与えられただけだ」
しかし、当のアスランとしては喜ぶようなものではない。
先程のことを深掘りされると何を言ってしまうか分からないカガリも話題転換に乗っかる為に口を開いた。
「正当に評価されたことは喜ぶべきことだと思うぞ」
「そうは言うがな、カガリ……」
アスラン自身、前大戦後にプラントに戻ってから変遷した自身の周りのことを他国人のカガリ達に言えるはずもなく、続く言葉を飲み込むしかない。
人知れぬ苦労を抱えて口を噤む経験が自分の側にもあるカガリだからこそアスランの気持ちも良く理解できる。
「色々と溜め込んでいるようだな。やっぱりオーブに来た方が良かったんじゃないか」
「オーブに行っても俺は何も出来なかったと思う」
そうあれば良かったというカガリの願望であり、そうしてほしかったという浅ましい望みでもあったが、頭を横に振るアスランの顔には諦観があった。
「最近、特に自覚するんだ。俺には、戦うことしか出来ないと」
アスランの脳裏を過るのは、前大戦に戦争犯罪人に認定されて死刑が執行された父であるパトリック・ザラのこと、父亡き後のザラ派を誘引する為の撒き餌の役割を求められていること、最新鋭のモビルスーツを与えられても部下を纏め切れていないこと――――優れているのは戦士としてだと思い知らされた二年だった。
アスランの諦観をキラは完全には理解できない。
それでも、最高の潜在能力を与えられてその結果を示してしまったキラも同意するべき点があった。
「上手く行かないね、人生は」
「ああ」
こんなはずではなかったと言ったところで時間は戻りはしない。違う選択をしたところで別の後悔を抱えるだけだと知っている程度には彼らは大人になった。
「機密に関わっている身だから話せることは多くない」
昔話に花を咲かせることは出来るだろう。だが、近況を話すには機密に深く関わるか、国の中枢にいるから互いに話せないことが多い。
「俺の部下の一人――――シン・アスカは二年前にプラントに来たオーブ出身者だ」
「!?」
カガリが息を呑む。キラもこの場でアスランが敢えて告げた意味を先読みして奥歯を噛んだ。
「オーブに対して並々ならぬ思いがあるようだ。俺も注意するが言葉には気をつけてほしい」
前大戦後にオーブを離れた人間が実体を伴って現れる。カガリは一時の高揚から突き放されて現実の苦しさに溺れた。
アスランはコミックボンボン版ルートだと、パトリック・ザラの側近だったレイ・ユウキなどから残留を願われ、断り切れずにザフトに戻ったという次第であります。
コミックボンボン版ではアスランの必死の説得に心動かされてパトリックに反逆したので有り得るかなと。