種運命×Z×OO   作:スターゲイザー

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PHASE-04 星屑の戦場

 

 

 

 正体不明の仮称・ボギーワンを追うミネルバは警戒レベルはイエローのまま。つまり何かあれば直ぐにモビルスーツを動かしておかなければならない状況にある。 

 

「オーブのアスハ――」

 

 実戦を潜り抜けた機体の補修と整備で慌ただしい格納庫の中で、無重力を利用して漂っていたシン・アスカは数時間前の記憶を思い出していた。

 

「なんで今更」

 

 言葉の意味を自分で理解していない。苦々しい表情のまま漂っていると緑色のザクウォーリアの近くへと辿り着いてしまう。

 

「シン」

 

 アスハが乗っていた(・・・・・・・・・)ザクウォーリアを視界に入れたことで余計にオーブの印象を胸に刻み付けられていたところで、遠くから呼ばれた自分の名前に声の方向を見れば自分と同じ赤を着たルナマリア・ホークがキャットウォークを蹴ってこちらに向かって来る。

 無重力空間で手助けするのはお互い様。自分に用があるらしいルナマリアが伸ばした手を掴み、ザクウォーリアに足を付けて行き過ぎないように注意する。

 

「ありがと」

 

 無重力下の移動での手助けは宇宙乗りの常識であるが礼を忘れてはいけない。礼を述べたルナマリアのスカートが移動に合わせてシンのズボンを掠った。

 ルナマリアのスカートは極ミニで、20m近いザクウォーリアの胸元付近に漂っていれば下から下着が丸見えである。美人で快活なルナマリアはアカデミー時代から人気があり、下部で作業をしていたヨウラン・ケントとヴィーノ・デュプレが覗き込もうと動いていた。

 

「スカート、短すぎないか? 下から丸見えだぞ」

「平気平気、見せパンだから」

「あ、そう」

 

 善意で言ったがルナマリアも対策はしっかりとしていたらしい。会話が聞こえたらしいヨウランとヴィーノは見せパンでも見るべきかと煩悶している間に、サボるなとマッド・エイブスに頭を叩かれている姿をシンは視界から外す。

 ルナマリアも見せパンを履いているとはいえ、下から覗かれて良い気分になるものでもないのでザクウォーリアに背を預けつつ口を開く。

 

「艦長が早くアンノウンモビルスーツの報告書を出せってさ」

「げっ」

 

 ギルバート・デュランダルが議長就任後に独立国家となり、ザフトも軍の形態を整えることになって階級制度が導入された。それに伴って書類仕事は増えており、より報告書が重要視されている。

 戦闘における大抵のデータはモビルスーツから抽出されるが、GN粒子・Nジャマー・ミノフスキー粒子によって機械のデータも確実性は高くない。実際に戦闘の場にいたパイロットの所感も重要なのである。

 性格的に事務仕事を苦手としている上に、感覚を言語化することは面倒この上ない。苦手としている作業だけにシンはアカデミー時代から良くルナマリアに助けてもらっていた。

 

「手伝ってくれたりは」

「しないわよ。これからこういうことは増えていくのに、毎度毎度手伝ってもらえるとは思わないことね」

 

 姉御肌なルナマリアは頼めば手伝ってくれるが本人の為にならないと判断すれば突き放すこともする。書類仕事に慣れなければ苦しい思いをするのはシンの方なのだから。

 

「気が乗らないって感じ?」

 

 図らずとも初陣を乗り越え、襲撃犯を追撃している現状で報告書を書く機会は増えていくことは想像に難くない。直ぐにでも取り掛からなければいけないのに、その場に漂ったままのシンにルナマリアが問いかける。

 

「ああ……」

「オーブのアスハがいるから?」

「…………」

 

 苦虫を噛み潰したような顔でザクウォーリアを見るシンの無言こそが今の彼の心情を物語っていた。

 

「理由、聞いてもいい?」

 

 話したくなければ話さなくても良いと、ルナマリアは問いつつも選択権をシンに預けていた。

 

「なんでそんなこと聞きたがる」

「前に隊長と言い合いをしているのを聞いてから気になって」

 

 シンは舌打ちしたくなる気持ちを必死に抑えた。

 ミネルバに着任後、直属の上司として身上書を見たアスランが不用意に踏み込んできた際に、まだ癒えていない傷を触られたことがあった。無論、アスランに悪意がなかったことはシンも理解していたが心的外傷(トラウマ)を触れられたことで感情を抑えらず、一方的に言葉を叩きつけたところをルナマリアに見られていたようだ。

 一度目を瞑って、また開く。

 

「前の大戦の時、俺の家族はアスハに殺された」

 

 話す気になったのは、軍人として感情を制御できない己が不意にアスハと会った時に爆発しかねない恐れを回避する為、という言い訳を内心で重ねたから。

 

「国を信じて、アスハの理想を信じて、流れ弾に巻き込まれて死んだんだ」

 

 オノゴロ島に住んでいたシンの一家は避難勧告に従い、戦場から離れていたところで妹のマユが携帯電話を落としてしまい、シンが拾いに行った時に流れ弾が当たった。

 世界が回り、気が付いた時には家族はみんな死んでいた。

 両親は遺体の班別すら出来ず、妹は焼け焦げた衣服の残骸を纏わりつかせてねじくれた形で再会することとなった。

 

「だから俺はもうオーブなんて国は信じない。アイツらの言う理想も信じない。オーブの正義を貫くって綺麗事だけを並べて自己満足して……」

 

 自分達の言葉で誰が死ぬことになるのか考えたのか、ときっとシンはアスハに会って言える機会が口に出してしまうだろう。

 

「あ、うん、まあ、大体分かったわ」

 

 一通りの話を聞いたルナマリアは顎に手を当てて何かを考えている。

 

「こういう言い方は良くないんだろうけど、私はオーブが理念を突き通してくれて有難いと思ってる」

「なに?」

「怒んないでよ。ちゃんと最後まで聞いて」

 

 その言葉だけは看過出来ないと目尻を吊り上げたシンを押し留めるルナマリア。

 

「二年前のヤキン・ドゥーエ戦役も地球連邦っていっても、実質は大西洋連邦単独だったんじゃない。それでも結構危なかったのに、もしそこにオーブが加わって本土決戦になったりしたら私達死んでたかもしれないんだよ」

 

 大西洋連邦の圧力に屈してオーブが連邦入りしていればコーディネーターはプラントに渡るしかない。当時の地球連邦は核爆弾を使うことに何の躊躇いもなかっただろうからプラントが破壊され、オーブを追い出されたシン達全員が死ぬ未来もあったかもしれない。

 

「勿論、これはあくまで可能性。でも、今後はそうなってもおかしくはないわ。ティターンズがしてることはシンも知ってるでしょ」

「一度は独立した国を連邦に再加入してるって話だろ」

 

 ヤキン・ドゥーエ戦役後、成立したティターンズの強権振りは停戦状態にあるだけで敵国であることは変わらないプラントで大々的に報道されていた。国軍化したザフトでどこが再加入したという話は良く流れてくるのでシンも知っていた。

 

「そうそう。オーブだって何時そうなるか分からないわ」

「オーブは中立国だ。なにより前の大戦で国土を焼いてまで理念を貫き通したんだ。今回だって」

「あの代表に前の代表ほどの力はないんじゃない? 私達とそう年は変わんないのよ」

 

 護衛らしき男に伴われてザクウォーリアから出て来た今の代表の姿を思い出す。同時にその父である前代表首長の厳つい顔に決意を滲ませた『他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない』という言葉も。

 シンは愕然とした。憎いはずの男の、ウズミ・ナラ・アスハの言葉をこうも鮮明に思い出せる自分に。

 

「前大戦で国が焼かれるのを見てるから、シンが言う理念よりも優先することは十分に考えられない?」

「だけど、でも、オーブは」

 

 嘗てオーブ国民であったシンだからこそ容易に受け入れられるものではなかった。

 抗弁しようとして言葉になっていない様子のシンをルナマリアは不思議そうに見つめていたが、やがて口を開いて言った。

 

「シンってさ、口で言うほどオーブのこと嫌ってないわよね」

 

 シンは何も言い返せなかった。

 

「私としてはさ、数少ないプラントの友好国でコーディネーターを受け入れてくれるオーブには今のままでいてほしいわけよ。だ・か・ら、代表に余計なこと言わないでよ」

「…………言わないよ」

 

 どちらにせよ、今は顔を合わせられる心境で無くなった様子にルナマリアは話題の転換を図ることにした。

 

「あ、そういえば代表と一緒にザクに乗っていた護衛の人と話しした?」

「え? まあ、ちょっとは」

「やっぱりあのキラ(・・)なの?」

「は?」

「アレックスって名乗ってたけど、隊長がその前にキラって呼んでたじゃない。あのキラなのかなって」

 

 ルナマリアが何を言いたいのか分からなかったシンだったが、アスランの名前が出て来て彼の経歴に関わるある人物のことだと考えた。

 

「キラって隊長が前の大戦の時に討ったストライクのパイロットのことか?」

 

 ナチュラルでありながらコーディネーターと互角以上に戦い、幾人ものザフトのエースパイロットを屠り、最後はアスランが打ち取ったという伝説のパイロット。

 

「それはキラ・ヤマト(・・・)。私が言ってるのは歌姫の騎士団のエースだったキラ・ヒビキ(・・・)のことよ」

「ああ」

「しっかりしてよ。ストライクのパイロットが生きてるわけないじゃない」

「名前が似てるのが悪い」

 

 ミネルバ配属後にアスランにモビルスーツシュミレーターで負けた後に、勝ち筋を探す為に彼の経歴で当時乗っていた機体を放棄させたほどの相手で印象に残っていただけ。ルナマリアの言うことも最もなのだがシンは意地を張った。

 

「まあ、それだけの人ならあれだけ凄いのも納得出来る。でも、なんでそんな人がオーブに」

「今、ラクス・クラインはオーブに居るらしいって噂もあるし、代表とは前大戦で繋がりがあるからその縁とか?」

 

 一兵卒には与り知れない事情があるのだろうなと、有名な人物に対してミーハーなところがあるルナマリアと違ってシンには詮索する気にはなれなかった。

 

「キラ・ヒビキ、か」

 

 ただ、アスランと既知があるらしいキラには不思議と惹かれるものを感じて名を呟いた直後だった。

 

『敵艦捕捉、距離8000、コンディションレッド発令。パイロットは搭乗機にて待機せよ』

「最終チェック急げ!始まるぞ!」

 

 艦内に鳴り響くルナマリアの妹であるメイリン・ホークの放送を聞いたエイブスの怒声の後、一気に格納庫が慌ただしく動き出す。

 

「だってさ。行くわよ、シン」

 

 ルナマリアに手を取られてザクウォーリアを蹴って移動する。

 

「ああ…………ありがとう、ルナ」

「貸し一にしといたげる。後、礼ならあっちにも言いなさいよ」

 

 キャットウォークに到着すると、ルナマリアが指差した先に同じ赤を着たレイ・ザ・バレルが立っていた。

 

「レイ、その」

 

 ルナマリアが来たのはレイの差し金と理解したシンだったが、素直ではないので言葉に詰まってしまう。

 まごついているシンを見るレイは何時もの調子で踵を返す。

 

「お前は直情的過ぎる。良いところでもあるが問題を起こして議長の手を煩わせるなよ」

 

 後を追ったシンはレイの言い様に思わずムッとする。

 

「馬鹿にしてるのか?」

「褒めているつもりだが?」

「はいはい、喧嘩しない。コンディションレッドが出てるんだから急ぐわよ」

 

 バン、と背中を叩いてくるルナマリアに「痛ぇな」と返しつつも、シンの唇は笑みの形を浮かべていることを本人だけが気づいていなかった。

 シン達がパイロットスーツに着替えている頃、 敵を補足したミネルバのブリッジは喧騒の真っ只中にあった。 

 

「向こうも、よもやデブリの中に入ろうとはしないでしょうけど危険な宙域での戦闘になるわ。操艦頼むわよ」

「はッ!」

「各機準備は終わってるわね。アスラン、ルナマリア、ショーンが先行を。シン、レイ、デイルは艦の直掩を。インパルスはブラストで出しなさい」

「目標まで6500」

「いいかな、艦長」

 

 戦闘直前であるからこそ新たな者が入室するのはありえないことで、それがまさか所属している国の最高権力者と他国の要人となれば艦長であるタリア・グラディスでなくとも目を剥くというもの。

 

「私はオーブの方々にもブリッジに入って頂きたいと思うのだが」

「いえ、それは――」

 

 最新鋭艦のブリッジは軍事機密の塊。他の誰かの申し出なら艦長権限で一切の容赦なく追い出すが、当の国の最高責任者が申し出てはタリアでも即座に拒否出来ずに言い淀む。

 

「君も知っての通り、代表は先の大戦で艦の指揮も執り、数多くの戦闘を経験されてきた方だ。そうした視点からこの艦の戦いを見て頂こうと思ってね」

「…………解りました。議長がそうお望みなのでしたら」

「ありがとう、タリア」

 

 軍事的な観点を持ち出されては拒否など出来るはずもなく、職名ではなく名前で呼んだことを咎めるように睨むしかタリアには出来ない。

 何かあっても責任はデュランダルが取るのだから、今は自分にすべきことを為すだけと前に向き直る。

 

「目標まで6000」

「ブリッジ遮蔽! 対艦対モビルスーツ戦闘用意」

「ルナマリア・ホーク、ザクウォーリア発進スタンバイ。全システムオンライン。発進シークエンスを開始します」

「目標、針路そのまま、距離4700」

「セイバー発進スタンバイ。全システムオンライン。発進シークエンスを開始します」

「ザク、セイバー発進!」

「ガナーザクウォーリア、カタパルトエンゲージ」

「続いて、セイバー、どうぞ」

 

 次々と艦載機が発進していくのを眺めていたデュランダルがポツリと呟く。

 

「ボギーワンか…………本当の名前は何というのだろうね。あの艦の」

 

 声が飛び交う中でデュランダルの言葉は不思議と通った。彼の近くの席に座るカガリやキラのみならず、これからの作戦に思考を巡らせていたタリアですらはっきりと聞き取る。

 

「名はその存在を示すものだ。ならばもし、それが偽りだったとしたら、それはその存在そのものも偽り、ということになるのかな」

 

 意味ありげにキラを見るデュランダル。

 

「アレックス――――いや、キラ・ヒビキ君」

「議長、それは……」

 

 その名が示す意味をタリアが呑み込むよりも先にカガリが立ち上がって何かを言おうとするも、デュランダルは全て分かっていると手を上げて先の言葉を止める。

 

「御心配には及びませんよ、アスハ代表。私は何も彼を咎めようと言うのじゃない。全ては私も承知済みです。カナーバ前議長が彼等に執った措置のこともね。ただどうせ話すなら、本当の君と話しがしたいのだよ、キラ君」

 

 一度言葉を区切るデュランダル。

 

「それだけのことだ」

 

 絶対にそれだけではないとタリアは感じ取っていた。

 ベッドを共にした相手だからというわけではなく、明らかに意味ありげな話し方をしていれば誰もが同じことを思うだろう。現にキラもカガリもデュランダルの真意を読み取ろうとしている。

 

「セイバー、ボギーワンまで1400」

 

 タリアには思考に耽る時間は与えられなかった。作戦は遂行中である。

 顔も意識も遂行中の作戦へと切り替えなければならない。

 

「未だ針路も変えないのか?どういうことだ?」

「何か作戦でも!?」

「はッ、しまった!」

 

 既に敵の作戦の術中に嵌っていると気づいても遅かった。

 

「うッ! やはりこちらは囮か!?」

「ショーン!!」

 

 三機で編隊を組んでいた内のザクウォーリアが突如として爆散する。

 センサー内で接近しても何の動きも見せなかったボギーワンに疑念を抱き、罠を疑ったところで突如として消えたシグナルに気を取られたアスラン。ショーン機のザクウォーリアが爆散するその一瞬前に奔ったビームに気づきながらも対処が遅れた。

 

「ルナマリア、ボギーワンの反応が消えた。奴らの狙いはミネルバだ。ここは俺に任せてミネルバに戻れ!」

「行かせねぇよ、赤いザク!」

 

 仲間の戦死に悲しんでいる暇も無く、指示に従いルナマリアの赤いザクウォーリアが転進しようとしたところで再びビームが奔る。

 

「あぐっ!?」

 

 真上からシールドの無い右肩に着弾。機体バランスを崩したザクウォーリアの左手を持ってセイバーが移動する。

 直後、ザクウォーリアがいた場所を数条のビームが通過する。

 

「くっ、ドラグーン系を使うアイツか」

 

 セカンドステージであるセイバーに乗るアスランには同じセカンドステージのカオスとの戦闘訓練の経験がある。ショーン機を撃墜し、ルナマリア機を襲ったのがカオスが有する兵装ボッドを無線誘導(ドラグーン)システムと同タイプ、もしくは同系統と看破する。

 

「白いのがいないが、お前の方が食いでがありそうだ。精々、遊んでくれや」

 

 アリー・アル・サーシェスはデブリの中に潜みながらアルケーガンダムのGNファングで狩り場に迷い込んだ哀れな獲物を絶対的優位な立場で狩り立てる。

 

「やりぃ! 一機落としてやったぜ!」

 

 ミネルバから発進した直後の緑のザクウォーリアが、待ち構えていたアビスガンダムのカリドゥス複相ビーム砲の直撃を食らって爆散する。

 

「隙晒してた雑魚を落とした程度で気を抜くなよ、アウル」

「分かってるよ。サーシェスが敵を引きつけてる間にもう一機ぐらい落として見せるさ!」

「デイルが……!」

 

 発進直後を狙われて落とされたデイルに気を取られたシンのインパルスにガイアが迫る。

 

「落とす!」

「ガイア、くそっ!」

「何なのよ! あんたはまた!」

 

 仲間の死に硬直していたとは思えない反応で斬り返してきたインパルスに弾き飛ばされるガイア。その横をカオスが通り過ぎて追撃を仕掛けようとしたインパルスを牽制する。

 

「回り込め、アウル!今度こそ首貰おうぜ!」

「僕は別に要らないけど!」

「くっそー、ミネルバが!」

 

 3機の相手をしている間にも敵艦より攻撃を加えられる母艦(ミネルバ)にシンの意識が向く。

 通常三機編成のところを既に1機を落とされ、残った僚機(シン)は戦闘中にも関わらず注意散漫。白いパーソナルカラーで染められたブレイズザクファントムを操るレイ・ザ・バレルはこの編隊の隊長としてシンの援護を続ける。

 

「シン、奴らは手強い。他に気を取られたら死ぬぞ!」

「分かってる!」

 

 ようやく目の前の戦闘に集中しだしたシンに安堵しながらも、レイ自身もミネルバにはデュランダルがいることから焦りを感じていた。

 

「ナイトハルト、撃てぇ!」

「奪ったばかりの機体を直ぐに実践投入してくるなんて……………後ろを取られたままじゃどうにも出来ないわ!回り込めないの?」

「無理です!回避だけで今は……!」

 

 背後から一方的に攻撃を受け続けるミネルバは反撃する余裕もなく小惑星を壁にして全速力で逃げ続けていた。

 

「ミサイル接近!数6!」

「迎撃!」

「でも、これは」

 

 反射的にミサイルの迎撃を命じたタリア。直撃コースではないことに副長のアーサー・トラインが気づくもそこまでだった。

 

「っ?!」

 

 迎撃を逃れたミサイルがミネルバが身を寄せている小惑星に次々と着弾し、破片を撒き散らした。

 間近にいたミネルバの船体に次々と破片が突き刺さり、ミサイル着弾の衝撃と合わさって艦体を大きく揺るがす。

 

「右舷が、艦長!」

「離脱する!上げ舵15!」

 

 小惑星側の右舷のダメージを気にするアーサーを無視してタリアは敵の作戦の巧妙さを悟り、この程度で留まるはずがないと次の指示を出す。

 

「更に第二波接近!」

「減速20!」

「4番、6番スラスター破損!艦長!これでは身動きが!」

「針路塞がれます!」

「更にモビルスーツが接近!」

 

 ミサイルの第二波は前方に着弾し、次の衝撃がミネルバを襲うも敵の手はまだ止まっていない。

 再度のミサイルの着弾で岩塊が乱舞する空域では艦による攻撃は難しいと事前に読み、小回りの利くモビルスーツで確実に仕留めに来た。 

 こちらの思考を読み切って作戦を立案した指揮官に感嘆や悔しさを覚えている暇などない。艦を動かせる状況にない以上、迫り来るモビルスーツに対処するにはこちらもモビルスーツに行わせるしかない。

 

「アスラン達は、まだ戻れないの?」

「ショーン機がシグナルロスト、向こうも交戦中の模様です」

「シン達は?」

「依然、カオス、ガイア、アビスと交戦中」

 

 打つ手がなくタリアは拳を強く握りしめることしか出来ない。

 そんな彼女の様子を見たデュランダルが声を上げる。

 

「この艦にもうモビルスーツは無いのか!」

「パイロットが居ません!」

 

 言い返したところで、はたとタリアは気付いた。モビルスーツはある、キラとカガリが乗ってきたザクウォーリアが。

 タリアが咄嗟に視線を向けるとキラは瞼を閉じている。

 キラが再び瞼を開いた時、既に覚悟は定まっていた。

 

「議長」

「どうしたのかねキラ、いや、アレックス君」

「き、アレックス!」

 

 立ち上がったキラを待ち構えていたかのように見るデュランダル。何を言おうとしているのか察したカガリが止めようとするのを手で押し留めたキラはデュランダルを見る。

 

「無理を承知でお願いします。私にモビルスーツをお貸し下さい」

「確かに無理な話ね。他国の人間である貴方に、そんな許可が出せると思って? カナーバ前議長の折角の計らいを無駄にしたいの?」

「解っています。でも、この状況をただ見ていることなど出来ません。使える機体があるならどうか」

 

 一民間人としていた方が良いと温情を見せるタリアに対して、カガリを守らなければならないキラも引けない。

 そんな二人のやり取りを眺めていたデュランダルが一瞬だけ笑った。

 

「いいだろう。私が許可しよう。議長権限の特例として」

「議長!?」

「歌姫の騎士団のエースが手を貸してくれると言ってくれているんだ。溺れる者は藁をもつかむと言う。生きるか死ぬかの瀬戸際で溺れる我らが掴む藁を選んでいる余裕はないのではないかな、艦長」

「…………分かりました」

 

 笑みなど最初から無かったかのように選択を迫り、今この場で取れる最善の手であることを認めざるをえないタリアの方が折れた。

 生粋のザフト軍人であるアーサーからしてみれば容認できる選択ではない。

 

「艦長、他国の人間の力を借りるなど! タンホイザーで前方の岩塊を破壊すれば」

「吹き飛ばしても、それでまた岩肌を抉って同じ量の岩塊を撒き散らすだけよ。藁がある内に掴まないとみんな死ぬだけよ。お願いできるかしら?」

「ありがとうございます」

 

 論破されたアーサーは悔し気に引き下がるしかない。

 ブリッジを出て行ったキラをカガリとデュランダルが全く異なる色の目で見送るのだった。

 

「さて、トドメだ」

 

 ミネルバでボギーワンと呼称されているガーティー・ルーの艦長席に座るイアン・リーは、自身と上官であるサーシェスが立てた作戦通りに事を進め、後は詰めの一手を打つ段階へと進める。

 

「岩塊に邪魔されて直撃は期待できませんが……」

「追撃不能にまでに追い込めばいい。大佐は面白くないかもしれんが、こちらは目的(新型MSの奪取)を終えているのだ。余計な手傷を負う必要はない」

「ミラー機被弾!」

「なに? 敵艦にはまだモビルスーツがいたのか?」

 

 後一手というところでの報告にイアンは眉を顰める。

 まさかデブリにぶつかったり、手負いの戦艦にやられると思うほど秘匿部隊に配属されたパイロットの腕を舐めてはいない。となれば敵にはまだ手札が残っていたと考えるのが自然。

 

「敵艦より高熱源体が本艦に向かって急速に近づいています。数は1」

「ミサイルか?」

「この動きはモビルスーツですが」

 

 イアンの推測を裏付ける報告が上がり、モニターを見ていた船員はあり得ないと物を見たとばかりに言い淀む。

 

「デブリの中をありえない速度で進んで来ています!」

「ジョーン機に対処させろ! 後、カオスを呼び戻せ! 敵は恐らく手練れだぞ!」

 

 これほどのことが出来るならば凄腕に違いないとイアンの判断は早かった。即座に指揮が伝達され、たった1機で囮役をしているアルケーガンダムを除けば最も足の早いカオスのシグナルが動き始めた。

 直後、ガーティー・ルーの船体が爆発に揺れる。

 

「第二砲塔大破!」

「今のはモビルスーツクラスのビームだぞ! このデブリの中で狙撃をしてきたというのか?」

 

 移動しながら目標に命中させるのが難しいことはイアンにも分かる。それがデブリの中を高速で移動しながらとなればどれほどの技術が必要になるかなど、モビルスーツパイロットではない者でさえ異常だと感じた。

 

「ジョーン機被弾!」

「速すぎるぞ、ジョーン!? 回避ーッ!取り舵いっぱい!」

「外した? 判断が早い。優秀な指揮官だ。出来れば撃沈はしたくなかったけど」

 

 緑のザクウォーリアの時間もないのでパイロットスーツ無しで乗り込んだキラは二機目の105ダガーと交錯した瞬間にメインカメラと武装を破壊。後顧の憂いなくボギーワンを狙った第二射目が艦体に掠りもしなかったことを確認して、すぐさま気持ちを切り替える。

 第三射目に入ろうとしたところで不意に肌が粟立つような感覚を覚えて、衝動に突き動かされるままに機体を急旋回させた。寸前までザクウォーリアがいた空間を左右からビームが貫く。

 ビームの発生源である緑の兵装ボッドを確認したところで、ザクウォーリアに更なる回避行動を取らせる。

 

「またお前か、緑のザク!」

 

 尚も狙って来る兵装ポッドをビーム突撃銃で狙おうとしたところで、デブリの影から現れたカオスがモビルアーマー形態のまま爪先のクローから出力されるビームクローで襲い掛かって来た。

 

「緑のガンダム。こっちに来たのか」

 

 兵装ボッドへの攻撃を中断して、ビームクローを肩部シールドで受け止めてわざと弾かれる。

 吹き飛ばされた先のデブリを蹴って方向転換して、追撃を仕掛けて来た兵装ボッドから距離を取る。

 

「くっそー! あの不意打ちで何で落とせないんだよアレは!」

「ドラグーンシステム、上手く使ってるけどあの人(・・・)には遠く及ばない」

 

 ザクウォーリアは兵装ボッドの追撃をデブリを蹴ることで巧みに方向転換を繰り返すことで躱している。時にはわざとデブリを蹴って兵装ボッドの進路を阻み、射かけられたビームは岩塊しか捉えることが出来ていない。

 

「ちっ、敵ながら上手い奴だぜ。デブリを利用しやがる。こういう場所ならガイアの方が適任だってのに」

 

 エネルギーの補充の為に一度兵装ボッドを戻そうとしたところでザクウォリアーが方向転換。デブリを利用する移動方法で瞬く間に距離を詰めて来る。

 カオスもビームライフルで狙おうとするが無数の岩塊を縫ってジグザクに駆けて来る敵機を狙うのは容易ではない。

 攻防の間にザクウォーリアがデブリを蹴って一気に距離を詰め、懐に飛び入った。

 

「おっとォッ!?」

 

 カオスは頭部バルカンを放ったが、その前にザクの蹴りが胴体を捉えていた。

 物理耐性のあるヴァリアブルフェイズシフト装甲のお蔭で機体に大したダメージはないが、蹴り飛ばされた先の岩塊に背中から叩きつけられ、中にいるスティングはコクピットを襲う二重の衝撃に歯を食い縛って耐える。

 その間、機体は無防備状態。

 気が付いた時には目の前に迫ったビームトマホーク。

 

「しまっ――」

 

 スティングが死を覚悟する暇もないまま、後少しというところで何故かザクウォーリアは引いた。

 

「なん、だ?」

 

 直後、先程までザクウォーリアのいた場所を通過するビーム。

 同時にコックピット内に味方機の接近を知らせるアラームが鳴っていることに気が付いた。

 

「ガルバルディにマラサイ、味方か」

 

 戦場に突如として現れた見慣れないモビルスーツ達は二つのグループに別れており、時折戦闘をしながらこちらへと近づいてきたのでシンはカオスが抜けてから優勢に進めていた戦闘を中断してガイア・アビスから距離を取る。 

 レイも珍しく戸惑うように戦場の中で敵を決められずにいた。

 

「敵の援軍か?」

「いや、あれは」

 

 二つのグループが戦闘を行っている最中、一際目立つ白い機体がシンの視界に入る。

 

「――――ガンダム」

 

 ガーティー・ルーのいる方向から上がった三色の信号弾が上がったのをサーシェスも確認した。

 

「あん? 帰還信号だと。イアンの奴、何を勝手に――」

 

 楽しんでいたところを邪魔されて不愉快気だったサーシェスは同時に届いたレーザー通信による文章に目を通した途端、口端が目に見えて上げる。

 

「へぇ、そういうことかい。こりゃあ面白くなりそうだ」

 

 邪魔をされたのを帳消しにするに余りある内容に鼻を鳴らし、最後に獲物だったセイバーと赤いザクウォーリアを見てアルケーガンダムを転進させる。

 

「じゃあな、赤いの。また遊ぼうぜ」

「退いた? いや、退いてくれた、か」

 

 去っていく赤いGN粒子と攻撃が止んだことから敵の撤退を確認したアスランが重い息を溜息を漏らし、掴んだままのルナマリアのザクウォーリアに目を移す。

 

「大丈夫か、ルナマリア?」

「ええ、なんとか。すみません、足止め纏いにしかなりませんでした。でも、なんで退いてくれたんですかね」

「待て、ミネルバからレーザー通信が入ってる」

 

 通信を読んだアスランは目を剥いた。

 

「――――ユニウスセブンが動いてるだって!?」

 

 

 

 

 




既にザフトが軍体制になっているので、ルナマリア辺りがシンを牽制的な感じで。

そしてここでエゥーゴ組とティターンズ組が登場。
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