ユニウスセブンの破片破砕の為、大気圏突入を行い太平洋に着水していたミネルバの士官室で椅子に座る艦長タリア・グラディスは背後に立つアスラン・ザラを従えて二人の男と向かい合っていた。
「我らを受け入れて下さり感謝する、グラディス艦長」
タリアと向かい合うように椅子に座るアーガマのモビルスーツ隊長というクワトロ・バジーナ大尉と名乗った男。ブライト・ノアとギルバート・デュランダルの通信に立ち会っていたタリアは彼の声に内心で驚いていた。
(ブライト艦長が言ってた通り、耳元で囁かれたら区別がつかないぐらい議長と声がそっくりだわ)
話すリズムまで似ているものだから、ふとすればデュランダルと話している気分になる。
努めて別人と自分に言い聞かせてクワトロを見据える。
「礼を言わねばならないのはこちらの方です。帰還できなくなったうちのモビルスーツを助けてくれたのです。これぐらいのことは」
「ありがとうございました、クワトロ大尉」
当の帰還できなくなったモビルスーツに乗っていたアスランが礼を述べる。
黙礼するアスランを、クワトロの後ろに立つアポリー・ベイが静かに見守っていた。
「では、お互い様ということにしておこう。貸しや借りに拘っていては良好な関係は築けまい」
「ありがたい言葉です。プラントとしても、今後ともエゥーゴとは仲良くしていきたいものです」
「こちらもだ」
話を先に進める為、ブリッジで得たデータを纏めた端末をクワトロの前に差し出す。
端末を受け取ったクワトロが表示されたデータに目を通しているようだが、黒いサングラスをしているので視線は追えない。
「破片落下の影響で粉塵濃度が高すぎて電波状態が悪く、我らもジブラルタルやカーペンタリアと連絡が取れていない状況です。アスハ代表のご好意で我らはオーブに向かうつもりですが、エゥーゴの方々もご一緒されますか?」
一通りデータに目を通したのか、クワトロが端末を二人の間のテーブルに置く。
「有難い申し出ですが、大気圏突入が避けられぬとなった時にアーガマより地球上で反地球連邦活動を行っているカラバに救援を求めています」
「カラバ、ですか?」
「エゥーゴの支援組織です。まるで中世の秘密結社のような名前でしょう」
クツクツと笑うクワトロに対してタリアは表情の選択に困ってしまう。
冗談が通じなかったクワトロはコホンと咳払いをして誤魔化す。自分は面白かったですよ、とアポリーが思ったかどうかは定かではない。
「落下予測地点を伝えているので、そう遠くない内に迎えが来るはずです。ミネルバが直ぐに動かれるのでしたら、我々は艦を離れなければなりませんが」
「艦のチェックと各部の応急処置を行うので今暫くは留まることになります」
「終わるまでには迎えが来てほしいものだな」
迎えが間に合うかどうかは分からない以上、今のクワトロ達にはどうしようも出来ない。間に合わなかった場合のことを考えたくなくて、話題を切り替えようと考えたクワトロの脳裏を過ったのはユニウスセブンで聞いた声。
「ところで、この艦にはオーブの代表が乗っているとのことだが」
クワトロの問いにタリアは怪訝そうな表情を浮かべる。
「はい、今は護衛の方と共に休んでおられます」
「そうか、可能ならば話をしてみたかったのだが」
「話、ですか?」
「ユニウスセブンであれだけのことを言ってみせたのだ。どのような人物なのか少し興味を持った。無論、指導者としての人柄に興味を持ったのだぞ」
何故か慌てた様子のクワトロをタリアが疑わし気に見る。
(やけに念を押すけど、そんなに代表に興味があるのかしら?)
(大佐、その言い方は誤解を招きますぞ)
内心でアポリーは昔の階級でクワトロを呼んでしまった。
(む、しかし、大佐にはロリコン疑惑の噂があるとも聞く。誤解、ではないのか?)
(クワトロ大尉って20代後半ぐらいよね。代表が確か20代前だったから10歳差ぐらい? 今ではこれが普通なのかしら。いやね、こういうことで年を実感するなんて)
アポリーとタリアが内心で様々な考えを巡らせていると、タリアの背後で控えているだけだったアスランが物凄い眼光でクワトロを睨み付けていた。
(って、怖っ!? 今にも銃を向けそうな顔をしてやがる。コーディネーター相手に護衛などと、ロベルトと代わっておけばよかった。い、胃がやられる……)
アスランと戦ったら即殺される。気付いた様子もなく言葉を重ねるクワトロに胃がシクシクと痛み始めたアポリーだった。
一夜を越しても尚、空は鉛色のままで海面もまるで夕暮れのようにぼんやりと薄暗い。破片が衝突した衝撃で舞い上がった大量の粉塵が青い空を分厚く覆っているのだ。
損傷したモビルスーツの修復に忙しい整備班と違って今は特にやることがないパイロットのシン・アスカとルナマリア・ホークはザクウォーリアと共に並ぶエゥーゴのモビルスーツを眺めていた。
「連邦の機体とうちの機体が並んでドッグにいるなんて変な感じ」
「非常事態だし、しょうがないだろ」
「分かってはいるんだけどね……」
ミネルバはザフト軍艦なので
一通りの作業を終えたヨウランとヴィーノも二人と並んでモビルスーツを見る。
「しかし、ガンダムMk-Ⅱか。インパルスと違ってシンプルなんだな」
同じガンダムタイプに乗る者としてバックパックを有していないガンダムMk-Ⅱを見上げながらのシンの疑問に、自他共に認めるモビルスーツオタクのヨウランが深く頷く。
「原点回帰を目指して、初代ガンダムの後継機として開発されたからだろう。インパルスみたいにオプションパーツとかないから整備する側からしたら助かるし」
「インパルスは汎用性は高いけど合体機構の所為で機体構造が複雑だから整備性が悪いし、ザクとかと比べてもパイロットに要求する部分も多いんだろ?」
「確かにザクよりもインパルスの方が遥かに面倒だった」
ヨウランの後に続いたヴィーノの言葉にシンも思い当たる節があった。
「でも、地球連邦にもストライカーパックがあるのに、なんで使わなかったんだろう」
前大戦で驚異的な働きを見せたGAT-X105ストライクガンダムに搭載されたシステムは、その汎用性の高さから名を代えて現在のザフトの主流になるほど画期的だったはずで、にも拘らずガンダムMk-Ⅱには搭載されていない。それは今、ミネルバにいる他のエゥーゴの機体も同様だった。
「RX-78にはストライカーシステムがないからとか?」
「え、それだけの理由なの?」
あっさりと答えたヨウランにルナマリアが怪訝な面持ちで問う。
「単純に必要なかったのか。ザフトと地球連邦だと物量とか人材が違うから、パイロットの質の問題もあるんだろうけど、一機でより多くのことを担わせるザフトと違って地球連邦にはそこまで拘る必要が無かったのかも」
「インパルスがユニウス条約を避ける為に戦闘機扱いだもんね」
ユニウス条約でMS、MA、宇宙戦艦の数は人口、GDP、失業率等のパラメーターにより算出される。
どうしたってザフトの方が絶対数が少なくなってしまうから一機に多くをやらせようとする。反対に物資、人材共に潤沢な地球連邦は質で劣るのならば数で補えばいいという理論は十八番である。
「あっちのリック・ディアスだっけにもストライカーパックないし、ザフトが兵装換装システムを使って開発元の連邦が使わなくなるなんて皮肉よね」
「こっちはジオン系だろ。連邦の技術を使うのが嫌だったとかじゃないの」
「運用しているのは連邦のエゥーゴだぜ。んなわけないだろ」
「やっぱりザフトが積極的に使ってるから連邦は使わないようにしてるとか」
「さあ」
地球連邦の内情はザフトの者達には分からないという結論に至る。
「実際、
「単純な性能ならばザフトが上だ」
「レイ」
ブリッジに行くと言っていたレイ・ザ・バレルが片手に端末を持ちながら現れ、シン達と共にいたヨウランとヴィーノを見る。
「ヨウラン、ヴィーノ。さっき向こうでお前達の名前が呼ばれていたぞ」
「やべっ!?」
「げっ、休憩時間終わってんじゃん!」
慌てて走って行った二人がマッド・エイブスに怒鳴られながら頭を叩かれている姿から視線を外し、レイがシンとルナマリアに並ぶ。
「レイ、解析は終わったんでしょ。で、結果は?」
レイがブリッジに向かったのは先の戦闘で収集された各勢力のモビルスーツのデータの速報を受け取りに行く為。その目的を果たしたのならばモビルスーツパイロットとしては気になっていたルナマリアが催促する。
「ああ、リック・ディアスやガンダムMk-Ⅱの性能はザクウォーリアとほぼ差はない。が、戦術評価値ではエゥーゴの面々の方が高い」
「モビルスーツの性能はザフトの方が上だけど、パイロットの腕はエゥーゴの方が上ってわけ?」
「結果はそう示している。例外は隊長と、あのオーブの護衛だけだ」
「…………流石は前大戦の英雄達と言った方が良いのかしら」
「この場合は俺達が不甲斐ないという言うべきだろう」
「言うわねぇ」
「だが、事実だ。受け止めなければならない」
プライドが傷つけられたと言わんばかりに不満そうなルナマリアも押し黙る。
ルナマリアほど赤服を着ていることに拘りのないシンは上とか下とか、上下をつけることに微かながらも不快感を覚えていた。
「共闘したのに、勝手にデータ解析ってなんか気分悪いな」
「いずれどれかと相まみえる時が来るかもしれない。備えはしておくべきだ」
エゥーゴも地球連邦なのだからザフトにとっては警戒が必要とはシンも認めている。だが、一度は背中を預けた相手を敵視することは出来ればしたくなかった。
「一時の共闘が今後も続くとは限らない。エゥーゴも地球連邦であることに変わりない。何時、敵となるか」
「敵……」
敵という言葉に初めて疑問を覚えるシンの耳に、ユニウスセブンでゲイツRの自爆に巻き込まれて意識が朦朧としている中で聞いたアスランとテロリストの言葉が妙に残っていた。
『過去に囚われたまま戦ったって痛みを広げていくだけだ!』
『だから、戦うな、憎むなと。我らだけに痛みを背負えというか!』
『やり返したって、何も戻りはしない! 何の関係のない者の未来まで殺す気か!』
声を追い出すように頭を振り、エゥーゴのモビルスーツが並んでいる一帯を見る。
「戦うことになるかもしれないのに、艦長たちはなんでミネルバに着艦を認めたんだ? 何時か敵になるなら放っておいた方が良かったはずなのに」
「彼らはミネルバがユニウスセブンの破砕をしているところをその眼で見ている。直ぐに敵には回らないと艦長達は判断したのだろう。彼らを生かして仲間の下へ返すことがプラントの立場を有利に傾ける一助となる」
政治というやつか、とレイの言い様から理解したシンは反射的に吐き捨てたくなったのを堪える。
「ティターンズがあの場にいた以上、コーディネーターがユニウスセブンを落としたと広まるのは避けられない。今後のことを思えば味方は多い方が良い」
「コーディネーターだったからって、ザフトやプラントとは関係ないだろう」
事実、シンは彼らをザフトやプラントの人間とは見なかった。性質の悪いテロリストではあったが理解の出来る面もあった、そんな不思議な
認識の甘いシンにルナマリアが指を突きつける。
「世間的にはコーディネーターとプラントはイコールで結ばれるの。プラントがやったって思われるのは仕方のないことよ。仮にあそこにいたのがダガーとかだったらシンだって地球連邦の関与を疑うでしょ?」
「そうかもしれないけど」
「エゥーゴを見捨てた場合と生かして帰した場合のメリット・デメリットを考えて、可能な限り有効的な関係を築く為にも今回は助ける方になっただけだ。既に政治的な駆け引きが行われている」
皆、世界を敵と味方の二色に分けたがっている。そんな風潮を何故か嫌なものとシンは無自覚に捉えていた。
そんなシン達から離れたキャットウォークからザフトのモビルスーツを眺めているのは、エゥーゴのカミーユ・ビダンとロベルトの二人。離れた所にはザフト兵の監視員が動向を見守ってた。
「ザフトの技術力は凄いですね。特にあのセイバーとインパルスっていうガンダムタイプは隔絶してる」
地球連邦とプラントが友好的な関係でないことはL3のグリーン・オアシスにいカミーユも知っていたので、ザフトの戦艦にいる以上は監視されるのも仕方ないと逆に開き直って気にしないことにしていた。
ロベルトなどは監視だけで拘束されたり行動に制限がない分、マシと思っているのでカミーユの話に付き合っていた。
「流石はコーディネーターとしか言いようがないな。後発なだけザフト製の方が性能が上なのは仕方ないが、同時期のはずの大尉の百式ですら危ういとなると呆れすら覚える」
「昔からプラントの技術は地球連邦の何歩も先を行っていると言われてましたけど、前の大戦の時は大分縮めたはずなのにたった二年でこんなにも差が広まるものなんですか?」
「技術力の差は確かにあるんだろうが、一番の理由はやはり太陽炉にあるだろう」
「ああ、あの緑色の粒子を出す」
「ソレスタルビーイングが保有していたという代物だ。技術の進歩でNジャマーの抑制を超える新型核融合炉が出来始めたという中でザフトが精強を保っていられるのは太陽炉の量産に成功したからだ」
「じゃあ、エゥーゴも太陽炉を量産できればザフトに追いつけると?」
「後追いで越えられるほどプラントは生易しくはない。第一、連邦は新型核融合炉の方に舵を切ってるから可能性としては薄い」
リック・ディアスの開発に関わったロベルトは自らの知見を語りつつ、今も修理が行われている元は赤いガンダムタイプへと視線を移す。
「今ある手札で戦うしかないとしても、あの赤いガンダムとは戦いたくないな。パイロットも凄腕だ。真っ向から戦ったら瞬殺されかねない。ああいう手合いはクワトロ大尉やカミーユに任せる」
「なんですか、それは」
押し付けると言われたに等しい言葉に嫌そうな表情を浮かべるカミーユにロベルトは苦笑する。
「自分の分を知ってるんだよ。ガンダムの相手をするなんておっかなくて仕方ない」
「ガンダム神話なんてオカルトですよ。ナンセンスだ」
「そう馬鹿に出来たことではない」
一年戦争時、今はクワトロ・バジーナを名乗っている
「初代ガンダム、RX78に乗ったアムロ・レイの戦果はいわずもがな。ただのモビルスーツがある種の象徴的な存在になってしまった。ジオンが白い悪魔と恐れ、それを知った地球連邦がガンダムヘッド部隊を作ったり、オーブなんかは量産機のフェイスをガンダムタイプにしたという話もある」
「それってガンダムの顔にあやかっているだけで、勝手に祭り上げているだけじゃないですか」
「馬鹿にしたものじゃない。効果は確かにあったんだからな。その後の南洋同盟の反乱、ソレスタルビーイングの武力介入、デラーズ紛争、ヤキン・ドゥーエ戦役、それぞれでガンダムと名づけられた物の齎した働きは決して無視しえない」
ロベルトはそこまで言って意味ありげにカミーユを見る。
「アムロ・レイの名前も同様にな」
「昔の人の再来だとか、期待を押し付けられる方としては堪ったものじゃないですよ」
身勝手が過ぎる感情を向けられる方としては堪ったものではないと、自分にフィルターをかけられたような気分が気持ち悪くてカミーユは吐き捨てた。
「僕の前にそう言われたっていうキラ・ヤマトって人も同じ気持ちだったんじゃないかって思います」
アムロ・レイの再来と呼ばれる度に名前を挙げられるストライクガンダムのパイロット。死んでいると分かってはいるが話をしてみたいと思うし、全うしてくれれば自分がこんな苦労をしなかったにという身勝手な考えも浮かぶ。
「確かにキラ・ヤマトは状況、戦果でアムロ・レイの再来と呼ばれる相応しかったが、彼は戦争を生き残れなかった。当時、連邦と敵対していたコーディネーターで、何よりもニュータイプではなかった。だから、彼は再来
「勝手に人を批評して、迷惑な人達だ」
「世間なんてそんなものだろう、ニュータイプ」
「止めて下さい」
「それだけ貴様に期待してるんだ」
「期待を押し付けられる身にもなって下さいよ」
「ガンダムに乗ってしまった者の宿命だ。諦めろ」
女みたいな名前だと散々言われてきて身勝手な価値観を押し付けられるほど嫌なことはないカミーユも、こうもどうにも出来ない状況に追いやられるとロベルトが言うように諦めてしまった方が楽だと思ってしまう。
思考が逃げの方向に向かい、ニュータイプはともかくとして同じガンダム乗りが直ぐ近くにいたことを思い出す。
「ガンダムっていうなら彼らはどんな気持ちなんでしょうね。俺とそう年も変わらないだろうに軍に入っているなんて」
「事情なんて人それぞれだが、プラントは先の大戦からそう時間が経っていないから思うこともあるのだろう」
カミーユの視線を追いかけ、ザフトの赤服を着た少年少女達が楽し気に話している姿にロベルトは時代を感じ取る。
「なんだ気になるのか?」
「単純な興味ですよ。エゥーゴには年の近い人がいませんでしてたから」
「どうせなら聞いてみたらどうだ? 同年代と話すのも良い刺激になる」
考えてもいなかったのか、ロベルトの提案にカミーユは驚いたように顔を向ける。だが、直ぐに皮肉気に鼻を鳴らして視線を戻す。
「経験談ですか?」
「一般論だ。大人は子供には子供の世界で過ごしてほしいと思うものだ」
「大人の都合というわけですね」
「こういうご時世だからこそ子供には子供のままでいてほしいっていうエゴだよ」
「勝手ですね」
「知らなかったのか、大人ってのは勝手な物なんだよ」
動こうとしないカミーユのパンと背中を叩くようにして押し出す。
「気になるんなら即行動した方が良い。俺達はいつ死ぬか分からない戦場の中で生きているんだ。心残りは少ない方が良い」
「…………どうせやることもないんです。違う価値観ってやつを知って来ますよ」
「行ってこい、若造」
キャットウォークを降りていくカミーユを追ってザフトの監視員も別れたのを見ながら、ロベルトは今はもう碌に思い出すことも無かった青春時代に思いを馳せるのだった。
エゥーゴのパイロットだという少年が話がしたいやってきて少し経った頃。
「――――ちょっと驚きかも」
「なにがだ?」
二人が話し込んでいるのを離れた場所で見守っていたルナマリアの呟きにレイが反応する。
「シンって結構、人見知りするのにあのカミーユって人と直ぐに仲良くなったなあって」
「同じガンダム乗りだからと押し付けた者の言葉とは思えないな」
人付き合いが悪い=人見知りと勝手にシンを決めつけていたルナマリアの言い様に、レイは少し呆れながらも驚きを覚えているのは彼も同じだった。
「押し付けたのはレイもでしょうが」
「否定はしないが、確かに少し驚いている。波長があったのか、相性が良いのか……」
「ええ! カミーユがあのガンダムを盗んだのか!?」
「うん、まあ」
「別に軍人ってわけじゃなったんだろ。なんだってそんなことを」
聞こえて来た内容がかなり洒落になっていないようで、聞き耳を立てていたルナマリアが好奇心から首を突っ込もうと一歩踏み出したところで警報が鳴り出した。
『コンディションレッド発令! コンディションレッド発令! 総員第一戦闘配備です。パイロットはMSへ搭乗してください!! 繰り返します――』
「何だ!? 敵か?」
困惑するシンを置いて、直ぐに動いたカミーユは自機へと辿り着いて乗り込もうとしている。
「そうか、地球なんだからパイロットスーツなしでもいいんだ」
レイやルナマリアがパイロットスーツに着替えに向かったが、シンはカミーユに習って赤服のままコアスプレンダーに向かう。
「コアスプレンダー、何時でも行けます」
システムを立ち上げ、ブリッジに通信を繋げるとモニターに映ったメイリンが横を向いた。
『え、モビルスーツは出さなくていいんですか? 各員は持ち場で待機。繰り返す、各員は持ち場で待機――』
『ブリッジ、これはどういうことだ?』
音声にアスランの声が混ざった。
『こちらに向かって来るモビルスーツは白旗を持っているとのことです』
『白旗だって?』
『――――エゥーゴに確認が取れました。モビルスーツはカラバの物とのことです。戦闘配備解除。繰り返す、戦闘配備解除――』
一度は開けられたインパルス用のハッチも閉じられてしまったので、白旗を持ったモビルスーツが気になったシンはコアスプレンダーから出て迎え入れる為に開けられたカタパルトデッキの方に向かう。
戦闘配備が解除されたことで整備班や手隙のクルーが何人か向かって来るモビルスーツを見ようと集まっていた。
シンが集まって来た者達を掻き分けて先頭に立つと、同じようにしたカミーユが横に現れたところで、スラスターが立てる音が近づいてくるのが聞こえた。
上空から現れたカラバのモビルスーツが着地するのはその直ぐ後だった。
「見たことのないモビルスーツだ」
白旗を持ったモビルスーツは宇宙で見たエゥーゴのネモに似たカラーリングをしているが、四肢の太さはリック・ディアスに似ているところがある。
まだ名前の知らないモビルスーツから降りて来たパイロットは集まっている者達を見渡す。
「カラバ所属アークエンジェルのモビルスーツ隊長のハヤト・コバヤシ大尉です。艦長はどちらに?」
「自分が案内します」
アークエンジェルという艦名にザワリと声が上がる中、手を上げたレイがハヤトの案内を立候補した。
エゥーゴのクワトロと会見を行った士官室に再び戻ったタリアは連邦軍制式の黒いフライト・ジャケットを着たハヤトと向かい合っていた。やはり背後にはアスランがいて、ハヤトの後ろには今度はクワトロが立っていた。
「アークエンジェル、前大戦後に地球連邦に返却されたと聞きましたが」
ハヤトの所属がザフトには因縁深き艦名だったので思わずタリアは聞いていた。
「そこは色々とありまして」
詳しい話は聞くなと暗に言われていると察したタリアも突っ込んで聞くことはしないと決める。
「前大戦で浮沈艦とまで呼ばれた艦です。指揮する方にかかる重圧は相当なものでしょう」
「艦長は元々、アークエンジェルを指揮しておられた方です。その心配はないかと」
ザフトにおいてミネルバはホワイトベースやアークエンジェルのような活躍をすることを期待されている。伝説を作り上げろと言われている等しい艦の艦長に任命されたタリアだからこその心配だったが、艦長が以前と同じと言われて疑問を覚えた。
「アークエンジェルの艦長は前大戦後にオーブに移ったと記憶していますが」
前大戦を止めた歌姫の騎士団の中でもラクス・クラインに次いで去就が気になっただけにタリアも知っていた。
「ティターンズの専横に憤り、カラバに参加されたとのことです。詳しいことは個人情報になりますので」
十分に話してくれたのでタリアもこの話題はここまでとして、改めてハヤトを見た。
まだ二十代前半の少しふっくらとした体形の青年の名をタリアは何度も聞いたことがある。
「ハヤト大尉といい歴戦の英雄達がここまでカラバに参加されているとは、エゥーゴの支援組織と聞いていましたが自前のモビルスーツも運用されていますし、大した組織力をお持ちのようで」
一年戦争で名を馳せたホワイトベースに乗っていたパイロットの一人に、浮沈艦とまで呼ばれたアークエンジェルの艦長が参加し、類似性はあるものの独自のモビルスーツと浮沈艦まで呼ばれた戦艦まで運用している。
舐めていたわけではないが、カラバは想像よりもずっと大きい組織力があるのではないかと探りを入れる。
「自前といっても自分が乗って来たディジェも元はエゥーゴから提供されたリック・ディアスを地上用に改装した機体です。懐事情はエゥーゴにおんぶに抱っこの情けない実情です」
「成程、しかし随分とお早い到着でしたね。来られるとしても、もう少し時間がかかると思っていました」
「元々、エゥーゴのジャブロー降下作戦の後詰めとして近くまで来ていたもので」
「ブライト艦長も言っておられた作戦のことですね。しかし、ジャブローですか」
ユニウスセブン破砕作戦前にブライト艦長がデュランダルに作戦のことをチラッと言っていたことを思い出す。
アークエンジェルが当初の作戦の後詰めで太平洋方面からジャブロー近くに向かっていたとするなら、これだけの速さでミネルバの下へ辿り着くのにも納得した。寧ろエゥーゴとカラバがジャブローを目的にした理由の方が気になる。
「スポンサーの意向というやつです」
エゥーゴのスポンサーが月のアナハイム・エレクトロニクスであることはスペースノイドにとっては有名な話。
ユニウスセブン破砕作戦にエゥーゴが加わり、アークエンジェルがジャブロー近くにまで来ていたのならばカラバだけで作戦が行われたのかと考える。
「では、カラバだけでジャブローを攻撃されたと?」
「ユニウスセブンが落ちて来たというのに我々もそこまで不謹慎ではありませんよ」
苦笑したハヤトが右手を何度か横に振る。
「ただ、今のジャブローは酷い有り様になっています。ああ、カラバやエゥーゴの攻撃だとかユニウスセブンの破片が落ちた影響とかではありません。連邦はサイクロプスを使ったんです」
「サイクロプス!? 前大戦で大西洋連邦がアラスカ基地で使った
まさかここでザフトにとっては忌まわしい兵器の名を聞くとは思いもしなかったタリアは努めて感情を抑える。
前大戦の折、ザフト軍が膠着状態の戦局を一気に打開する為の賭けに出た作戦オペレーション・スピットブレイク。パナマに侵攻すると見せかけ、連邦の戦力を中央アメリカに集中させて手薄になったアラスカにあった当時の地球連邦司令本部を全力で以って急襲、攻略する乾坤一擲の作戦は事前に作戦が漏れており、逆手に取った電磁兵器サイクロプスが仕掛けられていた。
突如として戦場に現れたフリーダムによってサイクロプスの情報が全軍に伝えられ、避難を呼びかけるもサイクロプスの発動によってザフトは当作戦の約8割の戦力を失った。
「事前に作戦が漏れていたのでしょう。何も知らないジャブロー守備隊もろとも我々を抹殺しようと目論んでいたと思われます」
「そこまでやるのですか、連邦は」
「今の連邦はティターンズが実権を握っています。今回のこともジャブローの守備隊は司令部を移転するとしか聞かされていなかったようです。
発動されれば防御手段が無いに等しいサイクロプスをまた地球連邦、それもティターンズが使ったことにタリアは憤りを覚える。
言う方も聞く方も気持ちの良い話ではないので、ハヤトは話題を切り替えることにした。
「カラバの情報によるとジブラルタルとカーペンタリアは地球連邦の軍によって包囲されているとのことです。単艦で突破するのは難しいと思われます」
「仮に突破出来たとしても、戦闘が始まってしまっては両基地が持たないものね……」
更にはその戦闘がプラントと地球連邦の戦端を開くことになりかねないので、とても現実的に取れる選択肢はでない。先行きが思いやられる展開にタリアは重い溜息を漏らした。
「望まれるのならカラバの基地で受け入れることも可能です」
「有難い申し出ですが我が艦にはオーブの代表が乗っておられるので、オーブに一時身を寄せようと考えています」
「ふむ、私どもの艦長はオーブの代表と既知の仲とのことなので、送り届けるならば我らが代わりに行うことも出来ますが」
「ありがとうございます。これは我らに任せられた役目でありますので」
恐らく反プラントに傾いていくであろう世界の中で、中立国であるオーブにザフトが代表を送り届けることに大きな意味が生まれる。それはカラバにとっても同じだが先約勝ちということもあり、ハヤトも無理強いはしなかった。
とはいえ、政治屋の真似事をしなければならないことにタリアが更に気を重くしていると、何かを考えていたハヤトが意を決したように口を開く。
「グラディス艦長、これは個人的なことなのですが」
「なんでしょう」
「ザフトやプラントは、アムロ・レイの行方を知っていますか?」
一瞬何を言われているのかが理解できなかったタリアが目を丸くしていると、ハヤトの後ろでクワトロが「アムロ……」と呟いていたのにアスランだけが気づいた。
ハヤト・コバヤシ、まさかのアークエンジェルでモビルスーツ隊の隊長。乗っているのはディジェです。