『この未曾有の出来事を、我々プラントもまた沈痛な思いで受け止めております。信じがたいこの各地の惨状に、私もまた言葉もありません』
幾つものホログラムモニターが並ぶ中の一つに、プラント最高評議会議長ギルバート・デュランダルが端正な顔に悲痛な表情を浮かべて語り掛けている
『受けた傷は深く、また悲しみは果てないものと思いますが、でもどうか地球の友人達よ、この絶望の今日から立ち上がって下さい。皆さんの想像を絶する苦難を前に我等もまた援助の手を惜しみません』
「ローマ、上海、ゴビ砂漠、ケベック、フィラデルフィアに大西洋北部と赤道付近は壊滅的な被害だ。見たまえ、北京など地図から消滅してしまった。これでは死者の数もどのくらいになるのか……」
デュランダルの会見映像を立って近くで見ていた男が後ろ手に組んだまま振り返る。
「痛ましいことだ。これからだよ、本当に大変なのは」
地上の惨禍に対する同情の言葉だったはずだが、それを口にした彼の表情は不似合いな微笑が浮かんでいた。
「これでまた世界は動く、僕の望む方向に。君にはお気に召さなかったようだね、アムロ」
「リボンズ、お前の声を聴いていると、まるで自分自身と話しているような気分になる。自分がそんな気取った物言いをしていると思うと気分の良い物じゃない」
喋り方に違いはあるものの全く同じ声が返された。
「第一、僕にこのような災害を見て喜ぶような趣味は無い」
半円形に配置された巨大なソファに座るアムロと呼ばれた青年は声以外は全くに似た所のない青年――――リボンズ・アルマークに皮肉を返す。
「まだ不貞腐れているのかい? あのままシャイアン基地で腐っていくよりはマシだろ、ここは」
子供の我儘を諌めるような物言いとその内容にアムロはリボンズから顔を逸らす。
「…………確かにあそこの生活は地獄だった。危険分子として監視され、若いのに晒し物にされて笑われる日々で腐っていくのを感じていた」
「そういう生活を強制されたら、誰でも骨抜きの人間になってしまうものだ。君は世捨て人になるには、まだまだ若い。救い出した僕に感謝してほしいものだね」
「感謝だと? 人を監禁しておいて」
シャイアン基地で腐っていくか、行動を制限されて殆ど何も出来ない状況に追いやられるか。後者に追いやったとのだとしても、前者のままでいるよりかはいいだろうと押しつけがましいリボンズにアムロは顔を戻して怒りの眼差しで睨み付ける。
アムロはリボンズのことを殆ど知らない。
確かなのは、何かと注目されがちなアムロをティターンズの権勢が増している中でシャイアン基地から異動させるだけの権力を連邦内に有しているということだけは確実だった。
「君という貴重な存在があのまま世界から消えていくのは世の損失だ。監禁については仕方ないと諦めてほしい。僕達は
「その言い様、
「似たようなものではあるかもしれないね。人類は放っておくと自らを滅ぼしかねない。導く者が必要だ」
「それが自分達だと? 今回のユニウスセブンの一件を事前に知っていた者の言葉とは思えないな」
「流石だよ、ニュータイプ。僕の脳量子波を読んだんだね」
「わざと読ませておいて煽てたって何も出ないぞ」
何をしても掌の上で踊らされているような気分になったアムロは思わずニュータイプ能力を使ってしまい、結果として誘導されたことを察して顔を顰める。
「純粋な称賛だよ。意図的に読ませたとはいえ、この僕の脳量子波を読み取ることは他の者達にも出来なかったことだ」
リボンズは普通ならば思考を読まれるなど嫌がるはずなのに笑みを浮かべ、一度言葉を切った後に両手を広げた。
「無論、ユニウスセブンを止める為の策は打ったとも。エゥーゴに知らせたのは、この僕なのだから。落ちるのを止められなかったのは現場にいた者達の責任だよ」
広げていた手を下ろしたリボンズはアムロが座っている半円形のソファの対面へと腰を下ろす。その眼はアムロの深奥を覗き込むように金色に光っていた。
「不思議なものだ。君はニュータイプ能力を別にすれば、その精神性と人間性はただの人類と何も変わらない」
「生憎と人類を辞めたつもりはないよ」
一年戦争の末期にあまりの働きぶりに化け物扱いをされたりはしたが、人類の規格を逸脱したつもりなどないのでアムロは軽口で返す。
アムロの言い様が愉快だったのか、クツクツと喉の奥で笑ったリボンズが足を組む
「皮肉ではなく、純粋な疑問さ。以前にここに来た二人はある意味で人間性、精神性共に人間の域を超えていた」
アムロはユニウスセブンが落ちる暫く前にやってきた、暴力の気配を巧みに隠した男を思い出す。
確かに人間の域を超えていたというリボンズの評に納得の出来る男だったと、名前の知らない相手が望んでいたことを直感が無意識に呟かせていた。
「あの戦争屋と、もう一人はリジェネ・レジェッタか?」
後はアムロが一人でいる時を見計らったようにやってくる、どこかリボンズに似た超然とした雰囲気の人物しか思い至らない。
「ふふ、彼を戦争屋とは言い得て妙だ。だが、もう一人はリジェネ・レジェッタではないよ。もう一人はこの場所に自力で辿り着いた唯一の人間、ラウ・ル・クルーゼ。君も名前ぐらいは聞いたことだあるだろう」
「ザフトの人間でありながら連邦に情報を渡してた人間だったか。詳しいところまでは知らないが」
「世間ではその程度の認識らしいね」
自分で話題にしておきながらクルーゼに関してリボンズは多くを語る気はなさそうで、足を組み替えて話題の転換を図る。
「君が彼らと違うのは、そのニュータイプ能力だ。イオリア・シュヘンベルグすら予見できていなかった、実に興味深い存在だ」
覚えのある名前に記憶が刺激される。
「イオリア・シュヘンベルグ…………200年前から今日の世界を予見して、ソレスタルビーイングを設立し、GNドライブを開発した男。いったいイオリア・シュヘンベルグとは何者なんだ?」
スペースノイドの家たるコロニーの基礎設計者にして、先のソレスタルビーイングの武力介入を全世界に宣言した男。リボンズとどのような繋がりがあるかも分からず、アムロは少しでも情報が得たくて問いかけていた。
「神、と言っていいかもしれないね。そして、その座は僕が引き継いだ」
「あまり気分の良い物言いではないな」
「回りくどい言い方は不要だよ。気に食わないとはっきり言えばいい」
見透かされるとここまで不快になるのかと、自分が嘗てしていたことを顧みさせられた気分を味わったアムロは知らずに入っていた肩の力を抜いてソファに深々と身を預ける。
「今の僕はお前に生殺与奪の権利を握られているも同然の身だ。僕をどうするつもりだ?」
傍から見れば不貞腐れた態度のアムロにリボンズは組んでいた足の膝に手を置く。
「心配しなくてもいい。少しぐらいの無礼な振る舞いに腹を立てるほど、僕も狭量じゃない」
「流石は神の座を継いだと嘯く男だ」
皮肉を交えつつ、一瞬だけアムロの眼が嘗ての輝きを以てリボンズを見据える。
「リボンズ・アルマーク、
「今はまだ話すことは出来ない。でも、それは君にとってもきっと有用なことだよ、アムロ・レイ」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
オーブ連合首長国首都オロファトにある内閣府官邸の一室に二人の男がいた。
「ザフトの最新鋭艦ミネルバとは、姫はまた面倒なもので帰国される」
「仕方ありませんよ、父上。カガリだってよもやこんなことになるとは思ってもいなかったでしょう。我らもそうだったからこそ、彼女を送り出したのですから」
高そうな椅子に座り手元の書類にサインするオーブ宰相のウナト・エマ・セイランの言葉に答えたのは、ソファに深く凭れかかって足を組んで手を背凭れに広げて座るまだ年若い青年だった。
「神輿として利用過ぎたと罰だとでも言うのか?」
「まさか、誰もこのようなことになるなどとは予想も出来ません。少し欲張り過ぎたしっぺ返しのようなものです」
会話をしながら仕事を続ける父親をチラリと見たユウナ・ロマ・セイランは何が楽しいのか、薄く笑みを浮かべたまま続ける。
「この状況、僕は上手く利用できるのではないかと思っています」
息子の言い様に、ウナトはサインを行っていた手をピタリと止めた。
「前々から連邦から打診されていた
「遅かれ早かれ、というやつですよ。ティターンズが権勢を増していく中で、オーブもまた立ち位置を迫られる時が来る。それが早まっただけに過ぎません」
重々しい父親とは反対に軽く言ってのけたユウナが背凭れから右手を離して人差し指を立てる。
「プラントは納得しないかもしれませんが、あの映像に映るザフト製モビルスーツを根拠に連邦なら『正義は我らに有り』ぐらいは言うかもしれませんね。これだけの災害の犠牲ならば、中立国であるオーブが連邦に再加入しても大義名分は立つ」
息子から視線を外し、止めていたサインを再開したウナトは次の書類へと手を伸ばす。
「そうだな。前大戦のように強硬に中立を主張したところで、あのティターンズならば再びオーブの国土を焼くぐらいのことはする。歴史を繰り返すわけにはいかん」
「歴史を繰り返すという意味ではカガリは前大戦では連邦のアークエンジェル、次はザフトのミネルバで戻ってくるのですから中立を旨とするアスハらしいと言えるのでは?」
「中立云々を言い出したのはウズミの代からだ。アスハの思想というわけではない」
ユウナの間違いを正したところで一枚の書類に目を落としたウナトは眉間を皺を寄せ、熟考した上でサインはせずに斜め前に置かれている箱の中に入れる。
「親の影響を受けたというわけですか。いや、あの弟の所為か」
「或いは、あのザラの息子か」
「…………」
楽しげだったユウナはウナトの言葉に薄く浮かべていた笑みを消して気に入らなげに口を紡ぐ。
図星を突かれたのか、はたまたそう思われるのが嫌なのかは父親であるウナトにも分からない。ただ、とある人物を話題に出されるのを嫌がっているのは確かで、そこで若さを隠せないのが今のユウナの現状ではあった。
「許嫁としては気に入らんか?」
「残念ながらカガリにそこまで入れ込んではいませんよ。許嫁といっても父上達が決めた話に過ぎません」
自分の調子を取り戻したユウナが足を組み直す。
「好みではないとはいえ、必要なことですからね。僕の色に染め上げるだけです。ただ、あの弟が義弟となるのは生理的に受け付けません」
別段、ユウナが主義者というわけではない。
人間は人に対して合う合わないがあり、ユウナにとってカガリ・ユラ・アスハが弟と主張する
「嫌でも我慢してもらう。我らも五大氏族に上がったとはいえ、未だアスハの名が持つ力は大きいのだ。セイランの地盤を盤石にするには、お前が婿入りするのは避けられん」
セイラン家は前大戦までは下級氏族であり、五大氏族に空席が出来たことで繰り上がったばかり。常にオーブの中心にいたアスハ家とは同じ五大氏族の位にいるといっても家の格が違う。
各氏族間の政治パワーバランスで前代表ウズミとウナトは娘と息子を許嫁にしたが、家の認知度と力的とユウナが劣っているのは誰の目にも明らか。そのことはユウナも承知していた。
「合法的にアスハを乗っ取ると言うのでしょう。分かっていますよ。あの弟もコーディネーターですから今の情勢であればいずれオーブにいられなくなるのでそれまで我慢しますよ」
「そのことだがコーディネーターを追い出すということはしない方針を考えている」
自分が思っていたのとは違う方針にユウナが驚いたように目を丸くする。
「そうなのですか? 連邦が許すとは思えませんが」
特にスペースノイドを敵視どころか蔑視しているティターンズのことを考えれば、プラントとオーブ在住のコーディネーターが違うといっても理解を示してくれる相手ではないというのがユウナの見解だった。
「我が国でのコーディネーターの働きは無視できないものがある。お前が嫌うあの弟にしても、次期主力量産機の開発において大きな役割を担っている」
「ああ、軍部やモルゲンレーテでカリスマ的な人気があるとか」
人気があるのはカガリも同じで、逆にユウナは軍部やモルゲンレーテでは全く人気が無い。そのことがユウナがカガリの弟を嫌う要因の一つになっているもしれないなどと、ウナトは考えながら悩んでいる仕草を息子に見せる。
「連邦もプラントとオーブ在住のコーディネーターは違うと理解してくれたらいいのだが」
「駄目ならその時はその時でいいのでは?」
「お前は駄目な方が良いのだろう」
「決めるのは父上です。僕はその決定に従うまでです」
軽く言ってのけるユウナに重い溜息を漏らす。
「父上の方針を通すには、何もしないで求めたところで足下を見られるだけです。連邦に譲歩を引き出す餌が必要とでしょう」
父親の嘆息を聞かなかったかのように顎に手を当てたユウナが楽し気に語る。
「前々から要求されていたザフトから渡された
「連邦はザフトのガンダムを奪ったと聞いています。最早、
カガリがプラント評議会議長に会談を求める必要性を迫られ、自らアーモリーワンに出向かざるをえなかったモノは既に戦略的価値を大幅に減じてしまったとユウナは告げる。
「やはりそうなのか。どうしたものか……」
「餌ならもう少ししたら自分からやってきますよ。プラントの国防軍ザフトの最新鋭艦ミネルバ。餌としては極上の物です」
まるでゲームに興じる若者のように、しかし見方を変えればとても残酷に続ける。
「国家元首を送り届けてくれた艦を冷たくあしらうわけにもいきますまい、今は」
「ああ、今はな」
机の端末が音を鳴らし、ウナトが手を伸ばして内容を確認する。
「ミネルバが到着したようだ」
ユウナに伝えると、彼は組んでいた足を解いてゆっくりと立ち上がる。
スーツの襟を伸ばして軽く髪を掻き上げたユウナがウナトへと体ごと向ける。
「盛大に迎えに行くとしましょう、許嫁として」
「ああ、お前に任せる」
ウナトが告げるとユウナは少し驚いたような表情をした。
「父上は行かないのですか」
「このような事態に宰相がノコノコと出歩けると思っているのか?」
「ご尤もです。では、行ってきます」
納得したユウナが片手を上げて部屋から出て行き、一人部屋に残ったウナトは息子が座っていたソファへと視線を向ける。
「…………まだまだ若いな。ミネルバを餌にする考えは悪くないが、あれではプラントの恨みを買ってしまうというのに。あれではまだカガリの方が政治を知っている。決定的な挫折を知らない所為か」
一人ごちたウナトはペンを置いて、先程ミネルバ到着を告げた端末を手に取る。
慣れた番号を押しながら、回転椅子を回して背後の窓を見る。
まだ外はユニウスセブン落下の影響で雨空のように暗いまま晴れ間は望めず、誰にとっても気持ちの良い物ではない空を眺めながらコール音を聞く。
数コールの後に『はい』と出た相手に向かってウナトは相手には見えないのにニヤリと笑う。
「久しいな、アンドリュー・バルトフェルド。いい加減に軍顧問の席に座る気にならんか?」
『宰相閣下殿、連絡一番にそれですか』
電話口のアンドリュー・バルトフェルドは呆れを微塵も隠さずに答える。
「無事に避難出来たことは知っている。こちらは忙しいのだ。会話を楽しんでいる時間は無い。砂漠の虎とまで呼ばれた男を市井に置いておくのはオーブにとって損失でしかない。これからの世には特に。で、どうなのだ?」
性急に回答を求めると、あの左目に傷を負っている風貌で苦笑している雰囲気が電話口からも伝わって来た。
『その件は以前にも断ったはずですが。なにより数日前ならともかく、この情勢だ。ティターンズにつけ込まれる材料は少ない方が良い』
「まったく厄介なことだ。君の為に准将の地位も用意していたというのに」
『過分な待遇、痛み入りますがどちらにしてもその気はありませんよ。オーブとは今ぐらいの距離感が良い』
「残念だがオーブは近々、地球連邦に戻ることになる」
ウナトが今後に起こり得る状況を伝えると、流石にバルトフェルドも驚いた様子で言葉に詰まったようだった。
数秒の後に小さな嘆息を漏らした音が電話口でも聞こえた。
『…………なら、ますますオーブに関わるわけにはいかんでしょう』
「だが、君達は他のコーディネーター達と違ってプラントには行けない事情がある。そこで一つ提案がある」
バルトフェルドが抱えている事情を知るからこそであり、ここ暫くの間にウナトが自分の裡だけで温めてきた考えをバルトフェルドに明かす。
「エゥーゴへ行く気はないかね、カガリと共に」
緊張と共にオーブに入ることが出来たミネルバは抱えていたオーブ代表首長と護衛を無事に降ろして、今は整備ドッグに入ってオーブの国営企業であるモルゲンレーテの社員が修理作業を行っていた。
修理作業の様子を艦外から視察していたミネルバ艦長タリア・グラディスは隣で同じように作業を見つめていたマッド・エイブスから報告を受けていた。
「流石は噂に名高いオーブのモルゲンレーテ。正確な仕事をしてくれています」
「ええ、そうね、あの様子なら船体外部の方はモルゲンレーテに任せて大丈夫でしょう。でも、船内は全て貴方達でね」
今更、言うまでもないと思うが、ここが自軍基地ではないのでどうしても神経質になってしまう。まさか爆弾を仕掛けられるとは思えないが、ザフトの最新鋭艦内部に他国の技術者を入れるなどということはとても出来ないので整備班に負担をかけてしまう。
「分かっています」
マッドもタリアの懸念は十分承知しており、深く頷く。
「資材や機器も融通してくれるということだから、ちょっと入念に頼むわね」
「可能な限りは」
「お願いね」
あの実直な男に任せておけば仕事を果たしてくれるだろうという信頼がある。早速、ミネルバ艦内に戻って作業に向かったマッドの背を見送り、その場に立ち止まって補修作業を副長アーサー・トラインと共に眺める。
「でも、いいんですか艦長」
何を考えるでもなく作業を眺めていると、マッドの報告を横で黙って聞いていたアーサーが問いかけて来た。
頭一つほど背の高いアーサーは下から見上げるタリアの視線に困ったような表情を浮かべて、今も機密の塊であるミネルバの周りで作業を行っているモルゲンレーテの作業員を見る。
「補給は兎も角、艦の修理などはカーペンタリアに入ってからの方がはよいのではないかと、自分は思いますが」
保守的で安全策を取りたがるアーサーらしい意見に、逆に必要であれば突飛な行動を取ることも厭わないタリアはその考えが最もと認める。
「言いたいことは解るけど、責任が気になるのなら一応日誌にも残しましょうか?」
「いいえ、そんな」
「問題なくカーペンタリアに入れるのなら私も直ぐに向かうけれど、そうもいかないでしょ今は」
大袈裟なほど首を横に振って否定の意を表明するアーサーに向かって苦笑しながら、オーブに来る前にカラバのハヤト・コバヤシより齎された情報から選択した背景を匂わせる。
ミネルバが確認したわけではないので、アーサーは他組織から齎された情報に懐疑的だった。
「地球連邦に包囲されているというカラバの情報が正しいとは限りません」
「でも、状況的に十分にありえるとはあなたも考えたからこそオーブ入りを受け入れたんじゃないの?」
「そうではありますが」
前大戦後に結ばれたユニウス条約はあくまで停戦条約に過ぎない。開戦した場合やそれに類似したケースのシュミレーションは何度も行われ、ジブラルタルとカーペンタリアが地球連邦の軍に包囲されるというのは将兵であるならば十分に想像がつく。
カラバの情報の真偽はともかくとして、可能性に賭けてカーペンタリアに向かうのはミネルバは損傷し過ぎていることはアーサーも認めるところ。
結局、最初からオーブに来る以外の選択肢など無かったのだとタリアが心の中で結論付けていると、ドッグの入り口からまだ年若い青年がこちらへと歩いて来る。
「失礼します。ミネルバ艦長であられますか?」
「え、ええ。あなたは?」
程よい距離感で足を止めた青年はモルゲンレーテの社員のようだが、ミネルバに群がっている作業員とは着ている服が少し違う。
失礼にならない程度に全身を見たタリアがモビルスーツ隊隊長のアスラン・ザラと同年代ぐらいかと当たりをつけていると、青年がバインダーを持っているのとは反対の手を差し出す。
「ミネルバの作業を担当させて頂くモルゲンレーテ造船課B主任のサイ・アーガイルです。挨拶が遅れまして申し訳ありません」
「艦長のタリア・グラディスです。急がせたのはこちらの方なので、寧ろ謝罪をしなければこちらの方です」
握手を受け入れた青年がまだ年若いにも関わらず重要なポストにいることから、一瞬彼もコーディネーターかと考えたが他国人が詮索するべきことではないと自重する。
タリアの考えなど知る由もないサイも作業中のミネルバに目を移す。
「ミネルバは進水式前の艦だと聞きましたが、既に歴戦と言う感じですね」
「ええ、残念ながら。私もまさかこんなことになるとは思ってもみませんでしたが仕方がないと割り切ってます」
「胆の据わった艦長だ。ラミアス艦長を思い出します」
後に呟いた言葉はそう大きくは無かったが聞こえてしまい、サイの言い様から人伝やデータ情報からではない生の感情を感じ取った。
「親し気ですが、もしやアークエンジェルと関わりが?」
「ええ、まあ」
言い過ぎたとサイが表情に出してしまっていることに自分が失った若さを感じ、これ以上は個人的に踏み込のは興味本位でしかないので話題の転換を図る。
「本当はオーブもこうやってザフト艦の修理になんか手を貸していられる場合ではないのでは?」
「上がどう考えているかは現場の私達には分かりませんが、我らは自分の仕事をするだけです」
こちらが振った話題に乗って来たサイは持っていた書類をこちらに向かって差し出して来た。
「ミネルバの修理には今暫くの時間がかかるでしょう。代表首長府より数名単位なら申請すれば上陸許可を出すとのことです。詳しい内容に関してはこちらに」
「クルーはアーモリーワンからずっと艦内で緊張状態に置かれていましたから、良い気分転換になります」
リボンズ・アルマークの下にいるアムロ・レイ。
シャイアン基地から合法的に異動させられ、気づいたらリボンズの下へ連れてこられたアムロ。
流石のイオリオ・シュヘンベルグもニュータイプの存在と登場には思い至らなかったという設定で。
本作ではニュータイプはイノベイターが持つ脳量子波に超特化した的な感じで考えています。
そしてちょい役の癖になんか裏のありそうなウナト・エマ・セライン。
マリア・ベルネスさんがカラバ所属のアークエンジェルの館長をやっているので、代役として種運命にいなかったサイ・アーガイルが登場。