Bloodborne:Brave of Braze   作:NEXT_0809

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遠の物のほ(Dinanzi a me non)か物とし(fuor)我よ(cose create)り先に
られしはな(se non etterne,)し、しかして我永遠に(e io etterno duro)立つ

等ここに入るも(Lasciate ogne speranza,)の、一切の望(voi)みを棄(ch'intrate)てよ

「神曲」地獄篇:第三歌−地獄の門−
───ダンテ・アリギエーリ───





02.地獄の門

[ジョン]

───はッ…!!ぜッッ…!!

 

爆発的な鼓動が身体のうち、延々と鳴り続く

 

一時間近くにわたって走り続けたお陰で

滝のような汗が湧き出、肺と喉が焼け付く痛みに

当てられるが休む暇はまだまだ無い────

 

 

全力で走った甲斐はあって馭者はまだ息を

しているのが幸いだが、着いた先はというと

真夜中だからか人の気配が殆ど感じられず…

 

もっと言えば立ち並ぶ民家の中には

人影こそ微かに見えるもののまるで何かに

怯える如くに、立て籠もっているよう見える

 

[ジョン]

(…土地勘が無い以上はしようがない。

どこかで医者の場所を尋ねるとするか)

 

そう考えに至ったのもつかの間、

あまりの閉鎖的待遇に裏切られる事となった

 

”─よそ者が(Stranger)─” ”─出て行け!(Get out !)─”

 

居留守をする者もいれば怒鳴り散らす者も。

異様なほどの剣幕は、まずこの街の性質を物語る

 

薄暗い排他、隠匿主義は容易に悪印象を際立たした。

異邦人への村八分はさることながら、重症の地元民を

放る薄情さは田舎特有の結束力の高さにも反している

 

異常も異常、これに至るには恐らく理由がある筈で

街路を彷徨いながらも考えるが見当もつかない

 

[ジョン]

……てんでぇ、話にならんじゃないか

 

 

時折聞こえてくる、狼のような遠吠え───

 

街中だというのに未だ野獣の声が響くというのは

実に奇妙だ。するとここの住民は”あれ”に

怯えているとでもいうのだろうか?

 

…いや、そんなまさか。

大方、この国の田舎は大体こんな感じで偏屈だ

 

欧州の辺境はやれ”人狼(ウェアウルフ)”だ、”吸血鬼(ヴァンパイア)”だで

すぐに十字を切るような奴しかいない…

 

というのは偏見だが、実際にここに来るまで

都心の人間と比べ迷信深いような連中を

数多く見たのは確かだったのだ

 

[ジョン]

(───お…)

 

 

先に見えた人集り。

しめた、連中に医者の場所を案内してもらおう

 

いや待て、様子が妙だ。怒号、罵声に威嚇

皆が松明を照らして何かしらの武装をしている。

斧や鋤を担いで殺気立ってる人間を信用出来ようか

 

本能が警鐘を高々と鳴らす…尉官の感というやつだ

なにはともあれ、迂闊に近付かない方が良い

 

どうしたものか、一先ず奴らが

何に鬼気迫っているのかが見物か──────

 

”いたぞ!獣(A beast!)だ!!” ”殺せ!(Kill!)殺せ!(kill!)

 

それは目を見張る光景だったのだ

ほんの一時間前に遭遇した黒い野獣───それが。

今度は二匹、先程と比べればやや小柄だったが

確かに群衆の奥の影がこの目に写った

 

[ジョン]

(どうする…応援に向かうべきか?)

 

[───]

よしたまえよ、もう手遅れだ

 

「何?」と振り向きざま、横を人影が通り過ぎ

狐の様に素早く駆け抜けて一人の男が群衆へと向かう

男に伴って”臭い”が鼻に入り込んでくる───

 

慣れ親しんだ───煙の臭いだ

 

助けて!(Help me!)神よ!(oh god!)” 

 

[───]

────ッッ!!

 

とても疾い。何よりも卓越した技術が見てとれる

幾度も死闘を切り抜けたであろう煤けたコートを

羽織った男が、何やら大きな黒鉄の金槌を果敢に

獣に振るう姿はいっそ英雄的にさえ見えたのだ

 

それも虚しく、一方の野獣に群衆は引き裂かれ

みるみるうちに血の海が出来上がるのはいかに

戦場を駆け巡った自分でさえも怖気が這い上がる。

 

だが、だからこそだろう──

煙、火の匂いに武者震いが止まらぬのは

 

”ガツンッ”──巨大な引き金が上がった音。

僅かな合間に群衆の殆どは横たわり

残るは二匹の獣と大槌を携える男のみ…

 

[ジョン]

(おいおい…どうするつもりだ…?)

 

かくなる上はこちらも援護射撃を行う事を考えたが

しかし、その杞憂は不要だったらしい

 

あの左手に持っていたのは、大口径の拳銃。

 

一方の獣を射撃で怯ませ牽制した刹那

襲いかかるもう一方へと大鎚を振りかぶったのだ

直前までとは違う、火の気を揺ら揺らと上げて──!

 

 

”──ゴォォンッッ!!”

 

煌めく爆炎、つんざく爆音に獣達は目を、

耳を塞がれ、同時に一方は、対敵を抉るべく

付けられた突起付きの大鎚を受け盛大に吹っ飛ぶ

 

それだけでは終わらない。

 

続けざまに大鎚の引き金を再び引き上げ

残された一方を雷神トール*1もかくやという

大打撃で、その頭部を地面に叩き潰したのである。

 

それを皮切りに男の”狩り”は一旦の幕を下ろした

 

[───]

────眠れ、安らかに

 

 

 

※ ※

 

[ダンテ]

すまない、挨拶が遅れてしまった

私の名はダンテ。見たところ…君は異邦人かな

 

血を振り払い、空薬莢を放りながらやってきた男。

男は”ダンテ”と名乗り、ロングハットを外して

互いに軽い会釈を交わす───

 

[ジョン]

ああ…俺はジョン、つい今しがたここにやって来た。

 

観光パンフレットでもありゃ助かるんだが…

見ての通り、医者に急ぎの用があってな

 

[ダンテ]

……ふむ、一先ずは安全な場所へ行こう

 

 

 

 

 

幾ばくか歩き、静かなヤーナムの街で

より重く、静謐な空気の漂う墓所を訪れた。

 

その中心にある建屋は石造りの地下へと通じ

屋内にはおびただしい数の骨壺が並び…

 

 

やや広く、またカビ臭くはあるが、しかし先を

見渡せない屋外の不安感よりは余程心地よく感じた

 

[ダンテ]

古い礼拝堂だ、ここならそうそう獣は入ってこない

…今日はとんだ厄日だったようだね、異邦の方

 

コートの男──ダンテが置き香炉を焚き、部屋には

仄かに甘いフランキンセンス*2…乳香の香りが漂う。

(少し混じる妙な臭いはこの街特有の風味か)

 

それは魔除けや祭典にも使われていたのだろうが

炉は錆び埃だらけで、今の今まで捨て置かれていた

 

[ジョン]

俺を異邦人という割にはあんたの地元でも無さそうだ。

ご丁寧に英語で話してくれんのは有り難いが…

そのイタリア訛り───誤魔化せてないぞ

 

故郷の訛りを指摘された彼はきちっと香炉に

蓋をしながらもばつが悪そうに苦笑いを浮かべる

 

[ダンテ]

いやはや、手厳しいな。ご指摘の通り

私も元はよそ者さ、ここに住んでもう長いがね

 

さて…そちらの方の手当てをしなければ。

すまないが灯火を照らしてくれないか

 

言われるがままに渡されたランタンで馭者の身体を

映す…すると彼は懐から、半透明ながら底が

浅黒くなった血液パックを取り出した。

 

[ジョン]

輸血液──意外だな、あんた医者なのか?

 

[ダンテ]

私は医療の知見などありはしないよ。だが…

ヤーナムにおいて狩人が輸血を行うのは珍しくない

 

おおよそ君も、ヤーナムの医療を求めて

来訪されたのだろう───これが、その一端なのさ

 

淡々と輸血針を馭者の腕に刺すダンテ

そこから静かに語られる話───彼が言うには

 

この街は、街の上層に座す”医療教会”がもたらすと

いう”血の医療”を主として成ってあり、それは今日に

至るまで民衆から狩人を支えてきた礎なのだと……

 

医療と教会が結び付くのは珍しい事でもない。

ただ、この男の言い方では医療そのものが教会の

信仰に繋がってるような言い振りで───…

 

そこはかとなく、奇妙な感覚を覚えたのだった

 

[ダンテ]

───ヤーナムの輸血は特に即効性がめぼしい。

ごらん、死に体だった彼の顔にも生気が戻ってきた

 

[ジョン]

…血の気が随分と増えたな。いっそ気持ちが悪い位だ

 

薄暗い中でよく見えないので、灯りを更に近付けた

 

気味が悪い程に肌に潤いが与えられている光景は

この間読んだホラー小説で見知った感じである

あれは…なんだったか、確か…”女吸血鬼……

 

──いや止そう、ただでさえ訳の分からない街で

”獣の病”とかいう風土病が蔓延ってるのだから。

縁起の悪そうな考えは避けた方が気が楽だ

 

[ダンテ]

うむ、とりあえずはこれだけで十分だ。

折を見て何処か診療所で診てもらうのが良いが

不幸な事に今夜は獣狩りの夜…昼までは待つしかない

 

[ジョン]

俺も走り通しだ、ここでしばらく休ませてくれ

 

 

納骨堂に入る際、ダンテが点けた”香”だったが

いよいよその独特な臭いに嫌気が差して、

懐から煙草とマッチを取り出し火を付けた。

 

思えば数時間ぶりのタール、喫煙だけは

自分を癒やしてくれるのだと染み染み実感する

 

[ダンテ]

”獣避けの香”を焚いてはいるが残りは少ない。

今晩ここで凌ぎきるのは、恐らく無理だろう

 

[ジョン]

ふぅ──何かアテはないか?

俺はよそ者だ、受け入れる人間は限られてる

 

 

これまででこの街の景気は大体思い知らされた。

まず”獣狩りの夜”のこの街は危険な状態にある

 

次に、僅かでも信用出来る人間は今のところ

この”狩人”──ダンテだけであり、他の場所を

あたるならそれ相応の覚悟が必要となるということ

 

あの獣達に気を取られるあまり、住民から背を

刺されるなどという事があっては笑い話にもならない

 

[ダンテ]

無い事は無いが…そうさな──”工房”なら…

 

 

「工房?」と疑問符を浮かべればダンテは頷き、

壁に立て掛けられた鎚と大型拳銃に目をやる。

 

なるほどあの様な機構を備えた武器、確かに

個人で用意するには過剰な周到さ、芸術性を感じた。

 

工房とはつまるところ、製造会社というところか

 

[ダンテ]

何も我々狩人は、皆が自分で武器を製造している

訳ではない。多くは特定の工房で仕入れているのだ

 

ノコギリ等を加工する伝統的な『古工房』の系譜…

医療の狩人が専属する『教会の工房』など

 

向かうのなら私が世話になっている工房か。

あそこは比較的、異邦人も受け入れる質だからな

 

[ジョン]

そりゃ良い、実を言うと武器にはちょいと拘りがある

職業病ってヤツだ。こう見えて従軍経験あってね

 

腰に差す拳銃──”S&W”製、磨かれたバレルと

グリップ、意匠…拘りの強さは顕著に分かるだろう。

喫煙に並んで銃器弄りと射撃は長いこと嗜んだ趣向だ

 

[ダンテ]

結構。しかしその銃、恐らく獣には大して

効かないだろうね。弾丸は通常の鉛なのだろう

 

[ジョン]

…ああ、44口径だ。確かにアンタの銃よりは

小柄ではあるが…効かない事は無いんじゃないのか?

 

[ダンテ]

口径の話ではないのさ。

見たまえ、私の弾はそも素材が異なるのだ

 

どれ、と手渡された弾丸を手に取る。

一見すると、敵に合わせてサイズがかなり大きい以外

それ程違いは見受けられない──が

 

重さの違和感。微量ではあるが

鉛のそれよりは弾頭部分に重厚感を感じた

 

[ジョン]

鉛や真鍮のみならこの質量は妙だな。中身は何だ?

 

[ダンテ]

───水銀『姿なきオドン』

 

 

────これには面を喰らった

冗談半分で”吸血鬼”やら”人狼”の事を考えていれば

まさか本当に魔術や神秘の類いが行われていたとは

 

”血の医療”とやらが、果たして信用して

良いものかすらこれでは分かったもんじゃない。

 

……しかし事実問題”獣”は実際に目にしたのだ

茶々を入れる間には、まずは有効打を知るべきだ

 

[ジョン]

…水銀ね、ただの水銀なのか?

祭儀の類いは必要なのか…利便性を聞いときたい。

ついでに他に使える物もな、杭とか…十字架とか……

 

[ダンテ]

聖なる貴金属としての効果かは定かでない

一つ、必要なのは血の医療を受けた者の”血液”

 

現実的作用として水銀の弾丸は”対衝撃”が向上する。

ただの眉唾等ではないのは私が保証しよう─────

 

 

以降、聞き出せた情報は決して確定的なものでは

無かったが、それでもプロの経験というのは

蔑ろにすべきでないのは重々承知している

 

曰く、獣には水銀と血液の混合物…そして火炎

鉄の杭は古くから獣狩りに有効とされているそうだ

 

また鋸状の武器は獣の厚い皮膚を削る事に長けており

凄まじい激痛を与えるのだと。(人間もじゃないか?)

 

そうして何やかんや、束の間の休息は過ぎていった

 

 

 

※ ※

 

 

 

再び市街の探索だ

 

相変わらず夜は冷えるが、ヤーナムに着くまでの

山道に比べれば建物に囲まれているからか

風通しは少なく、凍えるほどではない

 

案内人のダンテは馭者と荷物で手が塞がる此方から

先んじて道程に立ち、工房までの近道を辿る。

 

そしてその合間にも、彼は絶えなく

都の情報を話し続けていたのだった

 

 

[ダンテ]

都は主に三つの層で分けられる

 

一つ──聖堂街

先も言った通り、医療教会の総本山であって

祭祀色の強い教会群と、分限者の多い市街地だ

 

夜には教会の狩長が”執行者”達を引き連れ…狩りに臨む

だからさ、あそこは最も安全で最も危険にもなり得る

 

”執行者”とは、教会に仕える大柄な男たち。

 

ソレらの装いには小さな鐘が付いており、

住民は家にいる時も鐘の音に怯えているらしい

 

青白く褪めた顔に生気はとうに無く、

彼らはただ盲目的に、己の任をこなすだけなのだと

 

[ダンテ]

二つ──上街

夜が明けたら君が向かうべき場所だろう

上には民間の診療所があるからね

 

だが聖堂街の一つ下、中間に位置するだけあって

最も人の出入りが激しい…それだけ獣の出現も増える

そして…『古工房』は上街を拠点としているんだ

 

ダンテが言うには、古工房とやらは元は最初期の

古狩人達が手ずから立てた密かな組織だったそうで

その頃は、聖堂街の何処かを根城にしていた。

 

それももう、ずっと昔の話だそうだが

 

[ダンテ]

三つ──この下街だ

ここは貧困者が多いが同時に単独の狩人もよく見る

夜でなくともこの辺りは治安が悪い、気を付ける事だ

 

それと……”ヤハグル”には近付かない方が良いだろう

 

[ジョン]

ヤハグル?

 

[ダンテ]

ヤーナムの隣街だ。その昔は人の往来もあったが…

ある時を境に───”完全に封鎖された”

 

入る門は無くとも、故に彼処を根城とする者がいる

秘匿された地…それこそ”隠し街”とされる所以なのだ

 

……見えるか、アレだ

 

 

空を指差す───否、見上げる程に高い建物の群だ

摩天楼。それは山間の田舎街に聳え立つには

あまりにも懐古的であって先鋭的に過ぎた

 

ゴシック様式の意匠…下街の建物が目の前に

あるというのに、それで尚も空に見える高建築物は

ローマやイタリアの様な都市国家に勝るとも劣らぬ。

 

一体あれを築くのにどれ程の時間を要したというのか

その分不相応な光景と空気は、禍々しさをも魅せよう

 

[ジョン]

あれだけ天高く聳え建ってるのに…

入口は無いってのか。そりゃ尚の事気味の悪い話だ

 

 

妖しく差す月光、風を切る音。

身震いするような趣きに圧され、先を急ぎ去っても…

 

背を向けた方、ヤハグルの塔の何処かからか

 

深い憎悪の込められた───

雷鳴の如き咆哮が、聞こえた様な気がした

 

 

 

※ ※

 

 

 

工房に辿り着くまでには幸いな事に、

獣とは接敵する事は無かった

 

ダンテと通った道は限られた狩人が通るという

所謂、秘密の抜け道なのだと…彼は言う

 

確かに、時に不自然な程に整われた裏路地、

各所に散見される獣除けの吊り香炉など

周到に準備された痕跡は多く見当たり───

 

なるほど狩人の名に違わぬ十全な措置だろうと

とことん感心しきったのであった

 

 

そしてここ、工房

付近の民家などに比べれば高い建屋

赤レンガで積み上げられた壁は幾らかが苔生す。

 

3、4個の煙突からは黒煙が焚き上がり、それは

故郷、ロンドンの様に空を灰色に染め上げている

 

覗き戸のついた丈夫な鉄製の2枚扉や、

窓外に取り付けられた鉄柵は、獣や理性を失った

群衆に抗する為の防壁なのであろう

 

4回ノック、しばらくすると覗き戸が開いた

 

[ダンテ]

やあバッシュ。私だ

 

[バッシュ]

ダンテか──今開ける

 

 

金音が喧しいのは鉄のかんぬき、

数々の錠が下ろされてゆく証───

 

頑固な鉄扉が片方、俺達を迎え入れる

正確には…ダンテだけだったが

 

[バッシュ]

待ちな、君らは駄目だ

 

 

いかにもな作業衣を着た若年の男に制止された

この男は”バッシュ”と呼ばれてる様だ

 

[ダンテ]

古いよしみだ、私に免じてはくれまいか?

 

[バッシュ]

……今回だけだぞ、避難所扱いされたら困るんだ

 

[ジョン]

どうも、助かる

 

 

苦い顔した男はしばし考えた後、諦めがついたらしい

そしてようやっと俺と馭者を含め、迎え入れられた

 

 

 

 

屋内は先の礼拝堂と違い、今度はむせ返る様な

火薬や鉄、煤の香りに満ちている

 

それは俺にとって確かな安堵感に繋がった

 

かつてのクリミア、大勢の敵を討った

若きあの時代を思い出したからに他ならない───

 

 

…馭者は、今はソファに寝かせてある

心なしか顔が褪せた”トウワタ”*3の様に緑灰っぽく

なっているのは気の所為ではなさそうだが……

「おや…フフ…気付きましたか」

[バッシュ]

夜は店じまいしてるんだがね…

まあ良い、今日は何の入り用で?

 

[ダンテ]

弾の補充を、”ワンド”の3を1ケース

それと…”ソード”の4を2ケース、ライフルも頼む。

投血は全て私のもので済ませてくれて構わない

 

聞き慣れない単語だ。察するに銃器なんかの区別に

タロットの呼称*4を使ってるのだろうが、

 

傍から聞いていればダンテ──彼がライフルと

弾薬を頼んだ事しか分からないままである

 

[バッシュ]

随分奮発するじゃないか。彼は新しい相方かい

 

[ジョン]

──ちょっと待て俺の分か?冗談きついぞ

一体いつ、俺が狩人になったってんだ?

 

違和感は過ぎた武装を注文した事だった

何のことはない、それは俺に割り当てる為の武器だ

 

ライフル一丁、あの大鎚と大口径の銃を

手にした上で持って動くには邪魔でしか無い

 

さも当然の様に、それを頼んだのだから

少しばかり面が厚いというもの

 

[ダンテ]

む……やはり君もここに残るか?

 

[ジョン]

トラップ射撃*5ならともかく…

ここの”狩り”なんざ、金貰っても御免だ

 

素人が出る幕じゃないだろ

あんたらでやれば良いじゃないか

 

[ダンテ]

もっともだな。さて…どう説得したものか

 

 

 

 

 

再び、俺が外へ出る事へ拒否反応を

示してからというもの、ダンテは首を傾げながら

据え付けられた黒板へ熱心に何か紋様を書き出した

 

カタカタ、カタカタ…落ちる白粉は

黒ずんだ彼のコートを僅かに灰に染める

 

上下に囲う途切れた半月、その中心には目…

それを分断するが如く上から下へと一直の線

 

Moon()

 

紋様はそう記され、描き終えたダンテは

此方へやっと語り始めた────

 

[ダンテ]

…ジョン、”獣狩りの夜”は一夜では

終わらぬものというのは説明したか?

 

「…いいや」──初耳だ、今の今まではここで

夜明けまで辛抱する心積もりであったというのに。

 

指に挟んだ煙草を落とす程に、動揺は隠せず

懐からマッチを弄る手はずっと…硬直したままだ

 

[ダンテ]

通常、この夜は数日間を経て明けが訪れる。

言えば”ワイルドハント”*6、黄泉から来たる亡霊共が

現世を通り過ぎるという─────

 

 

数時間ならここで居候させて貰っても

問題は無かっただろうが、数日なら話は変わる。

 

数日となれば食料問題、ひいては病に侵された

身体が保たない可能性すらあるのだ

 

ならばいっそ、郊外へ馬でも掻っ攫って

逃げてしまった方が安全だとすら思えてしまう

 

そういう不安もよそに、彼はまた

胡散臭い話を語ろうとしてるではないか

 

 

[ジョン]

はぁ…御託はいい、要点はなんだ

 

[ダンテ]

……つまりだが、年々夜は期間が長くなりつつある

私は長い間その要因を調査していたのだ

 

前回の夜は何日続いた?

 

[バッシュ]

7日。これだけ長いと餓死する住民も多く出るな

 

 

───7日。

 

述べる事の重大さの割には、売人は淡々と

瓶詰めの血液と水銀の混合物を実包に注入する

 

下手な塹壕戦より、余程耐久戦だというのに

それはもうあっけらかんとした様相で…

 

[ダンテ]

そして今回は8日───分かるだろう

これは由々しき事態であるのだよ

 

夜と月は人の正気を削り、これ程の期間になれば

強靭な狩人でさえ蝕まれるのも珍しくはない…

 

私達は常に新たな力を欲しているのだ

鋼の精神を保つ、先見の明を持った異邦人をね。

単刀直入に言おう、私は君を勧誘したい

 

 

それはつまり、狩人としての誘いだ

 

従軍経験…この街の惨状を目にした上で、

異邦人にしては平静を保ち過ぎたのだろう

 

彼ら狩人は長く殺しに明け暮れると聞く、

血や死体の類いに動じぬ人間には敏感故に

そこに彼はきっと、つけ込んだのだ

 

[ジョン]

それで…俺には何か利点があるのか?

 

[ダンテ]

夜が早く明けるものであれば尚の事、

君にとっては助かるだろう?病の身であるなら

 

それに医療者が死なない保証はない。

彼らのリスクを除去するのは双方の利害一致だ

 

これで足りないと言うならば私から報酬も出そう

 

引き返せない選択だ。二つに一つ

 

いつ終わるとも分からない夜を、安全の

保証もない工房の中でひたすら身を潜めるのか

 

それとも、この物騒なヤーナムの街へ駆り出し、

ダンテの案内の下…終わらぬ悪夢の元凶を崩すか

 

どちらにせよ危険が伴うには変わりない。

だがそれなら…賭ける価値のある方を選んでも良い

 

[ジョン]

……武器を見せろ

 

[ダンテ]

フッ……そうこなくては

 

 

久々の死線。鈍った体を解すのには丁度いいだろう

何より俺は、ギャンブルで負けた事がないんだからな

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────

*1
北欧神話の神。農耕神や雷神として知られ、アース神族最強の戦神でもある。

*2
乳香。特定の樹木から分泌される樹脂。カトリックや正教会では度々使用される。

*3
多年草の一種。樹液は白乳色であり、Milkweedとも呼ばれる。尚これは「苗床」のカレルの英名と同様である。

*4
所謂スート。トランプカードの種別と同様。

*5
射撃競技。元は野鳥やガラス玉などを標的にしていたが、1880年代には昨今のクレー(焼き皿)が取って代わった。

*6
欧州に広く伝わる伝承。北欧神話では主神オーディンがこの狩猟団を率いるとされ、「獣狩りの夜」のモチーフとも思われる。




《 獣狩りの弾薬筒 》
ヤーナムに流通する獣狩りの弾薬
主に短銃の実包として知られているが
人へ撃つものに比べると、遥かに大きい

獣へ挑むなら武器を知らねばなるまい
夢に依らぬものなら、尚更だ
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