Bloodborne:Brave of Braze 作:NEXT_0809
造
汝
「神曲」地獄篇:第三歌−地獄の門−
───ダンテ・アリギエーリ───
───はッ…!!ぜッッ…!!
爆発的な鼓動が身体のうち、延々と鳴り続く
一時間近くにわたって走り続けたお陰で
滝のような汗が湧き出、肺と喉が焼け付く痛みに
当てられるが休む暇はまだまだ無い────
全力で走った甲斐はあって馭者はまだ息を
しているのが幸いだが、着いた先はというと
真夜中だからか人の気配が殆ど感じられず…
もっと言えば立ち並ぶ民家の中には
人影こそ微かに見えるもののまるで何かに
怯える如くに、立て籠もっているよう見える
(…土地勘が無い以上はしようがない。
どこかで医者の場所を尋ねるとするか)
そう考えに至ったのもつかの間、
あまりの閉鎖的待遇に裏切られる事となった
”─
居留守をする者もいれば怒鳴り散らす者も。
異様なほどの剣幕は、まずこの街の性質を物語る
薄暗い排他、隠匿主義は容易に悪印象を際立たした。
異邦人への村八分はさることながら、重症の地元民を
放る薄情さは田舎特有の結束力の高さにも反している
異常も異常、これに至るには恐らく理由がある筈で
街路を彷徨いながらも考えるが見当もつかない
……てんでぇ、話にならんじゃないか
時折聞こえてくる、狼のような遠吠え───
街中だというのに未だ野獣の声が響くというのは
実に奇妙だ。するとここの住民は”あれ”に
怯えているとでもいうのだろうか?
…いや、そんなまさか。
大方、この国の田舎は大体こんな感じで偏屈だ
欧州の辺境はやれ”
すぐに十字を切るような奴しかいない…
というのは偏見だが、実際にここに来るまで
都心の人間と比べ迷信深いような連中を
数多く見たのは確かだったのだ
(───お…)
先に見えた人集り。
しめた、連中に医者の場所を案内してもらおう
いや待て、様子が妙だ。怒号、罵声に威嚇
皆が松明を照らして何かしらの武装をしている。
斧や鋤を担いで殺気立ってる人間を信用出来ようか
本能が警鐘を高々と鳴らす…尉官の感というやつだ
なにはともあれ、迂闊に近付かない方が良い
どうしたものか、一先ず奴らが
何に鬼気迫っているのかが見物か──────
”いた
それは目を見張る光景だったのだ
ほんの一時間前に遭遇した黒い野獣───それが。
今度は二匹、先程と比べればやや小柄だったが
確かに群衆の奥の影がこの目に写った
(どうする…応援に向かうべきか?)
よしたまえよ、もう手遅れだ
「何?」と振り向きざま、横を人影が通り過ぎ
狐の様に素早く駆け抜けて一人の男が群衆へと向かう
男に伴って”臭い”が鼻に入り込んでくる───
慣れ親しんだ───煙の臭いだ
”
────ッッ!!
とても疾い。何よりも卓越した技術が見てとれる
幾度も死闘を切り抜けたであろう煤けたコートを
羽織った男が、何やら大きな黒鉄の金槌を果敢に
獣に振るう姿はいっそ英雄的にさえ見えたのだ
それも虚しく、一方の野獣に群衆は引き裂かれ
みるみるうちに血の海が出来上がるのはいかに
戦場を駆け巡った自分でさえも怖気が這い上がる。
だが、だからこそだろう──
煙、火の匂いに武者震いが止まらぬのは
”ガツンッ”──巨大な引き金が上がった音。
僅かな合間に群衆の殆どは横たわり
残るは二匹の獣と大槌を携える男のみ…
(おいおい…どうするつもりだ…?)
かくなる上はこちらも援護射撃を行う事を考えたが
しかし、その杞憂は不要だったらしい
あの左手に持っていたのは、大口径の拳銃。
一方の獣を射撃で怯ませ牽制した刹那
襲いかかるもう一方へと大鎚を振りかぶったのだ
直前までとは違う、火の気を揺ら揺らと上げて──!
”──ゴォォンッッ!!”
煌めく爆炎、つんざく爆音に獣達は目を、
耳を塞がれ、同時に一方は、対敵を抉るべく
付けられた突起付きの大鎚を受け盛大に吹っ飛ぶ
それだけでは終わらない。
続けざまに大鎚の引き金を再び引き上げ
残された一方を雷神トール*1もかくやという
大打撃で、その頭部を地面に叩き潰したのである。
それを皮切りに男の”狩り”は一旦の幕を下ろした
────眠れ、安らかに
※ ※
すまない、挨拶が遅れてしまった
私の名はダンテ。見たところ…君は異邦人かな
血を振り払い、空薬莢を放りながらやってきた男。
男は”ダンテ”と名乗り、ロングハットを外して
互いに軽い会釈を交わす───
ああ…俺はジョン、つい今しがたここにやって来た。
観光パンフレットでもありゃ助かるんだが…
見ての通り、医者に急ぎの用があってな
……ふむ、一先ずは安全な場所へ行こう
※
幾ばくか歩き、静かなヤーナムの街で
より重く、静謐な空気の漂う墓所を訪れた。
その中心にある建屋は石造りの地下へと通じ
屋内にはおびただしい数の骨壺が並び…
やや広く、またカビ臭くはあるが、しかし先を
見渡せない屋外の不安感よりは余程心地よく感じた
古い礼拝堂だ、ここならそうそう獣は入ってこない
…今日はとんだ厄日だったようだね、異邦の方
コートの男──ダンテが置き香炉を焚き、部屋には
仄かに甘いフランキンセンス*2…乳香の香りが漂う。
(少し混じる妙な臭いはこの街特有の風味か)
それは魔除けや祭典にも使われていたのだろうが
炉は錆び埃だらけで、今の今まで捨て置かれていた
俺を異邦人という割にはあんたの地元でも無さそうだ。
ご丁寧に英語で話してくれんのは有り難いが…
そのイタリア訛り───誤魔化せてないぞ
故郷の訛りを指摘された彼はきちっと香炉に
蓋をしながらもばつが悪そうに苦笑いを浮かべる
いやはや、手厳しいな。ご指摘の通り
私も元はよそ者さ、ここに住んでもう長いがね
さて…そちらの方の手当てをしなければ。
すまないが灯火を照らしてくれないか
言われるがままに渡されたランタンで馭者の身体を
映す…すると彼は懐から、半透明ながら底が
浅黒くなった血液パックを取り出した。
輸血液──意外だな、あんた医者なのか?
私は医療の知見などありはしないよ。だが…
ヤーナムにおいて狩人が輸血を行うのは珍しくない
おおよそ君も、ヤーナムの医療を求めて
来訪されたのだろう───これが、その一端なのさ
淡々と輸血針を馭者の腕に刺すダンテ
そこから静かに語られる話───彼が言うには
この街は、街の上層に座す”医療教会”がもたらすと
いう”血の医療”を主として成ってあり、それは今日に
至るまで民衆から狩人を支えてきた礎なのだと……
医療と教会が結び付くのは珍しい事でもない。
ただ、この男の言い方では医療そのものが教会の
信仰に繋がってるような言い振りで───…
そこはかとなく、奇妙な感覚を覚えたのだった
───ヤーナムの輸血は特に即効性がめぼしい。
ごらん、死に体だった彼の顔にも生気が戻ってきた
…血の気が随分と増えたな。いっそ気持ちが悪い位だ
薄暗い中でよく見えないので、灯りを更に近付けた
気味が悪い程に肌に潤いが与えられている光景は
この間読んだホラー小説で見知った感じである
あれは…なんだったか、確か…”女吸血鬼……
──いや止そう、ただでさえ訳の分からない街で
”獣の病”とかいう風土病が蔓延ってるのだから。
縁起の悪そうな考えは避けた方が気が楽だ
うむ、とりあえずはこれだけで十分だ。
折を見て何処か診療所で診てもらうのが良いが
不幸な事に今夜は獣狩りの夜…昼までは待つしかない
俺も走り通しだ、ここでしばらく休ませてくれ
納骨堂に入る際、ダンテが点けた”香”だったが
いよいよその独特な臭いに嫌気が差して、
懐から煙草とマッチを取り出し火を付けた。
思えば数時間ぶりのタール、喫煙だけは
自分を癒やしてくれるのだと染み染み実感する
”獣避けの香”を焚いてはいるが残りは少ない。
今晩ここで凌ぎきるのは、恐らく無理だろう
ふぅ──何かアテはないか?
俺はよそ者だ、受け入れる人間は限られてる
これまででこの街の景気は大体思い知らされた。
まず”獣狩りの夜”のこの街は危険な状態にある
次に、僅かでも信用出来る人間は今のところ
この”狩人”──ダンテだけであり、他の場所を
あたるならそれ相応の覚悟が必要となるということ
あの獣達に気を取られるあまり、住民から背を
刺されるなどという事があっては笑い話にもならない
無い事は無いが…そうさな──”工房”なら…
「工房?」と疑問符を浮かべればダンテは頷き、
壁に立て掛けられた鎚と大型拳銃に目をやる。
なるほどあの様な機構を備えた武器、確かに
個人で用意するには過剰な周到さ、芸術性を感じた。
工房とはつまるところ、製造会社というところか
何も我々狩人は、皆が自分で武器を製造している
訳ではない。多くは特定の工房で仕入れているのだ
ノコギリ等を加工する伝統的な『古工房』の系譜…
医療の狩人が専属する『教会の工房』など
向かうのなら私が世話になっている工房か。
あそこは比較的、異邦人も受け入れる質だからな
そりゃ良い、実を言うと武器にはちょいと拘りがある
職業病ってヤツだ。こう見えて従軍経験あってね
腰に差す拳銃──”S&W”製、磨かれたバレルと
グリップ、意匠…拘りの強さは顕著に分かるだろう。
喫煙に並んで銃器弄りと射撃は長いこと嗜んだ趣向だ
結構。しかしその銃、恐らく獣には大して
効かないだろうね。弾丸は通常の鉛なのだろう
…ああ、44口径だ。確かにアンタの銃よりは
小柄ではあるが…効かない事は無いんじゃないのか?
口径の話ではないのさ。
見たまえ、私の弾はそも素材が異なるのだ
どれ、と手渡された弾丸を手に取る。
一見すると、敵に合わせてサイズがかなり大きい以外
それ程違いは見受けられない──が
重さの違和感。微量ではあるが
鉛のそれよりは弾頭部分に重厚感を感じた
鉛や真鍮のみならこの質量は妙だな。中身は何だ?
───水銀
『姿なきオドン』
────これには面を喰らった
冗談半分で”吸血鬼”やら”人狼”の事を考えていれば
まさか本当に魔術や神秘の類いが行われていたとは
”血の医療”とやらが、果たして信用して
良いものかすらこれでは分かったもんじゃない。
……しかし事実問題”獣”は実際に目にしたのだ
茶々を入れる間には、まずは有効打を知るべきだ
…水銀ね、ただの水銀なのか?
祭儀の類いは必要なのか…利便性を聞いときたい。
ついでに他に使える物もな、杭とか…十字架とか……
聖なる貴金属としての効果かは定かでない
一つ、必要なのは血の医療を受けた者の”血液”
現実的作用として水銀の弾丸は”対衝撃”が向上する。
ただの眉唾等ではないのは私が保証しよう─────
以降、聞き出せた情報は決して確定的なものでは
無かったが、それでもプロの経験というのは
蔑ろにすべきでないのは重々承知している
曰く、獣には水銀と血液の混合物…そして火炎
鉄の杭は古くから獣狩りに有効とされているそうだ
また鋸状の武器は獣の厚い皮膚を削る事に長けており
凄まじい激痛を与えるのだと。(人間もじゃないか?)
そうして何やかんや、束の間の休息は過ぎていった
※ ※
再び市街の探索だ
相変わらず夜は冷えるが、ヤーナムに着くまでの
山道に比べれば建物に囲まれているからか
風通しは少なく、凍えるほどではない
案内人のダンテは馭者と荷物で手が塞がる此方から
先んじて道程に立ち、工房までの近道を辿る。
そしてその合間にも、彼は絶えなく
都の情報を話し続けていたのだった
都は主に三つの層で分けられる
一つ──聖堂街
先も言った通り、医療教会の総本山であって
祭祀色の強い教会群と、分限者の多い市街地だ
夜には教会の狩長が”執行者”達を引き連れ…狩りに臨む
だからさ、あそこは最も安全で最も危険にもなり得る
”執行者”とは、教会に仕える大柄な男たち。
ソレらの装いには小さな鐘が付いており、
住民は家にいる時も鐘の音に怯えているらしい
青白く褪めた顔に生気はとうに無く、
彼らはただ盲目的に、己の任をこなすだけなのだと
二つ──上街
夜が明けたら君が向かうべき場所だろう
上には民間の診療所があるからね
だが聖堂街の一つ下、中間に位置するだけあって
最も人の出入りが激しい…それだけ獣の出現も増える
そして…『古工房』は上街を拠点としているんだ
ダンテが言うには、古工房とやらは元は最初期の
古狩人達が手ずから立てた密かな組織だったそうで
その頃は、聖堂街の何処かを根城にしていた。
それももう、ずっと昔の話だそうだが
三つ──この下街だ
ここは貧困者が多いが同時に単独の狩人もよく見る
夜でなくともこの辺りは治安が悪い、気を付ける事だ
それと……”ヤハグル”には近付かない方が良いだろう
ヤハグル?
ヤーナムの隣街だ。その昔は人の往来もあったが…
ある時を境に───”完全に封鎖された”
入る門は無くとも、故に彼処を根城とする者がいる
秘匿された地…それこそ”隠し街”とされる所以なのだ
……見えるか、アレだ
空を指差す───否、見上げる程に高い建物の群だ
摩天楼。それは山間の田舎街に聳え立つには
あまりにも懐古的であって先鋭的に過ぎた
ゴシック様式の意匠…下街の建物が目の前に
あるというのに、それで尚も空に見える高建築物は
ローマやイタリアの様な都市国家に勝るとも劣らぬ。
一体あれを築くのにどれ程の時間を要したというのか
その分不相応な光景と空気は、禍々しさをも魅せよう
あれだけ天高く聳え建ってるのに…
入口は無いってのか。そりゃ尚の事気味の悪い話だ
妖しく差す月光、風を切る音。
身震いするような趣きに圧され、先を急ぎ去っても…
背を向けた方、ヤハグルの塔の何処かからか
深い憎悪の込められた───
雷鳴の如き咆哮が、聞こえた様な気がした
※ ※
工房に辿り着くまでには幸いな事に、
獣とは接敵する事は無かった
ダンテと通った道は限られた狩人が通るという
所謂、秘密の抜け道なのだと…彼は言う
確かに、時に不自然な程に整われた裏路地、
各所に散見される獣除けの吊り香炉など
周到に準備された痕跡は多く見当たり───
なるほど狩人の名に違わぬ十全な措置だろうと
とことん感心しきったのであった
そしてここ、工房
付近の民家などに比べれば高い建屋
赤レンガで積み上げられた壁は幾らかが苔生す。
3、4個の煙突からは黒煙が焚き上がり、それは
故郷、ロンドンの様に空を灰色に染め上げている
覗き戸のついた丈夫な鉄製の2枚扉や、
窓外に取り付けられた鉄柵は、獣や理性を失った
群衆に抗する為の防壁なのであろう
4回ノック、しばらくすると覗き戸が開いた
やあバッシュ。私だ
ダンテか──今開ける
金音が喧しいのは鉄のかんぬき、
数々の錠が下ろされてゆく証───
頑固な鉄扉が片方、俺達を迎え入れる
正確には…ダンテだけだったが
待ちな、君らは駄目だ
いかにもな作業衣を着た若年の男に制止された
この男は”バッシュ”と呼ばれてる様だ
古いよしみだ、私に免じてはくれまいか?
……今回だけだぞ、避難所扱いされたら困るんだ
どうも、助かる
苦い顔した男はしばし考えた後、諦めがついたらしい
そしてようやっと俺と馭者を含め、迎え入れられた
※
屋内は先の礼拝堂と違い、今度はむせ返る様な
火薬や鉄、煤の香りに満ちている
それは俺にとって確かな安堵感に繋がった
かつてのクリミア、大勢の敵を討った
若きあの時代を思い出したからに他ならない───
…馭者は、今はソファに寝かせてある
心なしか顔が褪せた”トウワタ”*3の様に緑灰っぽく
なっているのは気の所為ではなさそうだが……
「おや…フフ…気付きましたか」
夜は店じまいしてるんだがね…
まあ良い、今日は何の入り用で?
弾の補充を、”ワンド”の3を1ケース
それと…”ソード”の4を2ケース、ライフルも頼む。
投血は全て私のもので済ませてくれて構わない
聞き慣れない単語だ。察するに銃器なんかの区別に
タロットの呼称*4を使ってるのだろうが、
傍から聞いていればダンテ──彼がライフルと
弾薬を頼んだ事しか分からないままである
随分奮発するじゃないか。彼は新しい相方かい
──ちょっと待て俺の分か?冗談きついぞ
一体いつ、俺が狩人になったってんだ?
違和感は過ぎた武装を注文した事だった
何のことはない、それは俺に割り当てる為の武器だ
ライフル一丁、あの大鎚と大口径の銃を
手にした上で持って動くには邪魔でしか無い
さも当然の様に、それを頼んだのだから
少しばかり面が厚いというもの
む……やはり君もここに残るか?
もっともだな。さて…どう説得したものか
※
再び、俺が外へ出る事へ拒否反応を
示してからというもの、ダンテは首を傾げながら
据え付けられた黒板へ熱心に何か紋様を書き出した
カタカタ、カタカタ…落ちる白粉は
黒ずんだ彼のコートを僅かに灰に染める
上下に囲う途切れた半月、その中心には目…
それを分断するが如く上から下へと一直の線
”
紋様はそう記され、描き終えたダンテは
此方へやっと語り始めた────
…ジョン、”獣狩りの夜”は一夜では
終わらぬものというのは説明したか?
「…いいや」──初耳だ、今の今まではここで
夜明けまで辛抱する心積もりであったというのに。
指に挟んだ煙草を落とす程に、動揺は隠せず
懐からマッチを弄る手はずっと…硬直したままだ
数時間ならここで居候させて貰っても
問題は無かっただろうが、数日なら話は変わる。
数日となれば食料問題、ひいては病に侵された
身体が保たない可能性すらあるのだ
ならばいっそ、郊外へ馬でも掻っ攫って
逃げてしまった方が安全だとすら思えてしまう
そういう不安もよそに、彼はまた
胡散臭い話を語ろうとしてるではないか
はぁ…御託はいい、要点はなんだ
……つまりだが、年々夜は期間が長くなりつつある
私は長い間その要因を調査していたのだ
前回の夜は何日続いた?
7日。これだけ長いと餓死する住民も多く出るな
───7日。
述べる事の重大さの割には、売人は淡々と
瓶詰めの血液と水銀の混合物を実包に注入する
下手な塹壕戦より、余程耐久戦だというのに
それはもうあっけらかんとした様相で…
そして今回は8日───分かるだろう
これは由々しき事態であるのだよ
夜と月は人の正気を削り、これ程の期間になれば
強靭な狩人でさえ蝕まれるのも珍しくはない…
私達は常に新たな力を欲しているのだ
鋼の精神を保つ、先見の明を持った異邦人をね。
単刀直入に言おう、私は君を勧誘したい
それはつまり、狩人としての誘いだ
従軍経験…この街の惨状を目にした上で、
異邦人にしては平静を保ち過ぎたのだろう
彼ら狩人は長く殺しに明け暮れると聞く、
血や死体の類いに動じぬ人間には敏感故に
そこに彼はきっと、つけ込んだのだ
それで…俺には何か利点があるのか?
夜が早く明けるものであれば尚の事、
君にとっては助かるだろう?病の身であるなら
それに医療者が死なない保証はない。
彼らのリスクを除去するのは双方の利害一致だ
これで足りないと言うならば私から報酬も出そう
引き返せない選択だ。二つに一つ
いつ終わるとも分からない夜を、安全の
保証もない工房の中でひたすら身を潜めるのか
それとも、この物騒なヤーナムの街へ駆り出し、
ダンテの案内の下…終わらぬ悪夢の元凶を崩すか
どちらにせよ危険が伴うには変わりない。
だがそれなら…賭ける価値のある方を選んでも良い
……武器を見せろ
フッ……そうこなくては
久々の死線。鈍った体を解すのには丁度いいだろう
何より俺は、ギャンブルで負けた事がないんだからな
─────────
《 獣狩りの弾薬筒 》
ヤーナムに流通する獣狩りの弾薬
主に短銃の実包として知られているが
人へ撃つものに比べると、遥かに大きい
獣へ挑むなら武器を知らねばなるまい
夢に依らぬものなら、尚更だ