Bloodborne:Brave of Braze 作:NEXT_0809
乾
殺
ゆら
「ヴェルンドの歌」−第6スタンザ−
────古エッダ:神話詩より────
売人の話を聞きながら俺はライフルを手に取り
照準機、ライフリングが施されてるのを確認した
(近年母国に配備されたというスナイドル銃*3に
これは、よく似通っているように見える)
一見仏頂面に見えるだろうが内面はそうでもない…
微かに鼓動は高鳴り、脳内麻薬は着実に蓄積している
それもこれも品質の良さ。無骨ながらも、
美麗なバレルとストックがまるで芸術的で故に
先の、ダンテの誘いで落ちた気分は天へ上がったのだ
[ジョン]
呼称のスートは弾の形状からか。
さしずめ”ワンド”は短銃の様な一粒弾、”ソード”は
横から見たライフル弾を剣に重ねてるって感じか?
ああ、よく分かったな。
他には散弾銃の”カップ”、特殊銃器の”コイン”…
洒落てるな────そうだ、頼みたい事がある
片手間にアタッシェケースを開いて、
据え置かれた拳銃の実包ケースを机の上に置いた
俺が持ってる銃の弾だ、こいつに水銀を入れたい
見たこと無いな…最近の実包かな
「出来そうか」──様子を伺いながらも問い、
綺羅びやかに輝く弾丸を摘んだ彼は頷くが…
返ってきた答えは思いも寄らないものだった
或いは、至極当然だと言うべきでもあるか
技術的には出来る…だが君は”狩人証”を持ってない
注文が応えられるのは工房が認めた人間だけだ
──ならば丁度良い
彼に契約書を。発行手続きを行ってくれたまえ
横からダンテが一つの提案を差す
そこからはなし崩しに事が進みだした。
否応なしにバッシュが机の中から紙1枚を取り出し
インクとペンを用意、書く用意をしたその間、
ダンテは短銃の弾を懐にしまうなりをしていた
※────※
ほう…「青ざめた血」ねえ…
確かに、君は正しく、そして幸運だ
まさにヤーナムの血の医療、
その秘密だけが…君を導くだろう
だが、よそ者に語るべき法もない
だから君、まずは我ら、
ヤーナムの血を受け入れたまえよ…
さあ、契約書を…
※────※
第一条
発注者は、工房に対し製品の製作及び
発注者への供給を依頼し工房はこれを請負う
第二条
本契約の有効期限は依頼毎に更新される。ただし
期限満了時、若しくは工房の破産、発注者の死亡が
確認された場合につき発注者の本契約は破棄される
第三条
工房の製作物供給については、本契約に基づき、
個別契約を締結して行う。個別契約は発注者が
交付した注文書を受け、工房が注文書を発注者へ
交付する方法で行う。
第四条
工房製品の所有権は引き渡し時に発注者へ移転する。
第五条
本契約締結時に発注者へ渡される狩人証は
期限満了時、工房へ返却するものとする。
2.
発注者が狩人証の紛失、破損時に行う再発行は
別途支払金を工房へ納めなければならない。
つらつら書かれる書類を一通り目を通し、
自筆の署名───そして最後に、自身の血判。
軽く切った親指からはじくじくと血が滲み出す
様子を見て工房のバッシュが紙を手に取り
必要事項の再確認等を済ませた後には署名を見て
その名前を多少なり、訝しげに問うた
ジョン…スミスねぇ…偽名じゃないのか
…パスポートならあるが…
「いや、結構だ」───問題が無い、というより
面倒な事に顔を突っ込むのは避けたかったのだろうか
ペンを取って両者共に署名を終え、すると彼は
デスクの引き出しから、ごく小さなガラスの容器と
火薬入れを取り出し瓶に黒色火薬を満たす。
あれが証、極細のチェーンのついた工房の狩人証…
それを手渡し、俺の首元に掛けられたのを見て
バッシュは満足げに契約書を仕舞った
ふむ…よろしい、これで契約は完了だ
それでは鍛造を始めようか
改めまして、歓迎しよう。我らが同志ジョン
─────『火薬庫』へようこそ
※────※
よろしい。これで契約は完了だ
それでは、輸血を始めようか…
…なあに何も心配することはない
何があっても……悪い夢のようなものさね
※────※
契約を執り終えた俺は案内されるがまま
応接間の奥、木製の硝子窓がついた両扉を開け
だだっ広さを感じさせない雑多な加工場へ入っていく
溶鉱炉、鋳造器、金床───
真新しく磨き上げられた黒壇の銃床、
鈍い銀の銃身に至るまで、数々の品があちらこちらに
散見される様は、古い兵器廠を思い起こさせた
私は”バッシュフル”、皆からはバッシュと言われる
他の連中は今は寝てるから……私が対応する
先の話だが───拳銃の実包を、
水銀弾に変えたいという事だったな
その規格のものがうちには置いてない以上、
改造という形にはなるが…本来の担当じゃないから
品質までは保証出来ない。だから代金は取らないよ
工房の一角、弾薬製造に使われているらしき場所には
厳重に保管された水銀の容器や、それぞれの個人名が
書かれた血液ボトルの棚…そして作業台の上には
彼が言う様に別の人間の名前札が垂れ下がっていた
まるで”可笑しなその名前”には、少しばかり
驚かされたが彼自身も似た由来であると聞く。
設計師で年長者の”
金属鋳造の”
武器鍛造の”
銃器製造の”
弾丸加工の”
新米鍛冶の”
そして書記と会計担当の”
揃い揃って奇妙な名前だが、当然あだ名だそうだ
まるで七人のドワーフ──工房には似合いだろう
…にしても、この規模の設備、工房を回すのに
たった7人程度とは、余程効率的に動ける者ばかり
なのかそれとも単に人材が足りてないのか…
それは、定かでない。
S&W…44口径、アメリカンカートリッジ…か。
ふむ…今回作れるのは6発だ、
それ以上は次回にしてもらおう
それだけあれば十分だ
それとサンプルでもう一発貰いたい。今後来る
予定があるなら新しい弾もスニージーに用意させよう
───ダンテ!
呼びかけられたダンテが遠目から
ひょっこり顔出し何事かと此方を伺っている
水銀用の血液ストックが残り少ない
待ってる間、補充をしといてくれないか
ゴトンと、棚から引き出したのは”
先の血液ボトルの中の一つ、そして専用のチューブと
注射器やらの医療器具の類いであった
成る程、こうして定期的に採血をしては水銀と合成し
それを更に鉛の弾頭へと仕込む。最初の想像よりは
ずっと商業的、或いは実業的で体系化されたもの
水銀弾というのはそれ程にここヤーナムでは
一般的で、故に効力も保証されている物なのだろう
さておき…俺はまた応接間に戻って
ダンテの話を聞く事にした
今後の目標、何をすべきか…
しっかりと教えて貰うとしよう
※
流れ出る真紅の血が深緑色のボトルを満たし続け
やがて底はゾッとする様な、暗い色に変わる
結構な量を注いだ筈だがダンテは特に意に介さず、
こちらの質問、会話へとずっと意識を向けており…
しかしその後新しい戦地へ赴く身にとって
それは、大いに結構な事であった───
まずは聖杯大教会へ向かう、先ほども言った通り
今回の夜は既に8日になるが未だ明ける様子はない
元凶を探すのも良いが、このまま放っておけば
下街は崩壊する可能性がある。他の狩人と連携を
取りながら、尚且つ情報の共有を優先すべきだ
他の狩人と言うと?
古狩人デュラ。大教会周辺エリアが彼らの狩場だが
最後に会ったのは3日前、きっと彼らも消耗している…
取り急ぎ合流──向こうの状況次第では
恐らく、大規模な戦闘になるだろう
教会は住民の避難所、言わば最後の砦だ。
あそこの決壊だけは必ず阻止せねばならない
言うには、古狩人ダンテを筆頭に───
一部の限られた人間は夜は常、元凶となる”ある物”を
ずっと探しており、それらを狩る事を使命にしている
その一人が古狩人デュラ、ダンテと同じく経験豊富、
熟達の狩人であり、一定の範囲を回っているそうだ
俺としては手早く終わらせたいところなんだがな。
あんまり回りくどい様ならこの件は
無かった事にさせて貰うぞ、良いな?
お二人様───待たせたな、ご注文の品だ
作業が始まって小一時間の経過。バッシュが、
頼んだ6発の実包を麻布に包んで戻ってきた
早速それを手に取るや否や、じっくり検品をするが
彼ら”火薬庫”はとても精巧な技術を持ち得る様だ
見た目は殆ど変わらず、しかしそれでいて質量は
確かに水銀のそれになっており、シリンダーにも
問題なく装填が可能───これは。
───パーフェクトだ、バッシュ
当然だな。火薬分野はうちが最も扱い慣れてる
他に”蒸気機関”、”機械工学”になんでもござれだよ
問題無い様子で何より、それでは行くとしよう
支度は済んでいるか───ジョン
「ああ」───準備は万端
装備は中距離ライフルと腰に下げた拳銃、
そしてボウイナイフ*4。両腕には防具の代用として
手持ちの包帯を目一杯まで巻いた状態だ
他は一般的な服装にケープとフードがある程度だが
何、此方は射撃支援が主なので問題は無いだろう
荷物のケースは工房に預ける事にした。
貴重品の類いはあるが、正式な取引を交わした連中だ
流石に客の荷物を漁るなどという蛮行は起こすまい
お連れさんは良いのかい、置いていって?
そいつは連れでもなんでもねぇ、馬車の馭者だ
邪魔になるなら適当に追い出せば良い
微かに二人の目が見開いたのが分かる
ならばなんでまた馭者を、と尋ねられるのも当然。
むざむざしらばっくれる理由もなく簡潔に述べた
…この街に来る途中で馬車を獣に襲われた。
何とか撃退こそしたが倒木で馬車が倒れてな
面倒だったが、俺がここまで背負って来たんだ
……その銃で、追い払えたのか?
あとは火だな、棒きれを燃やして追い払った
奴さん目だけは柔いらしい…潰してやったよ
くつくつ笑うダンテ、顎を擦って感心するバッシュ。
彼らがこの反応なら異邦人にしては妥当に
過ぎる対応だったのだろう。何と言うべきか、
我ながら判断が良かったのは確かというところだ
こりゃやり手だな?君、やけに銃の扱いに
手慣れていたが軍人さんだったりするのかい
イギリス王国陸軍大尉…元と付けたほうが正しいか
ガキの頃は、親父の鉄工所で働いてた
…ふふ、バッシュ、彼はとんだ掘り出し物だぞ
なあ?迎え入れて良かっただろう?
ダンテの言葉に応答する事はなくバッシュによって
再び鉄扉が開かれて、夜の寒さと暗闇が視野に広がり
狩りへの一歩を着実に踏み出し始める────
だが、その前に大鎚の狩人は
俺へ激励をするが如く、静かに語った
ジョン、きっとこれは運命だ。
君がもし…私達が”探していた人物”であるなら
この夜の明けへ至る鍵はもうすぐそこにある
まさに詩人と言うべきかな。
大層な言い振りを聞かせるがしかしそんなもの、
先短い身には縁起でもない言い草であった
…運命なんざ、あてにするもんじゃねぇよ
血痰に咽る喉を押し殺し、その苛立ちも
我が道阻む獣達へ撃ち込むのが常套
昔から、それが俺だったのだ
いかなる困難が心に火を付け、心が体を鋼にする。
何時であっても、今回もそれは変わりはしない
邪魔をする者はすべからく叩きのめすだけだ
(だが運命だとも。君が”夢の狩人”であるならば──)
※ ※ ※
───獣狩りの夜が始まる───
※ ※ ※
《聖杯大教会にて》
夜が始まりとうに8日。獣の群れは群衆の失踪と
比例してずっと増え続き、留まるところを知らない
古狩人のデュラ率いる新参と古参に至るまでの者が
ヤーナムの下街、聖杯大教会に集結しつつあった
───デュラ!!これ以上は保たんぞ!!
数が多過ぎる───こっちも一人やられた!!
黒い頭巾の狩人。彼はデュラの三人の盟友のうち
その一人であり…狩人の装いに限っては簡素な、
ノコギリの槍と短銃を用いて、古狩人にも劣らぬ
熟練の業を見せる、屈強な狩人である
持ち堪えろッ!!一匹として入れてはならん!!
グレッチェン、向こうの援護に回ってくれ…!
アブラハム、こっちは任せるぞ
分かった!!
聖堂前門の二方、その方や担う女。
デュラと同じ古狩人───グレッチェン*5
その身の熟しは疾く、双短剣を前提とした技法は、
如何に敏捷な獣と言えど容易に捉える事は出来ない
その弟子のアブラハムは年少の狩人
変形機構を持った斧を振るい、確実に獣を討つ
※
激戦に次ぐ激戦、狩人達は近年類を見ない
長期戦と大群に見舞われて、消耗は大きく
皆に疲労の気が出始めており───
デュラ達が応戦する一画の反対、此方は
残りの”デュラの盟友”、その二人と名もなき狩人達が
獣、狂った群衆相手に悪戦苦闘を繰り広げる
連装砲…ガトリング銃の若き狩人
”青雷”の特異な金槌を振るう狩人
そこへ援護に加わるグレッチェン。ようやっと来た
応援を受けて、微かに狩人達は安堵の表情を浮べ、
だが直ぐに真正面の敵に顔を強張らせた
クソ…!皆下がれ…!!掃射する!!
ガトリングのバレルが甲高い音と共に勢い増し回転。
これより放たれるは対集団に真価を発揮する、
剛砲と言うべき、連続射撃の鉛の嵐だ
!?待て!!誰か来る…!!あれは────
好機を制止された理由とは、彼らもよく知る影が
獣の奥に見えたから、加えてもう一つの影も。
それが意味するところは一つ…この危機的状況に
おいて、確かな救いが訪れたという事
「───ダンテだ!!」
───古狩人ダンテ。
現ヤーナムで彼に並び立てる狩人は極少ない
その実力…誰もが認める程の老練
膂力、技量、そして特に人望の高さは闇夜に
生きる狩人には似つかわしくないとすら言えよう
狩人は皆、彼をこう云う───「撃鉄」と
見えてきた!ここからは入り乱れるぞ!
行けよポイントマン、援護は任せろ
古狩人の後ろを追ってきた異邦人は
脇目も振らず先導者にそう呼びかける。
今現在の彼らは互いが”
異邦の男はライフルを構え、古狩人を阻む獣を
類稀な命中精度を以て、四肢を撃ち抜き牽制する
(生きていた…!やっと戻ったか!)
古狩人ダンテの得物、”爆発金槌”はその重厚な
殴打の威力も当然ながら、本領は多対一の状況にある
熱気を帯びた赤い炉
一度撃鉄を上げて、着火した機構はそれを最後、
敵を爆炎によって薙ぎ払うまで収まる事はない
ふんぬ────ッッ
”───ゴオォォンッ!!”
閃光と轟音。前方数匹の獣が瞬く間に肉塊へと
様変わり───しかし相手はそれだけに限らない。
ダンテ!後ろだ!
背後は隙を晒す、しかしこれは彼自身承知している
後方へ気を配る必要は無い。
その為のライフルマンなのだから
”───パァンッ!!”
二人のコンビネーションは流麗で、
長年付き添った経験があるかの様な動きを見せ続く
(流石、これ程狩りに専念出来るのは久しぶりだ)
(良い銃だな…)
たった二人───されど戦況は、
それだけの差で容易に覆り始めだし
劣勢だった狩人達は徐々に士気を取り戻した
一匹、また一匹と…狩人に葬られ
やがて屍は山になり、燃え移った炎が屍から
鼻を突く異臭を放って、勝利の香りを醸し出す
もう一息だぞ!気を抜くな!
あのライフルの男、かなりやるよ
みたいだな…!さっきから見てる、
一発足りとも外してる様子が無い…!
女狩人と”デュラの盟友”の一人が、
背中合わせに語るのは異邦のライフルマン。
全ての弾が意のままの様に的確に、
場の狩人を援助すべく獣のあらゆる部位を撃つ
彼が狩人に非ず、しかしこれ程の技量を持つのは
当然紛れではなく…並外れた経験が故であるのだ
やっぱりちと、鈍ってるな?
全盛を通り越して尚、衰えは殆ど見せず
淡々とライフルの排莢、装填、射撃を繰り返す
彼はジョン・スミス。クリミア戦争の英雄
騎兵戦闘から塹壕戦…伏兵戦に至るまで。
その全ての戦場から生還し、あまつさえ────
孤軍奮闘、何十何百の兵を討ち取った男
何より特筆すべきは、その鋼の精神力
イギリスの自軍、友軍までもが彼を見てこう言った
”───
ジョン、左方目に────!!
!!
振り向きざま、獣の剛腕が飛び込んでくるが
それでもジョンは焦りの気を見せない
”───パァンッ!!”
飄々と交わし、ライフル射撃による”
撃ち抜かれた腕の痛みと衝撃に大きな獣は
途端に大きく怯み、その隙を見逃す男ではなく。
予め古狩人ダンテから手渡されていた火炎瓶を
獣、狼の様な大口に勢い良く突っ込み───
次に抜き出したのは愛銃のS&W. No3
”
───拳銃から一発の銀の弾丸が炸裂
火の付いた瓶は文字通り、獣の頭部を丸焼きにする
飛び散ったオイルにも煌々ときらめく炎が上がった
口内から気道、胃までの全てを灼き尽くされれば
この絶叫が、空に響き渡るのも当然である
へっ…旅道中平和ボケして仕方ねぇや
見事だよ…火炎瓶も役に立ってるな
それよかこのライター…良い物持ってるじゃないか
マッチより手間が省ける、煙草にも丁度良い…
ようダンテ、これ貰っていいか?
戦闘の最中にそんな雑談を交わせるのも
彼らが総じて強者であるから───
獣狩りの夜、そういう非常事態においても冷静を
欠かさない者は、だからこそ屈強な狩人となる
血に酔わず、狂気に呑まれぬ精神を彼は持っていた
…遅れはとっていられない、狩り尽くすぞ!
焚きつけられた狩人達の攻勢
雷電走り、ガトリング掃射の音
大斧が振るわれ、女狩人が走り出す
爆発金槌の一閃───杭打ち機が爆ぜる
ライフルマンの水銀が、尽くを撃ち抜いた
※ ※ ※
《ジョン一行が工房を経って幾時間》
───火薬庫の工房、応接間の暖炉は
緩やかに、ゆらゆら、炎が燃えて暖かい
工房のバッシュフルはただ一人その火をじっと
見つめている中…老年の男が作業場との扉を開けて
入って来、眠たそうに彼へと問いかけた
ん───バッシュ、誰か来てたのか
ああ”
いやぁ、構やしねぇよ。
──んで…そうか…新人が入ったか
謝罪を受けてドクと呼ばれた男は、
枯れた声で笑いながら机に散乱する書類を見る
それは契約書、ジョンが狩人証を
発行する際に署名した、血判入りの物だ
…普段なら余計な詮索はしないタチなんだけどね。
不用心に荷物を置かれたら私だって気になるものさ
バッシュといえば、先んじて発った
異邦人の荷物を、軽く漁った後であり…
だがしかし疚しい考えがあっての事では無い
金銭の類いには勿論一切手を付けておらず
触れられていたのは彼の個人情報だけだ
はっは…なんだこりゃ。”ジョン・スミス”、偽名か?
ドクもこうしてバッシュと同じ反応をした。
言ってしまえばジョンは誰が見ても怪しく、
その名も奇妙、組織的な誓いを交わした者としては
多少なりとも納得のいかない部分もあったろう
私もそう思ったんだ、行き場を無くした
一匹狼、アウトローの類いかとね────
だが、違うな。彼は中々に威圧感はあったが
あの澄んだ目付き…悪い奴じゃあないよ
ケースから取り出されているのは
何通かの手紙や電報…その全ては彼を労る
同じ死線を潜った軍の人間による文であった
悪性に塗れた背景を持つ人柄であれば
こんな物は当然、届くであろう筈がない
それはケースの中の勲章ですら示していた
それで…なあ、先生。
ふと貴方の昔話を思い出したんだよ
───教会の剣士、
ウォルターを
その言葉を聞いた途端、ドクは重い瞼をかっと見開く
思い起こされる記憶───古き良き、だが忌々しき時代
ずっと昔の話だ、”聖剣のルドウイーク”…
かの英雄が活躍をする、それよりもずっと前の。
古い剣士、教会の創始者、その一人
あぁ…そういう事か…
”スミス”…もしそうなら…因果だなぁそりゃあ…!
ドクは火薬庫の前身、オト工房の人間である
狩人達が狩りに銃を用いる様になった理由は
彼らオト工房が、ヤーナムの銃火器開発に
深く携わっていた所が大きかった
(なぁダンテ、これからきっと面白くなるぞ
なんてったって──”スミス”はヴェルンドの化身だ)
感慨深いのはきっとこの場のドクだけだろう
もうずっと、ずっと忘れ去られた時代の話だから
炉の底に貯まった、灰の様な思い出だから
────────
※グレッチェンについて。
脚注の通り、グレッチェンは海外コミックスに
登場する熟練狩人であり、またゲーム本編に登場する
”烏羽のアイリーン”と同様に「慈悲の刃」を持つ。
「慈悲の刃」は「狩人狩り」の称号と共に双方
唯一の物で、つまり、それが意味するところ
彼女はアイリーン以前の「狩人狩り」…
…という事になるが、詳細は定かではない。
(本作では、狩人狩りとして扱う事とする)
《 獣狩りの長銃 》
狩人の工房「火薬庫」の手になる長銃
主に異邦人や群衆の為に調整された銃で
これは特に、工房の先鋭的な技が垣間見える
長銃は射程が長く、だがそれゆえ大きい
ヤーナムの狩人にとっては扱いづらいだろう