Bloodborne:Brave of Braze 作:NEXT_0809
今
今
俺は
「リア王」-第四場:道化-
───シェイクスピア───
狩人が会敵した獣の”
ダンテ…並びにジョンの介入が決定打となって
戦闘の区切りをここに迎え、一同は胸を撫で下ろす
現場の各所、立ち昇る灰色の煙と赤い炎は
やがて段を重ねて薄く、勢いを弱めて鎮まった
狩人は一様に息を荒げ安堵をするも、反面堂内は
恐怖と不安の呻き───啜り泣く子供と女の嗚咽が
ひたすらに満ち、束の間、勝利の余韻にも浸れぬ
”神よ…どうか私達を…娘をお救いください……”
”慈悲を…獣に食まれては眠れもできますまい…”
若はすべから、老いたりの至るまで、
懇々と群衆は堂内奥の祭壇へと拝み嘆くばかり
辺り溢れんその姿等は辛く休息を摂る狩人達にすら
とても憐れに見え…それぞれが悶々とした心持ちで
装いを整え、負う身に輸血を施していたのだった
慣れたつもりだったけど…
やっぱりこういうのは気が滅入るなぁ…
致し方無いさ…私達はともかく…
彼らに夜明けの兆しは、見えてないのだから
語る師弟は壁にもたれ、茫然と人の集りを見つめ
思い思いの心境や考えを呟いている
二人からやや離れた荷物置きに腰を掛ける男。
ジョンは深い沈黙の元、拳銃を弄って気晴らしに
耽っていたが、徐ろにポケットから一発の実包を
取り出し…煙草の煙を吐いて、それを装填した
”───パァンッッ!!”
空を切る弾丸、水銀ではない。
なれども上へ放たれた弾には、明確な苛立ちが
込められており…彼の予想通りに堂内の人間全ての
視線を集め、尚且つ、恐慌の色が含まれる
黙って寝てろ、おちおち休憩も出来やしねぇ…
数々の眼にも臆する事はなくジョンは低く唸る様に
周囲の、特に拝手を捧げる民衆へと言い放つ
その威嚇もあってか、多少なりとも
祈りの声は小さくなっていった
だが、斯様な事をすれば当然ながら敵意を買う
特に青年狩人は、明らか顕著であろう
なんだよあいつ…!あんな威かす事無いだろ…!?
青年アブラハムの発言を半ば遮る様に、
師のグレッチェンは一歩一歩と前に進み出───
落ち着き、しかし朗らかな声色で以て彼に挨拶する
やあ、乱暴だな
方やジョンは、素知らぬ顔。
射撃により熱した薬莢のみを手早く懐に収め、
銃口の残煙をフッと息で払い、腰の隣に置いた
ああいう糞共は適当に黙らせときゃ良い
やれ呪いだ、神だ…祈るだけの奴は全く虫唾が走る
…ゔ…ゲホッ……!
人間そういうものだ。どうにも君は肝が
座り過ぎている様だが、それで煙草には縋ってる
女狩人の、幼い子供を宥める様な言い振りは、
何人寄せ付けない威圧的な異邦人に吹き込まれ
彼も、その様子を見て次第に頭を冷やしていく
ふぅ…祈願と嗜好を一緒にするんじゃあない
何年の付き合いだと思ってやがる、25年だぞ
言う通り、何せ彼の煙草の馴れ初めは
クリミア戦争以前、少年時代にまで遡る程である
全身の至る所まで焼けた葉の匂いは染み透り
これ無くしてジョンの人生は語れぬと言える位には
生き甲斐の大部分を覆っており───だがそれ故、
命を縮めていたというのはまた皮肉な話であろう
※
その頃、他の古狩人連中は教会の大扉の外、
堂前の戦闘があった場にて次の攻撃に備える為
数多くの獣や、狂った群衆の遺体を端に寄せた後
知己の仲同士───改めて挨拶を交わす
特に古狩人ダンテの合流はデュラ達にとっては
ずっと喜ばしく、彼らは互いの無事を讃え合い
血塗れた装束でありながらも、固い抱擁を遂げた
無事で何よりだ。グレッチェンは…
…まだ残っていたのだな、てっきり
もう街を発ったものかと思っていたのだがね
ちらりと扉の方を横目に見る。
かの女狩人は、ダンテが発つ前には
この教会に居なかったがそれも理由がある
というのもグレッチェンはこの夜の以前に
狩りに潮時を感じ、既に一線を退いていたからだ
だが────
「アブラハムが心配で戻ってきた」だそうだ。
まあ、弟子想いなのは良いことだろう?
…それよりも────”あれ”は、見つかったか
暗に彼らだけが知る”何か”を尋ねたデュラ
それはダンテにも通じたが、彼は首を横に振り
それらしい成果は無かった事を告げた
虱潰しで探したが、やはり
だが…!良い戦力が見つかったのは幸いだよ
…あの男か?射撃の腕前は、確かに一流だったが。
いや…異邦人…まさかとは思うが───
足下に転がるライフル弾の薬莢をダンテは手に取り
勝ち誇った様な、にやりとした表情を浮べ…
デュラは一連のその行動から、一つ憶測を立てた
だがダンテはそれも否、と首を振る
彼らが求める”物と者”──その片方では無いと
”まだ”彼では無い。数時間前にここへ来たばかり
血の医療は未だ、受けていないのだから
しかしさっきのあの動き、只者ではなさそうだな。
熟練の狩人でも、ああまで状況判断に長けてない
それも……輸血もせず、か…
視界外からの奇襲を躱し、手持ちで行える迎撃法を
即座に組み上げるのは生半の芸当ではあり得ない
狩人ならいざ知らず、狩りの経験など有りもしない
異邦人が平静にして獣を仕留めるのはそれこそ、
何かしらのプロフェッショナルか英雄的な者位だ
アレは化けるぞ、何より理性が非常に強い。
技術は言わずもがな、ものの数時間であの順応性だ…
お前も挨拶しとくと良い───
して古狩人の二人が会話をしている中、
教会の扉が開かれ、堂内に居た他三人が戻ってきた
ジョン、グレッチェン、アブラハム───
あいも変わらず重い空気の教会を耐えかねての事か
特に異邦人の彼と青年は、難しい顔をしている
話に聞いた。貴公がジョン…で良いかね
アンタがデュラ…ぺっ…セルビア人か
さぞやり手なんだろうな、何しろアンタの
地元の迷信が今現在、彷徨いてるワケだ
次はなんだ?吸血鬼か?ハッ……
残り無い煙草を口から吹き落とし、
それを乱暴に踏みつけて火種を完全に消す。
血溜まりに落ちたそれはジュッと音を立て
既に火の光はあろう筈も無かったが───
これも今の機嫌の現れだろう…
苛立ちは古狩人デュラの目にも明らかだった
出鼻を挫かれたか…気を損ねてしまってすまないが
今は互いに嫌疑にかかる暇ではないのは分かる筈だ
…眠いだけだ。それで?次はどうする
今後の経緯を尋ねられたダンテは
迷う事無く、きっぱりとやるべき事を言う
この一帯の獣を掃討するしかあるまい。
血肉が、奴らを呼び寄せる…
立地もあってかここは空気が淀みやすく
そこら中から獣が集中して来ているようだ
教会の周辺は上町や山岳に取り囲まれており
故に下街は、血と獣臭に溢れる───
更に言えば、教会裏の崖下は川がある為に
夜が明けた平時においてすら常に湿気が滞り、
これらの異臭に拍車を掛ける要因となっているのだ
各方向に分散して端から狩るとしよう
幸いここに集った狩人は皆…優秀な者ばかりだ。
教会に近付くまでに各個撃破出来れば被害も少ない
そうと決まれば、組み合わせは大体決まってるな
デュラと連れの3人、私とアブラハム、
で…この、気難しい旅行客とダンテだろう
良いんじゃないか。それで行こう、リーダー
その場にいた女狩人と”デュラの盟友”の一人、
ノコギリ槍を得物とする男は、デュラに賛同し
それぞれの武器を手、いざ行かんと身を乗り出す
しかしこれは制止されてしまった
異邦人のジョン、彼は納得が出来ぬ、
或いは呆れたという風に難を示したから
……まあ待てよ。
どの程度、奴等がいるかも分かりゃしねぇんだ
ちったぁ頭使え、お前ら狩人の器が知れるぞ
何も知らない癖に口を挟むなよ
行こうグレッチェン、時間が勿体ない
先の発砲、この荒い言葉遣いといい、
青年狩人が彼に嫌悪を現すには十分に過ぎた
嫌悪感を悟れぬ程、ジョンも鈍感では無いが
彼にとっては至極どうでも良く…また流す質だからか
ジョンとアブラハムは、犬猿の様に火花を散らす
それには年の功も関係してあるのだろう
青年は年相応に他人にも敏感で───
壮年は年不相応に傍若無人であったのだ
こんな田舎で、どの程度物を知った気になってんだ?
下手打ちたくなきゃ黙って聞け───坊主
何を、と昂るアブラハムが革の手袋でぎちぎちと
握り拳を作ったあたり、見かねた師の女狩人が
彼の肩に手を置いて冷静になる様に促した
そう猛るなアブラハム、
まずは彼の提案を聞いてみよう
ここは臭いが貯まりやすい…
…血肉に誘われて来る。そう言ったなダンテ?
じゃあまず囮はある訳だ、旨い香りのする餌がな…
面々は囮という単語に反応こそしたものの、
肝心の”その物”が見当たらぬ事を訝しむ
するとジョンは後ろ手に親指を指した。
その先は獣や、獣化間際の群衆の遺体の山だ
分からんのか、そこに腐る程あるじゃないか
どれもこれも新鮮だぜ、食うに困らん
…要は、片っ端から探し回るよりも
ここで迎え撃った方が早いんだ。何か違うか?
デュラやその盟友達は口々に、避難民へのリスク等
異論を炙り出し異邦人との軽い議論に発展
一方の古狩人ダンテと女狩人は深く考え込み
アブラハムはしばらく、その様子を見て不安気に。
血の海の上、狩人達は最善の案を導き出さんが為
あれやこれやと饒舌に口を走らせた結果は────
彼には確かに一理ある、もう一週間だ
これ以上まどろっこしい事はやってられない
物分りが良くて助かるよ、何…心配しなさんな
別に人を縛って吊るし上げる訳じゃあない
あんたらは?まだ異論がある奴は、いるか?
ざっと彼が見渡すも皆、グレッチェンの言葉に
ぐうの音も出ないばかりで、眉間に皺を寄せはするも
反論異論にまで漕ぎ着ける気配は無かった
私はジョンに賛成するが…デュラ?
……むぅ……背に腹は代えられん
…貴公に指揮を仰ごう、どうすれば良い?
最後に古狩人デュラが賛成したところで
異邦人の男はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
これよりは元陸軍大尉の独擅場、血塗れた狩人達が
持ち得なかった合理主義の戦場、その築きである
※ ※
使えるものは全て使え、時間が何時までも
許してくれると思うなよ!早くしろ!!
作戦の決定からしばしの時間が経ち、今に至る。
堂内に貯蓄されていた備品の木箱や樽、木材や土嚢
それら多くを駆使して簡易なバリケードを構築、
粗い作りの防壁裏には火炎瓶や幾多の長銃が備えられ
戦場さながら、その光景は何処かあったかもしれぬ
古い、革命戦争を思い起こさせるものだ
あそこまで引き上げる理由はなんだ?
盟友の一人、”
教会前の建屋上を指す────
ロープで吊り運ばれた獣の死体。
火を付けたばかりなれど、焦げ付く死臭は
皆の鼻を突き、狩人ですら酷い臭いに顔をしかめた
だが、故に意味があるとジョンは息巻く
異邦人の俺でも分かる。
下街は谷間が故、風の通りがかなり強い
上で焼き、そして血肉の臭いは街中へ放たれる
これがさっき言った餌だ。
幸いだったのはこっちが風上だった事だな
ははっ、どうだ?匂い立つだろう…
煙が夜闇に高く吹き上がればそのままに、
荒ぶ突風から運ばれ、獣性誘う薫りは遠くへ舞う
屋上へ、路地へ、川下と、衝動のままに蔓延る獣には
ずっと甘露な獲物。その符牒の他には有り得ぬと…
狂おしい月へ、それらは更に更にと拍車を掛ける
作戦を回す第一の歯車、ジョンは後より起こる、
虐殺の光景を脳裏に浮べて鼻で嗤い───
───そこへダンテ、彼が戻ってきた
火薬の設置は終わった、次は?
事前作業は残り程なく、じき完了する見込み。
指揮官自身決定打を成す為に必要な物は
既に分かっている。これが、最後の歯車なのだ
中の奴らを引きずり出す、人手が足りん
──難しい事はない、数には数で対抗するのみ
※
大教会の中、多くの人混みを掻き分けて進む
最初と何ら変わり無く、泣く子をあやす母も居れば
ぶつくさと物を言う老夫婦などなど、
全く嫌気が差す光景にジョンはやはり、秘めた
苛立ちを胸にしながら堂内奥──中央の祭壇へ
ひょいと飛び乗り、咳払い。声を張り上げた
───諸君!!話を聞いてもらえるか!!
一斉に目線が前に向く。祭祀の壇を足蹴にするなど
罰当たりな行いに群衆は目を丸くし、彼に罵声を
浴びすものの、そんなものには聞く耳持たぬ
この行動とはまるで道化の振る舞いの様
また続いて、声を張り上げた
外の騒ぎを聞いていた者なら分かるだろう
我々狩人はここ数日、この教会を守り通してきた!
赤子も聞き耳を立てる程、芯の通った大声は
建物の中に響き渡って悪しき囁きをも掻き消す。
故に群衆は否が応でも耳を傾ける他なく
否定の声も演説を続く異邦人に届く事がない
諸君等が無事なのが何よりの証拠
結果、今までこの扉が破られる事は無かったのだ
しかし、最早諸君等の身を保証する事は出来ない!
我々は戦い、守り、消耗し過ぎた!
意図を汲み取れず訝しむ者は首をかしげ、
察しがつく者は顔を青ざめさせて更に耳を傾ける
怯え腰の者の姿はジョンにとって、よく見慣れた物だ
幾年も前の戦場は、それで満ちていたのだから
彼の記憶には───今も鮮明に刻まれていた
繰り返し言おう!保証は無い!
狩人では、我々だけでは守り通す事は出来ん!
故に欲している!我々は果敢な人間を!!
獣に仇なす為の、一つの弾丸を!!
勇気ある者、戦える者は挙手を!!
しんと静寂に還る教会の中はいっそ不気味な程だが
一度場が静まれば、口々と彼を忌々しげに罵る声が
また湧き上がり、殆どの者は暗い眼孔の中、
ちらりと見える冷たい瞳を覗かせ───
熱気の篭った呼び掛けに応えようとする
姿勢は、微塵にも見える事は無い
”俺達を獣から引き離すのが義務だろうが…”
”お前らが病を呼び込むんだ!” ”消えろ、よそ者…”
刺々しく浴びせられる声にもどこ吹く風、
ジョンは内心、心底呆れたものだった。
それでも秩序なき言葉を制して、
今度は彼らの揚げ足取りから演説を始める精神は
誰が見ても、中々気丈夫に見えたものだろう
”よそ者”、確かにそうだとも。
私はただ一介の異邦人に過ぎん
───けれどおかしな話だ
よそ者に戦うべき道理があろう筈もない
我々がここを棄て去ったとしよう、
皆は黙って獣に貪り喰われる意中か?
腕を組み、一本指を立て、ざわつく民衆を、
振る舞いからして更に高圧的な態度を取り続く
さしもの排他的なヤーナム人と言えども
大勢に全く怯みもしない大男を前にしては、
ただ傍聴人として…聞きに徹する他無い
問うているのだ───きっと側には、
愛する者が、妻、子供達がいるのだろう
或いはその家族を無惨に殺された者もいよう
彼らの為に立ち上がれる者は諸君等の中には、
誰一人としていないというのか?
その言葉だった。異邦人の演説が初めて
冷ややかな彼らを胸打った台詞は────
それぞれが周りの意見を伺い、親しい者を
見つめ、一様には言えぬが何かへ思いを馳せる
着実に民衆の意識はジョンの手の内に集い、
最終的にはたった一人が、やっと手を挙げた。
か細い、だが意志に満ちた、女の手
…前へ
ジョンは人混みに消え入りそうな挙手をも
決して見逃さず、組んだ腕を解き、手を差し伸べた
何処にでもいる女性だ
貧相な佇まい、しかし立ち上がった名の知れぬ
彼女は、使い古したスカートを引き摺りながら
短い歩幅で、一歩一歩を踏みしめ祭壇へ辿り着く
して、彼女は大勢の人の方へ振り向き、
そこで初めて思い知ったのだ
「ああ、我々はなんと哀れな姿なのか」
祭壇から飛び降りたこの異邦人からは、自分達は
目も当てられらぬ程に小さく、ひ弱に見えたのだと
…あ、あの…
御婦人、手が震えている。
どうしてここに立ってくれた?
”何故前に立ったか” 問われた時、彼女は今一度
己を奮い立たせ、真っ直ぐ男を見つめ語った。
感極まった故か、女性の瞳は、赤く潤んでいる
息子が…いるんです…夫は夜の前に出たきり。
ずっと帰ってきていませんが…
…きっと殺されてるでしょう…
正義感なんかじゃ無いです
ただ、あの野蛮な獣を息子に近付けたくない
夫の仇も…とらないと…!!
震える声を絞り出す女性に、紛う事無くジョンは
強かさを、ある種の神聖ささえも見い出す。
彼が何より尊ぶ物とは勇気───
第一声が、この他愛のない様に見えた女性である事に
何よりもまずは深い感謝と、尊敬の念を抱いた
…旦那さんは貴女の様な奥方を持てて幸福だ。
子を背にした母は何よりも強い。
それこそ、強大な敵に一矢報いる事が出来る程に
御婦人、私は一人の男として貴女に敬意を示そう
そう言い彼は、まさに英国の紳士らしく
彼女の手の甲へ口吻を交わして、再び声を大に発した
前に出た女性というと───慣れぬ礼節の行為に
ほんのり顔を赤く染めてはいるが、恥づを振り切り
キッと大衆へ視線を、異邦人と共に向ける
この真に貴婦人は、今、獣に抗する銃を握った!
神に祈らんが為に、手を握るのではなく!
これがどれ程高潔な行為か、
ここにいる他人任せの者等には分かるまい!
女性が立ち上がってからというものの、
野次は鳴りを潜めるばかりか、彼の言葉が確かな
効を成した証として、ばつが悪い表情をした者が多く
見受けられ…次第に一人、一人と手を挙げ始めた
”僕も戦いたい” ”私もだ、家族がいる”
うら若い青年、恰幅のある男や諸々。最後には
総勢十人を超える志願者が現れた事に、ジョンは
満足げに鼻を鳴らして残った者達へ賛辞を促す
手ずから君達の城を守り抜かんとする、
この勇気ある志願者達へ…大きな拍手を───!!
始まりは呪詛にも似る、暗い祈りに満ちていた教会…
演説が終わる頃には微かに希望の光が溢れだした。
拍手と喝采は嵐が如くに渦巻き、
”獣”という共通する敵を前に昂る
今や民衆達は夜のヤーナムを彷徨う、
正気を失った冒涜的幽鬼の様な群衆とは異なり、
”炎”に充てられた意志を──心に宿しているのだ
斯くて、史上類を見ない扇動者によって
狩りの夜にあるまじき、統率のとれた民兵が誕生した
この事は後々───
幾多の名だたる狩人や、医療教会に知れ渡り、
かの異邦人が最も強かな狩人である事を
裏付ける逸話の、数ある一つになったという
※ ※
《ヤーナムの何処かにて》
───フフフ…素晴らしきかな、異邦の方!
薄暗い実験室の片隅、月光の映える窓際
ずるずると蠢く、青白い星輪のヒダ
”啓蒙”無き者にとって、それは宇宙悪夢的光景ながら
何処か幻想的な───異次元の色彩を写し見す
蛞蝓にも見えるこの男は何かを視ている
だが何を通して何を視るのか、まだ”君”は知り得ない
ふわぁ…飽きないねェ…あんた…
”犬”は散歩かい?ちょっかい掛けに行こうかしら
真紅のソファーに寝そべり、
血の如き実を食むのは眩い銀の女。
死体の様に青ざめた皮膚は吸血鬼を彷彿とさせ、
同時に赤紫の唇は、劣情を抱かせる程妖しい艶を放つ
だが女は妖艶も掻き消す位にはだらけ、
焼けた骨の様な甲冑を、ソファーの厚い皮布に
ぎゅーっと押し込み押し込み、退屈に呆けていた
おや、読者の皆さん…すみませんね!
私達”二人”の出番は今しばらくなさそうで!
そんなこんなで退屈しておりますよ!ええ!
(何に話かけてんだか…)
…まだ、彼らの出番は来ない。
しかしながら、そう遠い話でも無いのだろうか
※ ※
狩人達が狩りの備えに勤しむその同時刻。
影なるヤーナムの、更に影なる隠された街にて
天高く聳える摩天楼の数々…”
轟と吹く狂風にも揺られず、尖塔を這い上がる影
只人ならば易々と吹き飛ばされる渦中でこそあれ、
なれども、この影は決して墜ちる事は無い
────何故か?
それは、獣であって人には非ず
しかし、人であって獣には非ず
狭間に彷徨う獣人、”抱擁”を受けた狩人故に。
”───ダンッ!!”
塔の外壁を抉り、跳ねたと思えば
そのまま一気に平野の狼の様に駆け上がる
あっという間に頂上に辿り着いた獣人は
鋭い槍の様な頂天に爪を喰い込ませて空を嗅いだ
チッ……嫌に臭うぞ…
えづくじゃあないか、狩人共…
その装い。酷く惨めな襤褸を纏い、背には巾着袋を、
ぶとい鉄塊──”獣肉断ち”と散弾銃を負っており
この上で天高い塔を駆け上がったという事実
襤褸と体毛に隠された肉体はまさしく、
野獣の様に強靭である事が覗えるだろう
唸り、獣頭を抱え、悩ませられた獣人だが
何がしかの結論に達したのか、凶暴な牙を剥き出し
ひゅうひゅう鳴る風に流す様に独り言ちた
そうか…奴か…蛞蝓男が言っていた…”今宵の”とは。
焦げ付く肉、血肉を燻らせ、我らを誘う者…
───
狂乱に吠えゆる───まだ見ぬ”あの狩人”へと。
煮える憎悪を向けて、月の夜の夢に、罪業向けて
────アオ”オ”ォ”ォ”ーンッッ!!
砂の底に座す、雷鳴の獣…或いはその”再誕”
尖塔の頂に咆えるは───忌々しき獣血の背教者なり
《 奇矯の焼葉 》
異邦から持ち込まれた嗜好品
このシガレットカードは「愚者」だ
古都ヤーナムにおいて喫煙は物珍しく
一部の狩人が愛好する程度、希少であった
なお「愚者」とは道化、番狂わせの意である