Bloodborne:Brave of Braze   作:NEXT_0809

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達はこの
(We fear This)
石の城を恐れて(castle of stone)いる

の魔王が跋(The mountain king)扈してい(roams)るから

一人ではな(All alone in here)

を彷徨(But he's not)う、山の魔王(the only one)者ど(Lost inside)もは
陽から永(Forever hidden)劫に隠されて(from the sun)いる

「山の魔王の宮殿にて」−ペール・ギュント−
───エドヴァルド・グリーグ───




05.山の魔王の宮殿にて

 

異邦の男が演説している最中

斥候に出ていた古狩人グレッチェン

所以も知らず、一時の拠点に身を帰した際には

その変わり様に疾く驚かされたのであった。

 

一つ、この僅かな時間でバリケードを

殆ど十全に、広く構築しきった事

 

二つ、先までは教会の内に滞っていた筈の

あの群衆達がジョンの指揮下に下ったという事

 

特に二つ目は、全く目を見張る光景だった

 

長銃の扱いを心得ぬ彼らに手取り足取り教え、

此度の戦闘で何を重きに置くかを説く男の姿は

確かな説得力と心強さに満ち溢れている

 

 

[グレッチェン]

なんというか、凄いな

 

彼女がそう声を掛けると、ジョンは切りよく

一通りの指導を終えたのかライフルを肩に吊り下げ

グレッチェンと───遅れて、教会裏から

彼女と同じ任を終えてきたデュラに歩み寄った

 

 

[ジョン]

使える物は全部使う信条があってな…

斥候の報告。状況はどうだ

 

[グレッチェン]

君の思惑通りだよ。囮に効能あり、

周辺の獣は着実にこっちに集まってる

 

それも相当の数───激戦になりそうだ

 

[デュラ]

旧教会側には獣は見受けられ無かった

 

これならば前面に専念出来る分、

迎撃の分散も考えなくて良い

 

現本堂であるこの聖杯大教会の裏手には聖堂街に

通ずる上層と、谷間の街の中でも、一際築歴の古い

旧「聖杯教会」を取り巻く寂れた裏路地があるが

 

かの区画はそもそもの住民が少ないのもあり、

デュラが確認に向かった際には人気どころか

獣の気配まで、血の痕跡一つ見当たらなかった

 

───下層は”隠し街”に近いが故か、獣ですら

郊外に通ずる大門には易々と近寄ろうとはしない

 

不気味な事この上ないが、目先の問題を

優先すべき今は都合が良い話だとも言える

 

 

[ジョン]

一先ずは…問題無しと

 

[グレッチェン]

そうもいかない、遠目に確認しただけだが…

大物がいる───恐らく奴も来るぞ

 

なら広域の方はといえば、はっきり朗報とも言えず

グレッチェンが哨戒の際、障害となり得る物を見た

 

路地より押し寄せるもの、屋根を伝うもの。

夥しい数が大教会へ誘われる中、

群に紛れる様に影一つ…稀有な獣の姿

 

 

[デュラ]

まさか…”聖職者”か…!?

 

[グレッチェン]

いいや、”渇いた”方だ

 

双方は長い経験の内に合致する種の獣を見出したが

その様な物が無いジョンに分かるべくも無い。

 

一連のやり取りを聞いても理解は得る事なく、

慎重に、知るべき事を問う事にした

 

 

[ジョン]

分かる様に話せ、そいつの特徴は?

 

[グレッチェン]

赤く、背中の皮がずる剥けたグロテスクな奴だ。

獣というより、悪魔か何かと言った方が正解かな

 

 

───”血に渇いた獣”

 

病により人が獣に変貌する経過の中で、

この様に媒体となった人間の性質によりけり

更に巨大に、更に鋭敏に進化を遂げる事例がある

 

渇いた獣はこうした例の一つ、内に潜む病が濃い程に

強い飢えを覚え───環境によって”毒性”を獲得する

 

被害度は一般の狼姿を持つ獣を優に勝り、

古狩人達はこの種の獣を発見した際には優先的に

排除する意識を、須らく持ち合わせているという

 

 

[デュラ]

貴公、渇いた獣はかなり厄介だ

速さも凶暴性も、並の獣の比ではない。

あれが来るなら民衆だけでは対処出来んぞ

 

女狩人も右に同じく肯き、甚大な障害と

なるであろう所以をここに裏付けた

 

こうなれば、如何にこの男と言えども

事を急くのを躊躇せざるを得ず、顎を擦って

対策の程を物静かに、深々と考え込む

 

 

[ジョン]

……百聞は一見にしかずか、

見てない以上対策を立てるのは難しいが…

 

あくまでこの作戦は多対に重きを置いたものだ

個体への対応としては恐らく、あんたらのが秀でてる

件の獣が来た時はデュラ、頼むぞ────

 

 

 

”ピィーッッ!!”

その時である。狩人達の中の誰か、恐らくは

見張りに立っていた”盟友”の一人であろうか

 

甲高い音の警笛を用いて、事前の手筈にある

警告信号を防壁内の人々の全てに向けて発した

 

集う視線を受けて指揮官は勢い良く、ガチャッと

ライフルのブリーチを上げて対獣の円錐弾を弾込め

手際の良い動作に、一瞬ながら皆の目を引き留める

 

[ジョン]

おいでなすったぞ…!

全員配置に付け!!射撃隊は先に教えた通り!

外す外さんは気にするな、装填を意識しろ!!

 

十人余りの群衆からなる射撃隊は

しどろもどろしながらも、ジョンの発破に奮い、

残りの狩人達も打ち合わせ通り各々の持ち場へ走る

 

二人の師弟は教会正面に見える左方の屋根上へ、

”盟友”の一人は右方の屋根上へ、残りの盟友達は

射撃隊と共に防壁を、ダンテとデュラは高台からの

狙撃支援に回り───ジョンは防壁にて指揮をとる

 

 

 

[デュラ]

どうしたんだ、ダンテ?

 

[ダンテ]

……いや。何でもない

 

石畳を駆ける喧騒な音が響く、そんな中で一人

俄然と空を見上げている撃鉄の狩人を不審に思った

デュラは声をかけたが、理由は明白にならぬまま…

 

やきもきする思いを抑え、自らも配置に走って行く

 

それを見届けたダンテは、

再び”隠し街”の方角に耳を澄ませた

 

ずっと遠くに、微かに聞こえた”咆哮”

聞き間違いでないのなら、覚えのある気配だ

 

 

[ダンテ]

(───アイザック、お前なのか?)

 

しかしとうに咆哮は途絶え────

 

思惑も虚しく、答えとなり得るものは

二度と、古狩人の耳に届く事は無かった

 

忙しく煉瓦を踏み鳴らす音、慌しい掛け声だけ。

やがてこうして時間を割くのも無駄と悟り、

彼もまたデュラと同じ風に、そこを走り去った

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

さて、それから遡り───

皆が作戦準備に取り掛かる幾分か前

 

狩人達は輪となって異邦人を中心、

作戦の大まかな説明を彼から受けていた。

 

面々は注意深く彼を見守り聞き耳立て、

悠然と、あたりの建物を指差しながら狩人達が

より効率的に作用する配置に指南をする

 

 

[ジョン]

グレッチェンと坊主、お前らは屋根上だ

その斧じゃ下で振るうには不都合だろう

 

槍のあんたは哨戒に回れ、獣の”波”を順次伝達…

必要なら通りに置いた樽を起爆する。好機を逃すな

 

渋い面立ちで無反応の青年…その師は快く頷く。

”盟友”で最も手練れの狩人も、彼女と同じく。

 

獣はいつ何時襲ってくるか分からない。

 

故に哨戒と斥候、目の届かぬ屋根上に人員を

間配るのは妥当で実に合理的であろう

 

 

[ジョン]

ガトリングは正面バリケードで奴らを迎え撃つ

金槌のあんたも同じだ、銃撃の補助をしろ

 

デュラとダンテ、撃ち漏らした獣を高台から始末

───最後に射撃隊は…俺が指示を出す

 

それぞれに手渡された二丁の狙撃銃。

 

これは教会内の物置に蔵置されたもので

ジョンに次ぎ───射撃の腕に保証がある、

この場で最も古い狩人の二人に託される

 

──粗方は、これで総員の持ち場が確定し

青年の他は別段渋る事もなく納得したのだった。

 

その青年も、異論を述べようものならば男が

四方八方から未熟な論の隙を突いて来るもので

結局のところ彼には、選択の余地は無かった

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

 

[ジョン]

────撃てッッ!!

 

魔王が為すのは揺るがぬ意志ある者へ投げる喚起

 

対敵は、彼ら谷間の城を征すべく

鋭く、赫い歯を剥いた招かれざる者達

 

───”ペール・ギュント”*1───

 

ホルンもハープも無ければピアノすら、

この舞台にありはしないが、陰鬱な眼差しと

真っ赤な炎、薫り高き火薬こそが旋律を奏でる

 

我こそはと城へ走る有象無象は知ることとなろう。

何者に牙を向けたのか?魔王の軍勢は慈悲を知らぬ

 

 

[ジョン]

次列!!ボサッとするな前へ出ろ!!

撃ち終わった者は後ろへ回れ!!

 

入れ代わり立ち代わり、分かたれた射撃隊は

彼の号令を合図に、無数の弾丸を嵐の如く放つ

 

滞る硝煙はその度度でレイヤーの様に幾枚に重なり

それ以上に、生命を散らした獣が段々と山を成した

 

 

[デュラ]

あれも計算の内か、大したものだ

 

狙撃手の二人は高台から、鉄の嵐を生き延びた

数も僅かな獣達を的確に撃ち殺し、その中で尚

この場の全てが異邦人の手中にある事に感銘受ける

 

[ダンテ]

確かに…あれぞ天賦の才だよ

 

 

 

───例え前面のみへの射撃であっても

 

息絶えた肉壁は後方の獣の群れの障壁となり…

数隊に分けられた射撃隊の確かな猶予となる

 

敵の足取り重く、抗すればする程に、

狩人達にとって新たな防壁が重なる理屈

 

それはジョンが経験した戦場において

飽く程に見てきた、一環であるのだ

 

しかしそれだけでは時間稼ぎにやや不足する

 

 

[───]

───起爆!!

 

火薬樽は肉壁に火を放ち、さらなる強化を施す

当然彼の想定はこれだけでは終わらない

 

 

[ジョン]

坊主!!油だ!!

 

 

[アブラハム]

んんっ!!

 

貯蓄された重油の壺を屋根上から投下───

壁の炎は一段と勢いを増し効力は更に長引く

 

これにてバリケードの構築は本当に完成し

ジョンの講じた作戦は一通りの完結を迎える

 

辛うじて掻い潜る獣は、射撃隊によって狩られ

怯え留まる群れは…ガトリング掃射と青雷の餌食だ

 

[ジョン]

 ────全隊一斉掃射ッッ!!

 

 

※ ※

 

 

雨上がりの山の頂、霧の架かったそれと似た

光景を思わせる、白煙に染まった大教会

 

鉛と銀の嵐はついに止み、深い煙の中に残った

狩人等は一時の勝利を予感して互いを見つめ合う

 

───獣の唸りが聞こえなくなった頃合い。

沈黙に満ちた空気を破ったのはダンテであった

 

 

[ダンテ]

…手筈通りか?

 

[ジョン]

全てやったとは限らん。だがあの数だ、

一帯の獣は大体殺ったと見て良いとは思うがな

 

───問題は…

 

 

そうとも。まだ勝利を確信するには早い

ずしり…ずしりと聞こえ始めたのは”件の獣”の足

 

この戦いにおける”頭領(ボス)”の影───

焔、肉癖の先に見えるのは先の大群を凌ぐ

大柄な紅き悪魔の風貌…血に塗れたあの獣である

 

 

[ダンテ]

”血に渇いた獣”───

 

最後の時まで、思う通りとはいかない

 

あらゆる事象に”例外(イレギュラー)”は付きものという事だ。

それを示す様に、紅い獣の他にも不穏な影が

教会の周辺に姿を見せ始め出している

 

 

[アブラハム]

グレッチェン!!新手だ!

屋根上にも這い上がって来てる!!

 

[───]

指揮官!!どうする!?

 

[ジョン]

お前らはそこで応戦しろ!!

デュラ、ダンテ!奴さんを討つぞ!俺も行く!!

 

まずは我が出で、打ち殺さんとばかりに

ジョンは2人の熟練狩人を抱え、死骸の山ありし

地獄の門へと────勇猛果敢に駆け出した。

 

 

 

 

取り残された射撃隊。最前線に突撃した指揮官を

呆然と眺め、攻撃の合図が失われた故、立ち尽くす

 

迫りくる獣の残党を辛うじて迎え撃つのは

たった2人、デュラの”盟友”達であり、

自由意志無き、彼ら群衆はただ、木偶の様であった

 

”ど、どうすれば…” ”我々だけでは…”

 

心揺蕩う人々は、やはり狩りという物には慣れておらず

自己による判断力は狩人達に比べ、大きく劣っている。

 

戦火の最中、恐慌に陥りかけてさえいる。

だが、それでも───1人、奮う者がいた

 

 

[──]

迷う必要はない…

生きる為に戦えと、あの人が示してくれた…!

 

男の呼びかけに応え、最初に立った女だった

彼女は今も尚立ち、獣を殺す銀の弾丸となりて

迷いの風にも吹き消されず、勇気を燃やしている

 

前に立ち、怨敵を睨みつけるその姿。

ジョンが焚き付けた闘志は、最早、彼らの内に、

新たなる火種として芽生えていたのだ

 

 

か弱い女が勇ましくあるというのに、

己が立てない道理があるものか

 

民草は知る。誰もが持ち得る”勇気”は

自分達にも確かに有り───だからこそ、

今度は己が立たねばならない。

 

人々はまた勇ましく、生きる為に銃を手にした。

抗う意志を忘れる事なかれ、闘争の火を絶やす事なかれ

 

現在(いま)を生きる者達よ───”絶望を焚べよ。”

 

 

 

…そして見えた先。

炎が広がり、山の魔王に挑んだ悪鬼の群を

骨の髄まで焼いた戦場に立つ、大将首の暗影…

 

 

[ジョン]

(酸…!?こいつは一体…)

 

それは正しく魔と言えた。全身は赤白と肉筋が

見え、万人が吐き気を催す程にグロテスクな様相

 

特に上の半身はべらりと、体皮が血みどろに

醜く逆剥けており、辛うじて人の面影を留めた

黒い顔は、凶悪な四本の犬歯が露わとなる。

 

狩人にとって最もこの獣が注意すべき点とは

”血を蝕む”遅効性の毒、そして滴り落ちた石畳の

箇所が、一瞬にして泡くに溶ける程の強力な酸…

 

異邦人にとって、夢うつつを錯覚する様に

現実味が無くなる、奇怪で恐ろしげな獣は───

 

しかし嗅覚を痛める酸性の水蒸気こそが、

嫌でも、眼前のこれは幻等ではないと訴えた。

 

 

[ダンテ]

デュラ、行けるか?

 

[デュラ]

老いぼれるにはまだ早くてな、

取り越し苦労というものだ

 

火薬庫に依る狩人たる3人、うち2人は

ヤーナム有数の強者ながら尚も緊張感が漂う

 

双方睨み合いが続く中、火蓋を切るは大鎚の狩人

 

疾いこの”渇いた獣”に抗するのであればと、

ダンテは久しく使わなかった”古い業”をここで

解く事を決意する────最初期の狩りの業を。

 

今や殆どの狩人より失われたそれは

最初の狩人達が用いた、独特の技術

 

 

   ” 加速 ”

 

 

[ダンテ]

───行くぞ!!

 

白霧湧き出る瞬足の脚は、彼が力むと共に身を隠し

驚異的な速度で以て紅い獣の眼前へと躍り出る

 

”───ごうッ”

その速度。人の限界を超え、完全に姿を消す程。

瞬間的な速さであればあの渇いた獣すら比にならぬ

 

遅ればせながら駆け出したデュラも、手に持つ

鉄塊が如き、杭打ち機の刃をかざして駆けつけた

 

一瞬呆気にとられたジョンは、気を取り直し

彼ら古狩人の援護すべく、長銃を構えて、撃つ。

 

 

[ジョン]

(図体がデカい分、ライフルの効果も薄いか…

いや──これでいい。まずは観察に徹しよう)

 

 

※ 

 

 

[グレッチェン]

まだまだだな!アブラハム!

 

[アブラハム]

鬼灯(ほおずき)”と戦った時よりは成長したと思うけど!

 

足場の悪い屋根の上で戦う師弟は実に流麗であった。

師の技術を真似ながらまた、青年は大振りの仕掛け斧、

”獣狩りの斧”の機構を展開し、這い上がる獣の群れを

その傍から頭蓋目がけて振り下ろし、頭蓋を叩き割る

 

古く、だが妙齢の女狩人は一対の得物、”星の双剣(慈悲の刃)”を

二振りに分け、輝然なる音を散らして追い打つ様に、

獣らを切り裂き───赤黒い臓物を引きずり出す

 

肩で息をする、狩人の戦い。

そんな中で青年は自らの師に一つ問うた

 

[アブラハム]

ねぇ、グレッチェン!あの日…!!

あの”ランタン女の(Lady of the lanterns)夜”、貴女は言ってなかったけ!?

 

[グレッチェン]

ふんッ───さあ!なんて言ったかな!

 

酌み交す血液の質疑と応答。鬱屈とした気を圧し、

アブラハムは続けて過去の疑念を言葉にした

 

[アブラハム]

「人々の救済は狩人の使命ではない」って!!

そう、今みたいに教会に獣の群れが押し寄せていた!

 

今やっている事は違うのか!?

アイツ(ジョン)がやってる事は!?

 

アブラハムの嫌疑というのは、何もジョンの性格や

その振る舞いにだけに限った話ではなかったのだ。

 

師は過去の発言に違い、いや積極的にジョンの案、

民衆を獣狩りに突き出すというのを受け入れた

 

それは彼らを危険に晒す事を厭う青年の考えとは

正反対の行いで、狩人は無干渉であるべきという

師の教えともまた、大きく異なったのである。

 

だがしかし、真意は別にあった

 

[グレッチェン]

それだ、アブラハム!お前は大きな勘違いをしてる!

 

獣の一手を飛び、跳ね、兼ねて捌き、

師弟は饒舌に問答を押し続ける

 

[グレッチェン]

私はお前を子供扱いしてる訳でも、

蔑ろにしてる訳でもない───

 

いいか!”医療教会”の様にただ救済を行うのと

今回の彼の提案は似ている様で、全く違う!!

 

救済は人をやがて腐らせる!導く事をせず、

闇雲に安らぎだけを与えた末があの堂の内だ!!

 

それと男が取った手法というのはまた異なった。

 

医療教会が伸べた救済と言うべきものは、

結果、ただ民衆の傲慢と怠惰に拍車をかけた

だけであり、故に狩人達への畏敬は失われたのだ

 

[グレッチェン]

あの男は彼らの目線を、狩人と同じまで”引き下げた”!

 

狩人は意志(遺志)を以て獣に臨む、

だが民衆にはそんな物、ありはしない!

 

無責任者には責務を!迷える者には導きを!

そうやってやっと民は家畜()を逸脱できるのだ!!

 

人を形どるのは”意志”、狩人が重んじるものも

また”遺志”であり、青年の師はその面においては

あの異邦人に感慨深い印象を抱かされたという

 

一時の救いはよい。だが永きそれは

人を畜生にまで陥れ、意味はありはしない。

というのが女狩人の信条、信義であった

 

[アブラハム]

……っ……!

 

[グレッチェン]

…これ以上のお喋りは後回しだ!

口を動かすなら手を動かしなさい!!

 

青年にも理解をする暇は必要であろう

彼は決断を受け入れるには若く、人間の暗い部分を、

そしてそれに勝る、明けの要を知らないのだから

 

 

 

 

獣の乱舞、躱し───殴打する撃鉄。

その側面から斬りつける鉄杭、鈍色の刃

 

長銃より放たれる円錐も

勝敗を決する一手にはなり得ず。

 

状況は滞り、辺りには刺激の強い酸の香りが

満ちるばかりで、狩人達の気と体を蝕み続けた

 

 

[ダンテ]

(全員攻めあぐねているか…

正面からでは私の鎚も酸にやられる

デュラが斬りつけるだけでは勝負にならん

 

”アレ”を撃ち込むにしても…それだけの隙を

作らねばならんが──さて、彼ならどうする?)

 

接戦の最中、目をやる先には鋭い眼光を

垣間見せる異邦人が思惑を張り巡らせている

 

頼みの綱───とまでは言わずとも。

ダンテはこの期に及び、ジョンの資質と機転に

先よりもさらなる、大きな期待を寄せていたのだ。

 

ヤーナムにある者達が抱く先入観

それが取り払われてある異邦の男ならば、

この状況をどう解決するか…切り抜けるか

 

 

[ジョン]

(馬鹿みてェに疾い、持久も…あそこまでなら

流石に俺に意識を向けられちゃおしまいだろう

 

しかし反面、こいつは打たれ弱いな?

骨格からしてそうだ。そもそも傷だらけ…

 

──骨も筋も剝き身なら幾らだってやり様はある)

 

ダンテの予想は当たっている。ジョンはここで

対敵の脆弱性を突く、獣を葬る算段を浮かべた

 

 

※ ※

 

 

再び遡り。ジョンは青年アブラハムの異論を

軽くいなした後、各々の武装を拝見をしていた

 

狩人が用いる伝統的な鋸刃の槍、青年が持つ、

処刑人が振るう様なからくり仕掛けの大斧

 

”盟友”の一人が得物とする奇怪な青雷の金槌…

異様な品の数々の中で、彼が特に興味を惹かれた

武器は、デュラが持つ複雑な仕掛けのものであった

 

 

[ジョン]

”パイルハン(杭打ち機)マー”?

 

広く短い刃”や”弾機(スプリング)”───そして”気缶(ボイラー)”の類い…

何がしかの圧を与える為のものだろう。

 

いいや、正確な仕組みは不確かではあるが、

そういった人智を動員する、馴染みの深いもの

であればこそ、ジョンはこの武器に関心を抱いた

 

これがどの様に、何が、何へ作用するのか。

純粋なる好奇心をそそられ、実用性を求める事も

忘れて、異邦の男はいたく童心へと帰る

 

 

[デュラ]

機構の圧力によって杭を限界まで引き絞り、

そこから生まれる衝撃を糧として、獣に撃ち込む

一撃必殺…確実に相手を仕留めるには申し分ない

 

[ダンテ]

言い忘れていたかもしれんが…

デュラも工房には世話になっている

 

私の”爆発金槌”と同じ───”火薬庫”の品だ

 

ダンテの言葉を受けて、デュラも胸元から1つ、

チェーンに架かった小さなガラス瓶を見せた

 

2人が持つ物と同様の印…”火薬庫の狩人証”

 

それを見たからジョンは納得をする、

成程確かに、工房のバッシュは言っていた。

火薬庫は複雑な機構と爆発力に重きを置いており、

故に通常の狩り武器とは違い、こと異質なのだと

 

 

[ジョン]

”獣には炎と杭と鋸”…だったか。

ここまで徹底してるとは頭が上がらん

 

弱点を突く属性そのものこそは神秘的ながら

彼ら火薬庫は実に良く、機構に落とし込んである

 

ダンテの炎鎚、デュラの鉄杭…となれば最後に

鋸状のもありそうなもの、とジョンは思ったが

それに相当する品がある事は、未だ知る由もない

 

 

※ ※

 

 

爆発金槌が決定打になり得ぬ訳ではない。が、

その振るい手は紅い獣の注意を寄せ、奮闘最中だ

 

とは言え鋭敏はダンテの方が勝っており、

デュラやジョンが囮を買って出る術もない

 

ならば必然、彼の鉄杭こそがトドメの一撃となろう

ジョンのライフルでは殺すに至れぬ事は既に周知。

 

獣を追って斬りつけていたデュラに、中間距離を

維持していたジョンが駆け寄り耳打ちする

 

 

[ジョン]

デュラ、奴を仕留める方法だが

 

[デュラ]

くっ…貴公、良い案は出たか…?

 

息の上がるデュラだが、それも仕方あるまい

歴戦とは言えども老いたり、既に老境に差しており

俄然───獣と長く追い追われは辛いものがある。

 

しかしそれも…より齢を重ねているダンテが

ああして獣の剛爪をそれほど苦にもせず躱す姿が

目に映れば、言い訳にもならないかも知れない

 

ジョンは所持していた2つの道具を手渡した。

ライターと火炎瓶、合流時の戦闘にも用いた物だ

 

 

[ジョン]

ダンテが気を引いている。

その間に────こいつを使う

 

俺が合図したら奴さんの真上目掛けて投げろ

アンタが杭を撃つ時間稼ぎだ。言っとくが…外すなよ

 

意図を汲んだデュラは一時、獣から距離を置き

ジョンと共に、戦況一転の好機を伺い始めた。

 

紅い獣と煤の狩人の、躍動感溢れる舞踏

獣は大凡、元が人とは思えぬ金切り声を上げて

鋭い鈎爪を乱暴に煤狩人を捉えようとするが、

 

一方のダンテは一寸足りとも掠める事すらなく

右の剛腕を左にいなし、左の剛腕を右に流す

 

絶え間なく続く、圧倒されるその攻防。

時折、ほんの僅かに動きが止む事はあっても

ジョンが欲する遠投の好機には、届かない

 

 

[ジョン]

…まだだ…

 

[ダンテ]

(何か始めたな?隙を伺っているか、ならば────)

 

 

”ゴォンッ!”───爆発金槌の撃鉄が上がった。

ただ上げたのではない、重厚な鎚で獣を前に突く、

コッキングと動作を重ねたそれは言わば”変形攻撃”

 

防戦一方となっていた流れ(パターン)をついに破り、

判断の遅れた獣は文字通りの、面を食らった

 

続けざま、ダンテは大鎚を振りかぶり────

しかし否や、振り下ろすのではない。

 

横に薙ぎ、炉の吹出口を前面に押し出す攻撃は

殴打に依る行動ではなく、爆ぜ散る事はなかった

炉心に溜まる地獄の如き紅炎を、まま吹き掛ける技

 

ごうと炎に焼かれた獣は、やはり獣。

大量の火炎には、血に渇いた獣ですら怯んだ。

 

そこがジョンとデュラの好機となった

 

 

[ジョン]

────デュラ!!

 

[デュラ]

────むんッ!!

 

古狩人デュラによる全力の投球。

距離を見誤れば囮のダンテにも影響及ぶ手段だが

そこは発案者、単に投げ当てるのではなく瓶の

効能を100%引き出す為の算段まで考えられていた。

 

腰に差した拳銃を引き抜く────

そう、撃ち抜く事で範囲を増大させる。

 

 

[ジョン]

───ッ!

 

渇いた獣の背は生々しい背骨が露出している

背骨──つまり脊髄は神経路の温床である

 

如何な生物だろうと例外は無い、脳から直結した

脊髄を刺激すればどうなるかは…想像に容易い

 

───炎で焼けば当然、激痛が走る

 

 

 

”──パァンッッ!!”

 

僅かな時間、滞空していた火炎瓶は

銃声と共に瞬く間に炸裂し、硝子破片を散らして

焼けるオイルが、どばっと獣の背に降り注いだ

 

その流れは俗に言う”トラップ射撃”と同様。

続いて赤い獣があまりの痛みにもがき苦しむ

 

あの獣が人の顔なれば、どの様な表情を

浮かべてたのか、考えるだけでも悍ましいが

 

…ともかくそれ程に思う位の大絶叫を上げたのだ

二人の古狩人はその隙を逃す程未熟ではない

 

 

[ダンテ]

────ぜいッッ!!

 

ダンテの金槌が獣の前腕を文字通りへし折る。

鈍く鳴った、骨との挽き肉はそのまま崩れ───

 

[ジョン]

今だ、やれ!!

 

すかさず、デュラは身動きが取れなくなった

獣の背へと一気に飛び乗り、右腕の得物、

パイルハンマーを大きく振り上げた

 

ガシャンと引き上げられた極太の”(パイル)”────

重々しい鉄塊の回路が徐々に稼働を始め、

機構には水気と熱が、最高出力へ至る前触れが、

けたたましく金属的駆動音が搔き鳴らされる

 

狙うは背骨の左側、血の発信源である心臓

血を啜る鬼に効を成すのは神よりの授かり物

 

それ即ち鉄の杭。

 

パイルハンマーとはこれを人の叡智以て

”火薬庫”が突き詰めた究極の──鬼殺しと言えよう

 

 

[デュラ]

ぬぉりゃあッッ!!

 

 

 

 

発破。

 

 

 

 

”──ドォォ──ンッッ!!”

 

撃鉄落ちた鉄杭は、音を置き去りにしたかと

見紛う程の速度で渇いた獣を撃ち穿ち────

その一撃は最早つらぬく、というよりも岩盤を

砕くが如く…肉、骨を瞬く間に削り飛ばす

 

無論、狙った心臓は原型を留めず、挽き肉の様に

どろりとした液状となって石畳の地面へ飛散。

 

後の祭り、撃ち出された杭打ち機の機構からは

機関車が吐き出す白い靄の様に、ぷしーっと

熱々とした蒸気が勢い良く放出された

 

 

[ジョン]

…杭と聞いて半疑にしちゃいたが

ひとたまりも無い筈だ、ありゃあ…

 

それは最早伝承に伝わる不可思議な、裏付けの無い

眉唾の技法というより、純粋な破壊力で成っており

頑強な獣が息絶えるには、十分な背景があった

 

 

[デュラ]

───ッふぅ……

 

[ダンテ]

ハァ…2人共、よくやってくれた。

 

[ジョン]

…どうやら、決着は着いたらしい

 

 

遠目に見えた屋根上の2人。師弟も辛うじて

他の獣の迎撃を終えていた様で、いつの間にやら、

射撃隊も含め、残らず銃声と言える物は止み、

 

辺りを包んでいた炎の揺らぐ音の他はなく、

ダンテが大鎚を立てた鈍い音の響きが最後である

 

喪に服す彼の口上が、狩りの終わりを予感させた

 

 

[ダンテ]

……汝らに主の導きがあらん事を

 

豊かな光に満たされ、飢えの闇と

血の渇きから…彼岸、解き放たれん事を

 

───眠れ、安らかに

 

 

歓喜を上げるべきだったろうか。しかし狩人を含め

諸人は既にどっと疲労が溜まり尽くしており。

ただ、勝利の余韻に浸るばかりである…

 

鎮魂歌(レクイエム)はここに有らず。

場は大きな溜飲の下がる血の海がはや出来て、

止め処の無い溜め息が、火の音にかき消された

 

 

[デュラ]

───貴公…いや、ジョン。

よくぞ敬服すべき戦果を上げてくれた

 

私達だけでは、こうもいくまい

この数、きっと死傷者が出るのは免れなかった

 

……心より、感謝する

 

[ジョン]

…大袈裟だぜ。俺は仕事をこなしたまでだ

それに…悪かったよ、よそ者が出しゃばってな

 

 

山の魔王の凱旋、遠くには、彼を待ち、

手を振る民衆達の姿がうすら見える───

 

ヤーナムの血を受けずとも、独力ではあらずとも、

 

大金星といえる成果を掲げて帰る彼は

皆の目に等しく英雄として刻まれゆく

 

[ダンテ]

さて…これはまた明けた時、

後処理が忙しくなるぞ、友よ

 

[デュラ]

はは…後の祭りだな。

確かに「食うに困らん」というものだ

 

なあ?ジョン?

 

[ジョン]

止せよ、あれは勢いのついた俺なりの冗談(ジョーク)

元が人間の物を食べるのは流石に罰が当たる

 

脱力をしながらも教会に足を戻す、

血に渇いた獣を討った、火薬庫の一行

 

それぞれは安堵し、互いに賛辞を贈っていた

異変とは何か?異変とは何か?異変とは何か?

異変とは何か?異変とは何か?異変とは何か?

異変とは何か?異変とは何か?異変とは何か?

異変とは何か?異変とは何か?異変とは何か?

だが───ここで異変が起きる。

異変とは何か?異変とは何か?異変とは何か?

異変とは何か?異変とは何か?異変とは何か?

異変とは何か?異変とは何か?異変とは何か?

異変とは何か?異変とは何か?異変とは何か?

[グレッチェン]

……

「素晴らしきかな、異邦の方」

[アブラハム]

グレッチェン…?

───老木のあめんどうは月の夢を見る───

───張る網の内には星々、宇宙を見る───

───深海の火を灯す燭台が深淵を見る───

[───]

(様子がおかしい。血がざわつく…

      ───嫌な予感がする)

───君を見るもの、大いなる者の調べ───

───いつの日か、赤い月に魅入られた───

[───]

…”パール”…何か…妙じゃないか

「血は無く、獣は悠く、けれど夜の下でも狩人とは!」

[───]

…構えろ、居たぞ

 

「ああでも、それでは貴方に堪能をして貰えない」

「貴方はまだ月の夢を知り得ない」

 

[デュラ]

ダンテ……

───主よ、主よ、我らに加護を与え給え───

───空虚なる時の副王に仇なす者よ───

時に、人というものは”知”を力と錯覚する。

在る物を探る事、探求と叡智は人類の象徴であった

───Amygdal(あめんどう)a───

だが無い物を探ろうとはしない

───Amygdal(あめんどう)a───

見えぬ物は理解の及ばぬ物。

それを見ようとするのは正しく狂気であって、

故に真の探求者というものは須らく狂人となる。

───Amygdal(あめんどう)a───

知るべきでない事を知るには相応の代償が要り

脳に在り得ない物を考えるには人は早過ぎた

───Amygdal(あめんどう)a───

だからこそ、古い学び舎は、

思考を超える瞳を求めたのだろうか

───Moon Presenc(月より降り立った者)e───

───未熟なる幼年期の終わりを迎えんが為に

”─ィ──ム─生─別─の挨──しに──し─”

”─あ、知っ──る─君も裏切─のだ───”

 

[ジョン]

(…何だ…この感じは…)

 

「ですが、私が貴方を招待しましょう!」

 

知るべきでない事というのはここにも在る。

名状し難い重圧、異邦の男が以前にも感じた”気”

 

ジョンが振り返った先、最初にそれに気付き、

立ち尽くしたダンテが放った言葉はこうだった

 

「夢の月のフローラ!彼女に見えんが為に!」

 

[ダンテ]

───見るなッ!!

 逃げろッッ!!ジョン!!

 

 

古人達だけは、その言葉でようやっと確信したのだ。

───無数の”瞳”に、一切を覗かれていた事を

 

「おお、アメンドーズ!おおアメンドーズ!」

「今や邪なる神々の一柱よ!」

 

「ケヒッ、ヒャヒャヒャヒャアー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

─────────

*1
ヘンリック・イプセンが1867年に作った戯曲。及び、エドヴァルド・グリーグがこれを劇付随音楽として作曲したもの(初上演は本章の4年後、1876年である)。





《 ダンテのライター 》
古狩人ダンテが用いた小さな日用品
業火を表した極細の装飾は彼の象徴である

ダンテは在りし日、怨嗟に塗れたという。
一切を灼き尽くす彼は正しく獣の地獄であり
しかし、その姿は最初の狩人に望まれなかった
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