Bloodborne:Brave of Braze   作:NEXT_0809

9 / 10

後で分かった事だが、この(It was learned later that the alligator)ワニは

一週間前、自由所有者
(had escaped a week ago from)
である


ジョン・W・ローチから逃げ出(Freeholder John W. Roache; and who)したそうだ
彼はワニが見つかった事を大い
(welcomed its return with many thanks.)
に喜んだ


「下水道のワニ」−1907年 7月21日−
────ニューヨーク・タイムズ────



08.地下潜入経路

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『────狩───様───?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

 

浅からぬ微睡みに身を預けて小2時間。段々と意識が浮き上がるのは、間近に迫った鉄と微かな硝煙の匂いが理由で、ただそれだけでジョンは自身の置かれた状況を理解する。重い瞼を渋々明けて、じっくりと眉間に突きつけられる銃口の中……奥暗い深淵を、何の気無しに覗きこむ。

 

 

[ジョン]

………大層な目覚ましだ

 

[────]

気に入ったか?弾丸もオマケしてやってもいいぜ

 

目覚めて間もない回らぬ頭でも、凡人の頭程度には回るジョンだが、危機感そのものはこの現状で到底持ち得ず、児戯を押し付けられたかのような、些細な苛立ちが生まれた程度。ソファーに寝転ぶ状態、この上から跨ってライフルを構えるのは二十代後半かそこらの男─────少々煤けた金の、癖っ毛が垣間見えた。

 

無論、青年狩人とも真っ向に言い合いを始めるジョンが、相手方がまるで自身が優位に立っている様な表情をしていては、癪に障ることこの上ないだろう。寝不足と重ねて寝起きと来ては、これに更に拍車をかけていた……

 

 

 

[ジョン]

人に装弾済みの銃を向ける意味を知らんのか?

余程の阿呆か、頭の中がハッピーなんだな

 

言いながら、銃を構える男が違和感を感じない程度、ゆっくりと身体を動かして────言葉を囮に畳み掛ける。長身のライフル、そのバレル。眉間に突きつけるが仇となったか────瞬時に首を逸らし、片腕でバレルの半ばを掴む事で万一の発砲を無為とし。そして銃身の固定を皮切りに、勢い良く腰から下の半身を天井へと立ち上げ……男の胴に両脚を組んで組み倒す。

 

この間。組み伏せられた男が全く気付かぬ内に、ジョンの空けられていたもう片手には、自慢の銀の拳銃が握られ、カチリと、"撃鉄"を上げるまでに至っており、この照準というと、男の金的を目掛けて構えられる。

 

一瞬にして、優位は寝起きの異邦人に上がった。一つ一つの動作が眼が追いつかない程に速かったにしても、その最中全てに呆気にとられていた男とジョンの間には、やはり歴然たる戦闘技術の差が現れていたのだった

 

 

 

[────]

…いでで…っ…冗談だって!離してくれ…!

 

[バッシュ]

…ジョン。君が彼の銃を見事にバラしたお陰で

今こういう状況なんだ、謝っといてやってくれ

 

[ジョン]

あぁ───するとお前が“ハッピー“か。

悪いな、あのダブルバレルは俺が貰った

 

この応接間にて一部始終を静観していた人物が一人。会計係のバッシュが別段慌てる様子もなくジョンを宥めた言葉から、事の発端が如何なるものだったか検討はつく。

 

ほんのり照った怒りの情が、次第に治まり冷静になりつつ、だがジョン自身は決して組む脚と銃の狙いを緩めない。一方の" ハッピー "と呼ばれる男は、先の挑発的な態度から打って変わり、明確な怒号を浴びせ続けた

 

 

 

[ハッピー]

「悪いな」…じゃないだろ!?

 

この辺じゃウォールナット*1は貴重なんだぞ!?

それをあんな…ばっさり切るなんてどうかしてる!!

 

───っお前もだぞバッシュ!!

なんで間近にいて止めないんだよ、薄情者!!

 

[バッシュ]

今更気付いたのか?やっぱり頭の中もハッピーだな。

 

ついでに流れ弾を喰らったバッシュすらもどこ吹く風。やり切れない感情を抱えたハッピーは、いっそ脱力して、煮るなり焼くなり───そんな風に自暴自棄的な態度をとった。その時、作業場側の扉が開かれる

 

ダンテ、撃鉄の古狩人。視線は一斉に彼の元へ向いた

 

 

[ダンテ]

ははは、随分と賑やかだな。ゆっくり寝れたかね?

 

[ジョン]

まあお陰様で…通し起き続けるよりマシ、程度にはな

 

[ダンテ]

なら────早速だが本題を話そうか

 

 

 

 

 

 

時間は少し進んで、引き続き場は応接間。

機嫌の損なったハッピーは作業場の何処へ、今いるのは、古狩人ダンテとジョンの二人組。互いに対面になる様にソファーに腰をかけるなり、男は今後の経緯の説明を受ける

 

つらつら述べるダンテの言葉に、煙草を吸いながら興味深く伺う様は、はたまた師弟の様にも見えただろうか

 

 

[ジョン]

地下水路、か。

 

[ダンテ]

ああ、これは何時もの事なのだが…

厄介な事に“夜“の最中は街路が閉鎖される。

 

獣の侵入を防ぐというよりも、感染者の

往来を防ぐ為と言った方が正しいのかもしれん

 

[ジョン]

真っ向から崖を登るよか現実的だな。

して、水路に獣はいるのか?

 

 

[ダンテ]

少ないのは確かだ、そもそも通る者が殆どいない

問題は……医療教会の監視下にある事

 

当然ながら感染の可能性がある者は彼らの

執行対象となっている。狩人も例外ではなくね。

 

…それに、最近あそこはやたらに警備が厳重だ

 

[ジョン]

…話し合いの余地は無いらしい

 

元より期待こそしていなかったが、こう、改めて聞かされると凡そまともな街では無い事を思い知らされる。そもそもこの古狩人がいう"教会"とは、一体なんだというのか。

 

教会────カトリック、プロテスタント、それらを包括するキリスト教徒の団としては、いやに実力行使が手段として手元に近過ぎる。ジョンが思うに最早、前時代の魔女狩りと紛う程度には過激で…あまりにもこの時代にそぐわない集団だ。件の"血の医療"というのも、全くうさんくさいもので、しかしこの街の民衆はそれを常習するのだというのだから、彼自身の感覚がズレているのかと錯覚する。

 

輸…いいや"血"、そして遺志…根源的な蠢きが這うこの地は吐き気を催す程に、未知に塗れる─────

 

 

 

 

※ ※

 

 

 

《下街、水路にて》

 

さて、またもや時間は進み、古狩人ダンテと異邦人のジョンは街路に張り巡らされるマンホールの蓋を開けて、錆びた鉄の梯子を下り、件の地下水路へと到着する。内部は電気ランプで照らされた箇所以外には光源と呼べるものは存在せず、ここはまるで、深淵と呼べる程に暗かった。

 

 

[ダンテ]

もしも逸れた場合は一番広い路を上へ上がれ

銃器と火は極力使うな、ガスに引火する恐れがある

 

[ジョン]

はぁ…煙草はお預けか──────

 

暗い道筋で互いの位置を把握するには、まず音が重要だ。特に目が慣れるまでの間に彼らが頼るべきもので、双方、まさに"暗黙"の了解と言わんばかりに耳を澄ませて周囲の状況を確認する。その時まさに、真っ先に出会したくはない存在を知覚する……足音、そして別の男二人の会話。

 

 

[───]

…あれ、見たか?

 

[────]

恐ろしいものだ、

本当に“ドラゴン“がいるなんて────

 

 

[ダンテ]

(…予防の狩人か)

 

[ジョン]

(何の話だ?“ドラゴン“…?)

 

幸いにも直に邂逅する事は無かった。枝分かれした水路の壁に潜み、聞き耳を立てて男二人が通り過ぎるのを待つ。次第に足音が遠のき、憂慮する存在が完全に消えた頃に、侵入たる二人は声色を戻した。

 

 

[ダンテ]

教会がこっちまで降りて来ているとは。

そう簡単に通り抜けられそうにもないな…

 

[ジョン]

一応聞くが…奴さん等には、

手を出さない方が良いんだよな?

 

[ダンテ]

今片付いても後々が更に面倒になるぞ。

私達は不法侵入者、痕跡は残してはならん

 

彼らに銃を抜くのは最終手段だ

 

二人は狭い通路を歩き続ける。誰が何処から見ているかも分からない都合上、ここで迂闊に話す事もなく、息を忍ばせ進める足からは石を打つ様な、低く鈍い音が僅かに聞こえるだけだ。

 

せせらぎに紛れて時折聞こえる鼠のか細い鳴き声、さっさと駆ける音、空気の滞り以外にそこには何も無い

 

彼らがやや気がかりだったのは水位の高さ。

 

雨天が訪れて暫くが経つ。上流から降りてくる用水は、石段でほんの少し高くなっている通路と隔てられる筈が今まさに歩いている足場の高さと殆ど変わらなかった

 

 

[ジョン]

………

 

あまり時間に猶予は無い。下水では無いとはいえ、このヤーナムの惨状。死体の一つや二つから水路が汚染されてないとまでは到底言い切れないだろう。

 

傷の深い右腕に雑菌が入りでもしたら────その時は、言うことも憚られる悲惨な事になりかねない

 

暗くじめじめと湿り、空気の澱んだ空間が拍車をかけ、更に悪い考えへとジョンを追いやった

 

 

[ダンテ]

(───止まれ。)

 

幾ばくか歩いた頃だ、先んじて進むダンテが

手を横にしてジョンの行く手を制した。

 

見ればその先には、ほんのりと灯りがある。

そして灯りが形作った大きな影、その正体とは…

先ほど見た黒衣の医療者達と同じ者────

 

───元はそうであろう、肉塊が倒れ込んでいた

 

 

[ジョン]

酷いな

 

[ダンテ]

並の獣ではここまで大きく食い千切る事など出来ん

 

側に据え置かれていたカンテラが照らしたその様は右側の上半身が何者かに粗く喰われた痕跡があり、残った左半身から溢れた臓物と体液の混沌は見る者によって嘔き気を催すグロテスクな状態になっている。

 

破れた腸内に留まる汚物と、血肉の匂いが酷く、またそれに誘われた数匹の鼠が周りにも見えた。

 

 

[ジョン]

いや、実際違うかもしれんぜ。

 

[ダンテ]

というと?

 

犯人へと浮かぶ疑問にジョンが一つ言葉を立てる。その正体に対する予測だ。彼は自身の腰に差してあったボウイナイフを左手に取って遺体の荒らされた箇所、とりわけ切断面をなぞる様にナイフの峰を走らせた。

 

 

[ジョン]

見ろ。こいつは歯の間隔が広い。俺が見た限り、獣の歯並びは…歪だったりする奴もいたが、狼にも似ていた。

 

しかしこれをやった奴はそれとは異なる。何方かと言えば爬虫類の顎だな。“ドラゴン“ってのはそういう事か……?

 

[ダンテ]

“ドラゴン“。あまり信じたくは無いがそれが

この水路を徘徊しているなら厄介な事この上ない

 

[ジョン]

周りに血の跡が殆ど無いし、恐らくは…

さっきの二人が現場から移動させたんだろう。

 

半身はまだ温かい。死後硬直の経過から見ると

殺られてからまだ2時間そこらってところだな

 

─────おっ…

 

ジョンが弄るうち、血みどろの黒衣の懐から一つの小瓶が落ちた。透き通った硝子で構成された容器の中身は、よく燃えた白い灰の様な色合いの粉末。

 

物珍しい、薬物と思しき物体に二人は顔を見合わせる

 

ダンテの反応も考慮すれば、互いに未知の代物な事に

疑いの余地はないのだろう────と。

 

内容物を訝しんだその時、遠く背後から足音が響いた。

 

 

[ジョン]

(…誰か来る)

 

[ダンテ]

(影へ隠れろ、先を急げ…!)

 

一方通行、身を隠せる遮蔽物は無し。せめてもの隠れ蓑として、カンテラの光から外れ、元よりあった狭い通路の闇の中へと早足で入り込む。

 

そのまま先へ進み続ける。度々現れる階段を上がる。

 

立地を顧みれば当然だが、下の市街から上の市街へは高低の差がかなり隔てられており、故に平坦な都市に偏在する地下水路よりも高所移動が多いのだ。こう広いとまるで迷宮、先人の案内無しでは到底、目的地へ辿り着く事は異邦人には出来ぬだろう。

 

尤も、並々ならぬジョンならでは

不可能と言い切れないところでもあるが。

 

やがて進むにつれ、幅の大きな水路へと出た。天井はかなり高く───10M前後か───上流の方も下流の方も、均等な感覚で松明が掛かっており路の大部分を占める水流の底は濁ってしまって見えない。

 

行く手の奥は薄暗く霧がかって、果てが伺い知れず。それだけ街は広大で、まだまだ終着点には程遠い事の証明なのだろう。古狩人のダンテが言った様に、ここが地下に張り巡らされた水路の中で最も広い主要の区画だ

 

上街まで迷わず進む上では最短距離らしく、故に医療教会が最も警戒する箇所─────

 

 

[ダンテ]

(執行者の一行までいるのか…?普通じゃあないぞ)

 

執行者。以前ダンテがジョンに語った教会の下男達。蒼白の面立ちをして、人ならぬ怪物を彷彿とさせる、それの十人余りと、従えられた犬…数匹の猟犬で構成された一群が進行方向の奥の方からやってくる

 

 

[ジョン]

(グレイハウンド、マンチェスター*2

にしてもやたらデカいが…厄介だな────)

 

[ダンテ]

(一先ずやり過ごそう。見つかれば逃げ切るのも難しい)

 

怪物じみた一行が通り過ぎてしまうまで、

二人は枝分かれした通路に入る角で身を潜める。

 

幸いにもここでは猟犬と言えども鼻の利きが悪いのか、

全く気取られる事もなく、執行者達は何処へと去った。

 

 

[ダンテ]

…煙草を吸っていたら気付かれただろう?

 

[ジョン]

それに関しては全く、ぐうの音も出んよ

 

 

[────]

─────誰だ

 

[ジョン]

……!

 

身を潜めていた二人の背後に一人の男が立っていた。壮年だろうか、痩せ気味の体型に灰っぽい髪色をしており、無精髭を生やしている。狩人のものともまた違う様子のコートとトップハット。一見するとヤーナムの人間とは少しばかり様子は違っても、民間人そのものだった。

 

銃声の発生を気をかけ、咄嗟にナイフに手を掛けるジョンを制したダンテは冷静に問うた。

 

 

[ダンテ]

……教会の人間では無いな、君こそ何者だ?

 

[────]

下街で医者をやっているアルフレティウス*3だ。

まあ、アルフィーと呼んでくれて構わない

 

して、そちらは─────

 

想定よりも悪い状況でなかった事に思わぬ空振りを受けるダンテだったが、それ故に少々ひょうきんな表情をハットの下に滲ませる。この様な場で紹介を迫られるなど奇妙な事柄で、三人には一瞬、なんとも言えない間が置かれた。

 

 

[ダンテ]

……コホン…しがない…

…洞窟探検家とだけ言っておこう

 

[ジョン]

…その連れだ。

 

[アルフィー]

どう見ても狩人に見えるんだが…

 

[ダンテ]

ゔっ

 

[ジョン]

(バレてんじゃねぇか…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[アルフィー]

ヤーナムに来て、かれこれ5年以上は経つ。この街の奇病というと…全く、悪夢の様な悍しさだが…それでも去れないのは世話になっている御婦人がいるからさ

 

だから、私は医者として

出来るかぎり街の人達に尽くし続けている

 

 

[ジョン]

で…その医者が何でまた、こんなところに?

 

[アルフィー]

…獣の病とは別に、下街では、

最近妙な病気が見られ始めている

 

存じているかね?狩人君は

 

[ダンテ]

あまり詳しくは無いが…“灰血病“と言ったか。

患者は酷い悪臭のする灰色の血を流すとか?

 

 

[アルフィー]

うむ…総じて患者には共通点がある──────

 

 

“灰血病“。症例にある悪臭とは、即ち病状の進行した

身体の至る所から吹き出す膿が要因であるとされる。

 

一般の見解では、この膿が血流に混ざって溶け込み……

すると血色はまるで血そのものが死んだ様に色褪せた

灰色となって、それが由縁に灰血病と呼ばれるのだと。

 

この灰血病に共通するもの、それは────

特定の用水を摂取する事であると医者は説いた。

 

 

[ジョン]

水…

 

[アルフィー]

ここの水質から分かった事がある。

下街へ行き届く水路にのみ特異な成分が現れるんだ。

 

 

[ダンテ]

……なんとも嫌な予感のする話だが。

時にアルフィー君、灰色の粉末に見覚えはあるか?

 

何時手に取ったものか、ダンテは先刻の小瓶をコートの内から取り出して医者に手渡す。訝しむ医者の顔付きは確かにその道に知見のある渋みを感じ、何処か獣狩りの狩人の様な、専門家特有の鋭い眼光を垣間見せていた。

 

 

[ダンテ]

黒衣を纏った教会の者が持っていた。

厳密にはその遺体だが…私達がやった訳ではないぞ?

 

[アルフィー]

見覚えは無い。だが黒衣の医療者か…

これだけ彼らが下ってきているのに白衣の者が

全くいないのもまた、気になるところではあるな

 

[ジョン]

白衣?階級付けか

 

[ダンテ]

白衣の医療者は医療教会の中でも

上位に位置する階級の持ち主だ。

 

少なくともここまでの道程で見当たらない。

上位会派の連中は絡んでいないという事だろうか…

…いや、まだ憶測の域を出んが

 

 

[アルフィー]

黒衣の医療者、死因はなんだ?

 

[ジョン]

遺体は右半身を何かに食い千切られていたな

俺の予想では、“ドラゴン“とやらに殺られたと

 

 

[アルフィー]

────恐らくその通りだ。

私は一度、“あれ“に出くわしている

 

壮年の医者が語った。

曰く、“ドラゴン“は確かにドラゴンと言える見た目を

している。けれどそれは実際に同じ生物を見た事が無い

からに過ぎず、それは他の国では別称で呼ばれる。

 

即ち“ワニ“。

 

この地域、欧州全体で見ても希少な大型の爬虫類。

一行はジョンの推測がここで当たっていた事を知った。

 

 

[アルフィー]

普通はここいらで見る事はない。アフリカ大陸方面から

持ち込まれた───そんなところだろうか。

 

大方、手のつけられなくなった個体を下水道なんかに

流したんだろう…あんなものを手懐けようとする方がどうかしてる。

 

[ジョン]

出くわさないのに越した事はないが。

そいつはどの程度の大きさをしている?

 

ワニってのはかなりデカいと聞いた事がある

 

[アルフィー]

…普通のそれとは全く比にならない

目測にして6M…いいや、7Mはあった

 

一行は絶句する他ない。この閉所、そのサイズ。生物としては到底敵う相手でもなく、何よりも現状では端から分が悪過ぎる。火器の制限下、人がその様な野獣に対して出来る事と言えば、通るかも分からない刃物を突く程度か。

 

…騒音も立てずに?いいや、何事にも限度がある。敢えて対処するなら、予防の狩人達に始末させるという手もあるがまず一朝一夕で終わる話ではない。或いは先に教会の者が全滅する可能性すらあり、此方が見つかる危険がある。

 

 

[ダンテ]

…体長だけなら“血に渇いた獣“よりもあるな

 

[ジョン]

あの時とは状況も違う、真っ向からやりあっても…

そいつ相手では俺達でも勝負にならん。

 

[アルフィー]

気をつけろ、“ドラゴン“そのものよりは奴が吐き出すペリットの方が危うい。普通は血肉は消化される筈だがどういう理由か、何割か液状のまま残っている。

 

そのペリットは、獣化最中の水死体と同じ様に細胞がそのまま生き続け、寧ろ並の獣などよりも余程予測がつかない生態をしているんだ。

 

天井に張り、足下を這う。残された骨が

そのまま凶器にすら成りうる

 

ペリットは爬虫類や鳥類独特のものだ。消化しきれなかった生物の骨等を纏めて吐き出す生態の産物だが、それが紆余曲折の末、"ドラゴン"のそれはスライム状の不定形物体としてまるで罠の様に張られる。鋭利な人骨、或いは獣骨は人間を傷付けるに易く、とても危険な事だろう。

 

余談ではあるが、これはヤーナム特有の古遺跡におき、時折に見られる事があったそうだ。屍肉が蕩け崩れ、ペリットと同様の肉軟体へと化した怪物が…

 

 

[ジョン]

冗談じゃねぇな、幾ら目が慣れてきたとは言え、ここは暗すぎる。角灯なんざ持ち合わせてもなけりゃあ、使える状況でもない。巡回してる連中に場所を報せる様なもんだ

 

[ダンテ]

さて…そんなものが無い事を祈るばかりだが。

では行こう、ジョン。

 

時間は有限、こうしてる間にも

民衆は夜に絶えて逝くばかりだろう

 

思えば休憩というには、些か長過ぎる暇だった。切り上げるタイミングを計りかねていた頃、狩人のダンテが壁に立てかけていた大鎚を担ぎ、先を急ごうとする。

 

そうとくれば各々は軽い支度を整え、医者もまた、手に持つ鞄を何やらしばし弄った後に立ち上がってジョン一行とは異なった分かれ道に向かおうとした。不清潔な居所が故に、段々と身体の随所にむず痒さを抱えている彼は問うた

 

 

[ジョン]

あんたはどうする?

 

[アルフィー]

私は待たせている者がいる。その男に関しては教会の人間なんだが…心配してくれるな、あれは"内通者"だからな

 

コツコツと。石畳みを踏む音を響かせて去る音。

切り上げるとくれば、後腐れなく早々に退く姿勢は口ぶりの割にあっさりとしている。背を見せながらもハットを併せて軽く会釈をし、最低限の礼儀を表した後に、その姿はやがて灯りから外れてしまい、遂には足音すらも失せた。

 

突然と現れ、忽然と姿を消した件の医者にはやはり不信感は拭えずにやきもきとした気持ちの悪さを浮かべずにはいられない。そういうジョンとは反対に、ダンテは先にも医者に見せた小瓶に深い思案を編んでいる様子であって、特段彼に思うところというと、無かった様に見える。

 

 

[ジョン]

……行かせて良かったのか

 

[ダンテ]

ああして信念の見えているうちは、人を売る人間では無いだろう。確かにきな臭い、しかし真っ当に医療に力を注いでいるのも確かな筈だ

 

前を進みだしたダンテと、未だ分岐の暗闇を見るジョン。

ああ、それこそ…ジョンにとってはこの時が分岐であった様にしか思えなかったのだ。或いは医者の行く末を暗喩するのが、進んでいったこの深淵であるならば、それはきっと幸のある末だとは到底に思えず……

 

ほんの短い邂逅なれども、だがやんわりと、アルフレティウスが歩む先には暗雲を感じ取る。少なくとももう、彼らと交わる事はないのだろうと。偶にすれ違っただけ…それだけに過ぎなかったろう。

 

 

[ジョン]

踏み込む話じゃあ、ないか─────

 

彼ら二人もまた、先に向かって突き進む。先に待つは医者と同様の暗黒か、或いは眩い夜明けの暖かさか。それは進み続ける当人にだけは計り知る事は叶わずに、アルフレティウスもまた同様であったのだ。何れにせよ…この水路の冷ややかさというと、望むものには程遠かった────

 

 

 

*1
クルミ科クルミ属の落葉広葉樹。耐久性や対衝撃に優れ、床材などの建築資材として現在でも幅広く扱われている。また銃床にも用いられる。

*2
マンチェスター・テリア。英国、イングランドのマンチェスター原産のテリア種。19世紀においてネズミ狩りに向けて作出された犬種で、運動神経が非常に優れている他に、またドーベルマンの交配元の一つである。DLCエリアの『狩人の悪夢』にはドーベルマン及び本種に酷似した猟犬が登場するが、ドーベルマンは90年代産である為、作中の猟犬は恐らくマンチェスターであると思われる。なお、厳密には本種はグレイハウンドではない。

*3
海外スピンオフコミック、Bloodborne:The healing thirstの主要人物。




《 白灰の小瓶 》
水路の遺体から入手した未知の粉末
透明の小瓶からは、神秘的な白灰が覗く

ごく小さいながらも、用途は分からず
恐らく医療者以外に使う事はないだろう

異邦人が得たそれは、いわば呼び水である
今に蔓延を始めた、忌々しき病に充たる…
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。