五条「紛うことなき呪いの王だ」宿儺「えっ」 作:バルサミコ酢
(ふむ……とうとう受肉か)
自身の生得領域の中で一旦椅子に座り、今の状況を把握する。今、俺はこの虎杖とかいう小僧の中に居る。羂索に言われて呪物にした俺の指を、この小僧が体内に入れた事でこいつに受肉したのだろう
(とうとう……とうとうこの時が……!ケヒヒヒヒッ!)
思わず笑みが零れる。そうか……そうか……!
(なんで来てしまったんだ……!!!)
正直来て欲しくなかった。というか、数百年後なんか特に興味も無かったから、別に呪物なんかにもなりたくなかった。だって指千切るんだぞ?痛いだろ、普通。なのに裏梅も羂索もやれって言ってくるし……あいつらあんま好きじゃないんだよな。裏梅は料理が美味いから良いけど羂索はずっと訳わかんない事言ってくるし……
はあ……まあ受肉してしまったものは仕方がない。とりあえずは大人しくしていよう……あんま表にも出ない様に……
『宿儺に代われるかい?』
ん?
『すくな?』
『君が食った呪いだよ』
『ん……まあ多分できるけど』
おい。待て待て待て。なんでわざわざ表に出す必要がある?
『じゃ、10秒だ。10秒たったら戻っておいで』
『でも……』
『大丈夫。僕、最強だから』
いや俺が大丈夫じゃないんだよ!
……
…………
………………
青年に、自身が取り込んだ呪いに代わる様に言った直後、青年の気配が激変する
「僕が帰りの新幹線で食べるんだ〜」
(うん……彼から宿儺に変わる分には問題無し……と)
渡した喜久福を見ながら複雑な顔をしている伏黒を見て、五条はあまり意味の無い弁明を始めながらも、意識は後ろの青年に向けていた
(さて……どうしてくるかな?)
もし自分の近くに居る伏黒の方へ宿儺の敵意が向いても大丈夫な様に位置取りをしながら、いつか来るであろう宿儺の攻撃に対して興味をもっていた五条だったが……宿儺からの攻撃は無い
(……?なんだ……話に聞いていた宿儺なら、ここで僕を殺そうと動いてくるはず……)
自身の思っていた宿儺の行動との違いに困惑しながらも、先程の青年の方に視線を向けると、顔の辺りに紋様が浮かんでいる少年の姿が見えた。恐らく宿儺であろう
しかし、動く様子は無い。何かを思案する様に、その場に佇んでいるだけだ
「……宿儺、で良いんだよね?」
予想とは違う宿儺の行動。何か情報を得られないか……そう考え、五条は宿儺との会話を試みる
「……なるほど。貴様には勝てないか……」
「っ……」
会話をすることには成功した五条だったが、放たれた宿儺の一言に驚かされる。なぜそう思ったのか……その理由を探る為に、五条は更に宿儺へと言葉を投げかける
「どうしてそう思ったのかな?」
「ふん、そんなもの見れば……もう終わりか」
何かを言おうとしていた宿儺だったが、途中で気配が切り替わる
「大丈夫だった?」
10秒だ。きっかり10秒たった為に、青年が戻ってきたのだ。自身が課した時間の短さに若干の後悔を残しながらも、五条は青年へと近づいていく
「……驚いた。本当に制御できてるよ」
「うーん……でもなんか違和感あんだよな」
「それで済んでるのが奇跡だよ」
目の前まで来たタイミングで、青年の額へと指を当てる。次の瞬間、彼は意識を失った
「何したんですか?」
「気絶させたの」
倒れそうになった青年の身体を支えながら、後ろから聞いてくる伏黒の問に答える
「次に目覚めた時、宿儺に体を奪われていなかったら、彼には器の可能性がある」
その後、生徒である伏黒の頼みに応える為、五条は呪術界の総監部へと向かった
(話に聞いていた印象とは全く違っていた。伝承通りの宿儺ならば、あの時僕を殺しに来ていた筈。けど、宿儺は冷静に状況を判断し、指が1本では僕に勝てないと判断した。それに……僕の目でも見抜けない程に抑えられた呪力。徹底して自身の実力を隠している……底が見えないね。ちょっと厳しいかな……いや、面白い)
先程宿儺の呪力量を見た時、特級とは思えない程度の呪力量だった。だが、あの両面宿儺があの程度の訳が無い。つまり、六眼でも見抜けない程に高精度の呪力操作により呪力量を抑えているのだ
相対しただけで分かる強さ。流石呪いの王と謳われるだけはある。五条はそう思いながらも、今抱えている青年を助ける為に行動する
(あっぶねぇぇぇ!なんとか戦わずに済んだな!)
因みに、五条が抑えていると思っていた呪力量は全く抑えられていない。あの時点での宿儺の全力である。つまり六眼はこれ以上なく正常に機能していたのだ
この宿儺は苦労人だよ
次くらいから小僧と仲良くする