P001.茜色が燃えるとき
「…………第四の術『ジュモルク』! って、何だよ何だよこの術」
「……どうやら身体を植物に出来る術みたいだ。これで光合成を行えば24時間ス〇ブラの練習が出来る。ククク」
「いや、一昨日のまだ根に持ってたのかよ!? というかそれで術が出てくるくらい思い詰めるとかさぁ…………そこまで? そこまで?」
「うるさい。家庭用ゲーム機でハメはゆるされないんだ。特にあんなエ□スーツ着てる女使っての連続蹴りコンボとか許されないんだよ、大人げない。
というかこのキャラ見てると、やっぱりそういうのがシュミなんだろ、春彦。金髪とおっぱいが良いんだね。スペインで遭遇したあのお姉ちゃんみたいな」
「べべべべ別に違うしっ! おっぱいが良いだけだし! …………ハッ!?」
「やーいやーい、自爆してるよーだ」
思わずゲーム部屋となっている自室で、箱のようなゲーム機に繋がれたコントローラーを
というわけで容赦なく再びサ〇スの電磁銃でビリビリしてダメージを貯めてから吹っ飛ばし、違うハメを見せてスギナを涙目にさせる。はっはっはと笑うこっちに、どんよりしながら涙目だが、まだ良い方だ。ビ〇クリマンチョコでお目当てのシールが何回やっても出なかった時のあの味のある表情はいまだに忘れられない。死んだ魚の目の上で、口がひくひくと陸上で呼吸できない魚みたいになってた、あの独特な地獄みたいな笑顔は。
なのでこれは、まあ余裕がある方だろうと、勝利ポーズをしっかり操作した後、時計を見る。五時半を回るからそろそろ夕食作った方が良いな……。
「今日はしいたけが食べたいよ」
「今日
「えぇ~」
そしてちゃんと夕食の時間だと言えば、文句も言わずにすぐゲームをやめるあたり「魔界での」育ちは良いのかな? とか、そんなことを思う俺だった。
俺がこの世界に転生した、と自覚してから十六年あまり。
最初は普通に生まれ変わったなーくらいの認識だったのだけど(まあ前世は前世で普通に死んだ気がするし)、大学に入って最初の夏、母方の実家への帰省でイベリア半島に来ていたときに事件が起こった。
起こったというか巻き込まれたというか…………。当時、スリまがいのことをしていた子供、今さっき俺の隣でゲームしてたスギナにパスポートと財布とポケベルをまとめてスられて、それを追いかけている間に気が付けばギャングだかマフィアだかの騒動に巻き込まれ。
その時、死にたくない一心で一緒に逃走したスギナと俺。何故か両方の陣営からまとめて追われるようになった、ギャグマンガもびっくりなやべぇ顔して逃げてた俺達マヌケ二人組だったけど。丁度路地裏に隠れた時、スギナはそっと緑なマント? ローブ? の中から妙な本を取り出してきた。
『お前、この本って読める?』
その時、手渡された緑っぽい色した変な本を開き、術を読めてしまったのが運の尽き。それと同時にようやく気付いた。嗚呼、ここ「金色のガッシュ!!」の世界じゃねーかって。
というか春彦て誰!? 俺だけど! 俺なんだけど! 悪いけど漫画のキャラクターとしては全然記憶にないんだけど……、それでもこのスギナについても、確か初期のころに原作で見た覚えがあるなってのをなんとなく思い出して、なんならそれまで普通に大ファンだったパルコ・フォルゴレとか、高校生時代にクラスの男子たちが鼻の下伸ばしてる大海恵だとか、何で気づかないで当たり前のように受け入れてたんだよ!? とセルフツッコミしたりもしてた。
前世で通称でガッシュとか言われるこの作品。魔界の王を決めるため、選ばれし100人の魔物の子たちが、人間世界でパートナーとなる人間と共に戦い、勝ち抜いていく、みたいな感じの話だったはず。
そして俺のことは覚えてないけど、このスギナの立ち位置については…………、まあそんな箸休めな話は割愛するとして。「第一の術『ジュロン』!」と叫べば当たり前のように石造りの地面を裂き、現れ出るは木の根っこやらツタやら何やら。あっという間にマフィアだのギャングだのを拘束した後、そのまま俺達は逃走。
…………その後、どうやら俺たちが追われる原因になったらしいカブト虫っぽい魔物と、そのパートナーの髪がトイプードルみたいにめっちゃもっさりしたお姉さんとに追われたり、戦ったり、やっぱりマフィアとかが絡んできたり、逃走したりと一幕あったのが去年の夏休み。
なんか気が付けばケータイのメアド交換したり、手紙出すための住所を交換したりとかお姉さんと親交が微妙に深まったりしたけど、そんなことは現状あんまり関係はない。
魔物同士の遭遇もあまりなく、平和といえば平和。
メタなことを言えば原作がまだ始まってないからだと言う話なんだろうけど、まだ多くの魔物が力を蓄えている時期ってことなんだろう。
お姉さんも「まだディオボロスって第一の術とか弱いのしか使えないし、妥当。戦わないって言うなら、難しい話とか考えなくてもいいしね~」と肩をすくめてたし、そう言う意味では準備期間。あの術が弱いとかかけらも思えなかったけど準備期間。……まああっちの魔物が何考えているかは良く判らなかったけど。
ともかくそのまま、なんだかんだで魔界の王を決める戦いだの何だの色々聞いた上で、お姉さんは「変に情が残るのもアレだしねー」とか言いながら、スギナを密航で日本まで送ってくれた。俺は俺でちゃんと飛行機で日本まで帰って、その後は合流し俺の住んでるアパートへ。
中学卒業を期に入居してからずっと住んでるアパートにスギナを招き、現在に至る感じだ。
それはそうとこの世界、呪文と体力で相手と殴り合い、本を燃やし合うようなバトル世界。
正直、原作のストーリーとかほとんど覚えちゃいないから、何をやったら原作的に問題があるかとかわからないというか。キャラは色々濃かったから覚えてるけど、それがどう活躍したのかとかは、ねぇ? 逆に映画版の方が覚えてるくらいだ。
パルコ・フォルゴレに気づかなかったのも、アニメとか漫画で見てた時のコメディリリーフっぷりが嘘みたいにこっちだと超絶イケメンだし。まあなんかニ□ラス・ケ〇ジばりに色々なジャンルの映画に出て、2枚目3枚目全部こなしてるから、性格とかはそんなに変わってないのかもしれない。あ、ちなみに重要な要素として、顎はちゃんと割れてる(超重要)。
「なあ春彦、いいかげんスパゲッティは飽きたぞ」
「んー? 栄養バランスは考えてるから、ちゃんとスーパーで野菜炒めとかも買って来てるし、たまに自作するだろ」
「それでも半年間まいどまいど、朝は食パン昼はコンビニか外食で夜はスパゲッティとか気が狂わないか? 自宅で自炊した方が安いっていうし。光熱費とか含めて色々節約もわかるけど、もっとちゃんとした食事食べてもいいと思う」
「それは設備が揃ってればの話だなー。ガスコンロの上に食器棚とまな板と包丁を乗せないと何もできない身としては、やる気が全然起きない」
キッチンの狭さがそのまま、俺の料理のやる気に直結してる。面倒めっちゃ増えるし、スギナがいるからなんとなく危ない気がするんだよなぁ……。別にちびっこらしく一人で勝手に料理に挑戦したりとかはしないだろうけど(そのあたり分別は付く)、植物を操る魔物には火気厳禁だろう。なんとなく。
そんなことを考えながら食事をしてると、スギナが不満を言ってきた。なんとなく面倒くさく思ったからテレビのチャンネルを変えてアニメをかける。
ほう、と半眼だったスギナの目が「カッ!」と開かれて、わくわくしながら画面にくぎ付けになった。
「こ、今週はどうなるんだよ春彦! ラ〇ガーは無事なのか!」
「これから放映するから落ち着け落ち着け……」
わくわく、それはもうわくわくしまくってるスギナ。見た目通り年相応らしい振る舞いで、これはこれで可愛い。クールでダウナーな子の楽しんでる姿からしか摂取出来ない栄養素がある。
それと同時に、俺が堕としてしまったらしい
日本に来た当初、スギナは特に何か俺に要求してきたことは無い。いや、流石に衣食住くらいは頼んで来たけど(犯罪行為は止めろって言い聞かせたし)、それくらいはバイト代的に許容範囲だ。学校の講義が無い日と土日の午前中。特撮やアニメは録画にとってる俺に死角はなく、植物園の清掃活動をやっていた。
そしてスギナが来るまで。毎月溜まる資金プラス親からの仕送りで、月6万円程度の余裕が出来た俺は遊ぶに遊んだ。ゲームは新作が出るたびに買いあさったし、アニメも漫画もざっくばらんに見たいと思ったものを衝動的に買った。意外と前世と共通している作品も多く、それでいて今の年代的にあるとおかしなアニメとかもあったりしたが、そのあたり細かく突っ込むのは野暮というやつだ。もとが漫画世界だし、そのあたり描写されてない部分はファジーなんだろう。
そんな俺の部屋に入ったスギナは、学校に行っている間に訓練したいとか色々言いはしたが、流石に一人で出来ることと出来ないことがあるので、暇つぶしがてらにそういった娯楽作品を注いで覚えさせていった。いずれ自分で視たいものを見て、遊びたいものを遊んで、ということをやっておけば、多少は暇しないだろうと思った。
アニメで言えば手始めにガ〇グレイヴから始めて、Gガ〇ダム、キ〇の旅、ボ〇バーマンジェッターズ、Bo〇giepop Phantom(※流暢な英語で)、□ーゼンメイデン、ガ〇ガ〇ガー、PR〇JECT ARMS、ナウシ○、あずま〇が大王、The ビッグ〇ー、エトセトラエトセトラ。子供向けには色々辛いものもあったと思うけど、仮にも王様を目指すんだし、色々な価値観や物語に触れるのはアリだろうという謎の確信のもと、英才教育(?)を開始した俺。
そして、奴は弾けた。
『帰りたくない…………! こんな面白いものが大量にある世界から、帰りたくない………………! F〇XIだってまだ出てないのに帰れるわけがない……!』
大号泣しながら俺の脚に縋りつくスギナ。
やっちまったな!? と気付くのにそう時間はかからなかった。根暗ながらも真面目に王になると気張っていたあのスギナ少年は、あわれ一人の立派なひよこへと大転身。魔界にいるだろう親御さんに大変申し訳ない気分でいっぱいになりながら謝り通しの俺の心など、スギナは気付いていないだろう。
「まあ…………、なるようにはなるだろうし」
どうせ原作主人公たちみたいな強い心とか持ってないし、負ける時は負ける。慈悲などなく一気に終わるだろうと現実逃避しながら、せいぜい後悔が少なくなるよう、俺もスギナと一緒にZ〇ID〇を見ることにした。
※ ※ ※
僕のパートナー、春彦はなんかヘンだ。
苗字も口に出したら笑っちゃうくらい変だし、あと精神の落ち着きぶりがおかしい。いや、落ち着きぶりというとちょっと違うけど、それでも何か、普通の人よりは肝が据わってるというか。
それは初めて会った時のこともそうだ。
スペイン? だったかポルトガル? だったか、地名はまだそんなに覚えてないんだけど。人間世界に出て来て、食事に困って盗みを働いていた僕を、それはそれは恐ろしい形相で追いかけて来た。思わず僕も彼と同じように恐ろしい形相で逃げまどったけど、春彦に捕まる頃には、なんか知らないけど黒服の男たちに囲まれていた。
男たちは、僕の服から覗く魔本を見て血相を変えた。どこかに連絡して、銃撃戦が始まって、気が付いたら春彦と一緒に巻き込まれていて。
それでも春彦は、僕を置いていけば良かったろうに見捨てなかった。それはそれは酷い形相で逃げていた僕たちだったけど、その慌てている状態でも一応聞いたんだ。僕を残せば君は無事に帰れるだろうって。そしたら何て言ったと思う?
『子供一人置いて逃げ帰ったらそれこそ
いやそれでも、命あっての物種だって思ったけど。ただそれでも、彼と自分に妙な縁を感じて、本を読ませてみれば大当たり。見事に術を使って逃げおおせた僕と春彦だった。
…………まあその翌日には、ウル〇ラマンのゼ〇トンみたいな魔物の子供と、春彦好みのスタイルが良いパートナーが出て来て、こっちもなんかひと悶着あったんだけど。
あの時、第二の術で
結局引き分けというか、勝負なしって感じになったけど、そう確信した僕はもっと春彦のことを知ろうとした。彼を知ることで、より彼とともに力を高められるのではないかと。
僕はそう、誰もが存在を認めるような王になりたい。具体的なイメージはないけど……、あの落ちこぼれのガッシュ「にすら」認識されないようなほどに存在感が薄かった僕にとって、空気みたいな存在故いじめられもしなかった僕にとって、それは最重要課題だった。みみっちいと自己分析して我ながら思うけど、だけどそれが動機なんだから仕方ない。
出来ることはなんだってやる。
そして春彦が最初に見せてくれたアニメ……、ガング〇イヴを見て、僕の王様という感覚はこの時点で壊れた。
『不器用すぎる……! 不器用すぎるよ二人とも…………!?」
号泣、号泣、大号泣。よくわからない話も多かったけど(多分大人向けだからだ)、それでも二人の男の心のすれ違いと、失敗と、そして本当に欲しかったものと。ヒロインの女の子が可哀想だなーとか思いながらも全部見て、そして僕に訪れたあの虚脱感。お互い最後には「帰る」しかなかった、あの二人の貫き通された友情。
誰もが認める、絶対的な力――――そんなものを持つことの無意味さを、思いっきり突き付けられて、僕は自分を見失ってしまった。大事なものを取りこぼして
今ならこう表現しよう。脳を、焼いた。
……まあ後でゲーム版をやって頭ポカーンってなったりもするんだけど、それはそれで一つの流れを叩き込まれていたから、また別な解釈と心の機微とを自然と分析しはじめて、自分を納得させたりと言うのもあったけど。
その後も、砕けて壊れてパズルのピースみたいにバラバラ、マインドブレイクされた僕の心に、春彦は色々なものを注いでくれた。アニメもそうだしゲームもそうだし。ちょっとエッチなのもあったけど、よくわからないなりにぼかしながら解説してくれたりして。文字通り旅を――――心の旅を、春彦は僕に積ませてくれた。
こんな狭い部屋で、こんなちっぽけな場所で。
だっていうのに、ここには無限のような世界が広がっていて。
そして同時に、その水先案内人になってくれた春彦もまた、僕と一緒に旅をしてくれていて。
『誰もが認める王様って、凄い難しいと思うけど。それは、どう考えてる?』
雑談がてらにそんな、僕がかつてなりたかった王様って話とかもして。それでも強く否定せず、浅はかだった僕の自己顕示欲に言葉をかけてくれて。
だから…………、そうだな。僕は。
「広い大地の片隅で、木陰の下で昼寝をしていても、誰も何も言わないような、そんな王様がいいな」
何だよそれって言う春彦だったけど、僕はそう思うことにした。
色々なものを見て、多様性を嫌と言うくらいに学んで、楽しんで。
だからこそ、僕は「全部を肯定したい」。学校の僕みたいに目立たない子も、元気のある子も、ちょっとズレた子も、怖い子も。そんな皆が「ここにいて良い」って思えるような、そんな魔界の王様になりたい。
もちろん差別とか、いじめとか、絶対にはなくならないと思う。でもそれでも、意志を持ち続けて、貫き通そうって頑張っていけば、ちょっとずつだけど変わっていて、いつかは住みやすい世界になるんじゃないかって。
そういうきっかけをくれた春彦が、だから、僕は大好きだ。
面と向かっては言わないし、ケチだし、その割には趣味に凄いお金かけてるし、料理のレパートリーとか壊滅的だし、洗濯物はシワシワだけど。それでも、パートナーの春彦が大好きで。
そう思ったからこそ、ジュモルク以降はバンバンと、新しい呪文が出てくるようになったんだと思った。春彦が思う以上に、僕が春彦に向ける気持ちって言うのはすごい大きいんだから、それはきっと当たり前で。だから本は、僕に応えてくれてるんだと思った。
…………まあ、友達とかは全然できないんだけど。
せめてあのゼット〇みたいな魔物とくらいは友達になりたいけど、あいつ何言ってるか全然わかんないし。「ゴー」って微妙な反響音くらいしか話さないし。
・スギナのどんな王になりたいか、元々の内容は本作解釈。
・深夜アニメとか春彦の中の人(転生者)の趣味を見せたり遊ばせたりしまくった結果、オタク化と同時に精神的に色々思う所が出来て成長したイメージ。そんな簡単に成長して良いのか? と言う話だけど、作者は幼少期に見せられたオ〇ナ帝国の逆襲とかマトリ〇クスとかで価値観が崩壊したことがあるのでヨシ!(猫)
原作改変の結果「春彦と一緒にいるために」「春彦と遊ぶために」という感情の強さから新しい術がポンポン出てくるように。
・ヨーロッパで遭遇した魔物ペアについては……、春彦が原作後半もあまり覚えてないので、まだそこまで命知らずではないということで汗
・春彦はそこそこ温室育ちです(植物園だけに)。
・在住はモチノキ町付近なので、なんだかんだガッシュと後々遭遇するイメージです。ただ性格はそこそこ変わっているので・・・?