P011.炎のたからもの
「は~るっひこ! は~るっひこ! 明日の飛行機、楽しみだ! 楽しみだ!」
「おーテンション高いなぁお前……」
夏休み期間も後半、お盆も過ぎたころ。俺とスギナは、北海道への旅行計画を立てていた。何故って……、メロン食べたいってスギナが言い出したから。テレビの特番で大海恵を始めとした今売り出し中のアイドルたちが出てた番組で、しれっと出て来たメロンが非常に美味しそうで、実際美味しいらしいと言うのをこんこんと語られた。
どうしても食べたい! と通販ではなく現地で食べたい! というスギナの珍しいおねだりに、せっかくならと色々と調整をかけたという流れ。
こういうのは思い立ったら無計画に予約を入れつつ計画的にルーチンを回して楽しむというのが定石。と言う訳で3泊4日計画を立てて、ついでにと北海道の他のところも何か所か旅行する計画を立てて一週間。ついに明日にと迫っている今日は、朝から気合が入っている。なんならパンに塗るジャムとかペーストにメロン味のを買ってこようかと聞いたら「いやそれは良くない、感動が薄れる」と真顔で断られたので、なんというか本当に楽しみなんだという感じだ。
ツヅリは、現在こっちにいない。先輩の実家の都合で里帰りがお盆からちょっとずれたらしく、化野先輩ともども現在は京都にいっているらしい。ガッシュはともかく、ティオとかはスギナからすると友達の友達「ですらない」みたいな扱いになっているようだし。そう言う意味で普段より暇というのもあるんだろう。一人で部屋にこもって色々見たりすることが最近多かったけど、それはそれとして遊び仲間と遊べないのはまた別な理由で嫌と言う。
そんな訳で明日にそなえて早く寝ないといけないとか色々言いつつ、着替えやら何やらの準備に励んでいる俺だったが。丁度そんな時、家のインターホンが鳴らされる。ピンポーンと言う音は宅配くらいでしか鳴らされないので(勧誘とか新聞は一階で弾かれるのだ、ここ)「ハイハイ今出ますよ~」と顔を出せば。
「…………」
「どうした、春彦」
「いや、何でもないよ――――」
『――――何でもないはないだろ! 世界で一番の天ぷら職人の博士が来たっていうのにさ!』
『ハッハッハ! キッドや、それはウソなんだ』
『――――――――!!?!?』
インターホン越しに偉い顔をしてる小型の魔物、ちょっとピノキオっぽい雰囲気とインテリっぽい雰囲気の混じった腹話術の人形みたいな魔物の子と、その子を肩に乗せてるタキシードに帽子、肩眼鏡にマントと何だかえらい恰好の御老人が、画面に映っていた。
ちなみに登場早々にパートナーだろう魔物の子を大変アレな顔にさせてる。いや、何でわざわざそんな自ら信頼されているからこそショックを与えて可愛がるようなお遊びを……? 実際面白そうなのはわかるけれどさ。ウチのスギナの場合、けっこう斜に構えててそういう遊びは出来なかったりするし。
何かこの人たち見たことあるような……。とりあえずガチャ切りして、スギナを促して立ち上がらせ、俺も本を準備する。と、スギナが何か微妙に頬を引きつらせた。
扉を開けると、さきほどのショックから気を取り直した魔物の子が――――って、おや?
「キッドじゃん、おひさー」
「す、スギナ……? 久しぶり、だけど、何か前よりも軽いね……?」
「うわすごい、覚えられてた。クラスじゃ全然話しかけられもしなかったのに、クラスメイトだと認識してはいたんだ。へ~」
「そのイヤミっぽい言い方、やっぱりスギナだー! 久しぶりー! 70名で生き残ってるとか凄い凄い!」
「そっちもね」
イヤミっぽいじゃなくてガチで嫌味だと思うのだけど……。とはいえキッド君の方は全然気にしていないようなので、これはどう判断したら良いものか。パートナーだろう背筋がぴしっとしてる御老人は、キッド君を下ろしてニコニコと微笑ましそうに見ている。
あー、思い出したぞ? この人、普通に作中の中盤くらいから出てた準レギュラーの一人みたいな立ち位置の御老人というか、「博士」だ。師匠ポジと言うか、頼れる大人ポジというか。変則的なおやっさんポジションというか師匠ポジションの人物だったはず。名前は確か―――――。
「こんにちは、スギナ君のパートナーの春彦・チャラリー・花柄・ギニュウ君。
私はナゾナゾ博士。何でも知ってる不思議な博士さ」
そして当然のようにこちらの情報は筒抜けのようである。名乗っても居ないのに、表札の「花柄」からだけでは読み取れないはずのこちらの本名もしれっと言ってきて、なんならウチのスペインの方の実家のオレンジ農園でとれたオレンジを使ったマーマレードを「お土産さ」とか持ってきてるあたり、かなり皮肉が効いている(パッケージに思いっきり「ギニュー」と書かれてるのでわかるのだ)。
というか何となく目がぐるぐるとしてて若干正気じゃなさそうな、妙な威圧感を感じて苦手な部類である。
とりあえず、特に理由はないけど本をポーチに仕舞い「よいしょ」っとスギナを抱える。それに合わせて同時にナゾナゾ博士も「よいしょ」とキッドを抱えて、スギナと同じ目線の高さくらいに持っていった。
「あー、そういやそっちのキッド君、スギナの友達だって言ってたっけ」
「クラスメイトだよ、只のクラスメイト。そこの線引きはしっかりしないと、キッドの方が迷惑だろ」
「何でそんなスギナって突き放すようなこと言うのさー」
「まあまあ落ち着くんだキッド。彼も照れてるんだろう。久々に友達と会ったのならそうもなるさ。シャイな性格だからねぇ」
「本当!?」
「ウ・ソ」
「――――――――!!?!?」
また酷い顔になるキッドに「純真だなぁ」と苦笑いするスギナ。お前さんもお前さんで結構卑屈だよなぁとは思うけど、あえて口には出さない。ツヅリたちと接してる時より声のトーンが若干高いのとか、やっぱり少し懐かしかったり嬉しかったりするんじゃないかという思いもあるけど、あえて指摘する程野暮な男じゃないのだ。
そんなこっちの感想に気づいてか、スギナは一瞬俺を見上げると、ふいっとまたキッドたちに視線を逸らす。若干耳が普段よりも赤い気がするので、俺の推測もそう外れてはいないだろう。
「それで、二人は何故ここに? 単に戦いに来たのなら、玄関を開けた瞬間に術を放ったりすれば良いと思いますし」
「流石にそこまでアレじゃないよねー博士」
「嗚呼キッド。我々とていかに魔界の王を決める戦いといえど、そういった節度まで忘れてはそれこそ『王』らしくもないだろう」
「それに博士も僕も、自分たちより弱い魔物相手にそんな卑怯なことはしないからねー」
ほう言いますねぇ、と少しだけ好戦的な感情が湧く。別に悟〇さみたいな戦闘民族でもないが、そうストレートに馬鹿にされると、ね。戦いたいと言う訳ではないのだけれども、多少はイラっとくるのだ。
そしてキッドの発言を受けて、ナゾナゾ博士は帽子の鍔を押さえて視線を遮り。
「嗚呼、その通りだとも。スギナ君はともかくこの人は『本』についても『魔物』について何も知らない――――彼らのお友達のツヅリ君とそのパートナーが、そろそろピンチに陥いることだって、知らないのだからね」
「「っ!」」
そしてその最後の発言だけは、聞き捨てならず。スギナと顔を見合わせて、詳しく情報を聞けないかと相談をすれば。
「知りたいなら私を倒すことだ。そしたら教えてあげよう――――これは魔物同士の戦いなのだからね」
不敵に微笑むこの博士はやっぱり謎の威圧感を放っていて……。どうにも得意になれそうにないなと、左頬が引きつった。
※ ※ ※
「お姉ちゃん見て見て! オンミョージ! オンミョージ!」
「あれは金閣寺よ?」
「オンミョージ!」
「それは稲荷大社」
「じゃあ…………、オンミョージ?」
「北野天満宮かしらね。……こっちの下鴨神社の方が陰陽師っぽいかしら」
「オンミョージ!」
京都の観光ガイドを片手にテンションの上がるツヅリに、私は微笑ましい気持ちになる。
京都駅を出てそのまま九条通りまで歩いている私たち。こっちに帰ってくるのは2年振りだけど、相変わらず区画がしっかりしてて迷子になりにくい。逆に関東の方に行くと、道がしっかり区画ごとに切り分けられてない分、1年くらいはよく迷子になったっけ。
とりあえずそのまま実家の大社がある方へと歩きながら、道中で売ってたオレンジの練り込まれたマーマレードあんの生八つ橋にじゅるりと涎を垂らしていたので、買ってあげた。普段は全然お金を使えないけど、今日は「本家」の方からお金を出してもらってこっちに来てるから、私としては色々気が楽だった。普段の数十倍は寛容になってる自覚がある。
主に金銭面で。
「お姉ちゃん、ありがとう!」
「フフ、どういたしまして?」
うーん、可愛い。鬼のお面を最近つけることが減って、あの変なキャラクターになったりしなくなってるのも私的にはポイント高いけど、流石に数カ月いっしょにいてツヅリの方も私に慣れてくれたみたい。
だってほら、こんな無防備にニコニコ笑っちゃって……。誘拐されやしないかしら、こんなに可愛い浴衣美少女なんて。思わず抱きしめて抱き上げてきょろきょろする私に、周りのお祖父ちゃんお祖母ちゃんや小学生っぽい子たちが、珍獣でも見るような目を向けて来てる。
な、何か変なことでもした? 私。
「お姉ちゃん、恥ずかしい……」
「あっごめん!」
とりあえずツヅリをおろしてあげると、「あーん」ってこっちに八つ橋を一つ差し出してくれてる! 可愛い! うん、語彙がアホみたいに全然足りないんだけど本当によく笑うようになったわね、ツヅリってば。
まさかこんなに打ち解けてくれるなんて……。これはやっぱり、あの時に本を燃やさないでおいてくれた春彦君やスギナ君に感謝かしら。
せっかくだからと多少観光しつつ(清水寺とか金閣寺とか)、お昼に普段全然入れないようなシャレオツ(死語?)な和風カフェでそれはそれは優雅にお昼とかおやつとかをすごして談笑したりしてから、私とツヅリは目的地へと向かった。
「
「小さいけどね。でも……ツヅリ的には嬉しいかもしれないわよ?」
「?」
一見してさびれた神社。実際、さびれた神社であって、私の血筋の「本家」が本来なら管理するべき御神体を奉ってる神社。
色々と勢力争いやら紆余曲折あって、本家は敗北し大きな筋へと吸収され。分家だった私の両親の家は、本家の壊滅にともない、小学校の頃に一気に没落した。現在ここは、社自体は廃業した私の実家が管理してたところだけど、本家の筋が管理している状態になっていて。
だけど歴として残っているものもある――――従弟の男の子、まだ中学生の
「こっちだよ、タマキ姉ちゃん」
「ありがとう、写真でも見たけど…………、やっぱり本当に、それっぽいわね」
そして奥に案内されて、初めて見る御神体。私自身、そもそも「実家の裏稼業」については全く興味が無かったし才能もなかったから、全然その手のものには関知してなかったからこそ。ツヅリの写真を送った従弟の子が、そこに映っていた魔本を見て、その表紙の文字を見たからこそ、繋がった何かの縁。
「……文字の形は似ているみたいね」
それはこう、何と言うか……。由来としては後朱雀天皇由来の品。紫式部よりいつ頃か彼女の仕えた中宮を経由して、その子である天皇にわたり、紆余曲折あってウチの家の本筋の陰陽師に託されたらしい。
そんな話って全然歴史的にも聞かないから、多分眉唾ものか、あるいは記すほどの大したものじゃないものだろうと思っていたのだけれど。
端的に言うと、それは、「V」。
アルファベットのVが二つ。上下に並んで、そのうちの下から腕と足が生えているような。そして上のVには中央に顔みたいなのが彫り込まれているような、そんな石板。手前にはお皿でマクワウリが納められていて、妙な存在感を放ってる。
その石板の下の方には見たこともない文字、いわゆる日本の古語にも該当しなさそうな異様な文字が掘られてて。そしてそれは、形だけで言えば私とツヅリもよく見ているような、同じ法則性の文字だった。
「お姉ちゃん、魔界文字。だけど…………、古い? 読めない。なんとなく『ビ』から始まってるっぽいけど」
「ビねぇ……。ビクトリー? 比丘戸神社だし」
いやまさかそんな安直な、と思って笑っていると、明が私たちに声をかけてくる。「お墓参りはいつ行く? 姉さん」と言われると、私としては少し表情が陰ってしまう。ツヅリにはまだ妹のことは話せていないから、不思議そうにしてるツヅリ。
なんとなく寂しくてツヅリを抱き上げると、何故かツヅリは部屋の隅の方をじーっと見ていた。……猫みたいね。ん? ひょっとして何か
私、そのテのについてはからっきしだから、いまいちわからないところなんだけど。
そう思って気を抜いていたのが悪かったのかしら……。今日からしばらくこっちの方で泊りということで、明の御両親、私からすれば大叔父の子供とかになるのかしら? そちらに頭を下げる。数日はやっかいになるから当然だし、ツヅリももじもじしながら頭を下げてて可愛かった。
その後ツヅリと一緒にお風呂に入ったり。少なくとも「私の身内」には、ツヅリは「鬼神の一種」とか「式神」だとか言い張って連れてきているけれど、それでまかり通ってるんだから、色々とこの世界は狂ってると思う。
お風呂上り、夕食を食べながら明にちょっと茶々を入れる。前に送って来た写真に写ってた女の子とはどうなったのー、とか。全然そういうんじゃないよ、とムキになるあたり怪しい。うーん、今日は携帯電話奪えなかったけど、今度奪ったらデータフォルダあさっちゃおうかしら。ぜーったい専用フォルダつきで、あの女の子の写真ばっかり写ってるのがあると思うのよね。
そんな中、ツヅリは借りて来た猫状態でもそもそご飯を食べていたけど、あっちのお母さんから味を聞かれたりして、それはそれは甘やかされてる。最近の私に対するほどじゃないけど、こっちも打ち解けてきているみたいで何よりかしら。ただ明に対してだけは、しょっちゅう人見知りして私の後ろに隠れていて。
「あの人…………」
「ん? 私に似て格好良いでしょ~」
「別に、そんなことはない。……目が、うつろ」
「うつろ? んー、いつも通りな気がするけど。気のせいじゃないかしら」
こうして初日は何事もないように終わったように見えたからこそ。2日目3日目も大して差はなく、観光したり、妹のお墓参りにツヅリごと連れて行って、そのあたりについて少し話したりして。……特に何か感想を言ってきたりしないあたり、これはこの子の素なのか、まだ心を開いてもらえてないってことなのか。判断がつかないわね。
そして3日目の夜中、何故かツヅリが私を起こし、本殿の方へと連れて行って。
そこには以前、明と一緒に写真に写っていた、なんとなく修道女っぽい被り物をした可愛い顔立ちの女の子が、明と一緒にあの「V」の石板を持ち逃げしようとしているところで。
何をしているの!? と咎めれば、当たり前みたいにこっちをみて。「お姉ちゃん!」というツヅリの呼びかけが無ければ、そのまま直撃を喰らっていたかもしれない。
困惑してた私の前で、明はその手に「青色の魔本」を持っていて――――。
「頼むよ『新たなる』
「――――『サイス』」
いきなり左手を振り回して、こっちに「飛ぶ斬撃」みたいなのを投げて来たその子。ツヅリが私のお腹にタックルして引き倒さなかったら、もっと酷いことになっていたのは間違いない。
サイス? 確かティオちゃんと大海恵に「こういう術も使えるのよ?」って見せられた術にそういうのがあったような……。と言うことはあの子、魔物!? えっ全然人間みたいじゃない。ツヅリとかスギナ君とかガッシュ君みたいな感じで容姿に線とか入っていないし…………、いやティオちゃんは割と普通の人間の女の子って感じだったかしら。つまりそういうこと?
「『ソルド・サイス』」
明の表情は、本に下から照らされてちょっとホラーみたいなことになってるんだけど、なんなら顔も虚ろでまるで何かにとりつかれているみたい……。
ツヅリが「お姉ちゃん!」って言って、私を庇うように前に立って――――。
庇うように抱きしめて転がり、彼女の手に出来た「光の剣」をかわす。当然、さっきのサイスもだけど、神社の壁とか色々に当たって切り裂かれて、ぐらぐらと揺れたりしてる。というか普通に器物損壊! 弁償してよちょっと貴女!
「ちょっと、泥棒もアウトだけどいくら何でも強盗にしては過激すぎない!? 損害賠償ものよ、何してくれてるの!」
「……ッ!? 貴様、私を愚弄するか! 誰がこんな小物の泥棒がごとき真似を好き好んでしているか……!」
「弁償しなさいよ! 弁償!」
「黙れ黙れ黙れ――――!」
ぼそりと腕の中でツヅリが「お姉ちゃんいつも通りだ……」とちょっと呆れた雰囲気に。い、いや、だって普通のことじゃない? これ。
そんな私たちと魔物とのやりとりを、明はやっぱり無表情に見つめて来て。
「『サイス』――――」
「ふんッ!」
そして今度は、手元に出現した「ソルド・サイス」っていうらしい術から、あのサイスを放って来た。刀身にまとうように振り下ろされた一撃は、思わず飛び退いた私たちの足元を思いっきり切り裂いて、足がハマった私。ついでにびっくりして、ビビっちゃって、少し腰が抜けてる。
そんな私を引っ張ろうと頑張るツヅリ。うんしょって目が矢印の寄ってるみたいなお目目になって可愛い……って、そんな私たちを見て、シスターみたいな魔物は少しバツが悪そうな顔をして、明をお姫様抱っこ(!)して走る。さっきのサイスで破壊された壁から、そのまま外に出てるらしい。
「い、いや、いくら何でも何が目的なのよ……? 石板、盗もうとしたの? えっ? やっぱりこれって何か、ツヅリたち魔物に関係ある代物だとおか――――」
「――――追うよ、お姉ちゃん! あんな罰当たりなことして、許せない!」
「え? う、うん。……何かやる気になってるわね、ツヅリ」
でも私もツヅリもパジャマなんだけどなー……。いや、まあ状況的に急がないと大変なのは間違いないんだろうけど。
明のお父さんとお母さんはまだ起きていないのか、こっちに来ない。とりあえず寝室まで走って本と携帯電話とかだけポーチにまとめて入れて、そのまま靴を履いて後を追った。
ツヅリをおんぶしながらだけど、この子、いつも思うけどすっごい軽いわね……。
しばらく走ると、思いっきり大通りであのシスターの魔物が、ぜいぜいと肩で息をしていた。……あら? あんまり体力がない子なのかしら。明は棒立ちで本を持ったままの体勢で、じっとシスターの子を見ている。
「ぜい……、ぜい……、むぅ。何とか言ったらどうだ、明。せっかく私と一緒に戦ってくれる気になったというのに」
「…………」
「だんまりか。まあ、仕方ない。それだけ君には負担をかけてしまったと言う事なんだろうから、後でデートでもして機嫌を直してもら――――って、もう追いつかれた!?」
「あの、家出て10メートルも経ってないんだけど……」
「うんうん」
ツヅリを下ろして近寄ると、あの子は何かすごい疲れた顔をしてた。でも明に対して気を遣ってる発言から、そう悪い子じゃないように見える。
見えるんだけど……、何かしら。明の様子が絶対おかしいんだけど、そのことに気づいていない?
「まあ、そういうのは後で聞くわ! 少なくとも泥棒を働こうとした魔物なんて洒落にならないもの。
ツヅリ!」
「うん!」
長袖長ズボンの薄手なパジャマ姿にジャケットとかいう、色々と頓珍漢な恰好なんだけど、状況が状況だからこのまま戦うしかないわよね……。ツヅリがいつも通りな分、私だけ変な感じ。……って、あれ? ツヅリ仮面は? 忘れたのかしら。
まあ気にしても仕方ないわね。本を開いてシスターな魔物ちゃんを見て――――――――あれ? これは……。新しい術? 本のページのうち、普段とは別な所がずっと光っていて、そこをめくる私。そしてそのページ、しかもこの名前って……。
「お姉ちゃん、お姉ちゃん」
「あ、ごめんねツヅリ。……さあいくわよ!」
叫ぶ私たちに、あのシスターの子は両手を上にかかげて。私の本と明の本がともに輝き――――。
「――――『ギガノ・サイス』」
「チェストーッ!」
「『ドラクエア・イシルド』!」
「や――――ッ!」
ダイヤ型の大きな宝石みたいなものに、羽根がついたような何か。弓みたいにも見えるそれを直接飛ばしてくるシスターな魔物に。
ツヅリはやっぱり白目を向いて気を失いながら、目の前に大きな「五芒星の描かれた」「半透明の」五角形の盾を出して、その一撃を防いだ。
……うん、やっぱり「シルド」って出てたから盾かなーとは思ってたのよね。春彦君とスギナ君の「ジュオウ・リシルド」みたいに。
でもあんな風に大掛かりな感じじゃないし、ただの盾なのかしら? にしては呪文が長いんだけれど…………。
・北海道旅行:
本当に、特に理由はない。強いて言うとメロン目的なところに何かの因果の収束があるかもしれない?
・ナゾナゾ博士襲来:
時期的には清麿たちよりも全然早いけど、一応理由はある。何故ピンチについて知っているのかと言えば……、一応は情報収集が前提。
・化野
文中では直接言及してませんが、系譜としては陰陽師、声聞師、拝み屋の流れを汲んでいる家柄となります。彼女の実家は廃業して別業種ですが、本家が何やら色々あって没落した結果、連鎖的に分家にも影響を受けたのが小学校時代。
それ以降もトラブルが色々あり、その結果妹が亡くなってたりするので、珠紀はこの家業の類について本当に全く触るつもりがない。
・華麗なる「V」の石板:
本作ではこういう扱いとなります。紫式部設定が出てから、絶対なんらかの方法で石板自体を日本に送って保管させただろうなという予想。お供え物が
・様子がおかしい明:
多分漫画表現だとアルベールとかそういう辺りと同じ感じて、白目向いてる描き方になってるはず。まあ、つまりそういうことです。
・ドラクエア・イシルド:
詳しくは次回。