「――――嗚呼わかった。連絡ありがとう『テレパシス・レーダー』。そうか、やはり京都に現れたか。しかし……」
日本国内、某所。深夜にもかかわらず相変わらず老紳士然としたたたずまいを崩さないナゾナゾ博士と、その近くの寝袋で熟睡しているキッド。場所はとある洞窟の手前であり、その奥には小さな社の「破壊された跡」だけが残っている。
「こちらも一足遅かった。……後はそれこそ民間に出回っているものでも探す他はないだろうが、どうやら相手には潜入に特化した能力の魔物がいると考えるべきだろうなぁ、キッド」
「むにゃむにゃ……」
フフ、とまるで祖父が孫に向けるような微笑みを向け、小さなおもちゃのごとき寝袋で寝息を立てるキッドを撫でるナゾナゾ博士。そしてボソリと「悪く思わないでくれよ、春彦君」と月夜の空を見上げる。
「ここ半年近くの君とスギナ君との動向には、いくつか不可解な点が見える。『渡航歴のないスギナ君』、『外出中の密室における室内の謎の証明点灯』『大学にいたはずなのにその当日にフランスで目撃される春彦君』。……いずれも君たちが持つ術のそれではありえず、さりとて魔物においてもいささか妙な情報ばかり集まる。
決定打は彼女――――ミール・ゴッドフェローズ。ゴッドフェローファミリーの頭目、子を為せない彼の一人娘と喧伝されている謎の女性。彼女に関しては裏社会の側で徹底的に情報を隠されているため、私としても手を出しづらい。それでも聞こえてくる限りの所業を見るのならば…………。そして、状況証拠から言えば間違いなく魔物のパートナーなのだろうが……、その能力についても、目撃証言もないことからあまりに不可解が過ぎる。
今回あえて君に珠紀君の情報を与えたのは、さしずめ君と彼女との繋がりがどの程度なのかを知るためだったのだ。……あんな、子供を思いやれるような若者に疑いの眼差ししか向けられず、本当にすまない」
言いながらも、ナゾナゾ博士は手元のPCに、複数の送られてきたメールに添付されていた写真を開く。
その一枚は、春彦、スギナ、そしてミールの三人でみそラーメンに舌鼓を打っていたり、あるいはカニの殻剥きに四苦八苦していたり、あるいは大型書店でテンションの上がる春彦やスギナに心底つまらなそうな目を向ける彼女だったり……、とにかく北海道を満喫している三人の姿。
そして。
「これらが今日の日中に撮影できた写真である以上、もはや間違いないだろう。彼女のパートナーは空間転移の力を持っており、そして昨年に起きたイベリア半島での大抗争、その中心に彼女たちはいたのだろう」
私たちには信頼できる仲間が必要だが。果たしてそこに彼らを含めて良いものか。その付き合いぶりから察する人間性と、自らが想定するペアたちとの連携を思えば――――。
悩むナゾナゾ博士は、パソコンの他のメールを見ながら、深いため息をついた。
※ ※ ※
自分のパートナーが洗脳されているようにしか見えない。
外からそう指摘されて、シスター風の魔物が出した結論は「う、嘘だ……! 僕を騙そうとして――!」というものだった。俺の頭の中では勝手に相当エキサイトなことになっているが、真実など知りたくないとばかりに、あの魔物は認めず頭を左右に振る。
だが侮るなかれ、英才教育を施された? スギナはその程度で現実から彼女を逃がさない。
「そんな訳がない……、明は私の言葉をわかってくれたんだ! だからこうして戦いに来てるんだ!」
「わかってたらもっとノリが良いと思うんだけど、ヘーイヘーイ」
「何だその煽りはッ」
「いやだってちゃんちゃらおかしいじゃん? あっちの明? っていう君のパートナー、不機嫌になったら押し黙るタイプなの? もしくは不機嫌になった程度で君とも目を合わせないで、ずっと棒立ちになってるような人なの? 君が今みたいにピンチの時に、何も言わずに立ったまま呆然としてるわけでもなく、呆けてる訳でもなく、ただ無表情にこっちを見てるだけの人なの? ターミネーターなの? ロボトミーなの市民? 機嫌悪くても思いやって助けに来るくらいの絆があるから、君だってツヅリを追い詰めるくらい強いんだよね」
「えっ」
「完全に漫画とかにありがちな『心を消される』タイプの洗脳です、本当にありがとうございました」
「い、いや、確かにこの状況で拗ねたままっていうのはおかしいが…………、あ、明?」
「――――――――」
羽根を木の枝で拘束されて、身動きが取れないでいるシスター風の……、面倒だからシスターちゃんでいいや。シスターちゃんは恐る恐る自分の後ろを見るのだけど。残念ながら俺の目から見ても、どう見ても心の力を効率よく出力するよう心を書き換えられてるみたいな洗脳受けたようにしか見えない。
ついでに立ち上がれないでいるらしい先輩も「うんうん」と首肯。ツヅリは「あの子どうしてあんなに容赦ないの……?」とか言ってる。
スギナの容赦のなさより君の時折見せる黒い側面の方がアレなんだよなぁ……。
いやまぁ、気を取り直して。
「あのシスターちゃん、ツヅリのお姉ちゃんって言ってたみたいだけど…………、マジです? 先輩」
「えっ? あ、うん、言われて見ればそうかなーって感じだけど……、あの、タオリちゃん?」
「そうらしいで…………、っ!? そ、そうです」
化野先輩も混乱してる様子で、なんならツヅリの様子もこうして見ると何か変だな。言葉もどもってる感じがないし、あの般若のお面付けてないし。
まあそういう話は置いておいて。
「チェストーッ!」
背中の翼を光らせたタオリは、自らにまとわりつく樹木を一気に破壊する。剣を振るったとかではなく、身体からエネルギーを放出してというところがミソだ。つまりあの翼には「そういう力が付与されている」か、もしくは彼女の特性があの術を使えば倍増されるか、みたいなところだろう。
検証もかねて、スギナに声をかける。
言葉では返さなかったが、スギナは釣り竿のような杖を――――葉のシンボルが埋め込まれたその杖「オージグル・マ・ジュロン」を振るう。
ただそれだけで、タオリに破壊された木の枝が「蠢きだし」、そのまま伸びてタオリの周囲を覆う。
「『アーガス・ジュロン』!」
その枝を起点にアーガス・ジュロンを発動し。しかしスギナは手を合わせることもなく、地面に手をつくこともなく、ただ手を振るうのみ。
たったそれだけだが、あの木の枝が変形して何ら普段とそん色ないアーガス・ジュロンのドームが形成された。違いは唯一「地面から生えていない」一点。地面から生えていないという点で強度に不安があるが、そのあたりはドーム自体の質量を増すことで解決したのか全体的に分厚く見える。
「内側に兵隊さんたち送り込んで、時間稼ごう」
「了解。『バルジュロン』!」
これもまたスギナは地面に手もつかず、なんならジュガロなどの途中経由の術もなく、ただ杖を振るうのみ。それだけでタオリの悲鳴があがり、アーガス・ジュロン内部で打撃やら斬撃の音が響くようになった。
パートナーの洗脳されてるっぽい少年は、タオリの姿が見えなくなったせいか全く動かず呪文も唱えず。ただ術の維持のためにか、本はずっと光ったまま。
今のうちに本を燃やしても良いんだろうが、スギナが「まだダメ」と目で訴えてくる。あからさまにパートナーと意志疎通がとれていないようだったし、こういうのもスギナ的にはツヅリと先輩を見逃した時のアレのような感じなのだろう。納得せず、このまま返すのは忍びないと言うことだ。
とりあえず俺は化野先輩に手を差し出し、おんぶ。…………うーん、背中がちょっとだけ柔らかいけど、ミールさん程ではないな。うん。ゼロではなかっただけ良しとするか。
ついでに事前準備してきた「チャージオ・ジュモルク」の予備のリンゴもどきをスギナから渡してもらった。先輩は……清磨君みたいに「何、これ」と嫌そうな顔をして玉虫色の輝きを放つピンクっぽいリンゴを睨んでいたが、いやそう邪険にしないでくださいよ。俺だって今さっきこれを食べて、無理やり元気になってから来たっていうのに……。ミールさんに連れられて一日中北海道を無茶なスケジュールで観光させられ、既にヘロヘロなのを無理言って来てるんだから、ささ、どうぞどうぞ。
ただ、ちょっと想定外だったのは。
「……あら、美味しいじゃない。マムシドリンクよりはマシね」
「マジっスか!?」
びっくりしたように目を丸くして、その後はニコニコと普通に食べていた。
そういえばこの人も徹夜作業とかしょっちゅうやってる人なのか……? 警備のバイトでツヅリと出会ったとかどうこう言ってたし。意外と飲みなれている味ということなのか。
ちなみにスギナは杖を背中に背負い、ツヅリを見て「お面どうしたの?」とか聞いている。「お面?」と不思議そうな顔をするツヅリ。うん、やっぱり何か様子がおかしな気がする。ただスギナは何かを察したのか「まさかシャーマ〇キ〇グとは」とかぼそりと呟いていた。
マ〇キ〇……? えっと、ううん? どういうことだ。
「
「そ……、そうみたい? いや、でも姉妹なんだし――」
「僕の目を見なよ。澱んでるだろ? 陰キャなんだよ。ツヅリも似たようなものだよ」
「そんな死んだ魚みたいな目をされちゃっても……、ち、ちがうもんっ」
「ガッシュの無垢な笑顔」
「はうっ」
ふいっと顔をそむけるツヅリに、半眼でニヤニヤとちょっといぢわるするスギナ。致命的ないやがらせまでいってないから、これはじゃれてる部類だろう。ちょっと微笑ましい。内容に目を瞑ればだが。
化野先輩も「可愛いわね、二人とも……」とか言ってるけど、それはそうとして視線がずっとスギナの背中の杖に向いている。
「春彦君、あの杖は?」
「一応、新しい術ので出てくるアイテム? みたいな感じのです。効果は――――」
「――春彦、破られる」
おっと、説明してる場合じゃないな。本に力を込め、とりあえずバルジュロンを追加で生成。アーガス・ジュロンが破壊されるよりも前に外側に四体、アーガス・ジュロンの外皮から分離させ、木の兵隊さんたちを作り出す。
と、こちらが何か指示するよりも先に一目散にこっちに向かって逃げてくる兵隊さんたち。
次の瞬間、アーガス・ジュロンの内側から「巨大なハサミ」みたいなエネルギーが放射され、天井を切り裂いた。
解除されるアーガスジュロンの内側から、肩で息をするタオリの姿。頭に乗っかっていたウィンプル(シスターとかの帽子)がどこかにいっている。……んー、なるほど、髪型はおかっぱでぱっつんとしてるから、色こそ違うけど確かにツヅリに似てなくもない。
「くそっ、何とも意地の悪い術を……、明! 大技頼む!」
「――――『ギガノ・サイス』」
両手を振り上げた彼女は、その頭上にダイヤのような水晶っぽいものと、その両サイドに羽根っぽい何かを生み出し……、何かで見たことあるなアレっぽいやつ。ティオとかが使ってたような気がする。そしてそれを起点にエネルギーが放出して光り輝く。色的にちょっと月〇天衝っぽさもあるけど、とはいえそれをみすみす見ているだけの俺とスギナではない。
再び杖を振るうスギナ。と、バルジュロンの兵隊たちがいっきにスギナの前に集まり腕を組んで偉そうにふんぞり返る。
「何の指示出したんだよ」
「いや、盾になれって指示をしたんだけど……」
「やっぱり頭悪いな、バルジュロンの兵隊たち……」
「まあ、『増やせば』問題ないと思うよ」
「えぇ?」
スギナの一言に思わず顔をしかめる俺だったが、まあ、たしかにこの状況だと先輩とか守りながら走ったりできないから、どうにかするしかない訳で。なんなら最大術の「ジュオウ」を使える程、こっちも体力が残ってないので、代用としては数で勝負する方が妥当ではあるのか。
「じゃあ、倍々ゲームでいくか。……『バルジュロン』! 『バルジュロン』! 『バルジュロン』! 『バルジュロン』!」
「えっ? は、春彦君!!?」
耳に先輩の吐息が当たって集中力が乱れるんで、話しかけるのやめてくれませんかね!!?
とりあえず術だけ唱え終えると、スギナは杖を振り。それと同時に既存のバルジュロンの表皮から、また別なバルジュロンが枝分かれして生み出される。計算的には4×4の16体。ちょっとした小さな林みたいになったそいつらそれぞれは、横と前後に並んでやっぱりふんぞり返っていた。
「チェストーッ!」
放たれる月牙もどきを前にしても、増えた兵隊さんたちは一切屈さない。というか気のせいじゃなきゃ、ちょっとどや顔してそうでもある。とはいえ所詮は初級の派生術、ギガノに対して耐えられるだけのパワーは存在しない。
それを見てスギナは杖を振り。それと粉砕された分のバルジュロン3体も含めて全員が「組み合わさり」、ゴゴゴゴと異音を立てながらギガノ・サイスを飲み込む。
『ジュウウウウウゥゥ…………』
「何、だと?」
そしてギガノ・サイスを飲み込んだバルジュロンたちは、一体の大きなバルジュロンへと変化した。腕は四つと若干異形なビジュアルだが、そのあたりはスギナのセンスが光ってるのだろう。通常のバルジュロンが低めの木くらいだとすると、融合版のバルジュロンは雑木林とかのかなり大きい木くらいのサイズがあり、威圧感も強い。実際パワーとかも通常のバルジュロンは超えている。
とはいえ所詮はバルジュロン、頭バルジュロンには違いないだろうから、簡単な命令しか聞かせられない。臨機応変にタオリと殴り合えとかそういう指示を出しても、おそらく普通に術で攻略されるだろう。
なので、からめ手を使う。
「『ガンズ・ジュガルセン』! 『バル・ジュガルセン』! 『キロロ・ジュガルセン』!」
「…………そういう作戦か、了解。勢いで押し切らないと負けそうだし」
大きなバルジュロンの腕の内三つ、右腕上下と左手の上の方それぞれの手先が変化。アサガオのようなショットガン? と、大砲のような折れた幹がそれぞれ装備される。絵面で言うと中々凶悪になっており、威圧感が増しているせいかタオリも「ひっ」とちょっと怖がった声を上げた。
全ての砲門から、タオリめがけて放たれる種やら葉っぱやらトゲやらの数々。
うおおお!? と言いながら悲鳴を上げながら逃げるタオリに、「痛そう……」「痛そうね」とこちらの女性陣から同情の声が。
「く、くそう……! 明! 何かないのか明!」
「――――――――」
「…………明? 明……」
パートナーに声をかけても、やはりあの明君とやらは反応せず。
それを見て、タオリは少し表情が曇り……、そんな空気を読まずに連射される攻撃からまた凄い形相をして逃げる彼女。いかにスギナが追加指示出していないとはいえ、もうちょっとなぁ……。
そしてある程度走らせたところで再び杖を振るうスギナ。と、タオリの足元に「手前の街路樹から」枝が伸びてからめとり、足を引っかけて転ばせる。
「能力的にはシンプルだけど、絵面随分えげつないことになってるな……、原因の半分は俺だけど」
術を入手してからまだ一日だというのに、スギナのこの使いこなしっぷりはちょっと尋常じゃなかった。もしかしなくても俺が色々見せて来た作品群とか、遊んできたゲーム類とかの影響が出ているのだろう。相手が混乱しているうちに畳みかけているせいもあるが、だいぶ一方的な試合運びだ。
オージグル・マ・ジュロン。ナゾナゾ博士から「術が発現する原理」を聞いたことで、つまり「魔物の願い、秘められた力が本に新たに刻まれる」ということを明確に言われ理解した後に発現した術だ。
効果としては凄いシンプルで、ジュロンの発動にモーションがいらなくなるというもの。どういうことかと言えば、本来の第一の術であるジュロンは、植物に力を貸してもらう関係上、どうしても地面か植物自体に手を振れている必要があった。オージグル・マ・ジュロンを使っている場合は、この縛りが消え、さらに範囲が拡大する。
スギナに言わせれば、術の媒体として生み出される杖を握るだけで、周囲の植物との意思疎通が可能となり。指示を出して振るうだけで、勝手にジュロンが発動する。
なおかつこの場合の植物というのはスギナの術全般に応用が利く。つまり、例えばジュガロないしジュガルセン系の術を発動しながら杖を振るえば、それだけで空中の弾丸が「その場で急成長し」ジュロンとして扱えるようになり。そのまま同時にバルジュロンを使い、一切手も触れずに木の兵隊を作り出すようなことも出来る。そしてそのバルジュロンにジュガルセン系の武装を遠隔で装備させることも。
……おそらくだがジュモルク系で植物化した状態の自分にも効くんだろう。何だこの壊れ性能。戦い方が完全に悪の魔法使いのそれだ。多分ペニみたいな「純粋な肉体強化」とか「幻惑」とかされると振り切られるんだろうけど、主人公であるガッシュ&清麿ペアですらそうではないので、果たしてこれに対抗できる魔物ってどれくらいいるんだろう……。
これを使ったスギナによるキッドへの復讐劇(?)は色々と酷いものがあったが、その話は置いておいて。
そのまま木の枝複数をさらに伸ばして、明君を拘束して手から本を叩き落とすスギナ。「あっ!」と声を上げて立ち上がろうとするタオリの脚にまた枝を引っかけて引っ張り転ばせ、そのまま明君と本の両方をこっちまで運ばせたスギナ。
「燃やすのはちょっと待って」
「わかってるって」
「く……、明を返せッ!」
苦痛に歪むタオリ。そんな彼女に、ツヅリは悲し気な目を向けている。
と、先輩が「もう大丈夫だから……」と背中から降りて、転んだ状態のままのタオリへと近づき、しゃがんだ。
「あなた、明の彼女だと思ってたけど魔物だったのね。……なんで神社からあんな石板、泥棒なんてしようとしたの? 明の様子も変だけど、それよりそっちが気になるわ。
どう考えてもインチキくさいオカルト番組とかで笑われるタイプの珍品でしょ? アレ」
石板、ということはなるほど。本当にナゾナゾ博士の読みは当たっていたという事か。そして先輩の物言い的に盗難は防げたと。
そしてそんな先輩に「私も詳しくはしらない」と、ふてくされたように顔を背けて言う。
「あれは、盗難ではなくレンタルしたいのだと言われた。最後には返すと言われたから、一時的に借りるだけなら、持ち主の一族である明が大丈夫と言えば大丈夫だろうと判断した」
「それで泥棒って言われるのが嫌だったのね」
「ま、まあ、深夜に運び出せと指示されたからそれに従ったまでだが、外見上は泥棒のように見えたろうことにも納得はいくが、個人的に納得はいかないというか――――(もごもご)」
「いや、どう考えても泥棒の片棒を担がされてるから。わざわざ家族全員の了解も得ずに、夜中に運び出すとかどう考えてもアレだから」
スギナちょっとストップ。ぽむ、と頭に手をやり少し抑える。なーんかさっきから面倒くさそうな性格してるから、下手な茶々を入れると話が進まない気がする。
ツヅリもツヅリで「姉は思い込みが激しくてプライドが高いらしいから」みたいなことを言ってるし、いや、うん…………、うん。
「…………もともと、明が戦いに積極的でないのを、説得してくれると言っていたのだ。既に残りの魔物の子も70名を切って、戦いが本格化するんだ。明が今のままではかえって危険だと……。魔界時代の私のクラスメイトで、真面目な研究者のような子だったから、信用して任せたんだ。確かに自分のパートナーの心をちょっと操作して戦闘向きにしているとは言っていたが、そんな簡単に何人もできるはずはないし……。
仮に何か騙されていたとしても、直接対決ならこちらが勝てるという自負もあったし。……そのかわり石板をレンタルさせてくれと言われて、明がふてくされながらも戦う気になってくれたから、だから――――」
「ん? えっと、明にその話はしたの?」
「いや、だって私だけで話が完結しているんだから、そこに明を混ぜる必要はないだろう」
「いえあの、明が多分その魔物の子に洗脳されたってなったら、もう後は何もかも前提から崩れてないかしら」
「「………………」」
おいおい……? いやいや、思い込みが激しいと言うレベルじゃないぞ。コミュ障とかそういう次元でもないし、何だこの子……? 思わずツヅリの方を見る俺とスギナ。ツヅリはツヅリで、半眼で死んだ魚のような目をして姉を見ていた。
「タオリお姉ちゃん……、筋肉バカ」
「ば、馬鹿とは何だ馬鹿とは!!?」
「下手に強いから手に負えない」
「ツヅリだって人見知りで陰気だから『聖剣』の道でなく『死霊』遣いの道に走ったくせにっ」
ぎゃーぎゃーと大声で色々言い出すタオリと、普段通りの様子に戻った? いや普段より陰気な感じでぶつぶつ文句を言って返すツヅリ。そんな両者に苦笑いする化野先輩と、話がやっぱり進まねぇ……と頭が痛い俺だった。
と、スギナが何故かきょろきょろしているが、これは一体……。
「何か……、いる気がする。ゴーム以外に」
「気がするって、魔物の子が――――」
「くそっ、どういうことだ『ゾフィス』! クラスメイトだから、友達だから力を貸してくれたんじゃなかったのか――――!?」
と、嘆くように叫んだタオリの声と同時に。
「――――『テオラドム』!」
どこからともなく猛烈な速度で飛来した何かが……、スギナの扱う木の枝をかすめて爆裂させ。
その爆裂がタオリの本に掠り、ちりちりと音を立てながら、その場に落ちた。
・ナゾナゾ博士とおやすみキッド:
石板のありそうなところを一通り探しているが、化野に関してはあえて泳がせていた。ただ思惑としては上手くいっていない。
・警戒されまくってるミール:
博士の情報網でも彼女については完全に裏社会の人間で「それなりに」事件も起こしていたりする人と出ている。アウトロー世界の住人なので、そんな彼女と仲良くする(?)春彦にもいくらか警戒があった。また連携で考えても清麿たちと本当に上手くいくか不安点もあったために検証した。今回つながりがはっきりしたので、少し慎重になる。
ちなみに北海道や京都や東京に、実はMJ12の面々がスタンバイして春彦や珠紀たちの動向を伺っていた。なのでミールに連れられて北海道観光を始めたことも、飛行機に乗ってないことも、その上で突然京都に現れたことも全部筒抜けだった。
・オージグル・マ・ジュロン:
スギナ第13の術にして、ジュロン系の術としては最強クラスのイメージ。単体の術性能ではなく、組み合わせでシナジーを産むタイプ。ジュロン使用時の、①地面や植物に手を付ける②手を付けた範囲から魔力が届く範囲の植物の力を借りる、の行程のうち①を除外し、なおかつ自分の魔力を広げて植物とやり取りするのではなく、周囲の植物の意志を杖に集めて指示を出すのを高速化する。普段のジュロンなら植物操作とスギナの意識は1:1の関係だが、この術の場合は複数:1で操作できる。
また杖を出している間は常にジュロンが発動している扱いなので、他の術との多重併用も可能。拘束しながらバルジュロンで襲い掛からせつつジュガルセンで狙撃みたいな戦法も可能(心の力が続けば)。
なお春彦からは杖のデザイン的に、これでスギナのスナフキ〇化が加速してるなーとか思われてる。
・様子がおかしかったりいつも通りだったりするツヅリ:
行ったり来たりしてるのは、表に出てきている側が入れ替わっているため。
・タオリェ……:
真面目で実直で人を疑うことが苦手で一度思い込んだら一直線でプライドが高く負けず嫌いで天然(プロット原文ママ)。異世界転生ものとかだったら、メインヒロインにはなれないタイプの女騎士みたいな性格のイメージです。
なので友達の言葉だと信じすぎてしまった。きっと黒幕からは、その扱いやすさをどストレートに内心で愚弄されてることでしょう。