「…………」
「まあまあ、どうどう。気を取り直して、な? 結局仕込みが全然役に立たなかったのとか、大したことねーって。せっかくジュロン使えるようにしたのに、肝心のカルーラちゃん? が魔界に帰されちゃって無駄になったとか」
「うるさい」
膨れて横を向く自らのパートナーの魔物の子の機嫌をとるのに、日本名でいうところの花柄春彦という青年は四苦八苦しているようだ。おまけ付きの御菓子をあげたり、幼児用の御菓子をあげたり。そんな不機嫌そうな魔物の子に、自らのパートナーである小型の魔物・キッドは「気にしないで~」と笑っていた。
金髪の小さな子、ガッシュ君が「ウヌ、元気を出すのだ!」とにこにこ話しかけているのに、少しだけ恨めしそうな顔をするのが彼、今はナゾナゾ博士と名乗っている老紳士の目からは、幼い子供同士のやりとりとして印象的だ。
千年前の魔物たちから逃げて来たガッシュたちの先行した魔物の子供とそのパートナーたち。引き際の戦いは、ガッシュたちの友人であるウォンレイとパートナーのリィエン、旅の途中で覚悟を決め勇敢に立ち向かったウマゴンとそのパートナー・サンビーム。さらに自らとキッドの介入と超人「無限の若さの
ゆえに「かつて魔物の子のパートナーだった」アポロ・ジェネシスが手配した貸し切りの宿、サロンにて皆が集まっている中に、わざわざ招待していなかった春彦たちがいることに、ナゾナゾ博士としては困惑しかなかった。
「ドクター・ナゾナゾ」
「……サンビーム君、君が?」
「嗚呼。『必要になる』と思ったのでね」
ロードという魔物の正体を清麿たちが知っていた。その事実に加え、ナゾナゾ博士からブラゴとシェリーという強力な魔物とそのパートナーからも敵視されている。味方についている訳ではないが、それでも「敵の敵は味方」といえるくらいの、緩い連帯感は存在する相手だ。だからこそ、ゾフィスが既に悪逆なことを為していたことを、ツヅリの姉の話も交えて説明し終えた後。それぞれが顔を合わせ、各々に紹介をしたり、あるいは手当をしたり、世話を焼いたり。……ティオはガッシュに何か言いたげで右往左往していたり、ツヅリはスギナの後を数歩下がって気配を消してついていって「怖っ!?」と驚かれ「はうっ」とショックを受けていたりと、子供らしく微笑ましい(?)一幕もあるが。
そんな中で少しだけ疲れた表情を浮かべたナゾナゾ博士に、ウマゴンのパートナーであるカフカ・サンビームは声をかけた。
ウマゴン本人はガッシュたちと戯れており、「あんまり暴れるんじゃないぞー!」と声をかけ、その後にナゾナゾ博士の方にきた。
どうやら話があるらしい。「数多の本を読んだ」上での行動分析、心理分析から、相手の思考や行動の多くをかなりの確度で予測できるナゾナゾ博士であるが、そんなもの使わずともサンビームが話そうとしていることには察しがついていた。
そして、それはまたサンビームも。……ナゾナゾ博士は「悟りのようなもの」と考えているが、どこか彼からは自分と似たような何かも感じる。そしてそれは、じっと自分の目を見つめて来る彼もそうなのだろう。故にこそ、直接的に名前を出さずとも「誰に」ついて話しているか、お互い把握が出来ていた。
「貴方の懸念も、わからないではない。彼らの多くが『白』であるとするならば、それに対して彼は『灰色』、というより頓着していない節がある。一時の協力であるなら問題はないかもしれない。だが継続して連携をする際、エンジンのギアが破損するような何かが起きるのではないか。それも、致命的な形で」
「……転ばぬ先の杖じゃよ。杞憂であって欲しい、な?」
「彼個人の人格そのものは、そうですね。皆にくらべて『あまりに普通だ』。貴方のように特別強くもなく、私のように割り切るにはまだ若い。
だからこそ、何かあった時にボタンを掛け違え、歯車が狂えば、それは全員の被害へと繋がる。ほかならぬ
「――――まさか、それは?」
くすり、と。驚くナゾナゾ博士に、サムズアップをしてサンビームは微笑む。
「だが、だからこそ逆に必要だと思いました。ある意味で彼には、『私たち全員に見えていないもの』が見えていると。それこそ、パートナーの子が一番その影響を受けているというのもふまえて」
「…………その見えていないものは、果たして害がないものなのだろうか」
この戦いの中、いやそれ以上に一人の人間として。魔物ゾフィスの行ったことに対する調査とその結果をまとめ、魔物と人の力を集めた者として。ナゾナゾ博士の抱える重圧は、おそらく彼等には見えない程に大きい。
だがそれでも。視線を横に動かしたサンビームに釣られ、その先を見るナゾナゾ博士は――――。
「――イエ~~~~イ!」
バシバシバシバシバシバシバシバシ
「――ハハハ、マドモアゼル? アハハハハ!」
バシバシバシバシバシバシバシバシ
「――
バシバシバシバシバシバシバシバシ
恵やリィエンと話している清麿と関係なく、ビッグボインにならいフォルゴレと共に胸板にチョップを叩きつけ続ける春彦の姿に、ナゾナゾ博士は噴き出しかけた。基本的に人のリアクションが大好きなナゾナゾ博士であるが、不意打ちに強いわけでも無い。嗚呼そういえば実家の片方はスペインだったか、とスペインの感嘆符を聞いて思い出しながら現実逃避するナゾナゾ博士。
なおサンビームもサンビームで「ブフッ」と言って両手で口元を押さえたりしているが、あっちはあっちで元々ノリが良いので普段通りと言えば普段通りなのだろう。ナゾナゾ博士からすればそこまで軟派だったかと意外ではあるので、二度見はされるのだが。
「……失礼。彼は、パルコ・フォルゴレのファンなのだそうです」
「フォルゴレ君の?」
ええ、と語るサンビーム。初めて彼やスギナと出会った時、ファーストフードをおやつ代わりに食べながら聞いたエピソードの中で、特に嬉しそうに語っていたイタリアのスターであるフォルゴレとの遭遇の話だった。本人は結構緊張してロクに話せなかったらしいが、それでも嬉しそうに話していた彼にその理由を聞いたときのことを、サンビームは思い出す。
『よくミュージシャンとかで、オフのときは性格が全然違ったりするのって多いらしいけどさ。フォルゴレさんはやっぱりフォルゴレさんのままで、そう言う意味じゃ改めて惚れ直したっていうか。恰好良い大人って感じ? でしたね』
『非暴力だっけ? 春彦』
『うん。……あの人、インタビューで濁してたけど昔は結構、それこそ拳に物を言わせてた人だったっぽいからね。それでも、そんな自分を変えたいって言って、子供の笑顔を守れる人になりたいって』
やっぱり
その心が何に根差しているものなのか。春彦自身、その前世の記憶が一部曖昧であるがゆえにとらえきれていないその一部の記憶こそ、誰にも理解は出来ないが。それでもその言葉の奥にあった本当の感情を、サンビームの目は正しく見抜いていた。
「彼の底にあるのは、
「サンビーム君……」
「恐れを知るからこそ、自らを律することが出来る。恐れを知るからこそ、攻撃的であり続けることができない。恐れを知るからこそ、傍で寄り添う事が出来る。そして恐れを知るからこそ、人は勇気を持てる。
であるならば、心がその
フォルゴレ君は神格化されすぎているが故に難しいかもしれませんが、と。続けるサンビームの言葉に、ナゾナゾ博士は押し黙る。
ボインチョップに疲れた春彦は一旦離れ、この場を提供してくれたアポロに頭を下げていたところ。清麿から「春彦さん、明日の作戦で一つ思いついたことがあるんだが」と声をかけられていた。
「思いついたことって?」
「ああ。……こっちに戻って来てからずっと考えていた、『月の石』の力について。それと…………、レイラたち千年前の魔物にかけられた催眠や洗脳について。春彦さんとスギナに、確認したことがあるんだ」
問われた春彦は少し上を向いて逡巡する。半眼になり、頬が引きつり。しかしそれでも「わかった」と言い、ポケットに手を仕舞った。
その仕舞われた手の側の右腕は、わずかにプルプルと震えていた。
※ ※ ※
二日目の遺跡への襲撃。……うーん、ハードスケジュール? ちょっとだけ肩が筋肉痛だから恵ちゃんにシップを張ってもらったり、リィエンちゃんにストレッチの仕方を教わったりしたんだけど、それでも微妙に痛みが残ってるから、ちょっとだけ動きが鈍いわね。我ながら。
まあでも今日は靴下間違えなかったしブラのホックをつけるのも忘れなかったし下着の上下を全然別な柄にもしてなかったので良しとする。そういつもいつもポンコツって訳じゃないのですよ、フフフ……。
「お姉ちゃん、スカートが表裏逆じゃない?」
「ひゃっ!?」
「そういうデザインじゃないある!?」
「そういう着こなしではなかったのか……」
「恵、何で言ってあげなかったの? 私もああいう服だと思ってたし」
「あははは…………、あまりに堂々としてたから、指摘できなかったというか……」
と、とにかく! ボート備え付けのトイレでスカートをはき直して、生暖かい目で見てくる春彦君にデコピンをかましておいた。
その後、まあ状況の進行については何とも言えないところだったわね。清麿君を中心に遺跡に侵入したまではいいけど、あのゾフィス……、タオリちゃんを騙して倒した魔物の子、あの何かクルミでも割りそうな感じの魔物の子によって分断された私たち。橋を破壊した時、スギナ君と春彦君のツタとかで落下まではしなかったけど、追撃で降ってくる爆発の術をかわして、ナゾナゾ博士が最初に言ってた通りのメンバーに分岐。
清磨君とガッシュ君、サンビームさんとウマゴン、春彦君とスギナ君のチーム。恵ちゃんとティオちゃん、リィエンちゃんとウォンレイ君のチーム。で、フォルゴレさんとキャンチョメ君、ナゾナゾ博士とキッド君、あと私とツヅリのチーム。それぞれ総合的な攻撃力を中心に分けて、スギナ君はむしろ清麿君と組んだ方が上手く力を発揮すると彼本人からコメントがあったのでそっちに割り振った形。
で、そんな私たちの前にいるのが。
「ああああああああああああああああ――」
「「「わああああああああああああああ――!!!」」」
「今までとは一味違うようじゃな」
今までとは明らかに身体の大きさも存在感も、ついでに言うと何か禍々しさみたいなのも何もかもが違う魔物。椅子に座って椅子ごと回転してて、エジプトのファラオみたいというか、ミイラみたいというか、そんな独特の魔物の子供……、子供? 体格がとても子供ってそれじゃないんだけど、タオリちゃんも身長高かったし、年齢には幅があるのかしら。
というより、ナゾナゾ博士の肩でキッド君までびっくりしてるわね。
「まあ、確かに怖い顔してるけど……、って、ツヅリ?」
「――――――――怨霊さん?」
あらちょっと、ツヅリが周囲をきょろきょろして、自分から一歩一歩あの魔物の子のほうに歩いていくじゃない。ナゾナゾ博士がキッド君を宥めながら「ツヅリ君、何を!?」って言ってる。
連れ戻しにと私も走ってツヅリの後を追いかけて手を握ったけど、あらびっくり、そのまま引きずられていく。というか痛い! えっツヅリってこんな握力あったの!? 初めて知ったんですけど!!?
ああ、煩い煩い。「あああああ」って言ってる魔物の子の声がガンガンと響いてる……。ただツヅリが近づいてきたのを見て、魔物の子はぴたりと止まって。
「あなたも、怨霊さんたちの声が聞こえるの?」
「ベルギムE・Oは、怨霊さんの声が聞こえません。けど、怨霊さんはベルギムE・Oと仲良くしてくれます」
「そう……、寂しいね」
「はい…………」
何か知らないけど、コミュニケーションが成立してる……!? 私の手を放さないツヅリは、そのままベルギムE・Oを名乗る魔物の子と対話を続け……、いや、だからすごい大きいわね大分怖いわよ!?
「私の名前はベルギム・E・O。とっても強い魔物です」
「私は、ツヅリ。『聖剣』の一族で、今は墓守、です」
「すごい! ベルギムE・Oはびっくりです、まだ墓守のお仕事が残ってるなんて!
もしかして、ベルギムE・Oのママのことを知りませんか?」
な、何か見た目の威圧感に反してこう、上手くは言えないんだけど幼い感じがするわね……。
ただツヅリは首を左右に振って。
「墓守は、うちだけじゃなくって、他にも色々代理でやってて……、たぶん、千年ぶりくらい。私とお姉ちゃんが、怨霊さんの声を聞けたから、お姉ちゃんが怨霊さん達を斬るって言って、私、可愛そうだから、怨霊さんを守って、眠ってあげられるようにって」
「そう、ですか……」
うっ、うっ、て頭を傾けて、震えるベルギムE・O。しばらくすると、顔を上げてわーわー言って、威圧感は変わらないけど泣きわめき始めた。
「ママ……、ママッもう、いないんだ……!
もうお家に帰っても、誰もいないんだ――――! ママのお料理も食べられないんだ!
ありがとうも、
さようならも、
おはようも、
おやすみなさいも、
もう誰も言ってくれないんだ!
うわ――――――――ッ!? ママッマンマ――――!」
その叫び声には……、私だけじゃなく、この場の魔物たち皆が微妙な表情になった。なんなら操られてるはずのパートナーの女の人も、どこか悲しそうな顔になってる。ナゾナゾ博士は帽子を目深にして、キッド君やキャンチョメ君も悲しそうな目を向けて。
ツヅリはツヅリが悪いわけでも無いのに、ごめんなさいって謝って。
ぐるぐると、どんどん泣きわめきながら加速するベルギムE・O。
その言葉に、誰も答えられない。
いえ、誰だってそうよね。だって、こういうのは十分考えられたことだもの。千年もの間、封じられていたのだもの。
家族とだって、大事な人とだって、もう二度と会えないなんて、そんなこと。
そこに思い至ってなかったみたいで、ナゾナゾ博士も苦しそうな声を上げてる。
「――――君は、何が好きなのかな?」
そんな空気の中で……、フォルゴレさんは、真面目な顔をして、でも微笑んで手を上げて、一歩前進した。びっくりして変な声が出そうになったけど、何とか抑えながら見続ける私。フォルゴレさんは、身体だけは大きなベルギムE・Oを見てる。
一瞬ぴたりと止まり、ベルギムE・Oは少し思案した。
「ベルギムE・Oはお歌と踊りが好きです。ビクトリームとも踊りでバトルして、魔界でもよく嬉しくなっちゃってリュウスドン吐いて、ママに怒られたり許されたりしてました」
「そうか。……リュウスドンはわからないが、それなら、一緒に踊ろうじゃないか。
キャンチョメ!」
「ヘイ、フォルゴレ!」
あ、ラジカセなんていつの間に……、というかどこに持ってたの!? なんか普通にぬっと取り出してるけど、そんなラジカセ片手にミュージックをかけるフォルゴレさん。
「ハハハ! イタリアの英雄、大スターたるこのパルコ・フォルゴレが! 子供の悲しい涙なんて、楽しい笑顔に変えてくれようじゃないか!
さあ博士、珠紀、キャンチョメもツヅリもキッドも、そっちのマドモアゼルも、ベルギムE・Oも! あそーれ――――」
最初に歌って踊り出したフォルゴレさん。ふと、気が付くとキャンチョメやキッド君が続いて踊りだし。少し軽い感じにナゾナゾ博士も踊り始めて。
ツヅリも恥ずかしがりながら「お姉ちゃん」って言ってきたので、チャーブルで人魂を呼び出して一緒に踊る。私も流石にツヅリばっかり恥をかかせるのもアレかと思って、控えめにだけど一緒に踊ってあげる。
「ダリア…………」
「…………ケケ? ケケケケケ」
「ん……、うん!」
そしてベルギムE・Oも椅子から立ち上がって(!?)、そのまま皆と一緒に踊り始めた。
えぇ? あなた…………、立てちゃうの!? てっきり椅子と合体してると思ってた!
・仕込みが無駄になったスギナ:
わざわざカルーラと制御力の綱引きをするために準備したものの、普通にナゾナゾ博士たちの手で魔界に帰されました(原作通り)。春彦が原作もアニメもいまいち覚えていないが故のガバで、ちょっとむくれてる。
・ナゾナゾ博士とサンビームによる主人公評:
疑似アンサートーカ―疑惑二名による談話。ナゾナゾ博士の懸念に対して、サンビーム的には違う見方をしてる話。行動の根底には恐怖心が強くある認識ではあるけど、清麿たちとは違う「世界観」だとしても、恐怖が根底にあるのなら、子供なのだから大人が導いてあげたら良いという発想。
それはそうとして二人ともボインチョップ(アニメネタ)には耐えられなかった。仕方ないね。
・春彦に何か相談する清麿:
ゾフィス攻略RTA中な清麿。ちなみに成功すると、シェリーもレイラもニッコニコ案件かもしれない。
・ベルギムE・Oとツヅリの対面:
ともに「怨霊」属性で、親近感を覚えたので普通にお話ししてくれた。ツヅリが同い年くらい? の小さい女の子だったからというのもある。ツヅリも特殊個体じゃないにしても一族からあえて怨霊寄りにいったのは異端扱いだったのもあり、ひとりぼっちになってるベルギムには珍しく同情的。
・子供の涙を笑顔に変えるイタリアの英雄:
基本的に普通の大人なのでビビッてビビッて仕方ないフォルゴレだけど、こうしてお母さんを求めて泣いてる子供を見たら、多少は気合が入るだろう的な解釈です。アニメだとビクトリームとライバル関係だったらしいので一応名前だけは言及(こっちはちゃんと七歳であっちは千葉さんだけど)。
・もしかして味方ルート?:
多分しばらくすると元気になって歌い始めて、やっぱり舌を噛む。春彦と一緒だったら、多分「歌い辛いからコーラスだけにしとけ」くらいは言われたと思うので、キレ散らかされるここからが正念場。