『ジュオウ・リシルド……、スギナの最大術は魔物の能力を封じるって言っていたけど、それは確かか?』
『ん? んー、一応は封印って感じだけど、その効き具合は魔物によるか? ああ。多分だけど、物理的な結果に対しては効きが悪いかも。
ガッシュそっくりの魔物の子相手の時は、テレポートっぽいのは封じたけど、電撃は封じられなかったし』
『呪文を無効化するというより、素の魔力制御を制限するみたいな能力だと思うよ』
『よし! なら、条件はクリアされた』
昨日の夜、清麿君から最初に確認されたことがこれ。条件付きで首肯すると、何だかルル〇シュじみたことを言い出した清麿君だけど、その後に提案された作戦は次のようなものだった。
『どんな弱い術でもいい。あのゾフィスが俺達に向けて術を発動した瞬間、ジュオウ・リシルドで受け止めて、あいつの力を封じて欲しい』
『それは……、意味があるのか? ゾフィスの精神操作というか、洗脳っていうか催眠っていうか。ああいうのって、一度かけたらそれでかけっきりというか、後から解くような必要があるんじゃないのか?』
『セオリーだよね』
『いや、必ずしもそうとは言えない』
清磨君は、本日の戦闘、千年前の魔物の子たちとの会話を振り返り、また俺達とは違った考えに至ったらしい。
『もし本当に催眠をかけた後、それを掛けっきりに出来るというのなら、わざわざ千年前の魔物たちを拠点に引き戻す必要はない。効率だけでいったら、わざわざあのアジトの遺跡に集めておくより、必要に応じて分散させておいた方が「資源的にも」安全だ。
だとするなら、それには相応の理由があることになる』
『帰属意識を高めるとか以外に?』
『あんまり離れすぎると、また石に戻るとか? 胡散臭いけど』
『帰属意識もないわけじゃないだろうが、そう、スギナの言う通り胡散臭いんだ。術の原理がどうなっているかまで解明はできないから断定できない。だが、今まで戦ってきた魔物たちの術の経験から言えば、作用して変化した状態っていうのは「解除される」と説明するのが正しい。ガッシュ、というよりブラゴが最初の頃に倒した犬の魔物とか、春彦さんも知ってるあのペニって鳥の魔物とか、キャンチョメとか、あるいはウマゴンでもいい。
身体が変化した状態が解除されたとして、そこから再度作用をかけるためには新たに術を唱える必要がある。だけど……』
なるほど、とこれには納得させられた。つまり、石板の状態になっていたのがイレギュラーであって、その状態が解除されたのなら、それ以降も石化の影響が残るのはおかしいということだろう。
とはいえそこから先はいくらか論理の飛躍が必要な訳であって……。だが、多分清麿君はそれを正確に見抜いていた。
『レイラの反応と、アルムの言いぶりからして、おそらくだが魔物たちにはある種の催眠がかけられている。「月の石の光から離れたら」石化して戻れなくなると言う刷り込みと、ゾフィスの手による幻覚だ。だがそうだとしても、それにわざわざ月の石の光を利用する必要は存在しない。
だとすれば、月の石をわざわざ「破壊させないため」の催眠を施す理由は――――今までの情報から整理すれば、答えは一つ。ゾフィスの催眠や洗脳といった能力の補助や底上げ、あるいは代理でコントロールする機能を、月の石は持っていることになる』
『ほう……!』『っ!』
『それこそ魔物だけじゃない。人間たちだって、その影響下に置かれているはずだ。……総数最大でそれぞれ40に、同じ縛りの幻覚と、あるいは精神の制御なんて複雑なことをやっているくらいだ。「科学的な」催眠とかの技術でなく魔物の能力でかけていると考えても、そこまで複雑なものが出来るとは思えない。とすると、そういったものをコントロールするコンピューターみたいな、自動制御をしているとみるのが妥当かもしれない』
本当、よくあれだけの情報でそこまで推理できるなと舌を巻く。そして実際、納得させられるものがあった。あのゾフィスの妙にビビリっぽい挙動から逆算すると、確かにそういう物体だとすれば、物体を傷つけさせないためにそういうことはやりそうだな、と考えられる。
清磨君もそのあたりが推理の切っ掛けらしく「わざわざロードなんて別名を名乗って仮面で素顔を隠し」「千年前の強靭な魔物たちを自分の配下において」「道具のように使い捨てる形で運用している」ところから、臆病さは筋金入りだろうという判断だった。
『自動制御とはいっても、全くゾフィス本人と月の石とに繋がりがないと言う訳でもないだろう。おおもとの力はゾフィス本人のものなんだ、ゾフィス自身が常に催眠をするための魔力を、月の石に送っていることになる。多分、制御端末みたいなものをゾフィスが持って居るんだろう。
流石にそれを、すぐさま砕くようなことは出来ない。相応に警戒しているだろうし、もしかしたら端末の方には別なギミックも搭載されているかもしれない。
だからこそ、その魔力の供給経路が断たれたら、どうなると思う?』
『――――なるほど、バグるかあるいは機能停止しそうだな』
少なくとも催眠に使う魔力がない以上、プログラム通りに自動制御が動いていたとしても、催眠を継続的にかけ続けることは出来ないはずだ。
つまり、どちらにしても何かしらの効果が期待できるということだ。
――――そして、それを実行したのが現在。
俺達の隣で、倒れたパートナーを驚きをもって介抱するパムーン。いくら何でも、こうもあっさりと催眠が解けるとは思っていなかったのだろう、動揺が見て取れた。
いや、それを言うと俺もそうなんだけどね? 本当何と言うか、馬鹿みたいにあっさり解けてしまって、あっちで俺達を囲うために出て来た魔物の子たちになんか申し訳ない。積極的に死ぬような目に遭いたいわけでもないけど、それはそうとして
とはいえパムーンみたいにパートナーを気遣う子以外にも、パートナーなんて無視して襲い掛かろうとしている子も何人かいた。
「
「ええい、何をしているのですか! さっさと戦って本を燃やしてしまいなさい!
術が使えずとも、あなた達には現代の魔物にはない強靭な肉体があるでしょうに! また石に戻りたいのですかッ!」
慌てて叫ぶゾフィスに、スギナが
あっ、こっち向かってくる数体にガッシュが駆けて行ってる。そうか清麿君、パムーン戦で心の力とか出し切ってるのか。「チャージオ、いっとく?」ととりあえず確認してみたが、いや大丈夫だと制止をかけてくる清麿君。使うなら最終決戦、馬力が欲しい時だけにしたいとのことだ。うん、この年代からエナドリ漬けになっていない、正しいエナドリとの向き合い方をしているようで何より。
「ウマゴン、『ゴウ・シュドルク』! ガッシュ君と一緒に戦ってくるんだ!」
「メルメルメ~~~~~~~~!」
身体変化してかけていくウマゴンことシュナイダー。ガッシュもそうだけど、二人ともスギナとは比べ物にならないくらいのタフさで健闘している。あちら側も下手に呪文を放ってきたりしないし、その分だけ後はフィジカル勝負になっていて、これはこれで見ごたえがあるとか野次馬みたいなことを想ってしまった。
後わざわざスギナも苦手な格闘戦を挑む気はないらしく、俺のズボンをちょっと引っ張ってきた。
「今日は全然問題ないよ、植物操作」
「ならとりあえず……、『オージグル・マ・ジュロン』!」
「ほいっ」
ジュオウの消滅と共に、一緒に姿を消していたオージグルの杖を再度呼び出すと、当たり前のように振り回すスギナ。と同時に、遠方で戦ってる魔物に取り残されたパートナーのもとにツタと根を生やし、ベルトコンベアみたいな感じに変形(?)、そのままこっちの方に人間と本を送ってくる。
ライターは……、持ってないから火をつけるにも付けずらいし、さてどうしたものか。
一方、空中のゾフィスは歯ぎしりをして手をこちらに構えて来るが、しかしそれと同時にフラフラと空中で浮遊が乱れている。どうやら「二回分」ジュオウに魔力を吸われたせいで、だいぶ操作能力に制限をかけられているとみえた。
「やってくれましたねぇ……、ええいパティとビョンコはまだ帰ってこないのですか!?
…………あ、いや、無理だったか。バディオスもフェリウスも飛行は翼もそうですが魔力で補助していたか」
すぐには飛んでこられませんかねぇ、と一瞬素っぽく砕けた口調を戻しつつ咳払い。余裕ここうと必死っぽいところ悪いが、徐々に高度が落ちてきているってツッコミ入れた方がいいかね?
そうこうしているうちに――――。
「――――赤い本の子、離れなさい!
『アイアン・グラビレイ』!」
「ヌゥ……!?」「メルッ!?」
乱戦になってるガッシュたちのところに、目に見えないエネルギーか、あるいは重力か。複数の魔物を強烈な一撃で遺跡の地面に埋めながら、後方から誰かがやってくる。
清麿君が驚きながらも、ちょっと笑顔で興奮しているのは一体どういう感情なんだろう……? サンビームさんは驚きっぱなしだし、こっちは初対面というのはわかるが。
そして俺も後方を見て――――。
「――――ふ、ふつくしぃ」「春彦!?」
「え、えぇ!? あ、貴方、真面目にやりなさいっ」「………………」
縦ロールなもみあげを垂らした良い所のお嬢様みたいな、それでいて妙に風格がある凛とした彼女。可愛いというニュアンスもないわけではなく、そして何より一目で美少女だと断言できる容姿。ミールさんみたいに人を選ぶ感じでもなく、異様に頼もしい立ち姿から不思議と目が離せない。
そんな彼女に思わずつぶやくと、場違いな俺の発言にかちょっとだけ意表を突かれたように動揺するお嬢様。
その隣で、黒い衣装な強面の魔物の子が、明らかにイライラしたように一瞬こちらを横目でにらんで来た。
※ ※ ※
約20体の魔物たち。ゾフィスが呼び出した魔物の内、ガッシュたちと戦っているのは内10体前後。ウマゴンと、ラウザルクもないガッシュでギリギリ競り合えているが、それでもダメージらしいダメージを通せないくらいに相手はタフだ。
――――そんな魔物たちを術一発で薙ぎ払った誰か、いや誰か達。そんな芸当が出来るとしたら、俺が知る限りただ一組。
「生き残っていたのね、清麿。そして赤い本の子」
「…………」
黒い本の魔物・ブラゴ、そしてそのパートナー・シェリー!
そして思わず、このタイミングで「助力するように」かけつけてくれた彼女に、心が少しだけ高揚する俺。そんな俺と対照的に春彦さんは……。
「――――ふ、ふつくしぃ」「春彦!?」
「え、えぇ!? あ、貴方、真面目にやりなさいっ」「………………」
「中々のシリアスブレイクの才能だなぁ。ヘビーメタル寄りだろうか?」
「さ、サンビームさん?」
「あの人間はあれで良いのか、ガッシュ」
「ウヌゥ……?」
サンビームさんの意味不明な発言はともかく。いや、パムーンも微妙な顔して春彦さんの方見てるのとかも置いておいて。
何か知らないけど、いきなり口説くようなことを言い出した春彦さん。クールに決めてたシェリーも流石に場違いすぎるその発言に、ちょっと慌てて文句を付けてる。なおも呆けてる春彦さんに対して、腰に手を当ててお説教を始めた。誉め言葉は受け取るけど、時と場所と場合を考えて物を言いなさいとか何とか。
ちなみにブラゴも「お前は何を言ってるんだ」みたいな風に睨んでるけど、その視線を受けてスギナはすぐさま春彦さんの背後に隠れた。
「可憐だ…………、惜しい……」
「何なのこの人、こういうナンパな性格なのかしら? 緑の本の子」
「悪いけど僕も初めてだよ、春彦がこんな壊れてるの。よっぽど美人に映ったんだろうね」
「そ、そうなの? ま、まあ、社交辞令でないというのなら、ありがたくその感想は受け取るのだけど…………、最近言われてないからちょっと照れるわね」
「まあ、おっぱいがもっと大きくないと射程圏には入ってないだろうけどね」
「
な、何か人間がしちゃいけないような効果音を垂れ流して、すごい顔してるぞシェリー!? ブラゴも何か微妙にばつが悪そうな感じで正面向いてシェリーから目をそらしてるし……。いやそうか、春彦さんフォルゴレのファンなだけあって、所謂「チチをもぐ」タイプの男性なのか、そうか……。いや、フォルゴレほどオープンにしてないから、あんまり言うのは止しておこう。マナー的に。
そんな謎の怒りを放つシェリーに、ガッシュが恐る恐る声をかけた。
「お、お主…………?」
「――――、はッ!? こ、コホン。
久しぶりね、赤い本の子。ガッシュだったかしら。……ここまで生き延びたってことは、あの頃よりは強くなっているということね」
「ウヌ!」
「シェリー、いきなりで悪いが状況を……」
「いえ、説明しなくとも大丈夫よ、清麿。ここまで『送ってもらった』魔物から、何が起きたかは聞いているもの。
有象無象の力を大いに削いでくれたというのなら、むしろ私はお礼を言わないといけない立場かしら――――『グラビレイ』!」
そして、スギナが集めていた気絶したパートナーと魔本の分の方に手を構えるブラゴ。放たれた重力の一撃が、いっせいに本を圧縮し、粉々に引き潰して「燃やす」。……いや、あれは本が大きく破損したことで、自動的に燃えたように見えた。
「他愛ない。……だが、逆に言えば『万全のまま』で行けるということか」
「ええ、ブラゴ――――」
「うおおおおお!」「フワォ!!」
何!? さっき、こっちに襲い掛かってきていなかった魔物たちが、五体だけだがこっちに向かって来て……! いや、そうか! パートナーが立ち上がって本を構えてる。理性を取り戻して自発的に襲っているようには見えないし、空中を見ればゾフィスの表情に余裕がない。
あれは……、追加で無理やり、人間を直接操ってる?
わざわざ無理に操ってると言うことは、俺の建てた仮説は正解だったということ。
とはいえ恐怖心は残っているのか、あの五体に合わせてパートナーも気絶したまま残りもこちらに向かってくる。総勢十体。
「シェリー! ここは協力して――――って、おおおおおお!?」
そして持っていたステッキの先端をメイスみたいにしながら(!?)地面に線を引くシェリー。視線は半眼で春彦さんの方を一瞥してから、俺達の方を見た。
「生きていたければ、この線から出ないことね」
「一体、何を――――」
「――――フン! 中級魔物のギガノ級程度の実力で、ディオガ級を受けられるなら好きにしろ」
そしてブラゴがニヤリと、パムーンの方を見て言う。パムーンはパムーンでパートナーを抱えたまま、ブラゴの視線に冷や汗を流していた。
そんなブラゴに声をかけ、シェリーは一歩前進する。
「正直、向かってこないならそれに越したことはないのだけど――ゾフィス。あなたへの憎悪を、覚悟を、改めて刻み付けるためなら、多少は心の力の無駄遣いも良いでしょう」
「――――――――ッ、くっ、何をしているのです! はやくあの虫けら共を蹴散らしてしまいなさい!」
そして、やはり余裕のないゾフィスのそんな人声で始まったのは……、人間と魔物の両方が、強靭な魔物を蹂躙する、ある種の悪夢だった。
「『ギガノ・レイス』!」
「『グラビレイ』!」
「『リオル・レイス』!」
「せやああああ! 『ギガノ・レイス』!」
「『レイス』!」
「『レイス』!」
「『グラビレイ』!」
ブラゴはもう、初めて見た時からその強さみたいなのは肌で感じ取れていた。だっていうのに、シェリーは当たり前のようにそれについていって、肉弾戦に混じりながら、当然のような顔をして術を放って、ギリギリを躱し攻めていく。
なんなら小さい天使みたいな魔物に至っては、ブラゴが術を放つまでもなく足で蹴り飛ばして叩き潰して…………、む、惨い。
「つ、強い……」「メル…………」
「パートナーもそうだが、現代の魔物でも、ここまで戦える者がいるのか」
「ガッシュ、よく見ておけ……。あれが、いつか俺達が、王になるために避けて通れない相手。必ず戦わなければならない、越えなければならない壁だ……!」「ヌゥ……」
そして、そんな風に言葉を失ってる俺達の横で。
「好みのタイプが変わってしまいそうだ……」「春彦は何言ってるのさ。というか、怖いよあのシェリー……、キッドがビビってた理由がわかった」
…………いまいち締まらないというか、珍しくボケ倒し続けている春彦さんと、対照的にシェリーに恐怖を抱いていそうな、震えるスギナの姿がそこにあった。
・清麿君の推理? については、アントカ未覚醒だけどかなりの精度なのついては、観察眼が優れているということでどうか一つ。
・混乱する千年前の魔物たち:
いきなり催眠状態が解けても、それを実感できるタイミングもなく時間も余裕もないので、好戦的さ、その時の苛立ちなどが強い魔物からガッシュたちに襲い掛かった。春彦たちも暗示が解けたと詳しく解説する暇はないので、原作よりは難易度の落ちた軽戦闘ゆえ、ブラゴもだいぶ余裕。
つまり「直に催眠が解けている」のを確認できる魔物の子は……?
・ふつくしいシェリー:
ガッシュ2の家庭内での描写も踏まえると、多分おっぱい以外は容姿性格資産スタイルなど完全に本作春彦のタイプ。家柄的に絶対そういうことにはならないけど、それはそうとして見とれるし呆ける。大将軍は死なない程度に殴って良い(適当)。
なお資産についてはガッシュ2を踏まえるとちょっと疑問が残るのは余談。
・テンションが崩されたシェリー:
いきなり冷や水をぶっかけられたような流れになっていたので、キレてる時の顔は鬼麿ほどではないにしろアレ。そこからゾフィスぶっ潰すモードに心を立て直すまでの間は、割と根っこの優しい地がちょっと出てた。
・送ってくれた魔物:
シェリーたちの足止めにゾフィスが差し向けた誰かさん。現在、ビクトリーム救出に向かっていたりするので、多分後で出て来る。
・この後のブラゴ無双:
流れとしては原作通りだけど、敵も少ないし半分は術も使ってこないので、原作より鮮やかな手際で処理していく。多分、ブラゴが術を使える魔物をメインに、シェリーが術を使えない魔物をメインに物理で処理していく。怖……、怖ぇよ(お嬢様)。