『ルオオオ……』
「落ち着けよ、デモルト。そして俺の話を耳かっぽじってよく聞け」
『ルン?』
「このままじゃジリ貧だ。正攻法でバカみてェなパワーで押しつぶしてやれば済むと考えていたが、相手の人数が多い。絡め手もしっかり使ってくるとなりゃ、俺達でも苦戦はまぬがれねぇ」
『ルオ……、全部、殺せば良いだろ』
「さっきアレだけ喰らったの忘れたか? 片方だけならまだしも、2体『ディゴウ』に届くか届かないかっつー術を使って来やがった。こっちも程度を変えなきゃ、どうにもならねぇだろうが」
『クソ人間……、あの術を唱えろ…………』
「話聞いていたか? オイ。『月の石』守るっての忘れてんじゃねぇよな。『危険な術』だって聞いちゃいるが、あんまり威力がデカすぎると、そもそも建物が持たなくなるだろうが」
『クソが……! ルォオオオ…………!』
「だから、聞けって言ってるんだ。このままずっと防御するっつー手もなくはないが、そんなつもりは無ぇだろ? 散々、俺とお前に楯突こうなんてことを考えてる身の程知らずの連中だ。ナメられっぱなしは主義じゃねぇ。なァ?」
『ルオ……!』
「連中が俺達と戦えたのは、あの頭ヘンな形した変形合体したふざけた魔物もそうだが、パワーと頭脳だ。頭脳はからめ手と作戦、あの赤い本のガキが中心になって動いていやがる」
『まずそこを潰すか……』
「だが、どう考えても対策してきてる。あのレイラっつーオコサマのガキ、角の盾で覆われる前にちらっと見えたが、ありゃ多分空中に浮かべたヤツ全部自由に操れるとか、そんな馬鹿みてぇな能力だろ。さっきまでの流れから言えばなぁ。
さすがにチマチマ脚とられるようなことにはならないだろうが……、それでも甘く見て苦戦するのは、三流の悪党だ。一流は、相手の強みを潰して、こっちの強みを生かす」
『どうすれば、良い……?』
「だったら、簡単だろ。やることは変らない。『バルスルク』じゃなくて『ディゴウ』を使う。その時、ちゃんと俺の言うことを聞けよ」
『面倒だ……! 全部ぶっ壊す……!』
「そりゃ最終手段だ。そうなる前にもっと色々やらねぇと、お前はいつまでたっても暴れん坊のままだぜ? あの頭のおかしな奴が言ってた通り、ガキのままだ。
別に一生懸命やれって訳でもない。お前を有利にするための作戦を聞いて、気持ち良く連中をぶっ潰せって話だ」
『クソ人間……』
「あと、ちゃんと覚えろ。俺はローヴェルト・ヴァイル。ローヴェルト・ヴァイル様だ」
『ルオオオ……、ヴァイル』
「それでいい。……って、お? 何だ、何で摘まみ上げられてんだ、オイ!? って、頭の上?」
『ディゴウなら、形を調節できる。これでお前を乗せたまま、変化すれば、お前も安全だ』
「…………なるほど、こっちを気にしないで戦いやすくなるってか。頭良いじゃねぇかデモルト」
『ルン、ルン♪』
「じゃあ、そんな頭良い俺達にナメた真似してくれた奴等には、おしおきが必要だなぁ。
いくぜデモルト!――――」
『ルオオオ……!』
「――――『ディゴウ・ゼモルク』!!!」
※ ※ ※
地獄の羊さん。
パッと見た感じの感想としちゃ、そんなもんだ。
実際はその体躯が10メートルを超えてるとか、もこもこに見えるのが良く見れば全部小さい角の集合体みたいなものだとか、よくよく見れば毒々しい事この上ないことになってるんだよな……。
現実逃避を許さない、圧倒的なスケール違いの恐怖がそこに存在した。
『ルオオオオオオオオオオオオオ――』
「この椅子、ケツが痛ェ! もっと何か無かったのかよデモルト……」
『クッションとかは自分で準備しろよ、ヴァイル。ルオオオオオ――――』
四足歩行みたいになったデモルトは、それだけで高さが半分くらいにはなってるが。威圧感だけで言うとさっきよりも倍近く違う。そして極めつけは、デモルトの頭頂部に檻みたいなものが出来て、そこにある椅子っぽい角に座ったパートナーが乗り心地に文句を付けている所か。
そこだけ切り取れば平和に見えなくもない……わけじゃないな。大体デモルトのビジュアルとかがそれら全部を台無しにしてる。ダメだこりゃ。
「ひぃいいいいいいいいいいいいッ!」
そしてスギナも、あの術が使われた瞬間から身動きがとれなくなって俺の脚に抱き着いてる。俺も俺で微妙にブルブルと震えていて、身動きがとれない。
「何なんだ、この威圧感は……! 単純に術の力で強化されているだけじゃ、ない?」
「清麿! あの者たちの本――――」
「よしデモルト行け――――! あのクソ野郎共を粉微塵に粉砕するぞ!」
パートナーの男の言葉と同時に本が輝き、デモルトが絶叫を上げながら大きな音を立ててこっちに接近してくる。
いや怖ぇよ!? というかリシルド使えないから防御手段がない!!? あの勢いだとオージグルでジュロンの壁を無理に作ったり、あるいはアーガス・ジュロンで覆うにしても間に合わないし、間に合っても物理的に粉砕されそうだ。
というか頭部の二本角デカすぎだろうが!
「ブラァアアアアア!」
ビクトリームがその角を握り捕まえて抑え込もうとしたが、秒速で跳ね飛ばされる。空中に投げ出されたビクトリームにさらに追撃するデモルト。胴体を叩き落とし、ボディプレスし、噛みつき、何度も叩きつけながら走る。
隣から「ビクトリーム!?」とモヒカン・エースが絶叫。みんな叫んでばっかだが、それだけ状況が切羽詰まってるってことだ。叫びすら出来ない俺とは大違いだ。
って、どっちにしてもこのままだと直撃コース……! モヒカン・エースやらアルベールやらナゾナゾ博士も咄嗟に走り出して逃げてるが、俺とスギナだけは身動き取れてない。そして皆急ぎ過ぎて気づいちゃいない……!
と、ナゾナゾ博士がはっとした顔で「春彦君!!?」と大声で手を伸ばそうとするが、万事休すかというところで、ガッシュがこっちに走って来てラシルド。
まあそれも、全くもたないのだけれど。それでも真正面に向けてではなく、若干斜めに立てたラシルドのお陰で、デモルトの軌道が逸れたので、まだマシってところだ。
…………あーあー、ラシルドがデモルトの肩とか胴体から生えてる角で、粉々に粉砕されてらぁ……。威力が頭おかしいことになっていやがる。そして角が上手い事絶縁体として機能してるのか、電撃のダメージも通っているように見えない。モコモコしてるように見える程に細い角が密集しているデモルトのその姿は、間近で見れば見る程恐怖を掻き立てられる。
あれ何だろうな……、なんとなくエイリア〇のイ〇ナーマウスみたいな恐怖感といったらいいのか? めっちゃトゲトゲしてる感じの。
そして、こんな話を冷静に分析できているのは、一種の現実逃避なのか、恐怖が強すぎて恐怖を感じる部分が麻痺して思考が一周回ってしまっているのか、空回りしてるのか。
万事休す、というところで、レイラがこっちに跳んできた。
「アル!
「――
おっ、凄い! 空中に浮かんでいた月っぽいやつからミグロンの鞭っぽいやつが伸びて、それぞれ連結してネットみたいになってる。
そのままこっちに直進してきたデモルトを、アルベールとレイラが二人そろって絶叫して弾いた!
それはそうと。ありがとうとレイラに言ってすぐさま俺はスギナの頭をポンポンと撫でる。
「怖い、怖いよ――――!? こんな所、来るんじゃなかったッ!」
「おお、落ち着けスギナ、キャンチョメ達の方を守るぞ! 杖をあっちに向けて、『アーガス・ジュロン』! 『アーガス・ジュロン』! 『アーガス・ジュロン』!」
震えながらも一応は指示に従うスギナ。座標的に相手の位置が微妙にウォンレイ回復チームとなっているティオ、キャンチョメたちへと接近しているので、少しでも気を逸らすために小さめのアーガス・ジュロンを複数作って、障害物のようにしてデモルトの軌道をそらす。
流石に猪突猛進というわけでもなく、アーガス・ジュロンの障害物を踏みつぶさず、その上を飛び回って回避。ギリギリと言えばギリギリの距離感。アーガス・ジュロンを踏みつぶしながら前進したら、そのまま周囲の風景に寄せたカモフラージュしているキャンチョメごと、全員ぶっとばされていた。
何だあの殺意の高さ!? 動物的な恐怖を呼び起こされる。
そして、それだけじゃない恐怖――――。
「今ので大体、使い勝手がわかった。やっぱりお前は最強の暴力だぜ、デモルト!」
『ルン、ルン♪』
――――あのデモルトが、どう見てもバーサーカーっぽい暴力の権化のような悪魔が。暴れ狂っているにもかかわらず、頭部に乗っているパートナーの指示をしっかり聞いているという状況も。
よくありがちな、強化したらしたで自分の力に呑まれて制御できないというようなこともない。外付けの理性やら判断やらが、さっきのままにデモルトの暴力を統制するという証明が、ここで為されているのだ。
「怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い――――」
「わかったから落ち着けって、わかったから落ち着けって、な? な?」
「春彦、判ってないんだよ……! アレ、まだ『もっと上の術がある』って! 怖いなんてレベルじゃないんだって、もうダメだ……おしまいだぁ……!?」
「むしろ余裕ありそうに聞こえるからな、それ!!?」
キャラも全然違うだろうにブ□リーを前にしたようなビビリ散らし方をしてるスギナ。ちょっと苦笑いしてしまった俺だが、実際スギナもかなり余裕がないらしい。ふと本が妙な光り方をしているのを見て、こういうの久々だなと思いながらページをめくる。
ナゾナゾ博士との遭遇があってからの方が術の発生が少なかったスギナなのだが、今回は猛烈に恐怖を覚えたこともあって、新しい術が出たらしい。
術名は…………。
「第15の術、ディオノ・ジュガルドン? ……いや今、普通に心の力が足りないんだがこれ」
ゴメンな! 状況を打開できるかもしれない術かもしれないけど、俺の方は上手くこの術を唱えられる自信がない。というか、ひょっとしなくても心がちょっと折れかけてるかもしれない。
スギナ程じゃないが、俺も俺でとっとと逃げたいというか、そういうマイナスな気持ちがないわけじゃない。色々とそれが許される訳もなく、また「それ以外の気持ちもあるから」踏ん張っているわけだが、そんなこっちの内心の割合というかは、俺自身上手く捉えられてはいない。
なのでこうして、本の光り方とかで如実にそのパーセンテージを示されると言うのは、自分の人間性が酷いものだと突き付けられているみたいで心底嫌になってくるっつーか。ひ弱すぎか、我がメンタル。
そして、攻め手にかける俺達全員。レイラのミベルナ・マ・ミグロンも、どうやらさっきの反発でいくつかお月様が破壊されたらしい。渋い顔をしながらステッキを構えるレイラに、アルベールも苦い顔だ。
どうやらターゲットを俺たちより清麿君に絞ったらしい。ガッシュと二人でラシルドやらザケルガやらで応戦したりしているが、いかんせん作戦を立て直す時間がない。ゴウ・シュドルクなウマゴンも簡単に蹴散らされ、ラシルドの影からキッドが両手を大きくしてロケットパンチのような一発を放っても、当たり前のように握って放り投げて叩きつける。
デモルトとパートナー。パートナーの指示を聞いている限り、デモルトはその暴力を制御した強さ。逆にデモルトも、そんなパートナーを無理やりな形で守ってるような状態。
こりゃ、万事休すか…………?
チャージオ・ジュモルクをもう一齧りしながら、いよいよジュオウかジュガルドンくらい使えるまで心の力が溜まっていないかと何度も本を確認しているが、転んだ清麿君を庇うガッシュの姿を見て、そうも言っていられない。
「――――『ラージア・ブロア』!」
「『アーガス・ジュロ――――』ッ、がァッ!?」「春彦! って、あ――――っ」
「アル!?」「おわわわッ」
清磨君たちの方へとアーガス・ジュロンを張ろうとして、しかしそれをパートナーの方が許さない。ガッシュたちへと突進する直前、俺やアルベールの方を向いてデモルトが口から砲撃。スギナと三人そろって吹っ飛ばされて、アルベールの方はレイラが回収しに空中を走る。俺達が吹っ飛ばされた先はちょうど変形合体ビクトリームが倒れているところで、その背中に思いっきり落ちた。
……「ブラァアアアアアアッ!?」と悲鳴を上げてるんだが、モヒカン・エースが「ちくしょう、これでも意識が戻らねぇ!」と悔しそうだ。さっきのアレを見るに、一番物理攻撃でダメージを喰らってるのがビクトリームっぽいから、むしろ全身ヒビまみれなのに未だ魔界に帰っていないことの方に驚くべきなのかもしれない。
「って、そんな場合じゃない!? このままだと清麿君たちが――――」
「……大丈夫だ、春彦」
「何が!?」
「――――『スオウ・ギアクル』!」
動揺し、本を構えそこなった俺に、スギナが諭すように言って。
直後、空中に現れた水の竜が、デモルトの首に食らいついた。
※ ※ ※
真っ暗な部屋。カーテンの隙間から日の光がわずかに差す、リビング。
そこに「真っ黒な穴」のようなものが空中に突如発生し、そこから白い手足が現れる。
背中の空いたデザインの水色なドレス姿の
「うぇ、これだからパーティはクソなんだよ……。下手しないでも見合い話も来るし。『自分がズタボロにした』娘、売り払うつもりなんだろうが、そうはいくかっての。
さーって、お邪魔するぴょん♪ …………あれ? 春彦のやつ、いねーのね」
特徴的なもこもことしたような髪をいじる彼女、ミール・ゴッドフェローズは、一応は靴を脱いで素足のまま春彦のアパートに上がり込み、無言で電気をつけた。
周囲を見渡すと、普段散らかっている漫画だのゲームだのが綺麗に片づけられ、棚に収納されている。
「オイオイ、本当にいないっつーか。せっかく少し暇もらったから、遊びに来たってのに。
…………アンタ、何か食べる? ビ〇コくらいならありそうだけど」
『ゴ―――― ……』
「もっとBBQとかハンバーガーとか食べたい? ゼータク言ってんじゃないっつーの。ニッポンの貨幣とか持ち合わせないし、換金するにしたってここからだと色々面倒だし。
冷蔵庫は~~~~、と。……何これ?
ぶつくさと色々文句を付けながら、結局はビス□を齧ることにしたらしいミール。グラスに水道水を注いで卓袱台に乗せ、もそもそと菓子を雑に噛み砕く。
鬱陶しい、とドレスを雑に脱ぎ捨て背中をなでる。色気のない下着に覆われた背中には、無数の傷痕が残っていた。それを少し撫で「ひゃっ」と声を上げてからため息。
半眼で、死んだ魚のような目のままテレビをつける。
「こっちは本当、平和だっつーのに。……アタシら何やってんだかね」
『ゴ――』
「ま、アンタは良いでしょ。生き残れるらしいんだから。…………それが本当に良いかっつーのは、まあ、考えないけど」
『ゴ?』
「わかんねぇなら、適当に頷いてんじゃねーの。はァ……。
…………ん?」
お昼のワイドショーを見ながらため息をついたミールは、水を飲もうとコップを持ち上げ。
それと同時に、ピシリと音を立ててグラスに罅が入る。
それを二度見してミールは首をかしげる。
「別に大した力とか入れてる訳でもねーけど…………。別に何か不幸の前触れとかでもないだろうし、何なん? いきなり。
ま、まあ、今度会ったら謝れば良いか」
そう苦笑いして立ち上がり、彼女はキッチンでプラスチックのコップに水を入れ直した。
・心通わすデモルトペア:
お互いの考え(苛立ち)が一致したこと、敵の数が多かったことなどから、原作よりしっかりとデモルトとしっかり意思疎通をして作戦を立てられるようにしたヴァイル。禁術を使って雑に暴れたりもせず、その上で舐めプを止めた。
・何かを感知したスギナ:
デモルトの魔力から「ディゴウよりさらに上がある」というのを察知してしまったことによる恐怖。禁術自体は使っていないものの、まだ余裕がありそう、そしてもっと禍々しい何かが潜んでる、みたいなのを直感的に理解。
・ひび割れた春彦のグラス:
何かのフラグかもしれないが、ミール的には「アイツそんな危ないところに自分からホイホイ行ったりしないだろうし大丈夫だろう」と思われてる。いかんせん最近遊びに来ていなかったからこそ、気付くことが出来なかったのかもしれない。
【ここまでで登場した術・簡易版】(※数は例によって省略。また簡易版なので原作にない術のみ取り上げる)
デモルト編……「角」属性。若干の身体変化も兼ねる。
・ディゴウ・ゼモルク:
一応「ディオガ」級の身体強化呪文。腕や頭部に生えている角を全身から生やし、その状態で高速移動できる程度に身体強化する。この状態だと羽根が折りたたまれ、また自重により二足歩行が難しくなるため四足歩行となる。ぱっと見は刺々しさが極まった羊っぽいデモルトだが、パワーやフィジカルは折り紙付き。
また角の形状は多少デモルトの任意で変形させられるので、ヴァイルを乗せるコックピット(?)もその延長で作った。
・ラージア・ブロア:
波動系呪文。広範囲に口から衝撃波を放つ。威力はデモルト的にそこまで強くないが、牽制目的で使用。
スギナ編……
⑮ディオノ・ジュガルドン:
詳細は初使用時に。ヒントとしては、原作…………というか関連メディアにおける「ディオ・ジュガロ」相当の術の予定。